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戦国異伝供書

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第六十四話 婚礼の話その九

「兵法の才はないでおじゃるか」
「残念ながら」
「得手不得手がはっきりしているでおじゃるか」
「そうした方です」
「前から和上は言っていたでおじゃるが」
「やはりそこは」
 得手不得手がはっきりしていることはというのだ。
「仕方ありませぬか」
「そうでおじゃるか」
「はい、ただ当家はです」
 雪斎は義元にこうも話した。
「西の織田家と常に争っていますが」
「東も北も油断出来ないでおじゃるな」
「はい、東の北条家に」
「北の武田家も」
「どちらも油断出来ませぬ」
「幸い両家とは盟約を結んでいるでおじゃるが」
「より一層です」
 雪斎は義元に話した。
「盟約を強くし」
「そうしてでおじゃるか」
「後顧の憂いをなくしましょう」
「麿は上洛してでおじゃる」
 義元は雪斎に自分の考えも話した。
「そしてでおじゃる」
「将軍になられ」
「そしてでおじゃる」
「この乱れた天下を」
「正すでおじゃる」
 こう雪斎に話した。
「麿が」
「ならばです」
「その為にもでおじゃるな」
「戦って下さい」
 こう言うのだった。
「お願いします」
「それでは」
「はい、ただ」
「ただ?」
「上洛にはです」
 それにはというのだ。
「尾張、美濃、近江です」
「その三国をでおじゃるな」
「通ることになりますが」
「それがどうしたでおじゃるか」
「まず美濃ですが」
 最初にこの国の話をした。
「あの国の主は」
「斎藤道三殿でおじゃるな」
「はい、あの御仁は蝮と呼ばれていますが」
「それだけにでおじゃるな」
「手強いです」
「謀略も得意でおじゃるしな」
「これ以上はないまでに剣呑な」
 まさにというのだ。
「そうした御仁であられるので」
「敵となると」
「強くしかも」
 それだけでなく、というのだ。
「城もです」
「稲葉山城でおじゃるな」
「あの城は天下の堅城の一つです」
「だからでおじゃるな」
「かなりの大軍で攻めても」
 そうしてもというのだ。
「攻め落とすことはです」
「難しいでおじゃるか」
「はい、そして近江も」
「六角殿でおじゃるな」
「北の浅井殿は今は置きまして」
「都に進むには近江の南でおじゃるからな」
「六角殿ですが」
 この家もというのだ。
 
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