独裁者になってみた
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第一章
独裁者になってみた
前田修治は高校の授業の後でふと思った、それは何かというと。
「独裁者になりたいな」
「ヒトラーやスターリンみたいなか?」
「それは極端だろ」
流石にとだ、修治は自分に突っ込みを入れた小山田徹に返した。その面長で小さな目にショートにした髪の毛を茶色にした顔を向けて。
「それも悪い意味で」
「けれど独裁者だろ」
徹は日本人離れした高い鼻に大きな目と太い眉が目立つ顔で応えた、黒髪は短く刈っている。二人共背は一七三位で痩せている。
「それだったらな」
「その二人かよ」
「ああ、まず思うのはな」
「そりゃ独裁者っていうとな」
修治も徹の言葉にこうも言った。
「やっぱりな」
「その二人だよな」
「まず思うのはな」
「お前もそう思ってるな」
「そうだけれど悪い例だろ」
「じゃあ金日成か」
「余計悪いだろ」
ヒトラーやスターリンよりもというのだ。
「尚更」
「それもそうだな」
「だからそうした悪い例じゃなくてな」
「じゃあムッソリーニか」
「カストロ位か」
独裁者でもというのだ。
「流石に金日成はな」
「お前も嫌だよな」
「その息子も孫もな」
「俺もあの一族の誰かとか言われるとな」
徹もこう返した、二人はクラスの修治の席で話している。徹は自分の席を持って来てそれで修治の席に寄せて座っている。そうして話をしているのだ。
「嫌だな」
「誰だって嫌だろ」
「どっかの尊師と比べられるのと同じだけな」
「ああしたのじゃなくてな」
「もっとましなのか」
「ああ、一国の独裁者になって」
そしてというのだ。
「その国を思うままに動かしてみたいな」
「それでそう言うんだな」
「そりゃヒトラーやスターリンもそうしたさ」
独裁者として、というのだ。
「実際にな」
「けれどか」
「二人共悪い奴だろ」
「粛清とか虐殺とか弾圧とか一杯やったからな」
「どっちが悪いかわからない位だな」
「そうだな、二人共」
「俺そういうのは嫌いなんだよ」
修治はこのことは否定した。
「それも大嫌いだよ」
「粛清とか虐殺とかはか」
「弾圧もな、人を虫ケラみたいに殺すとか」
そうしたことはとだ、修治ははっきりと言った。
「収容所とかな」
「シベリア送りだな」
「スターリンの得意技だったな」
「あとヒトラーだとアウシュヴィッツか」
「そういうのはしないからな」
「じゃあ普通のか」
「そういうことはしないでな」
そのうえでというのだ。
「独裁者になりたいんだよ」
「国の全部を握ってか」
「立法、行政、司法にな」
即ち国家の三権の全てをというのだ。
「軍隊も政党も議会もな」
「全部握ってか」
「独裁者になって」
「国を思うままに動かしたいんだな」
「それでその国をな」
自分が独裁者になったその国をというのだ。
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