フルグチョン
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第一章
フルグチョン
シベリアのエベンキ族の勇者フルグチョンは中の国に住む身寄りのない娘ニュングルモグが生んだ子である。
生まれてすぐに立つ様になり三日目で弓矢を使い何とトナカイを三頭も倒す様になった。そして魔物であるアヴァーヒを降しその頭領の娘を妻とした。
だがその彼にエバンキ族の者達は聞いた。
「貴殿の母君のことだが」
「聞いていいだろうか」
「前から不思議で仕方なかったが」
「いいだろうか」
「母はもう死んだが」
誰よりも大きくそして逞しい身体をしている、肌は眩いばかりに白く目の光も強い。フルグチョンはその姿でエベンキ族の者達に応えた。
「その母のことを聞きたいのか」
「そうだ、もっと言えば貴殿の父君のことだ」
「貴殿の母君は身寄りがなかった」
「誰とも付き合わず一人家で織ってそれで暮らしていた」
「織ったものを渡す以外は人と付き合わなかった」
「では誰と交わってだ」
そうしてというのだ。
「誰と子を為したのだ」
「貴殿を生んだのだ」
「父なくして子は得られない」
「そのことはどの様な者も同じだ」
「人だけでなくだ」
それこそというのだ。
「獣も同じだ」
「無論神もだ」
「魔物も同じだ」
フルグチョンが降し部族に加えたアヴァーヒ達もというのだ、その証が彼の妻でありその間に生まれた子である。
「どの者も父と母がある」
「母だけで生まれることはない」
「当然父だけでもだ」
「では貴殿の父君は誰だ」
「一体誰なのだ」
「私もそれはわからない」
フルグチョンは腕を組み考える顔になって答えた。
「どうもな」
「貴殿自身もか」
「そうなのか」
「しかし父君がいることは間違いない」
「そのことはな」
「だが」
それでもとだ、彼等は言うのだった。
「それが誰か」
「殆ど誰とも会うことがなかったという貴殿の母君と会っていたのは」
「それは誰だ」
「一切わからない」
「それはそうだが」
それでもと言うのだった、フルグチョン自身も。
「母はもう亡くなっている」
「そして身寄りもなかった」
「会っている者も殆どいなかった」
「だからか」
「そのことは」
「わかる筈がない、しかしだ」
それでもとだ、フルグチョン自身も言った。
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