戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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第4楽章~小波の王子と雪の音の歌姫~
第35節「道に迷う者、導く者」
前書き
最初の頃、見切り発車だから更新亀になるとか言ったの誰だよ……。
毎日更新出来るじゃねぇか!しかも1ヶ月超えてんぞ!
これはこの調子なら来月には1期が完結するかな?
なお、完結に3ヶ月かけた模様。でもXVより先に無印編終わったのは、今でも強い達成感と共に残ってます。
それでは純くんのプリンス力をご覧下さい。
「……でも、わたしはまだまだ、翔くんに守られてばっかりです」
翼と2人、屋上に出た響は、俯きながらそう言った。
「デュランダルに触れて、暗闇に飲み込まれかけました。気が付いたら、人に向かってあの力を……。翔くんが止めてくれなかったら、どうなっていたのか……。わたしがアームドギアを上手く使えていたら、あんな事にもならずに済んだのかも、と思ってしまうんです」
「力の使い方を知るという事は、即ち戦士になるという事。それだけ、人としての生き方から遠ざかるという事なのよ」
そんな響を防人として、剣として生きてきた翼は真っ直ぐに見つめてそう言った。
「戦いの中、あなたが思っている事は何?」
その問いかけに、響は翼を真っ直ぐに見つめ返すと、力強く宣言した。
「ノイズに襲われている人がいたら、1秒でも早く救い出したいです!最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に駆け付けたい!そして……」
響の脳裏に、ネフシュタンの鎧の少女が浮かぶ。
少女とも分かり合いたい。戦うよりも、話し合いたい。今度出会った時こそは……響はそう、胸に固く誓う。
「もしも相手がノイズではなく『誰か』なら──どうしても戦わなくっちゃいけないのかっていう胸の疑問を、わたしの思いを、届けたいと考えていますッ!」
その答えを聞いた翼は満足そうに微笑むと、先輩としてのアドバイスを口にする。
「……今、あなたの胸にあるものを、できるだけ強く、ハッキリと思い描きなさい。それがあなたの戦う力──立花響のアームドギアに他ならないわ!」
「翼さん……。ありがとうございます!」
笑い合う2人の姿を西に傾き掛けた太陽が、優しく照らしていた。
∮
「……なるほどね。親友の立花さんが好きかもしれない男の子に、酷い事を言ってしまったんだね」
「うん……。もう、頭の中ぐちゃぐちゃで、どうすればいいのか分からなくって……」
向かいに座る小日向さんは俯くばかりで、注文したケーキセットにもいっさい手をつけていない。
彼女、悩み始めるとズルズルと引き摺っちゃうタイプらしいから、今はそういう気分じゃないんだろう。
「う~ん……そうだね。僕が思った事を聞いてもらってもいいかい?」
「うん……いいよ」
「ありがとう。っと、その前に。そのケーキセット、食べないと勿体ないよ?」
「でも……」
「『お腹空いたまま考え込むと、嫌な答えばかり浮かんでくる』……よく行くお好み焼き屋のおばちゃんの言葉だよ」
「え!?」
その言葉を聞いた小日向さんが、驚いたような顔を見せる。
どうやら、会ったことは無いものの、その店によく行っているらしい。
「驚いたよ……まさか、ふらわーにまで縁があったなんて」
「わたしも……。この街、意外と狭いんだね」
そう言って小日向さんは、ようやくフォークを手に取ると、ショートケーキを1口。
それから、まだ冷めていない紅茶を啜ると、先ほどより柔らかな表情になっていた。
やっぱり、甘味には人を笑顔にする力がある。こういう時には、カフェでお茶しながら話すのが一番だ。
「それじゃ、僕からの意見だけど……やっぱり、君は彼に謝るべきだと思う」
