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戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~

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第6楽章~魔塔カ・ディンギル~
  第55節「月を穿つ」

 
前書き
月を穿つ力を秘めた『カ・ディンギルの塔』が遂に起動した!
その力による人類解放を謳うフィーネの前に、『シンフォギア装者』達が立ち塞がる!

とうとう例のナレーションが流せる所まで来ましたね。
きっとOPには3人の装者と2人の伴装者が並んでいる事でしょう。

それではどうぞ、お楽しみください! 

 
「カ・ディンギル……ッ!こいつで、バラバラになった世界が一つになるとッ!?」
「ああ。……今宵の月を穿つ事によってなッ!」
 空に昇る紅い月を見上げ、フィーネはそう言った。

「月を……?」
「穿つと言ったのか?」
「なんでさッ!?」
 その答えに困惑する装者達。フィーネは少し憂いを帯びた表情になると、あの日のガールズトークでは押し込めた、自らが聖遺物の研究を始めた理由を、語り始めた……。

「私はただ……、あの御方と並びたかった……。そのために、あの御方へと届く塔を、シンアルの野に建てようとした……。だがあの御方は、人の身が同じ高みに至ることを許しはしなかったッ!あの御方の怒りを買い、雷霆に塔が砕かれたばかりか、人類は交わす言葉まで砕かれる……。果てしなき罰、『バラルの呪詛』をかけられてしまったのだッ!」
「って事は、旧約聖書の『バベルの塔』は、あんたの……」
 翔は驚き目を見開く。人類の傲慢さに神が罰を降し、元々ひとつだった言語が分かれてしまい、人類は散り散りになってしまったその記述は、まさに人類から『相互理解』が消えた瞬間の記録だったのだ。

「月が何故古来より不和の象徴として伝えられて来たか……それはッ!月こそがバラルの呪詛の源だからだッ!人類の相互理解を妨げるこの呪いをッ!月を破壊する事で解いてくれるッ!そして再び、世界をひとつに束ねるッ!」
 起動したカ・ディンギル、その先端に紫電が走る。
 バチバチと音を立て、エネルギーが充填されていく。発射準備が整いつつあるのだ。
「呪いを解く……?それは、お前が世界を支配するって事なのかッ!──安いッ!安さが爆発し過ぎてるッ!」
 口角を引き攣らせながら叫ぶクリス。しかし、フィーネは再び余裕の笑みを浮かべ、装者達を見下ろしながら言った。
「永遠を生きる私が、余人に足を止められることなどあり得ない」
 
「それはどうかな!」
 反論の声に、フィーネが視線を移す。
「たとえ最初の動機は恋心でも、あんたはとっくに歪んでいるッ!叶わないと知ってなお諦めきれずに、周りを巻き込み、世界を巻き込んででも自分の我儘を通そうとするその姿!見苦しいにも程があるぞ、フィーネッ!」
「私が見苦しいと言うのか?小僧ッ!口が過ぎるぞッ!」
「間違ってる事を間違ってると教えてやって何が悪いッ!男なら、誰かの間違いは真っ直ぐ伝えてなんぼ!それでも止まらないと言うのなら……叔父さんの代わりに、この拳で止めるまでッ!」
 翔は拳を握りしめ、胸の前で打ち合わせると……皆と共に、胸の歌を口ずさんだ。
 

「──Toryufrce(トゥリューファース) Ikuyumiya(イクユミヤ) haiya(ハイヤァー) torn(トロン)──」

「──Balwisyall(バルウィッシェエル) Nescell(ネスケル) gungnir(ガングニール) tron(トロン)──」
 
「──Imyuteus(イミュテイアス) Amenohabakiri(アメノハバキリ) tron(トロン)──」

「──Killter(キリター) Ichaival(イチイヴァル) tron(トロン)──」

 
 弓、拳、刀、クロスボウが構えられる。
 クリスの初撃が足元に命中し、校舎を飛び降りるフィーネ。
 その瞬間を狙い、響は飛び蹴りの構えを、翼は刀を振り上げ、クリスはクロスボウを収納して拳を握って飛びかかり、翔は少し離れて弓を構えた。
 
 ∮
 
 その頃、地下シェルターの一室では、カ・ディンギルの起動により突如襲って来た揺れから身を守るべく、創世、弓美、詩織の3人が折り畳み机の下に隠れていた。
 3人の中でも、とりわけ弓美は振り乱しており、揺れの影響でドアが開かなくなってしまった事を知ると、床に座り込んで震えていた。

「このままじゃ、あたし達死んじゃうよ!もうやだよぉぉ……!」
「弓美!しっかりしてよ!」
「そうですよ!きっと助けが来ます!ですから……」
「助けっていつ来るのよ!こんな時、アニメだったら助けてくれるヒーローが現れるけど、ここは現実!助けなんていつ来るか分かんないじゃん!」

 リディアンの襲撃に、目の前でノイズに殺される人間を見てしまった恐怖。そして密閉されたシェルターの中に閉じ込められてしまった現状。
 3人の内、誰かがヒステリーを起こすのは必然だった。他の2人も、弓美を落ち着かせなきゃ、という気持ちで何とか自身を奮い立たせているが、それも何時まで持つのかは分からない。
「誰か……誰か、助けてよぉぉぉぉぉ!」
 
