吸血鬼の真祖と魔王候補の転生者
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第3話 遭遇と怒りと首チョンパと
前書き
前回のあらすじ
ネギまの世界に到着
神様特製装備の確認
羽織ったマントを靡かせながら少女の悲鳴が聞こえた方へ向かって森の中を駆けていく。
元々のチートボディに加えて、全身に気を巡らせ強化した私が走れば、常人では到底到達できないスピードを出す事が出来る。
ほどなく、目的地に到着。
そこに彼女は居た。
原作の登場人物の1人、私の会いたかった相手。
金髪の西洋人形のような美しさを持つ彼女の名は、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
呪いによって吸血鬼の真祖、日の光や流水など一般的な吸血鬼の弱点を克服した上位種、人ならざる存在にされてしまった少女。
私の到着はまだ誰にも気づかれてはいない。
崖を背に震える少女と、それを囲む大人の男達。
数は全部で10人。
私はその大人達の後ろに着いた形だ。
少女は少しずつ下がっていたようだがそれも限界。もう少し踏み出せば崖下の川に真っ逆さまの状況。
「ようやく追い詰めたぞ、邪悪な吸血鬼め!」
人垣の中心、いかにもなローブを羽織った男が杖を少女に向け叫ぶ。
見るからに聖職者。問題は『どちら側』の人間かという事。
普通の人間たちが暮らす『あちら側』、たしか『旧世界』と言ったかしら。それの聖職者でも、この時代なら杖を持っていておかしくない。
魔女狩り・異端狩りも最盛期はもう少し後としても、全くない訳じゃない。
まぁ、この場に限って言えば『あちら側』であろうと、『こちら側』つまり魔法が認識されている『魔法世界』の側であろうと関係ない。
しかし今後の事を考えるなら話は少し変わってくる。
追手云々の話しになるからだ。
回りの他の大人は明らかに付近の村人という様子。ローブ男の言葉に乗せられて来たのだろう。
視線や表情、纏う気はまさに“狂気”
予想通りだとしたら・・・恐らくその通りなのだろうが・・・・・・なんとも虫唾が走る。
「あなた達、いい大人が寄って集って1人の少女に、何をしているのかしら?」
声を掛けながら森から出て近寄る。
その時、私は自分の胸が締め付けられるような痛みを感じた。
こちらに背を向けていた大人達より一足先に彼女は私の存在に気付いた。
新たな声が聞こえたことによって助けを期待したのだろう。
その表情を一瞬、安堵に彩られる。
しかし次の瞬間、出てきたのが私だと、否、“大人”だと気付いた彼女の表情は、落胆・諦観のそれに変わる。
神様の話では、時間軸としては彼女が吸血鬼の真祖になって1週間というところ。
その間、逃げ続け、心をすり減らして来たのだろう。
いつの間にか、私は拳を握りしめていた。
胸に渦巻くのは明確な怒り。
彼女を人ならざる存在に変え、大切なものを奪った元凶に。
教え植えつけられた知識と感情だけで彼女を人ならざる者と罵り、恐れ、害そうとする目の前の男達、否、下衆共に。
そして何より、力を得ながら目の前の彼女すら救えていない私自身に。
不老不死の呪いはもとより、この1週間の苦しみと言う意味で。
私が彼女を救いたいと思っていたのは神様も知っているだろう。
それでなお1週間後という時期だったのは、それが介入の限界だったからだと予想できる。