「そう、だよね……。わたしも、出来ることならそうしたいよ……。でも、頭の中では分かってるつもりなのに、わたしの心の中の黒い部分が溢れて来ちゃって……。気持ちの整理がつかないんだ」
「うん。それなら、いくつか質問するけど……君個人としては彼の事、どう思っているんだい?」
親友の想い人が、かつて虐められていた親友を助けてくれなかった臆病者だった。
その親友へ、深い愛情を向けている小日向さんの気持ちは、きっと複雑だ。
それなら1つずつ質問を重ねて、絡まった疑問を解きほぐし、その複雑なパズルを分かりやすくして行けば、自ずと答えは見つけ出せるはずだ。
「う~ん……。嫌い、ではないと思う。響に手を伸ばそうとしてくれた事は知ってるし、あの日の風鳴くんが感じていた恐怖も、わたしには理解出来る。直接見たわけじゃないけど、一度だけ勇気を振り絞って、前に出てくれた事も……」
「なら、その答えは?」
「……うん。やっぱりわたし、風鳴くんの事は嫌いじゃない」
よし……っていうか、小日向さんの親友の想い人って、翔……君だったのか。
って事は、翔の好きな子であり、中学時代のクラスメイトっていうのは、小日向さんの親友、立花さんって事になる。
翔の抱いていた後悔が何なのか、ようやく理解した。
立花さんがいじめられているのを見ていながら、校内ほぼ全ての生徒を敵に回すのが怖くて、足が竦んでしまった。
その後悔がきっと、彼の「人助け」の根幹なんだろう。
『もう二度と』という衝動と、『あの日と違う』という自己満足。
古傷を隠すため……ううん、乗り越えていくために彼が選んだのがそういう形だったんだ。
だとすれば……。
「その彼の気持ちは、僕にもよく分かる。深い後悔の念を抱いた人間は、それを拭おうとするものだ。僕だってその1人だよ」
「爽々波くんも?」
「うん……。昔、家族ぐるみで仲の良かった女の子が居てね。その子はご両親と一緒に海外へ旅行に行って、行方不明になった。……あの時、僕があの子を引き留めていたらって、何度も後悔したよ」
「……その子のこと、好きだったの?」
「ああ……僕の初恋さ。だから、僕はあの子との約束を果たすために、こうして自分を磨いてるんだ」
小さい頃、クリスちゃんと交わした約束を思い出す。
『大きくなったら、ぼくはクリスちゃんの王子さまになる。そして、クリスちゃんをむかえに行くよ』
クリスちゃんに会えなくなって、毎晩のように悲しんだ僕は、その約束に縋る事でようやく立ち直った。
まだ、死んだとは限らない。絶対に何処かで生きているはずだ。
だから、僕が迎えに行く。世界中の何処にいても、必ず見つけてみせる。
そう誓って以来、僕は『王子様』を目指して来たんだ。
いつでもクリスちゃんを迎えに行けるように。いつ、クリスちゃんと再会しても、胸を張っていられるように……。
「彼もきっと、今日まで自分を磨いて来ているはずだよ。もうあの頃の弱い彼じゃない、立花さんに相応しい男になっているはずさ」
「響のために、自分を磨いて来た……かぁ。もう一度会ったら、印象も変わるのかな……?」
「きっと変わるさ、僕が保証するよ」
そこで一旦切ると、自分のカップに紅茶のおかわりを追加する。
香しい香りを吸い込んで啜るこの一杯は、やっぱり心を落ち着かせてくれる。
「それでも、もし、心の中の黒い部分が溢れてきそうになった時は……」
小日向さんがごくり、と唾を飲み込む。
正直なところ、このアドバイスが正しいかどうかは僕にも分からない。
けど、自分が信じる最良最善の言葉を、僕は彼女へと贈った。
「思い出して欲しい。自分が何故、その感情を抱いているのかを。理由を忘れた怒りほど、後で虚しいものだからね」
「わたしの感情の理由を、思い出す……」
……さすがに、難しかっただろうか?
このアドバイスが正しいかどうか、それは僕には分からない。
小日向さんの言うような、そこまでドス黒い感情を抱いた事のない僕は、月並みな言葉しか持ち合わせていないのだ。
小日向さんはどう受け取ったのだろうか……?
