戦姫絶唱シンフォギア~響き交わる伴装者~
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第1楽章~覚醒の伴装者~
第1節「掴めなかった手」
前書き
始まりました、第一話!
時系列的には原作一話の翌日。原作二話後半の裏側になります。
オリ主、翔くんの物語はここから始まる!それではどうぞ!
2020/03/21 表紙絵を追加しました。
今でもふと、その表情が浮かぶ度に悔しさが込上げる。
己が無力を痛感し、あの日の自分を呪っては唇を噛み締める。
どうして俺は、自分を奮い立たせられなかったのだろうか……。思い返す度にやり場のない怒りが身体を駆け巡り、握った掌に篭っていく。
あの娘はずっと我慢していた。怒っていい筈だし、泣いていい筈だった。でも彼女は最後まで、人前で泣くこともなければ怒りをぶつける事もなく、ただ哀しげな目で俯いているだけだった。
ただ一度だけ言葉を交わした時も、強がって笑っているだけの彼女を見た時は、胸が締め付けられる感覚があった。
何故、彼女ばかりがあんな目に遭わなくてはならなかったのか。
何故、俺は彼女の前に飛び出して、あの教室の百鬼夜行共を一喝してやれなかったのか。
何故俺は、彼女の手を取る事が出来なかったのか……。
後悔がぐるぐると渦を巻き、喉を通して溢れ出しそうになりながら、空を見上げる。
西の空には沈みかけた夕陽。綺麗に輝いてこそいるものの、夜の帳に覆われて、今にも消えそうなところがあの日の彼女にそっくりだ。あの日の放課後の窓も、この空と同じ色に染っていた。
あの娘は今、何処で何をしているのだろうか。
今の彼女は心の底から、笑顔で暮らしているのだろうか。
もしも、またあの娘に会えるのなら……俺は──
∮
午前中の授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
教科書と筆箱を学生鞄へと片付け、学食へと向かおうと席を立つと、あいつは予想通りの時間ぴったりにやって来た。
「翔~!いるよね?」
「ああ。すぐ行く」
手を振りながら教室に顔を覗かせる親友に応え、財布の中身を確認しながら教室を出る。
いつも人懐っこそうに笑っているこいつは、この学院で最初にできた友達の爽々波純。
なんでも両親のどっちかがイギリス人だとかで、くせっ毛一つ見当たらない金髪はもちろん地毛。海の底みたいな紺碧の瞳に整った顔立ちに、黒縁の眼鏡が大人びた雰囲気を醸し出している。全体的に見てイケメン、いわゆる王子様系男子。
クラスは違うけど、同じ寮で同室を割り当てられた事で知り合ってから、こうしてよく一緒に行動するようになった。今では一番の親友だ。
「今日のお昼はどうする?」
「食堂で日替わり。お前は?」
「奇遇だね。僕も同じものを頼もうと思ってたんだ」
廊下を歩きながらのたわいもない歓談。昼餉の匂いに眼を開き、腹の虫が嘶きおる。
「授業終わったら、CDショップにでも寄るのかい?」
「当然だろ?姉貴の新曲だ。弟として、親父に代わり買いに向かう義務がある」
俺の姉、風鳴翼はこの学び舎の姉妹校、私立リディアン音楽院高等部の三年生。この日本を代表する歌姫で、俺にとってはある一点を除けば自慢の姉だ。
そして、そんな俺の名前は風鳴翔。私立アイオニアン音楽院、高等部一年。一通りの楽器は演奏できるのが特技で、得意楽器はピアノとバイオリン。あと三味線。三味線だけ和楽器なのは、多分姉さんの影響が強いからだな。
「……お父さん、お姉さんとはまだ……」
「まったく……ホンット、あのバカ親父は……。いや、この話はよそう。飯が不味くなる」
「ごめん……」
「気にするな……」
実は、俺の父さんと姉さんはある事情から仲が悪い。我が家の複雑な家庭事情が理由なんだが……正直言って、あまり考えたくはない。
話題を転換しようとして、俺は昨日のニュースを思い出した。
「そういや、昨日もノイズが出たらしい。お前も帰りは気をつけろよ?」
「うん、気をつけるよ。翔の方こそ、気をつけなよ?現場はいつものCDショップの近くだったんでしょ?」
「ああ。いざとなったら、叔父さん直伝の体術で逃げ切ってやるさ」
〈認定特異災害ノイズ〉。13年前の国連総会にて認定された特異災害の総称。
人間のみを襲い、炭素の塊へと分解してしまう謎の怪物。ただ人間を襲うのみであり、意思疎通は不可能。
通常の物理法則を超えた存在で、あらゆる既存兵器が殆ど意味を成さず、有用な攻撃手段は存在しない……と、表向きはそういう事になっている。
国連総会での災害認定後、 民間の調査会社がリサーチしたところノイズの発生率は、東京都心の人口密度や治安状況、経済事情をベースに考えた場合、 <そこに暮らす住民が、一生涯に通り魔事件に巻き込まれる確率を下回る> ……と試算されたことがあり、一般認識ではそういう事になっている。