「誰かいるのか!」
 その時、開かなくなったドアの向こうから声が聞こえた。
 聞き覚えのあるその声。創世が真っ先に返事をした。
「助けてください!ドアが開かなくて……」

「わかった。ドアを突き破るから、離れていてくれ!」
 3人がドアの前を離れると、外からの声が1人ではなくなる。
「行くぞ、流星!」
「うん、兄さん!」
「「兄弟必殺!ダブル・ジャンタックル!」」

 次の瞬間、ひしゃげていたドアを破って、双子の少年が現れる。
「大丈夫か!?」
「兄さん、言い方固いよ……。大丈夫?」
 2人の顔を見た創世達は、揃って驚いた。
「え!?もしかして流星!?」
「アス!?アスだよね!?」
「あ……!安藤さん、板場さん、寺島さん。久しぶり」
「おお!まさかこんな所で会うとは……」
 飛鳥と流星も驚きながら、3人に会釈する。
「大野さん達、どうしてここに?」
「アイオニアンのシェルターは、ここに繋がっていてね。友からリディアンの危機だと聞かされ、放っておけなかったのさ」
「わざわざアイオニアンから!?」
「いったいどうやって……」
 
 そこへ、各シェルターを見回っていた未来と緒川が駆け込む。
「皆っ!」
「小日向さんっ!」
 無事だった3人に駆け寄る未来。
「良かった……みんな良かった!」
 更に、蹴破られたドアから藤尭、友里、弦十郎も入室して来た。
 3人の対応を未来らに任せ、藤尭は部屋にあったコンソールを起動する。

「この区画の電力は生きているようですッ!」
「他を調べてきますッ!」
 生存者の救出を兼ね、緒川は部屋を飛び出して行く。

 突然現れた見知らぬ大人達に、創世達と大野兄弟は困惑していた。
「ヒナ、この人達は……?」
「うん、あのね……」
「我々は、特異災害対策機動部。一連の自体の収束に当たっている」
「それって、政府の……」
「純から聞いていた通りだ……」
 パイプ椅子に腰を下ろした弦十郎からの説明に、救助が来た事に安堵したのか、弓美はようやく落ち着きを取り戻す。
「モニターの再接続完了。こちらから操作出来そうです!」
 藤尭の声と共に、ディスプレイには地上からの映像が映し出される。
 そこに映し出されていたのは、天高く聳え立つ塔。
 そして、その下でフィーネと戦う、4人のシンフォギア装者達だった。

「……あッ!響ッ!?それに、あの時のクリスも……ッ!」
「「「え……?」」」
「これが……」
「了子さん……?」
 戦場で戦士として戦う響の姿に驚く女生徒3人と、フィーネの姿に驚愕するオペレーターの2人。
「どうなってるの……。こんなのまるでアニメじゃないッ!」
「ヒナはビッキーの事、知ってたの……?」
「……うん」
「前に二人が喧嘩したのって……そっか。これに関係する事なのね……」
「……ごめん」
 真実を知った3人。しかし、真実を知る事になった一般人は、彼女らだけではなかった。
 
「失礼しますッ!」
 突然の新たな声に、その場にいる全員が振り向くと、そこには……全身にプロテクターを纏った金髪の少年が入って来た所であった。後ろには、同年代と思わしき2人の少年が、ドアのあった場所から顔覗かせている。
「風鳴翔の叔父とは、あなたの事ですか!?」
「君は……確か、アキレウスの……」
「爽々波純。翔の親友です!翔に頼まれ、アイオニアンから救援に来ました!」
「翔から?そうか……それは心強い」
「爽々波純って……アイオニアンのプリンス!?」
 純の名前を聞き、創世が驚きの声を上げる。
「ああ。僕らのリーダーだよ」
「えっ!?大野達、こんな噂の有名人の友達なの!?まるでアニメじゃん!」

 その時、紅介がディスプレイに映った映像に声を上げた。
「オイ!?あれ、翔じゃねえか!」
「まさか、本当に……」
「純が着ているプロテクターと似ている……。間違いない、あのプロテクターは本物だ!」
「アーティストの翼さんまで……!?」
 紅介の声に反応して、続々と藤尭の隣へと集まるUFZの4人。
 リディアンの3人と未来も含めて、管制を担当する藤尭の周囲には、この場の一般人8人が密集する。藤尭は彼らに仕事の邪魔にはならないよう、念を押すと、コンソールの操作に戻った。
 
 そして、彼らが地上の映像に夢中になっている頃、純は弦十郎の前に歩み寄る。
「翔の叔父さん……」
「風鳴弦十郎だ」
「ああ、どうも。……弦十郎さん、地上への出口は何処にあります?」
「……聞いてどうするつもりだ?戦うつもりだとすれば、俺は戦士ではない君が戦場へ出る事など許さんぞ」
 弦十郎は純の考えを察したのか、険しい表情で彼を見る。
 彼の顔を真っ直ぐに見て、純は迷わずに答えた。