つまりは、今の時点の私ではどうにもできないことと言える。
そもそも全人類を助けられる訳では無いし、助けようとも思わない。
候補とはいえ魔王にも出来ることと出来ないことがある。
それでも目の前の少女を一時でも苦しめ、救う事が出来なかったのが腹立たしい。
たとえ原作知識と言う色眼鏡の部分があったとしてもだ。
「なんだ貴様は!我々の邪魔をするのか!」
そんなことを考えていると、目の前のローブを着た下衆が返事を返してきた。
最初はマント、外套を羽織る私を唯の旅人とでも思ったのだろう。
しかし黒と言う色にいぶかしみ、若干の警戒をしながら声をかけてくる。
「言ったでしょ、あなた達が彼女になにをしているかを聞いているの」
「この娘はこう見えて吸血鬼なのだ。それも上位種の真祖だ!故に我々が討伐する!」
「なぜ?」
「吸血鬼は悪だ!悪は滅ぼさなければならない!だから正義たる我らが討伐するのだ!」
想像通りの、なんともお粗末な話しだ。
しかしそのお粗末な話しを並べる下衆も、周りの下衆共も、皆正義と言う言葉に酔い、当然とばかりの表情。
・・・まだよ、シルヴィア。まだ抑えなさい。まだ引き出せる情報があるはず。
そう思いつつ、元々嫌いだった正義という言葉がより嫌いになるのを感じながら話を続ける。
「その子が吸血鬼?冗談でしょう?なにかそうだと言う証拠でもあるの?」
「・・・・・・」
その私の質問に、饒舌だった下衆の言葉が止まる。
とっさの反論がない、という事は1つの可能性が浮かび上がる。
この男の根拠としている事象が『魔法世界』の理屈によるもの、という可能性だ。
原作の知識と神様の話しが確かなら、彼女が吸血鬼の真祖にされたのは1週間ほど前、10歳の誕生日。
親は地方領主で、城で開かれた盛大な誕生会の最中に吸血鬼に襲われ、呪いに掛かり吸血鬼の真祖となったはずだ。しかも親を含め身内や参加者を虐殺されて。
もし下衆が『旧世界』側の人間なら、ただその事実を述べて、唯一不自然に生き残った娘の仕業、とでも述べればいい。
しかし結果は沈黙。
なぜなら下衆の根拠は、吸血鬼の真祖としての覚醒による強大な魔力の流れを感知したから・・・などというのはどうだろうか。
突然の質問に、反射的に『魔法世界』の秘匿を行ってしまったのではないか。
少なくとも、この下衆から何かしら知り得ることができそうだ。
そんなことを瞬間的に考えていると・・・
「根拠ならある!」
別の下衆が突然叫び出した。
「領主様の城に多くの死体があった!こいつだけ生き残ってたんだ!こいつはお嬢様の姿を似せた化け・・・」
ザシュッ!
その先を下衆が話す事は無かった。
特に考えて動いた訳ではない。
ただこれ以上彼女を苦しめたくなかっただけ。
むしろ遅すぎたと後悔するくらいだ。
下衆がわめきだした次の瞬間には、下半身に気を流し張り巡らせる。
同時に足の裏と地面の間で気を爆発させて、一気に接近。
『高速移動術・瞬動』
10mほどの距離を一瞬で肉薄。
同時に右手で左腰から抜いた短刀に魔力を流し、日本刀・正宗に変形。
すれ違いざまにその首を切り落とし、彼女と下衆共の間に立つ。
ドサッ!
ようやく頭が落ち、続いて体が崩れる。
目の前の少女は、目を大きく見開き驚愕している。
いくら吸血鬼の真祖といえども、なり立てのこの子にしてみたら、突然目の前に現れたようなものだ。
それとも、あっさり殺したことに恐怖されているかな?