しかしここ最近、ノイズの発生件数は増えているのだ。特に姉妹校である、リディアン音楽院を中心に……。果たしてそれが何を意味するのか──
「うわ、並んでるね」
気が付けば、既に食堂の前だった。カウンターを見ればかなり並んでいるように見受けられる。
「えーっと、今日の日替わり定食は……おばちゃんの特性トンカツ定食!?」
「しまった!姉貴の新作の事ばっかり頭にあって、メニュー確認を怠ったばかりに……不覚!」
「ま、まだ大丈夫だよ!ほら、並べばまだ間に合うかも!」
慌てて列の最後尾に並ぶ。幸い、何とかギリギリ確保する事は出来たものの……残った定食は一人分だった。
「翔が取りなよ。僕は別のメニューにするからさ」
「しかし、遅れたのは俺の責任だ……」
「気にする事無いさ。ほら、早く取らないと冷めちゃうよ?」
「ううむ、面目ない……。しかし、それでは俺の気が済まない。トンカツの半分を譲渡しよう」
「じゃあ、さば味噌定食にしようかな」
それぞれの昼食を受け取り、窓際の席に向かい合って座る。
窓の外に広がる青空から差し込む暖かな陽射しに照らされながら、俺達二人は箸を進め始めた。
∮
時折、彼はとても遠い目をする。
それは空を見上げている時だけじゃなくて、何やら物思いに耽っている事が多い彼はいつもそういう目をしているのだ。
放課後、誰もいない教室を見つめている事もある。
特に見上げているのが夕焼けの時は、より一層……何処か悲哀を漂わせる顔になる。
日本を代表するトップアイドルの弟というだけあって、その瞬間の彼は何処か絵になるんだけれど、普段は見せない陰が垣間見える。
何故そんな顔をするのか。知り合ってしばらく経った頃に聞いてみたことがある。
答えは一言、「なんでもない」とだけ。
家の事情なんかは、お互い自己紹介をした際に言ってくれたんだけど……どうやら、その件は彼が抱え込んでいたい話題らしい。
でも、僕はあの目を知っている。あれは間違いなく、深い後悔を抱いている人間の目だ。
掴めなかった手を思い出しては、自責の念に苛まれる人間の表情だ。
その蒼空のように澄んだ瞳の奥では、常に曇天が渦を巻いている。
僕と同じだ……。
二度と会えなくなった人がいる。その人を思い返す度に、思うのだろう。
「何故あの時、こうしなかったのか」と……。
だから、それ以来は敢えて触れないようにしている。
その話題を広げたところで、僕も答えは持っていないのだ。
でも、僕達が出会ったのは多分、二人で答えを見つけるためだと思う。
同じものを抱えている二人が出会ったんだ。偶然ではない、これを運命と呼ばずして何と呼ぶのか。
いつか、お互いにもっと信頼を重ねて、相手の心の底に触れられるようになったら、その時こそは──。
∮
今日の授業を終え、モノレールでいつものCDショップを目指す。
念の為、純には帰りが遅くなるかもしれないと伝えてある。
発売は昨日で、しっかり予約も入れておいた。
が、昼休みに知ったんだけど、その昨日のノイズ出現地点はいつものCDショップだったらしい。
……正直に言うと、ショックだった。
逃げ遅れた人々は多くが、姉さんのニューアルバムを楽しみにしていたファンの人達だったろうし、いつも素敵な笑顔で迎えてくれていたあの店員さんも、死体すら残らず炭素分解されてしまったのだろう。
平穏な日常を、一瞬で炭の塊に変えてしまうノイズ……。これほどまでに恐ろしい驚異が、未だかつて存在しただろうか。
名前さえ知らないけれど、俺の日常の一部だった人たち。その中に少なからずも、二度と会えなくなってしまった人達がいる事に俺は涙した。
でも、そんな驚異に立ち向かっている人達がいる。「特異災害対策機動部」と呼ばれる、認定特異災害ノイズから人々を守る政府機関だ。
避難誘導、ノイズの進路変更、被害状況の処理が主な仕事だが、市民からはノイズと戦っている組織という認識が強い。
俺にもあんな力があったら……これまで何度、そう思った事か。
……まあ、俺が言ってる特異災害対策機動部ってのは、厳密には表で活動している方の部隊ではないんだけど。
そんな人達がいるからこそ、俺達は安心して暮らしていける。
俺もいつかは、ああいう人達みたいになりたいと……モノレールの車窓から見える夕陽を見ながら、そう思った。
いつものショップから離れた別の店が、あのショップの代わりに予約商品の受け渡しを行っていた。
ノイズ被害の影響で、駅から割とすぐだったあのショップよりも離れた所まで歩く事になり、店を出た頃には日が暮れていた。
さて、帰ろうかと歩き出して……
ヴヴヴヴヴゥゥゥゥ────!!
