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戦国異伝供書

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第六十二話 赤と黒から黄へその三

「まことに」
「そう言って頂けますか」
「左様、そなたはこれより今川の臣となるでおじゃる」
「左様でありますな」
「それで、でおじゃるが」
 義元は今度は重臣筆頭の座にいる雪斎を見て彼に言った。
「和上」
「はい」
「竹千代を和上に預けたいでおじゃる」
「そうしてですな」
「竹千代を将来今川のよき柱になる様にでおじゃる」
「育てよと」
「和上の跡継ぎにどうでおじゃるか」
「ははは、それは果報なこと」
 雪斎も笑った、そうして応えた。
「さすれば」
「竹千代をでおじゃるな」
「是非です」
 こう義元に答えた。
「拙僧の跡継ぎにし」
「そうしてでおじゃるな」
「後に今川の柱にです」
「そだててくれるでおじゃるな」
「必ず」
 こう義元に約束した。
「誓いまする」
「ではでおじゃる」
「あの」
 竹千代は雪斎の話を聞いてこう言った。
「それがし出家は」
「したくないでおじゃるか」
「今は考えておりませぬ」
「出家はいいでおじゃる」
 それはとだ、義元は答えた。
「そなたも」
「左様でありますか」
「そなたはやがて然るべき者を女房に迎え」
 そうしてというのだ。
「後々もでおじゃる」
「今川の為にですか」
「働いてもらいたいでおじゃる」
「左様でありますか」
「出家せずともでおじゃる」
 それこそというのだ。
「構わないでおじゃる」
「そうなのですか」
「出家せずとも」
 それでもというのだ。
「それは出来るでおじゃるからな」
「だからですか」
「そうでおじゃる」
「左様でしたか」
「ははは、まさかと思うでおじゃるが」
 義元は笑いながらこうも言った。
「和上を見てておじゃるか」
「実は」
「素直に言ったでおじゃるな」
「いけませぬか」
「素直もいいでおじゃる、しかし」
 義元はここでは真顔になって竹千代に話した。
「時として政はでおじゃる」
「直は、ですか」
「時としていかんでおじゃる」
「では嘘もですか」
「時としてでおじゃる」
 こう竹千代に話すのだった。
「必要でおじゃる」
「左様ですか」
「国、民が後ろにいればでおじゃる」
「それが政ですね」
「その時はでおじゃる」
「嘘もですか」
「そして相手を騙すこともでおじゃる」
 それもというのだ。
「必要でおじゃる、しかし」
「出来る限りはですね」
「わかったでおじゃるか」
「殿のお話を聞きますと」
「利発でおじゃるな、これはいいでおじゃる」
 義元は竹千代の頭の回転が速いことを知って満足した、これならば後に間違いなく今川の柱になると確信して。 
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