ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
アイングラッド編
紅き剣閃編
Encounter―遭遇
前書き
三連続行きます。
朝8時、いつものように起床する。
無意識にウインドウを開き、戦闘装束を装備―――
「……おっと」
寸前で今は休暇中だと思いだし、ラフな普段着を装備する。
22層はのどかな観光エリアだ。
とはいってもそんなに人が来るわけでもなく、釣り人がちらほらいるだけだ。
俺はいくつかある湖の畔にある小さなログハウスに住んでいた。
転移門まではかなりあるが、あまり帰ってこないため、関係ない。そして今は休暇中だ。
そんな我が家の一番の自慢は湖に伸びる桟橋だ。
家の中からしか行くことが出来ないため、さぞかしレアな魚が釣れるはず……と思って釣りスキルを選択しやってみたのだが、大したことなかった。
多少、餌の食い付きがいいような気がしたが、そんな程度だろう。
―閑話休題
休暇中なのはいいが、今まで戦闘ばかりで、休日はあれこれ店を回ってる内に日が暮れた。
ようするに、暇だ。とんでもなく。
最近、急激に誕生したバカップル3組は揃って行方不明。
リオが半泣きでオラトリオの事務を回していた……哀れだ。
リオ、エギル、リズ、クラインと知り合いの顔が浮かんでくるが、それぞれ忙しいだろうから邪魔するのも悪い……。
「暇だな……」
呟いたところで虚しい気持ちが膨らむだけだった。
____________________________
暇人は暇人らしく、何の目的も無さそうに散歩でもするか。
そう思ってホームがありながら、いまいち周辺地理が解ってなかった俺はぶらぶら歩いていた。
(……ん?)
こんなところに小路があるぞ。いかにも隠し通路的な、キリトが好きそうな道だ。
(連絡があったらこの層を案内してやるのもいいかもしれない)
しばらく行くと、俺の家よりふたまわりほど(敷居が)大きなログハウスがあった。
窓が空いているところを見ると、人が住んでいるようだ。
《索敵》を無意識に使うと、中にいるのはどうやら2人のようだ。
――いやーな予感がした。
近くの木陰に隠れると、フレンドリストからキリト、アスナを選択し位置を追跡――
「……やれやれ」
どうやらあの2人とは相当の腐れ縁らしい。
__________________________
「驚いたぜ……」
「…………」
場所はさっき見つけたログハウスの中、いたのはキリト、アスナ、そして小さな8歳くらいの女の子。
「SAOの中では少しませた行為を行うとすぐに子供もでき―――」
「なわけねーだろ!!」
「ち、違うもん!!」
では、何だというのだ。不可解なことに《索敵》はおろか、目を合わせてもカーソルすら出ない。
「……ママ、このお兄ちゃん……誰?」
「ええと、パパとママの友達よ、ユイちゃん」
「お兄ちゃん?」
「……えっと……そうだよ。お兄ちゃんだよ」
「待てい」
「にぃにぃ!!」
ガバッと飛び付いてくる。
「ちょっ………」
何とか受け止めたが、なんだ?なんでこんなに懐かれてるんだ?
「……アスナ、うちの長男が既にこんなにでかいんだが……」
「レイもこんなにやんちゃだったね~」
「同年代の親とかいてたまるか!!」
ていうかアスナさん……何故にそんなリアル我が子を見る目をしてるんだ!?
