六人分
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第二章
「お母さん達もこの高校だったからね」
「そのことはわかるつもりだよ」
「そうなのね、三年間やっていけたらいいけれど」
千里は不安で仕方がなかった、だが高校に合格したならだった。
もう選択肢はなかった、千里自身そのことを決断して受験した。そして合格したのならもう入学してだった。
家を出て寮から学校に通うしかなかった、それでだった。
千里は不安に満ちていたがそれでも入学の希望を心の支えにして中学を卒業したならばこの天理市天理教の人が言うおぢばに住ませてもらってだった。三年間家を離れて寮に入って高校生活を送ることにした。
千里は入学するまでの間残り少ない中学生活を送ると共に卒業して入学するまでの用意も進めていた、彼女にとって実家を離れるカウントダウンがはじまっていた。
そうしてだった、遂に。
千里は家を出て寮に入る前日となった、翌日の朝に両親が運転する車で天理市に向かうことになった。それでだった。
家で入学祝も兼ねて家を出る送別会も行われた、それでだった。
千里は実際にだ、家を出てだった。そのうえで寮に入った。両親は娘のこれからの高校生活がいいものになることを天理教の神殿で祈った。
そうしてからだ、家に帰ってだった。
夕食の用意をしたがその時にだった。一家全員が集まって食べる夕食の場で。
次女と三女が両親に話した。
「ねえ、一人多いよ」
「私達今五人家族なのに」
「お姉ちゃんの席にもご飯あるよ」
「おかずもね」
「あっ」
そう言われて両親もはっとなった、それでだった。
実際に昨日まで千里がいた席を見てだ、苦笑いになって言った。
「そうだったな」
「千里はもういないのよね」
「おちばに帰ったからな」
「三年間あっちにいるから」
「そうよ、だからね」
「お姉ちゃんの分はいらないわよ」
姉妹で両親達に話した、住み込みの人もくすりと笑っている。
「だからね」
「もう一人分は皆で食べよう」
「分け合ってね」
「お姉ちゃんはいないんだし」
「そうだな、しかしな」
「千里はいないことがわかっているのに」
それでもとだ、両親は二人で言った。
「ついついね」
「用意したな」
「千里がいるものと思って」
「そうしてしまったわね」
「今日からいないってわかっていたのに」
「いつも一緒にいたから」
それでというのだ。
「家族だしね」
「自分達が見送ったのにな」
「家族ってそんなもの?」
「いなくなってもついついなの」
千里の妹達は両親に問うた。
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