「戦うんじゃありません。クリスちゃんを助けに行きます……。いえ、行かせてくださいッ!」
「クリスくんを、助けに……か」
「僕はクリスちゃんを助けたくて、フィーネのアジトまで突き止めた。そして、クリスちゃんを守る為にこの力を手に入れた。……アイオニアンまでの通路は解放されています。恭一郎達が、避難誘導を手伝ってくれるでしょう。翔との約束はここまでです。僕は、あそこへ戻ります!クリスちゃんを守る為に……そして、フィーネの真意を聞くために!」
「……フィーネの、真意?」

 弦十郎はその言葉に目を見開く。
「クリスちゃんを助けにアジトへ忍び込んだ時、フィーネは僕を殺せるはずでした。でも、あの人は僕を殺さなかった。気紛れだと言ってましたが、僕はその真意を知りたい!だから、行かせてください!」
「……わかった。君を、RN式アキレウスの正式な装者として認める」
「ッ!ありがとうございますッ!」
 勢いよく頭を下げる純に、弦十郎は希望を託す。
 彼はフィーネに……了子に助けられたという。それはつまり、フィーネにもまた、『櫻井了子』として過ごした時間が刻まれている可能性を示唆していた。
 純はフィーネの良心を確かめたいと言う。事態が収束すれば、聞きたいことは自分で聞きに行くが……自分には今、二課の司令としての役割がある。
 だから今、自分にできることは、彼の背中を押すことだ。

「エレベーターホールの近くに、地上へと続く非常階段がある。長いがなんとか走り抜けろ!」
「はいッ!」
 そう言って純は、マスクのなくなったメットを被る。バイザーが降り、ディスプレイが起動したのを確認すると、彼はエレベーターホールの場所まで全力で駆け出して行った。
「おい、純!……あーあ、行っちまったよ」
「純も行くんだな……地上に。この戦場のただ中に……」
 ディスプレイに映る装者とフィーネの激戦は、徐々に激しさを増していく。
 残された友人達は、ただその光景を画面越しに見守る事しか出来なかった。 
 

 
後書き
リディアン三人娘とジャn……大野兄弟は中学の頃のクラスメイトだったりします。

キャラ紹介③
加賀美(かがみ)恭一郎(きょういちろう)(イメージCV:緑川光):翔、純のクラスメイト。純の本気で『王子様』を目指す姿勢に感銘を受け、自らも子供の頃に憧れた『ナイト』として自分を磨こうと、純と交友関係を持ち始めた。コードネームは"ミラーナイト"。
クールな性格だが、意外とナイーブな所も。落ち込むと部屋の隅や暗い場所で、体育座りになっている。UFZの発足は彼が提案した。
ちなみにツヴァイウィングは翼派。

穂村(ほむら)紅介(こうすけ)(イメージCV:関智一):翔、純のクラスメイト。翔とは何度も体育の記録で勝負している内に仲良くなっていた。ちなみに今の所、結果は全敗である。翔の男らしさ、もといOTOKOっぷりに一種の憧れを抱いており、自分も翔のようにかっこいい『漢』になるのが目標。コードネームは"グレンファイヤー"。
暑苦しい程の熱血馬鹿で体育会系。顔はいいのだが、いかんせん熱血過ぎてモテないのが悩み。しかし、四バカの中では一番体力がある。
実はツヴァイウィングは奏派である。

大野(おおの)飛鳥(あすか)(イメージCV:神谷浩史):翔、純のクラスメイト。純とは入学日、隣の席だった縁で仲良くなった。UFZ結成後は、紅介のツッコミ役担当としての地位を確立。委員長気質であり、クラスでは級長を務めている。体育や合唱で弟と組むと、無類のコンビネーションを発揮する。コードネームは"ジャンバード"。
生真面目、堅物。顔はいいのだが、真面目すぎて少々口うるさくなってしまう癖がある。
ちなみにツヴァイウィングは翼派。

大野(おおの)流星(りゅうせい)(イメージCV:入野自由):飛鳥の双子の弟。翔、純のクラスメイト。翔と席が近かった事で友情を育む。恭一郎が落ち込んだ時、よく慰めているのは彼だったりする。趣味は読書で、文学小説が好き。兄と組んだ時のコンビネーションは抜群。特技は機械弄り。コードネームは"ジャンスター"。
物静かで天然。四バカの中では一番モテるのだが、読書中以外はいつも兄に着いていく癖がある。
ツヴァイウィング……ではなく、海外出身のとある新米アイドル派。真剣な顔して彼女のライブ映像を見ながら、猫耳のようになっているあの髪はそのうち動くんじゃないか、などと考えているのは内緒。

今回のキャラ紹介は、UFZの4人でしたー。
名無しモブからよくここまで来たなこの4人……。作者も当初はここまで考えてなかったのでビックリしてたり。

次回──

クリス「ずっとあたしは、パパとママのことが、大好きだった……。だから、二人の夢を引き継ぐんだ……。パパとママの代わりに、歌で平和をつかんで見せる。わたしの歌は……そのために……ッ!」

第57話『守るべきものがある、それが真実』

純「届けえええええええッ!」 
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