「……で、とにかく、どっから持ってきたんだこの子は」
今だに胴にぶら下がっている『ユイ』という女の子を抱えあげながら俺は訊ねた。
__________________________
どうやら俺の妹は拾って来られたらしい。
何の皮肉か、現実世界の我が義妹君も拾われた――というと少し語弊があるが、その話はまた今度――子なので俺としてはあまり違和感がないな。
これから昼食だから一緒にという2人の好意に甘え、サンドウィッチを頂く。
ユイはどうやらキリトの食べている激辛味が気になるらしく、ねだっている。
「ユイ、これはな、すごく辛いぞ」
「う~……。パパと、おんなじのがいい」
「そうか。そこまでの覚悟なら俺は止めん。何事も経験だ」
マスタードたっぷりのサンドウィッチを難しい顔でもぐもぐさせていたユイは、ごくりと喉を動かすとにっこり笑った。
「おいしい」
「中々根性のある奴だ」
ちなみに、俺は本来ユイの食べるはずだった甘いパイをもらった。
俺の分のサンドウィッチ(辛さ控えめ)は食欲旺盛なユイにあげたからだ。
「……辛くない」
「辛いのが好きなのか?」
「うん!」
「お、じゃあ晩飯は激辛フルコースに挑戦しような」
「もう、調子に乗らないの!そんなもの作らないからね!」
食べ終わり、2人が食後のミルクティーの飲んでいる間、俺はユイにせがまれ、肩車をしていた。重さはさほど感じない。愛刀の方が重いぐらいだ。
「なあ、ユイ」
「なに、にぃ?」
短くなったようだ。にぃにぃちょっと気に入ってたのに……。
「ユイは自分がどこにいたか、本当に何も覚えてないのか?」
「うん………わかんない」
「……そっか」
しばらくすると、はじまりの街までユイの知り合いを探しに行くということになったので、同行することにした。
アスナがユイに厚手のセーターを着せようとして、ピタッと止まる。
「ユイ、ウインドウ、開けるか?」
アスナの戸惑いを察したキリトがユイに訊ねた。
首をかしげる少女に自分の手を振ってやってみせる。
ユイは同じように真似て見るが、ウインドウは出現しない。
「システムがバグってんのか?」
「たぶん……記憶が無いのもあるいは……」
キリトが考え込むと、俺はふとある可能性に至って試してみることにした。
「ユイ、逆の手でやってみてくれないか?」
「こう?」
はたして、ウインドウが表れると2人があっけにとられていた。
「どういうこと?」
俺はこの時点である結論に至ったが、2人の事を思い取りあえずの方便を使うことにした。
「……多分、年齢対象外の脳波にナーヴギアが上手く作動してないんじゃないか?」
「そんなことがあるのか?」
「さあ……俺は設計者じゃないし」
とにかく、今議論してもしょうがないことなので取りあえず放置、ということとなり、アスナが今度は可視モードのボタンをユイの手で押す。
「な……なにこれ!?」
見ると、おおよそプレイヤーのそれとはかけ離れたウインドウ。
「ま、わからんもんはいくら考えても仕方ないさ」
「……そうだね」
アスナが改めてユイの手でウインドウを操作し、すっかり装いを変える。
「さ、お出かけしようね」
「うん。パパ、だっこ」
キリトは照れながらユイを抱きかかえると、そのままちらりとこっちを向いて、言う。
「2人とも、一応、すぐ武装できるようにしといてくれ。街からは出ないつもりだけど……あそこは《軍》のテリトリーだからな……」
「ん。気を抜かない方がいいね」
「抜かりはない」
そういって普段着にしている赤の紋様が入った丈が長めのパーカーの裏に吊ってある小太刀を見せると、2人に微妙な顔をされた。
__________________________
はじまりの街は言うまでもなくアインクラッド最大の都市だ。最初にプレイヤー全員を収容するキャパシティがあったほどに。
全てが始まった日、俺はこの途方もなく長い任務に辟易していた。十分な見返りを条件としたが、やはり不安や葛藤もあった。
それから約2年。俺の心境は180度いや、全く別物に変わっていた。帰りたい気持ちはある。約束があるから。
しかし、今を全力で生きているこの瞬間の充実したこの気持ちは向こうでは得られなかったものだ。
葛藤はあるが、決して後悔はしていない……はずだ。
2人もそれぞれ感慨深いものがあるようで空をじっと見ている。2年前、茅場晶彦が現れた、その場所を………。
_______________________
「ユイちゃん、見覚えのある建物とか、ある?」
「うー………わかんない……」
「まぁ、はじまりの街はおそろしく広いからな」