そんなことを考えつつ、安心させるように、優しく微笑みかける。
より大きな驚愕、そして反射的に疑いの視線。
悲しいが、仕方ないことだとそのまま体を反転、下衆共の方を向く。
「「「うわぁぁぁぁぁっぁああああああ!」」」「「「ば、ばけものだーーーーーーー!」」」
少女に向けた、微笑みとは真逆の怒りの視線を向けると、6人が逃げ去る。
残りは3人。うち2人の農民は、手に持っていたすきや鍬を振り上げようとする。
「遅い!」
再び瞬動を使い、2人の首を飛ばす。
斬り殺しながら、入念に自分の心を探る。
あの神様特製の部屋での訓練が効いたのか、躊躇も後悔も感じていない。
そこには、満足しつつ、最後の下衆と対峙しようと視線を向ける。すると聞こえてきたのは・・・
「『プラクテ・ビギ・ナル!氷の精霊3柱、集い来りて敵を射て!魔法の射手・連弾・氷の3矢!』」
やはり魔法使いだったようね。
それにしても3柱を撃っていながら、最初の始動キーだったかしら?あれが初心者用のやつなのはどういうことかしら。
単発じゃないってことは一応学んではいるのだろうけど。
原作の基準、どうだったかしらね。3桁行ったらかなりのものだった気がするけど。
並の魔法使いは2桁くらいかしら。
などとのんびり考えていられるのも、気のお蔭。
反応速度や体感時間も向上しているおかげでこんな状況でも冷静に思考できる。
実際、ただ避けるなら寝ていても出来るくらい余裕。
というか装備の自動防御魔法たちで十分。マントの分すら越えることはできないだろう。
でもこの後の色々な説明を考えると、ここで彼女に私の人外っぷりを見せておく方が早いかもしれない。
また傷つけるかな?・・・そんな自分に苦笑と若干の怒りを覚える。
そんな感情を抱えながら、私は魔力を装備に流して、マントとローブの自動防御を切る。
そうして・・・・・・飛来する氷の矢を正面から受けた。
「え?・・・・・・・・・・い・・・・・・いやーーーーー!!!!!!!」
あぁ・・・また悲しませてしまったわね・・・つくづく情けない。
「ははははははっ!正義の使者たる私の邪魔をするからこうなるのだ!」
見事命中させた下衆が何か騒いでる。
しかし気付かないのだろうか、ある異変に。
「ははははは・・・はは・は・ん?」
あぁ、ようやくお気づき?まったく鈍いわね。
私は構わず後ろを振り返る。
「大丈夫よ・・・ごめんね」
そうして、驚愕に固まる彼女に微笑み、驚かせたことを謝る。
それにしても、つくづく度し難いと自分でも思うが、彼女が悲鳴を上げてくれたことに嬉しいと思う自分がいる。
たとえ警戒していようと、自分を守ってくれた人間が傷付くのに反応して悲鳴を上げる。
そんな彼女の優しさが嬉しい。
そんなことを考えながら、目の前の下衆に意識を向ける。
口をパクパクさせて、言葉も無いようだ。
それもそうだろう。
なぜなら今の私は、胸と腹部、右太ももの3か所を氷の矢が貫通しているのだから。
ぶっちゃけ、痛い。でもまぁ、100年の特訓で痛みにも慣れた。
普通なら即死の状況で、さらに見せつける。
あいた左手で氷の矢を掴むと、3本ともぽんぽん抜いてしまう。
開いた穴から血が吹き出るが、それもすぐに止まる。
2人の目の前で傷が瞬く間に塞がる。
後ろの彼女の反応はわからないが、下衆はがくがく震えだした。
「彼女が吸血鬼だから、人ならざる存在だから殺すと言うのなら・・・私も殺さなければならないわよね?」
あえてクスクス笑いながら話しかける。
ドサッと音を立てて、下衆は尻もちをつく。顔面は蒼白、そのままずりずりと下がり始める。
「まぁ、あなたの事情なんか関係ないのだけれどね。彼女の受けた苦痛、私の受けた苦痛、その代価は払ってもらうわ」
「うわああああああああ!」
ザシュッ!ザシュッ!
