戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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第4楽章~小波の王子と雪の音の歌姫~
第42節「陽だまりと雪姫」
前書き
前回、とんでもなくウルトラな感じの幕引きで終わりましたが、はてさてどうなるのでしょうね(笑)
「ジュンくん!?」
フィーネを思いっきり殴りつけ、純くんはあたしの方を見て叫んだ。
「クリスちゃん、今の内に逃げて!早く!」
フィーネは不意打ちで顎に一撃もらってふらついてる。逃げるなら確かに今の内だ。
でも、ジュンくんはどうする!?
「ジュンくんは!?」
「僕も直ぐに追いつく!だから信じて走れ!逃げるんだ!」
振り向いて叫んだあたしに、ジュンくんはそう返した。
その必死な目には、本気であたしを助けて追い付いてやる、という意思が宿る。
……そんな目で、そんな事言われたら……信じるしかないじゃねぇかよ……!
「ジュンくん……絶対だからなッ!いいな!!」
ジュンくんは強く頷くと、フィーネに向かい合って再び拳を構える。
「おのれ……逃がすか!!」
ソロモンの杖をあたしの方へと向けようとするフィーネ。
それをジュンくんがもう一度殴ろうとして、今度は止められるところまでは見ていた。
ギアを纏って助けないと、なんて考えはその時のあたしには浮かばなかった。
頭ん中がグチャグチャで、どうすればいいのか分からなかったあたしは、ただ、追ってくるノイズから逃げる事しか出来なかった……。
(ジュンくん……絶対、無事に戻って来いよ……!約束破ったら承知しないからな!!)
「やってくれたわね……」
そう言ってフィーネは、忌々しげに純を睨む。
「クリスちゃんは僕が守る。そう決めてんだよ……ぐッ!?うう……」
急に左手首を掴むと、痛みを堪えるように唸る純。
その左手を見て、フィーネは純が何をしたのかを察した。
「ボウヤ、さてはあの時砕けたネフシュタンの鎧の欠片を、自分の左手に纏ったのね?」
「アンタが回収する時、咄嗟に拾ったんだ……。そしたら欠片は、僕をこの場所まで導いてくれた。しかも、左手にずっと握ってたらか、アンタがクリスちゃんに迫った辺りで拳を握った時、欠片はこの形に……ぐううっ!?」
「ふぅん?でもそれ、体組織を侵食しちゃうから、と~っても痛いと思うんだけど?」
「彼女が受けて来た苦しみに比べれば……彼女を救えるならこの程度、安いものさッ!」
力強く宣言する純。それを聞き、フィーネは嗤う。
「ハッ、やっぱり痛みだけが人の心を繋ぎ、絆と結ぶのね」
「バカ言うんじゃねぇよ。アンタみたいなのが絆を語るなんざ……2万年早いぜ」
「へぇ?じゃあ、ボウヤは違うって言うの?」
右手で逆ピースを向けながらそう言う純に、フィーネはそう返す。
すると純は胸に手を当てながら言った。
「絆ってのはな、痛みなんかじゃない……心で結ぶもんだ!相手を思ってその手を伸ばし、手と手を取り合い、そして繋げていく!それが絆、それが愛!愛こそが絆を結ぶ事を、僕はここに立つことで証明する!彼女を隠す夜を超え、ようやく見つける事ができた、この僕自身が!!」
「なるほど……。それがボウヤの考え方、ね。じゃあ、その愛とやらで私に勝って見せなさい!!」
フィーネの鞭が振るわれ、純はそれを避けるとフィーネの懐へと飛び込んで行った。
王子様を目指す少年は果たして、魔女に勝てるのか……。勝負の行方は──。
∮
夜明け前からの雨の中、クリスは路地裏をふらふらと彷徨っていた。
一晩中、追っ手のノイズを迎撃しながら逃げ続けた彼女は、既に1日は何も食べずに街と館を往復していた。
既に体力は限界を迎え、足取りもおぼつかない。
遂にクリスはその場に倒れてしまった。
(……すぐに追いつくって……言った、じゃねぇか……)
自分を逃がしてあの場に残った純。彼が来ない事実に、最悪の展開を想像し……クリスは震えた。
(ジュンくんの馬鹿ッ!……本当は、一緒に逃げてほしかったのに……。そしたらあたしは、何処へだって……)
冷たい雨が頬を打つ。重なった疲労で全身が重く、濡れた衣服は肌に張り付いている。
既に立つ力さえ残っておらず、クリスは目を閉じた。
(全部あたしが悪いんだ……ごめん……ジュンくん……)
「あっ!?ねぇ、大丈夫!?……どうしよう、救急車呼ばなきゃ!」
「やめろ……ッ!」
傘を落として駆け寄ったその声に、クリスは反射的に口を開いていた。
目を開けると、つい先日巻き込んでしまった一般人……小日向未来が顔を覗き込んでいる。
「やめろって言われても……そんな……」
困惑した顔の未来に、クリスはそれでも病院への電話をやめるように伝える。
「病院は駄目だ……あッ、ぐッ……!ううぅ……ぅ……」
大人を信用出来ず、今やノイズに追われる身。クリスにとって病院へ行かない理由など、それで充分だった。
そして、言い終えるのと同時に、クリスは気を失ってしまった。
(この子、何か事情があるのかな……。でも、だったらどうすれば……あ、そうだ!)
