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戦国異伝供書

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第六十三話 成長その十二

「お仕えします」
「そうしてくれるでおじゃるか」
「そしてです」
「当家をでおじゃるな」
「盛り立てます」
 こう誓うのだった。
「必ず」
「では」
「はい、そして」
「今はでおじゃるな」
「こうしてです」
 また飲での言葉だった。
「楽しませて頂きます」
「そうなるでおじゃるな」
「やはりこれについては」
「どうしてもでおじゃるな」
「業でありますな」
 彦五郎もこう言った。
「和上の」
「左様、これこそがです」
「業でありますな」
「人にはそれぞれこれがありまして」
「それをどうするかでおじゃるな」
「それが大事なのであります」
「そして和上は」
 彦五郎はまた言った。
「酒、般若湯でおじゃるな」
「その通りであります」
「しかし和上は他の業は」
「祓うことが出来たと」
「麿は思うでおじゃるが」
「そうであればいいですな、では般若湯の業は次の生で」
 その時にとだ、雪斎は彦五郎に笑って返した。
「そうなりますか」
「今の生ではでおじゃるか」
「この通りなので」
「そうなるでおじゃるか」
「そしてこの生では」
「当家をでおじゃるか」
「盛り立てていきまする、そして拙僧の後に」
 ここでまた竹千代を見て言うのだった。
「この者を置いておきましょうぞ」
「うむ、竹千代はよき者でおじゃる」
 彦五郎も竹千代を見て笑みを浮かべる、そうして鯛の素揚げの味を楽しみつつこうも言うのだった。
「よき学び麿に厳しいこともでおじゃる」
「言われますな」
「よいことはよい、悪いことは悪いと」
 その様にというのだ。
「言ってくれるでおじゃる」
「そして彦五郎様はどうされていますか」
 雪斎はこのことについてまずは彼に問い返した。
「それで」
「麿でおじゃるか」
「聞かれて怒られませぬな」
「怒るなぞとんでもないでおじゃる」
「そしてでおじゃるな」
「聞いているでおじゃる、これはでおじゃる」
 彦五郎は雪斎にはっきりと答えた。
「今川家の主として」
「当然のことですな」
「父上もそうでおじゃるから」
 ここで彦五郎は義元を見た、そのうえで雪斎に確かな声で答えた。幼いながらもその言葉ははっきりとしていた。
「だからでおじゃる」
「よいことです、やはりです」
「そうあるべきでおじゃるな」
「今川家の主は」
 まさにという返事だった、雪斎のそれは。
「彦五郎様はよくわかっておられます」
「ではこのままでおじゃるな」
「竹千代の言葉も他の者の言葉も」
「よいと思うなら」
「聞かれて下さい、ただ世の中は悪き者もおりまする」
「そうした者の言葉は」
「何があろうと」
 決して、というのだ。 
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