私の言葉に、ついに恐怖が決壊した男は、そのまま四つん這いで逃げようとする。
私が瞬動で前に回り込むと、そのまま両手を斬り落とし、蹴り上げ仰向けにする。
「ぎゃぁああああああああ!腕がああああああ!」
「うるさい」
そのまま顔を踏みつけ、無理矢理黙らせる。
「私の質問に正直に答えなければ殺す。余計な事を話しても殺す。質問を終えたら・・・まぁ『助けて』あげる。OK?」
踏みつけ話す私の言葉に、下衆はコクコク必死に頷く。
もう大丈夫かと、足を外して質問を始める。
「最初の質問。あなたは魔法使いね。どうして『旧世界』の、こんな所に?」
「見聞を広めるために旅をしていた。その途中に今回の件に遭遇したんだ」
「どうやって彼女が吸血鬼だと知ったの?」
「1週間前、ちょうど私は問題の起こった城のすぐ近くの町に泊まっていた。そこで夜に突如強大な魔力が溢れ出すのを感じた。念のため朝まで待って町の人間と共に城に向かうと、そいつ1人を残して全員死んでいた。人間の子供が起こすには規模が大きすぎた。魔力の残滓も残っていたから吸血鬼だと思ったんだ!」
「たまたま居合わせ、相手が悪である吸血鬼だから殺そうと?」
「そうだ!・・・吸血鬼は殺す、普通の事だろ?なぁ、もう話す事は何もないよ!頼む!助けてくれ!」
「ふ~ん。まぁ、もう聞くことはないわね。いいわよ」
「ほ、本当か!」
「えぇ・・・苦しみから『助けて』あげる」
「・・・?」
「彼女が逃げたのは助かりたかったから。その彼女をあなたは助けようとしたかしら?」
「・・・!ま、まってくれ!」
「正義だ悪だと言葉を振りかざして、一方的に彼女を殺そうとした人間が命という意味で助けを乞えると思う?」
「お、お願いだ!」
「私の大好きな言葉にこんなのがあるわ。『殺していいのは、殺される覚悟のある奴だけだ』」
まぁ、言葉は少し違うけど意味は同じだからいいでしょう。
彼の物語はかなり好きだったから覚えている。
私みたいなチートバグキャラが言っても説得力は薄いけれど。
それでも私の覚悟から考えると、殺される覚悟くらいは当然持っている。
好きなように生きる、そのための障害を排除する、というのは往々にして反感を生むわね。中には恨まれる事態になるかもしれない。
その結果撃たれるかも、殺されるかもしれない。まぁ、ただで殺されるつもりは毛頭ないけれど。
「な、なんでもする!だから・・・」
「私、約束は守る性質なの。だから約束通り、苦しみからは『助けて』あげる・・・もう用済みだしね。さよなら」
「まっ・・・」
ザシュッ・・・ゴロン
寝転んだ下衆の首を斬る。
転がった首の表情は恐怖に彩られていた。
それでも私の心には波風1つ立たない。
正直取るに足らない存在に、いちいち心動かされたりはしない。
それを確認できただけでも有益かしら。
・・・・・・本格的に魔王かしらね。
埒もない事を考えながら、正宗の血を払い、短刀に戻して鞘に納める。
くるりと振り返り、少女を見つめる。
正直、今までの事は前座になりもしない。
彼女とのこれからの会話に比べたら、斬り殺した3人の存在なんて私にとっては路傍の石以下だと思う。
だからこそ頭を切り替えて望まなければならない。
彼女を1人にはしたくないから。
それがたとえ私の勝手だとしても、押しつけだとしても。傲慢だとしても。
これから彼女が歩む長き道。
1人では歩ませたくない、悲しませたくない。
否、それは私も一緒か。
ここでもし一緒に居る事を断られたら、600年ほど私も1人ぼっちか。
むむむ・・・ますます失敗できなくなった。
さて、まずは何から話そうか。
そう考えながら、ゆっくりと彼女に向かって歩き出した。
後書き
お読みいただきありがとうございます。
着実に増えていくお気に入り件数にビクビクしながらの修正作業中です。
ご意見・ご感想お待ちしております。
それではまた次回。
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