戦国異伝供書
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第六十三話 成長その七
「何があろうとも」
「してはならぬ」
「そうした所業でおじゃる」
「和上もそう申されていました」
「そうでおじゃるな」
「はい、あの王の振る舞いは」
「人としてでおじゃるよ」
それこそとだ、義元は竹千代に話した。
「彦五郎にもいつも言っているでおじゃるが」
「行ってはならぬ」
「出来てもでおじゃる」
「決してですね」
「左様でおじゃる、麿も贅沢のつもりでおじゃるが」
このことは自覚していた、実際に義元は常に都落ちして駿府まで来た公卿達や重臣達と共に京風の暮らしを楽しんでいる。
だがそれでもとだ、義元は言うのだ。
「しかしでおじゃる」
「酒池肉林は」
「考えたこともないでおじゃる」
「左様ですか」
「雅でおじゃる」
義元は笑って話した。
「麿は」
「公卿の方々の様な」
「この通りでおじゃる」
自分を右手に持っている閉じた扇で指し示して話した。
「眉を丸めお歯黒を付けて」
「髷もですね」
「公卿の方の様にしてでおじゃる」
そうしてというのだ。
「和歌等風雅を楽しんでいるでおじゃるよ」
「それが、ですね」
「麿の贅沢でおじゃる」
「雅ですか」
「それでおじゃる、そして民達にもでおじゃる」
「それを見せて」
「雅を楽しんでもらうでおじゃる」
民のことも考えているというのだ。
「無論民が和歌を詠めば」
「それでよし」
「そうでおじゃるよ」
「お酒も飲まれますね」
「左様、しかしそれもでおじゃる」
酒もというのだ。
「酒池肉林ではなく」
「和歌ですね」
「そうでおじゃる」
それと共にあるものだというのだ。
「何といっても」
「それが殿の贅沢ですね」
「彦五郎もわかってでおじゃる」
「民を慈しんでおられますか」
「そこはあ奴のいいところでおじゃる」
父から見てもというのだ。
「自分の興味がないことに見向きせぬのは悪いことにしても
「民を大事にされていることは」
「いいことでおじゃる、そしてお主も」
「民はですな」
「大事にするでおじゃるよ」
「肝に銘じておきます、ただそれがしはどうも」
「雅はでおじゃるな」
竹千代にその匂いはない、義元は彼にその空気を察して述べた。
「疎いでおじゃるな」
「そうなる様です」
「ならでおじゃる」
「それで、ですか」
「よいでおじゃる、ただ和歌は」
「詠んでですか」
「損はないでおじゃる」
これは忘れるなというのだ。
「公卿の方々からのものにしても」
「武家も詠みますな」
「武田殿もよく詠まれるでおじゃる」
「甲斐の」
「左様。武家であろうとも」
和歌、それはというのだ。
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