「うん、そうだよね。わたし、自分がどうして風鳴くんに怒っちゃったのか、それを忘れていたのかもしれない」
そう言って小日向さんは、ようやくいつもの明るい笑みを見せた。
「ありがとう、爽々波くん。お陰で楽になったかも」
「そうかい?それはどういたしまして。僕でよければ、いつでも相談に乗るよ」
「うん!……あ、そういえば特売!」
小日向さんに言われて時計を見ると、特売開始の時間がすぐそこまで迫っていた。
「これは急がないと!」
「ケーキごちそうさま!今度お礼させてね!」
「礼なんて要らないとも!君のたすけになったのなら、その笑顔が十分な報酬さ!」
ケーキの乗っていた皿には、フォークが置かれているだけ。
紅茶のポットは空っぽで、カップの中身も一滴さえ残っていない。
支払いを済ませた僕らは、いつものスーパーへと全力で走って行った。
∮
病院の自販機で、カフェオレを購入して缶を開ける。
一口飲んで、一つ溜息を吐いた。
小日向に言われた"偽善者"の言葉が未だに、胸の中でぐるぐると巡っている。
確かに、俺の人助けはただの自己満足だ。立花のように、心の底からそうしたいからというよりも、あの日の自分とはもう違う事を実感したくて、手を伸ばしている。それが俺だ。
……やっぱり僕が手を伸ばしているのは、あの日の立花の幻影に向かって……なのかもしれない。
つまりそれは、あの日を乗り越え前に進んだ今の立花に対する自分自身が、未だに憐憫を以て彼女と接しているという事だ。
「……浅ましい男だな、俺は……」
「随分と浮かない顔だけど……悩み事かな、少年?」
聞き覚えのある声に、咄嗟に振り向く。
そこに立っていたのは、今朝、洋菓子店で出会った男性だった。
「あなたは、今朝の!?」
「偶然だね。まさかこんな早くに再会できるなんて」
「今朝はどうも……。姉も喜んでましたよ」
「それはよかった。今頃病室で食べているところかな?」
そう言って爽やかに笑う男性は、院内なのに何故か真っ黒なサングラスを掛けていた。
「それで少年、悩み事だろう?折角の美丈夫が台無しだぞ」
「それは……」
「聞かせてくれないか?彼女の定期検診が終わるまで、少し暇があるんだ」
そう言って男性は、自販機からいちごミルクを購入すると、ストローを刺した。よく見ると、薬指には銀色の指輪が嵌っている。彼女……というのは、きっと婚約者だろう。
「どうしてそこまで?今朝出会っただけですよね?」
「出会いとは一期一会。沖縄には『いちゃりばちょーでー』という言葉もある。一度会ったら皆兄弟……それだけの出会いでも、俺には充分な理由なんだ」
たった一度出会って、偶然また会っただけの俺を心配して、こうして相談に乗ろうとしてくれる。
この人は何処までもお人好しな……いや、もしかしたらこの人も立花と似たもの同士なのかもしれない。
それなら、断っても余計に心配されるだろう。それに、この胸のもやもやした感情を姉さん、特に立花に漏らす訳にもいかない。だったら、彼に聞いてもらうのが一番いいだろう。
そう思った俺は、彼の提案を受けいれる事にした。
「わかりました。それじゃあ、聞いてくれますか……?」
「どうぞ」
「……っと、その前に、お名前をお伺いしても?」
「え……ああ、名前かぁ……そうだな……」
そう言われるとその人は、一瞬困ったような顔をする。
暫く考え込むと、やがて決心したように溜息を一つ吐いてから笑った。
「仲を継ぎ足し、千の優しさで人々を包む男……仲足千優だ。誰にも言うんじゃないぞ?」
「……え!?まさか、あのスーツアクターの!?」
サングラスを外し、素顔を見せると人差し指を口元に当てる千優さん。
まさかの有名人登場に、俺は困惑のあまり言葉を失った。
後書き
サプライズゲスト枠がシンフォギア全然関係ない人で、しかもハーメルン時代の作品のキャラだから読者に困惑されてないか不安ではある(笑)
しかし、伴装者本編にはほとんど絡まないのでご安心を。
彼が主役の処女作は、いずれこちらにも投稿します。
純「今回は僕一人みたいだね。さて、何か言うことがあるかと言われると……。クリスちゃん、見てるかい?君がこの世界の何処にいるかは、僕にもまだ分からない。けど、辛い時、苦しい時には僕の事を思い出してほしい。もし、君が僕を忘れてしまっていたとしても、僕は忘れていないから。君の心の奥底で、君の心を支えているよ。……だから……クリスちゃん、教えてくれないかい……。君は今、何処にいるんだい……?」
(舞台裏)
クリス「あたしだってなぁ……早く会いたいに決まってんだろ……バカぁ……」(真っ赤になって蹲っている)
フィーネ「……今泣くんじゃないわよ?その涙は本編まで堪えてもらわなくちゃ……。ほらスタッフ、そのカメラはここで止めておきなさい。じゃないと怒るわよ?」
キャラ紹介番外編
仲足千優:22歳。大人気特撮ヒーロー番組、『黒竜拳士ライドラン』の主人公であるヒーロー〈ライドラン〉のスーツアクター。
キレのある動きに抜群の運動神経。更には派手なバイクアクションまでこなせる天才。ヒーロー役をやらせて右に出るものなしとさえ言われる期待の新人。
また、高校時代から付き合っている大企業の令嬢、慧理那とは婚約しており、その仲睦まじい姿から多くのファンの羨望と祝福を集めている。
どうやらノイズやシンフォギアの存在しない平行世界では、異世界からの侵略者の魔の手から世界を守る戦士の一人であり、戦士達を導く兄貴分として共に戦っているらしい。名前は『千のヒーローの魂を継ぐ者』とのダブルネーミングでもある。
次回、迷える翔の前に現れた1人の青年。彼の言葉は翔にどのような道を指し示すのか?
次回もお楽しみに!
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