耳を劈くようなサイレンの音に、思わず周囲を見回した。
『日本政府、特異災害対策機動部よりお知らせします。先程、特別避難警報が発令されました。速やかに最寄りのシェルター、または待避所へ避難してください』
「ノイズか!ったく、昨日の今日で現れやがって!」
受け取ったCDを学生鞄に仕舞い、店の中を見回す。
幸い、昨日の一件が尾を引いているのか客足は少ない。
「避難警報です!急いで逃げてください!」
「っ!?の、ノイズだ!逃げろ!!」
店員さん達に声をかけると、店員さん達はレジにロックをかけ、慌てて店を飛び出していく。
店の奥にも声をかけ、店内を駆け回って誰も残っていないのを確認してから俺は走り出した。
……よかった。逃げ遅れた人は誰もいない。でも、道の途中で逃げ遅れている人がいるかもしれない。
走りながらも周囲を見渡し、視覚と聴覚を研ぎ澄ませる。
キュピッキュピッ……
「ッ!?」
慌てて足を止め、靴裏をアスファルトに削られながら壁に張り付く。
特徴的な鳴き声に息を止め、気配を殺して角を覗くと……いた。
小型で最も一般認知度が高い〈蛙型個体〉が複数と、両手がアイロンみたいな形状をした〈人型個体〉。
どちらも一番よく見かける個体種だ。
どうやらこちらの様子には気が付いていないらしい。いや、正確には──
ズダダダダダダダッ!ダダダダッ!
建物に反響して鳴り渡る銃声。どうやら、特異災害対策機動部が応戦しているらしい。おそらく、戦闘しながら離れた場所まで誘導するつもりだろう。
ここは迂回しないと巻き込まれる。そう判断した俺は、急いで来た道を戻る事を決めた。一課とはいえ、対ノイズ戦用に武装した部隊だ。そう簡単にはやられないだろうし、市民の避難が完了するまでは持ち堪えてくれるはずだ。
彼らが稼いでくれた時間を、俺達市民が無駄にする事は出来ない。この隙にシェルターまで一気に走り抜ければ……。
そう思っていたが……視界に映りこんだそれを見た瞬間、俺の脚は止まった。
先程、俺達市民は特機が稼いでくれた時間を無駄には出来ない、と俺は言った。
しかし悲しきかな、その時間を無駄にする者がこの世の中には時々存在する。
例えば、今、目の前にあるコンビニへと侵入して行った火事場泥棒……とかな。
さて、どうしたものか。特機が誘導しているとはいえ、ノイズに見つかる可能性はゼロじゃない。
正直言うと、この場合は見なかった事にして逃げた方が理性的だ。欲に目が眩んだ泥棒ネズミが、その後でノイズに殺されてもそれは自業自得。当然の報いだ。
俺に直接的な不都合があるわけでもなく、むしろ自分の命が大事なら見捨てるのが一番いい。
しかし──
後書き
翔「まさか一話から戦闘がないどころか、原作キャラ一人も出てこないってどういうことだ!?いや、ノイズはいるな。いやいや、そもそもノイズって敵だろう!あと俺変身しないのかよ!?一話で変身しない変身モノって一体……ハッ!まさか最終回、怒涛の鬱展開を乗り越えた先でようやく変身するパターン……!?」
キャラ紹介①
風鳴翔(イメージCV:梶裕貴):16歳。誕生日は7月5日。血液型はA型。身長168cm/体重62.1kg
趣味、映画鑑賞(主に特撮)。好きな物、三度の飯と翼姉さん。
風鳴家の長男であり、風鳴翼の弟。姉の名前に付随する肩書きが鬱陶しいけど、姉さんの事は好きなのであんまり気にしないようにしている。
父と姉の不仲が原因で一時期親戚に預かられ、中学時代までは東京から離れていた。
叔父の弦十郎の元で修行する事で日々鍛錬を重ねているが、その裏にはかつて、臆病さから手を掴めなかったとある少女への懺悔が存在しており……。
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