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曇天に哭く修羅

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第一部
  異常な弱者

 
前書き
とにかく原作一巻分までは書きたい。
( 。゚Д゚。) 

 
喰牙(くうが)』という技を会得したところで初日は終了することとなった。


「レイアさん。腕が折れてるんだけど明日からは一体どうするんですか?」


立華紫闇(たちばなしあん)》が気遣うと《永遠(とわ)レイア》の折れた右腕が淡い緑の光に包まれる。


「はい。これで心配ないよ」


レイアは動かせなくなっている筈の右腕を事も無げに持ち上げて見せた。


「な、何が起きたんだ!?」


当然だが紫闇は驚く。


「黒鋼流【練氣術】の一つだよ。もっと酷い怪我でも治せるんだよねー」


出鱈目すぎる。そんなことを思いながら紫闇は顔を引き攣らせるのだった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


そしてその日の夜。

レイアは三人で話をしていた。

相手は《黒鋼焔》と《黒鋼弥以覇(くろがねやいば)

話題は紫闇について。


「一目で出来る奴だとは思ってたけど、ここまで成長過程を飛ばすとはね」


焔にとって紫闇は異常。

何故あれで弱者なのか。

特に【魔晄(まこう)】の総量がおかしい。


「儂等の練氣術は別に【異能】を持たぬ【規格外】でしか使えぬわけではないから【魔術師】であるならば理論上は誰でも覚えられる。最低でも並みの魔術師基準で数十倍の魔晄量を必要とするが」


弥以覇の言うように黒鋼流の練氣術は絶大な効果を発揮する代わりに尋常でない魔晄を消費してしまうという不可避の難点が有る。

なので殆どの魔術師は魔晄を増幅する為の修業から始めるのが普通なのだ。

黒鋼式の増幅修業を要求通りにこなした場合、常人よりも頑丈に出来ている筈の魔術師が千人居たとして999人は死ぬと思って良い。


「莫大な量の魔晄を手に入れるには大きなリスクを背負わなきゃならない。だから修業の最中に問答無用で脱落していくことになる。それに魔晄の総量が条件を満たしても更に厳しい修業が待ってるわけだし」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


レイアの言う増幅の次。

魔晄を特殊な形で操る修業。

苛烈なのは増幅の修業と同じ。

例え増幅修業の段階を乗り越えた才能と強靭な精神に加えて悪運を持ち(あわ)せた者が千人居たとしても、一人が生き残れば黒鋼から見て上出来と言える確率だろう。

基本的にここで間違いなく死ぬから。

単純計算で平均値でも中央値でもなく、一番多い最頻値の魔術師だと100万分の1以下でしか黒鋼流練氣術を修得できる可能性は無いのだ。

しかも練氣術と同じ発想をしたり練氣術レベルの魔晄操作技術や知識に触れる機会など魔術師全体で見ても皆無に等しいだろう。

最初から天然で練氣術と同等の魔晄操作を出来ていた者は現在の世界で20人も居るかどうか。


「しかし紫闇という小僧、増幅と操作の過程を飛ばすとは面白いのう。そんなことが可能な『人間』は去年おっ()んじまった史上最強の《神代蘇芳/かみしろすおう》やレイア、エンド、今の日本に居る【魔神】みたいな奴等くらいじゃろうて」


ならば紫闇は何なのか。


「兄さんは彼と幼馴染みだから気付いてたんだろうね。【神が参る者(イレギュラーワン)】だって」


焔の指摘にレイアが口を開く。


「99%そうだろうなあ。知り合いと同じ感じがするし【神仏魔性(ディバイン)】とは明らかに違うし弥以覇さんなら判別できるんじゃ」


弥以覇は夜空を見上げた。


「ふっ、60年以上前から終戦まで散々に()り合った連中と同じ匂いがしとるよ」


彼はかつてのことを思い出す。

今や世界中に殆ど残っていないだろう最前線の更に中央や隠れた死地の経験者。

黒鋼弥以覇は60年前に終結した【邪神大戦】に身を投じて戦っていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


人類と上位存在の戦争が邪神大戦だが全ての上位存在が敵だったわけではない。

人類に味方する半数の上位存在は【古代旧神/エルダーワン】と呼ばれ、敵になった上位存在は【旧支配者/オールドワン】と呼ばれた。

しかし弥以覇にとって敵味方などは無く、かと言って善悪も興味の対象では無く、ただ強いか弱いかこそが重要な事柄であったのだ。

もし強いなら立場や状況など無視して等活地獄に居る修羅の如く挑み掛かって()く。

黒鋼一族が持つ戦闘狂の(さが)を抑えず本能の望むまま、ひたすら闘争に明け暮れた結果として、弥以覇は大戦が終わる立役者となる。

しかしあまりに無軌道で無差別に暴れ回ったことで功績は無かったことになり、その存在は歴史の闇へと葬り去られてしまう。

本人はどうでも良いと思っているが。

三千年に及ぶ邪神大戦の中で最も上位存在を倒した紛れもない黒鋼一族史上最強の鬼神。

それが黒鋼弥以覇である。


「あの頃は(たの)しかった」


道を歩けば鬼に当たるような時代。


「特に上位存在は面白い好敵手じゃった。まあ【神が参る者(イレギュラーワン)】には一段劣るがの」


神が参る者/イレギュラーワン

それは上位存在を宿す人間。

強さは宿した上位存在の強さに比例するが、彼等は例外無く化け物と言って良い。

上位存在は人間に宿ると互いの力を引き上げる性質を持つのだが、宿主が死んだ場合には宿った上位存在も同時に消滅してしまうのだ。

上位存在は殺されても石化して封印状態になるだけで何れは復活できる。

わざわざ死のリスクを背負ってまで人間に力を与える変わり者は先ず居ない。

だから神が参る者は超絶希少。

焔とレイアは二人有ったことが有る。

一人は紫闇。

もう一人は大戦終結後の約60年において最高の大英雄とされた紫闇の憧れ《朱衝義人(あかつきよしと)


「彼には失望させられたねぇ。紫闇にはあんな風になってほしくないよ」


義人は焔が望んでいたような『鬼』にはならず、レイアと同じように『人』として在り続ける道を選んだのだので焔に嫌われている。

レイアが義人と同じでも焔に嫌われていないのは両親の恩人であり、自分よりも強く、黒鋼一族のような鬼と同じことが出来るから。


「僕は義人さんのこと嫌いじゃないんだけどな。そこそこ話が合う人だったし」
 
 

 
後書き
原作は弥以覇さんのイラストが無い。

過去編を見たかった。

個人的に神代蘇芳より若い頃の鬼神だった弥以覇さんの方が強いと思ってます。
_〆(。。) 
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