未来は何やら思いついたように、気を失ったクリスの肩を支え、引きずるようにある場所へと向かっていった。
∮
『ノイズですか?』
『ああ。市街地第6区域に、ノイズのパターンを検知している。未明という事もあり、人的被害がなかったのは救いではあるが……』
登校してからしばらく。叔父さんから通信が入った。
内容は、早朝にノイズ出現を検知した事だった。しかも、その反応は直ぐに消えたらしい。
「叔父さん?その含みのある言い方、まさか?」
『ああ。ノイズと一緒に聖遺物、イチイバルの反応も検知された』
『って事は師匠、クリスちゃんがノイズと戦ったって事でしょうか?』
『そうだろうな……ん?どうした響くん?』
『……あの子、戻るところないんじゃないかと思って……』
『そうかもな……』
立花の言葉に、一昨日の雪音とフィーネの会話を思い出す。
あれは確かに解雇通告。利用価値が無くなった人間を切り捨てる悪党のセリフだった……。確かに、行くアテもなく彷徨っている可能性は高い。
そして純もまた、あれから戻って来ていない。いや、昨日の夕方にメールは届いたが……。
メールの内容は『クリスちゃんを発見。連れて帰るから待ってて』とだけ書いてあった。
しかし一晩経っても戻って来ないのは妙だ。今、メールの発信地を藤尭さん達が探している。既に場所は絞り込めており、黒服さん達を向かわせているらしいけど……。
『この件については、俺が直接現場で捜査を続ける。2人は指示があるまで待機していて欲しい』
『はい、分かりました……』
「了解……」
叔父さんが通信から抜け、後は俺と立花だけの回線となった。
「立花、あれから小日向とはどうなんだ?」
『それが、わたしより早く出たはずなんだけど、学校に来てなくて……』
「無断欠席か?今朝のノイズ、被害者は出てないらしいから、心配ないとは思うが……」
『うん……でも……』
立花は昨日、小日向と喧嘩してしまった事を語った。とても辛そうに、今にも泣きだしそうな声を、絞り出すように。
コミュニケーション不足が原因だとは思うが……こればっかりは、俺達二課のサポートが足りていなかったのも問題かもしれない。
せめて誤魔化すための法螺話くらいは授けておくべきだった筈だ。
そして、その相談を二課で唯一受けていたのは俺だけ……。叔父さんに話を持ちかけなかった俺の落ち度でもある。我ながら情けない話だ……。
「放課後、俺もそっちに行く。小日向探して、2人でちゃんと謝るぞ」
『うん……ごめんね。翔くんも、友達が行方不明で大変なのに……』
「気にするな。しかし……このタイミングで2人が無断欠席、か。案外、雪音クリスが関わっていたりするかもしれないな」
『え……?』
ほんの偶然、ただタイミングが重なっただけだとは思う。
しかし、立花がシンフォギア装者だと小日向にバレたのも、純が戻って来ないのも、一昨日の雪音クリスとの出会いを発端に始まった事だ。何かの因果関係を感じずには居られなくなってしまう。
「ただの妄言だ、真に受けなくていい。じゃ、また放課後にな」
『分かった。またね』
通信を終え、通信機をポケットに仕舞って教室へと戻る。
あ……純は今日も寝込んでるって事になるけど、あの4人になんて言われるかな……。
いつも集まってはバカ騒ぎで盛り上がる友人4人を思い出し、俺は純が休んでいる理由をどう誤魔化すか考えながら、教室へと入って行った。
∮
暗闇の中を、雨に濡れながら、息を切らせて走る。
走って、走って、走り続けて。だけどその先に、ゴールは見えない。
一寸先も、そのまた先も、ずっとずーっと闇だらけだ……。
あたしは、どこを目指して走ればいいんだろう?
