真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
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第90話 烏桓族諜略 前編
桃香と愛紗は義勇軍の中から精鋭だけ選び10人を連れ洛陽へ発ちました。
桃香達が去るとき、関羽は私に真名を預けてきました。
彼女は、これまでのことと、桃香を罪を免じた上に就職先の斡旋をした私に感謝の気持ちを示したいと言っていました。
私は幽州の烏桓族を諜略するために直接出向くことにしていたので、桃香の義勇軍を一緒に同行させ郡まで送り届けました。
この諜略には揚羽、冥琳、風、稟と騎兵3000、歩兵2000を連れています。
現在、郡を離れ代郡の烏桓族の元を訪ねています。
「正宗様、北郷と逃亡した兵達の件でお話があります」
揚羽は私の右側に馬を寄せてきました。
「勝手ながら、北郷と逃亡した兵達を討伐する部隊を編成し、冀州各地に展開させました。それと、司馬家の者も動員し、見つけ次第殺すように命じております」
揚羽は私を怜悧な瞳で私を見ました。
「手際がいいな。確かに、北郷を放置したら、領民を襲いかねないからな。揚羽、ありがとう」
私は揚羽の心遣いに感謝しました。
「正宗様、劉玄徳の件でご忠告したいことがございます」
冥琳は私の左側に馬を寄せてきました。
「桃香のことか・・・・・・。私の裁定が甘いと言うのだろ」
冥琳の言いたいことがなんとなくわかり面倒臭い感じに言いました。
「分かっておいでなら話が早いです。正宗様、劉玄徳は厳罰に処罰すべきでした。彼女は罪人を逃がしたのです。彼女達が北郷を拘束しておけば、討伐隊を編成するなどの余計な出費は掛かりませんでした」
冥琳は私に厳しい表情で言いました。
「でも、幽州に送り返した義勇軍は私に感謝をしていたではないか? 彼らはきっと私の慈悲深さを幽州の民に喧伝してくれると思うぞ。そうなれば、その話は烏桓族の耳にもいずれ入るだろう。私は只でさえ、『地獄の獄吏』などと民の間で語られているのだからな」
私は揚羽と冥琳の突き上げに、苦し紛れの言い訳をしました。
「正宗様、それは結果論でございましょう。費用対効果を考えてください。明らかに費用の割に、得られる効果が小さいです。まあ、正宗様が幽州に影響力を持たれる際に役には立つでしょう」
揚羽は目を瞑り、溜息を付きながら、私に苦言を言ってきました。
「劉玄徳は正宗様の優しさに甘えているだけの愚か者でございます。あの場で彼女を斬首に処すべきでした。それが秩序を守ることでございます」
冥琳は桃香を処刑しろと言いますが、ああ見えて人徳だけはある子です。
もし、私が彼女を処刑していたら、義勇軍の者達は私を恨み命を付けねらうかもしれません。
・・・・・・。
言い訳ですね。
あの時の私は桃香と愛紗に同情して甘い裁定をしてしまいました。
「揚羽と冥琳の言い分は善く分かった。だが、一度下した裁定を覆す訳にはいかない。だから、これからは桃香をどう遇すればいいと思う」
私は遠く空を眺めながら、揚羽と冥琳に意見を求めました。
「劉玄徳は今後も正宗様に厄介事ばかり持ってくると思いますので、彼女を暗殺するべきです。洛陽ならば暗殺する機会は多いと存じます。ただ、月華殿の目には重々気をつけねばなりません」
揚羽は私に淡々と桃香暗殺を献策してきました。
「揚羽殿の意見に同感です。劉玄徳は能力は高くはありませんが、人徳だけは目を見張る物がございます。あのような者が正宗様の周囲をうろついては正宗様の足下を乱しかねません」
冥琳も揚羽同様に暗殺を献策してきました。
「どうしても桃香を殺さねばならないのか? 彼女は迷惑な人物だが、善人だ。殺すのは忍びない」
私は揚羽と冥琳の顔を順に見て言いました。
「正宗様、甘いです」
揚羽は厳しい表情で私に言いました。
「正宗様は悪人にはとことん冷酷無慈悲ですが、善人にはとことん情けをお掛けになさいます。それでは政は立ち行きません。政は清濁を合わせ持たねばならないのです。民の安全を守る為ならば、例え善人を殺すことになっても、覚悟して実効せねばならないのです」
「だから、桃香を殺せと言うのか?」
私は心の中で葛藤がありましたが、己に自答するかの如く揚羽に言いました。
「正宗様、その通りです」
揚羽ではなく、冥琳が応えました。
「あの~、白熱しているところ申し訳ないのですが、少しよろしいですか?」
私達の会話に風が割り込んできました。
「私は劉玄徳という人物のことは知りませんが、別に殺さずとも良いと思います~」
風はアメを舐めながら、揚羽と冥琳の顔を順に見て言いました。
「風、それはどういうことだ。妄言ならば許さぬぞ」
冥琳は厳しい表情で風に言いました。
「ふふ、妄言とは酷いのですね~。正宗様、劉玄徳は人徳があり、あなた様が大恩を施された人物とお聞きしました。ならば、それを利用されればいいと思うのですよ~。その人物が一勢力を作る手助けを影ながら行えば、正宗様側の影響下にある諸候が誕生するのです~。仮に、大恩ある正宗様に弓引けば、それを理由に滅ぼし、その領地にあなた様の息を掛かった者を送り込めばいいのです。正宗様はただでさえ、力をお持ちなので、これ以上は力をあまり誇示されない方が良いと思います」
風は謀臣の片鱗を見せる発言を私達に披露しました。
「風、悪知恵が善く働くな・・・・・・」
冥琳は風の献策に少し引いていました。
「冥琳様、褒め言葉と取っておくのです~」
風は機嫌良くアメを舐めていました。
「風の献策はなかなか良いですね。ですが、劉玄徳が正宗様に逆らったときに、正宗様が彼女を殺せるかが重要になります。正宗様、そこのところはどうなのですか?」
揚羽は風の策に同意しながら、私に桃香を殺す覚悟があるか聞いてきました。
・・・・・・。
戦となれば話は別です。
殺したくなくとも殺さなければいけません。
それが生き残る道です。
「そのときは私が桃香を殺す」
私は覚悟を決めて言いました。
「そうですか・・・・・・。ならば、これ以上、私は何も申しませぬ。冥琳殿も良いですね?」
揚羽は私をしばらく凝視していましたが、私が目を反らさずに彼女の瞳を凝視したら、軽く頷き言いました。
「正宗様が覚悟されたのならば、私も何も言うことはございません」
揚羽の言葉に、冥琳は一度、私を見て言いました。
「やれやれ、やっと夫婦喧嘩から解放されるぜ」
風の頭上の宝慧が言いました。
「そうなのですね~。おお、正宗様、あそこに見えるは烏桓族の集落ではないのですか~」
風はアメを舐めながら、前方を指さしました。
確かに、目の前に村らしき物が見えました。
桃香の件は風の案を採用する方向で考えておきましょう。
それより今は、烏桓族討伐の準備が重要です。
烏桓族を出来るだけ多く取り込みたいと思っています。
烏桓族討伐後に彼らと友好的な関係を築くにはこれは欠かせないことです。
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