キリトがユイの頭を撫でながら言った。
「あちこち歩いていればそのうち何か思い出すかもしれないさ。とりあえず、中央広場に行ってみようぜ」
「そうだね」
「りょーかい」
広場はとてつもなく広い。デスゲーム開始時に全プレイヤーを収容したまさにその場所であるから、1万人は入るだろう。
「それにしても、人っ子一人いないのはどうゆうことだ?」
「そうだな……。マーケットの方に集まってるのかな?」
しかし、いたのはNPCだけ、売り子の声がやたらと虚しく響いている。
「ん、人だ」
「あ、本当だ。ちょっと訊いてみよ」
アスナが近寄っていくので、やむなく付いていくと、特に特徴のないおっさんだった。
そのおっさんに教会に年の若いプレイヤー達が住んでいると聞いて、そこにやって来た。
「ち、ちょっと待って」
教会に向かって歩き出そうとする俺達にアスナが声をかけた。
「どうした?」
「あ、ううん……。その……もし、あそこでユイちゃんの保護者が見つかったら、ユイちゃんを……置いてくるんだよね……?」
それを聞いたキリトの目がアスナをいたわるように和らいだ。……いつの間にそんな目ができるようになったんだお前。
キリトは近寄ってユイごとアスナを抱きしめて言う。
「別れたくないのは俺も、レイも一緒さ。……ユイがいることで、あの森の家が本当の家になったみたいな……そんな気がしたもんな……。でも、もう会えなくなるわけじゃないし……それに、でかい長男もいるだろ」
まだそのネタを引っ張るか!!と思ったが、ここでそれを突っ込むのは野暮だ。なので、とりあえずのっとく。
「まぁ、少なくとも俺はどこにも行かないから、な?元気出せ」
「ん……。そうだね」
小さく頷くと、意を決して歩き出す。アスナが扉の片方に手をかけ押し開けた。
「あのー、どなたかいらっしゃいませんかー?」
声の残響が消えていっても誰1人出てこない。
「誰もいないのかな……?」
「いや、人がいるよ。右の部屋に3人、左に4人……。二階にも何人か」
「7…いや、8人だな」
さらっと《索敵》スキルで壁越しの人数を看破した2人をアスナは微妙な顔で見た。
「ふむ……サーシャさん、レイですけど、ちょっと人を探しているんですが、話を聞いてくれませんか?」
「え、だれ?」
「ここの子供達の保護者」
すると、右手のドアがわずかに開き俺の姿を見ると、ぱあと笑顔になりこっちにやって来た。
「お久しぶりです。レイさん」
「お元気そうで……皆も元気ですか?」
「はい。元気すぎて、困っています。……あの、そちらの方達は?」
俺は横に移動して2人を紹介する。と、その時―――
「レイ兄ちゃん!?まじで!?久しぶりー!!」
どどどどどど――
と、音がしそうな勢いであちらこちらから子供が溢れてくる。
「やれやれ……」
言葉とは裏腹に優しい目をするレイ。キリトとアスナは意外なものを見た気になかった。
わいのわいのする子供達を落ち着かせて、アスナが本題を切り出す。
サーシャはしばらく何かを考えていたが、わからないと言った。当然だが……。
「そうですか……」
アスナが俯き、ユイをぎゅっと抱きしめた。そして、ふと気になった様子で今度は俺に目を向けてくる。
「レイ君はサーシャさんとどうして知り合ったの?」
「いや、ホントに偶然なんだけどな……まだ最前線が5層ぐらいだったときにどうしてもここら辺で素材集めをしなきゃいけなくて、バッサバッサと目的のモンスターを狩ってたらさ、何か小さいプレイヤー何人かのパーティーが壊走してるじゃないですか」
「私の他にもここを守ろうとしてくれる年長の子が何人かいてこの辺のモンスターなら絶対に大丈夫なレベルにはなっているんですが、運悪く集団に囲まれてしまったみたいで……」
「まぁ、サクッと片づけたら妙に懐かれてな。ここでご飯をご馳走になったんだ」
「5層が最前線って……精々レベルのトップは30半ばでしょ?いくら一層とはいえ撤退の難しいほどの大群をサクッと、ね」
「アスナ……思い出せ。一層のボス部屋までのPOPを一晩で枯渇させたアホは誰かを」
「……今さらだけど、レイ君なにもの?」
「……あなたの子供ですよ、母さん」
ネタではぐらかし、本題からズレつつあったその場が笑い声に包まれた。その時、
「先生!サーシャ先生!大変だ」部屋のドアが開き、数人の子供達が雪崩れ込んできた。
「ギン兄ぃ達が、軍のやつらに捕まっちゃたよ!!」
「場所は?」
俺がすっと立ち、教会の外に向かいながら訊ねる。
「東五区の道具屋裏の空き地――」
キリトとアスナは言い終わらない内に消えたレイを追ってサーシャと共に駆け出した。
ページ上へ戻る