……顔を上げると、そこには見覚えのある後ろ姿があった。
一昨日見たばかりの、学生服を着たジュンくんだ。
「ジュンくんッ!!」
その背中を追いかけて、走る。
走る。走る。走る。
でもジュンくんには全然追いつけなくて、それどころかジュンくんはあたしからどんどん遠ざかっている。
……違う、遠ざかってるのはジュンくんじゃなくて、あたしの方だ。
それに気が付いた瞬間、目の前の背中は見えなくなってしまった。
「ジュンくん……ううっ、なんでだよぉ……。ジュンくん!!」
膝を付き、涙を流す。地面を殴って嗚咽を漏らす。
どうしてあたしは……。
ジュンくん……何処に行っちまったんだよぉ……。
「ん……。……え、あ……ここ……は……?」
目を覚ますと、見覚えのない木製の天井が広がっていた。
……あたしは……確か倒れて──。
起き上がって見回すと、何処かの家の和室で、あたしは布団に寝かされていた。
よく見ると服は体操着に着替えさせられていて、胸には『小日向』と名前が書かれている。
「良かった、目が覚めたのね。びしょ濡れだったから、着替えさせてもらったわ」
起き上がったあたしの右に座り、洗面器に入った水にタオルを浸して絞っていたのは、一昨日うっかり吹き飛ばした黒髪の一般人だった。
「ここはどこだ!それにお前は──ッ!」
「あなたが病院は嫌だって言ってたから、知り合いの家を貸してもらっているの」
「なっ!?勝手な真似を……」
「未来ちゃん、どう?お友達の具合は」
そこへ、洗濯物が入った籠を持ったおばさんがやって来る。
「目が覚めたところです。ありがとう、おばちゃん。布団まで貸してもらっちゃって」
「いいんだよ。あ、お洋服、洗濯しておいたから」
「あ、ありがと……」
何が何だか分からず、出た言葉はそれだけだった。
「目を覚ましてくれたし、取り敢えず身体拭こっか」
そう言って、小日向って名前らしい黒髪は、新しいタオルを水に浸した。
いまいち状況が飲み込めていないあたしは、されるがままに身体に付いた泥や寝汗を拭かれる事になってしまった。
本当に、こいつはなんで、初対面のあたしなんかに……。
後書き
終止符vs純ってルビ振ると中々熱くないです?
終わりと原点、みたいな感じで。
クリス「くっ……腹が減って力が出ねぇ……」
翔「腹が減っては戦場には立てぬ!」
クリス「うおっ!?なっ、テメェはあん時の!?」
翔「落ち着け、今回はお前に渡す物があってやって来た」
クリス「何を今更ッ!……って、これは!?」
翔「焼きたてのパン、ハンバーグステーキ、ポテトサラダ、鮭のムニエル、オニオン入りコンソメスープ、蒸し野菜大盛り……その他諸々おかわり自由だ!」
クリス「……はっ!そっ、そんなモンであたしを釣ろうったって、そうはいかねぇぞ!」
翔「何を言っている。これは俺が用意したものではないぞ?」
クリス「えっ……?」
純「クリスちゃん、お腹空いてるだろうと思って……」(エプロンOUJI)
クリス「ッ!?これ、全部ジュンくんの……!?」
純「食べるかい?」
クリス「……ぐすっ……いただき、ます……」
純「食べる前に涙は拭いておこうね。あとナイフとフォークの持ち方は……」
(テーブルマナー教えつつ食べる姿を見守るOUJI)
翔「これにて一見コンプリート!」
響「うわぁ……美味しそうだなぁ……」(涎タラ~)
翔「あれはあくまで雪音の分だ。……そんなに腹が空いているのなら、俺が作るぞ?」
響「えっホント!?じゃあじゃあ、リクエストはね~……」
翔「リクエストは四人前だろ?やれやれ、冷蔵庫がスカスカになりそうだ」(とか言いつつ嬉しそうに笑う)
翼「(むう、何故か無性に羨ましいぞ……)緒川さ──」
緒川「退院したとはいえ病み上がりですからね。どうぞ、翼さん。鶏雑炊に、小松菜とえのき、高野豆腐の煮物です」(NINJAスマイル)
翼「緒川さんっ!」
未来「うわー、カップルだらけー」(棒読み)
暑苦しい友人「……なあなあ、俺らも出番増やしてもらえればよぉ、名前貰えたり、可愛い子と絡めたりすんじゃねぇの?」
クールな友人「早速作者に交渉してみよう。私は黒髪のあの子が……いや失礼」
暑苦しい友人「テメェ抜け駆けしようとしてんじゃねぇよ!言い出しっぺは俺だぞ!?」
本編が辛い時は、後書きで和ませつつ砂糖を盛るのが私です(笑)
しかし393にオチを付けさせようとしたら、いきなり頭の中に出張って来たファイヤーでミラーな感じの2人。
まさかこの後、リディアン三人娘と同じポジションで準レギュ化するとは……。
さて次回!
未来と交流を深めるクリス。しかし、そこへノイズ警報が鳴り響く!
現れたOTONAはとの出会いは、彼女に何をもたらすのか。
そしてタコ型ノイズ登場!走れ響、駆けろ翔!
次回も目が離せません!お楽しみに!
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