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戦国異伝供書

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第六十一話 一騎打ちその八

「無念ですが」
「これ以上戦ってはならない」
「だからですか」
「この度はですか」
「退きますか」
「越後から」
「そうします、まずは」
 何といってもというのだ。
「よいですね」
「わかり申した」
「それではです」
「すぐに退きにかかります」
「是非」
「お願いします、そして後詰は」
 それはというと。
「甘粕近江守に」
「あの方ですか」
「あの方にお任せして」
「そうしてですか」
「越後まで退きます」
 こう言ってだ、謙信は己の軍勢をすぐに退かせにかかった。それで上杉の軍勢は車懸かりの陣から。
 すぐに縦陣になり戦場を去りにかかった、その動きは迅速で。
 兵達は退きにかかった、それでだった。
 次々と戦場から去っていった、武田の軍勢は彼等を追うが。
 信玄はここでもだ、全軍に命じた。
「よいな」
「はい、ここはですな」
「深追いはせぬ」
「そうしますな」
「そうしてはじゃ」
 敵軍を深追いすればというのだ。
「下手に傷を負う」
「そうなってしまいますな」
「それで、ですな」
「今は強く攻めず」
「深追いもしませぬな」
「これといってな」
「それがいいかと」
 信玄の下に戻って来た山本も応えた。
「今我が軍はです」
「そもそも深く傷ついておるな」
「兵の七割近くが傷付いております」
「随分やられたわ、そういえば」
 ここで信玄は自分の身体を見た、するとだった。
 矢傷や刀傷があった、それで言うのだった。
「わし自身もじゃ」
「お館様までとは」
「これではな」 
「はい、他の者達もです」
「傷付いておらぬ者の方が少ないな」
「そうした有様なので」
 それでというのだ。
「無念ですが」
「そうじゃな、ではな」
「それではですか」
「ここはじゃ」
 何としてもというのだ。
「深追いするなと言ったが」
「それをすること自体が」
「出来ぬ」
 到底と言うのだった。
「無念じゃが」
「そうするしかないかと」
「そうじゃ、しかし無念と言ったが」
 それでもとだ、信玄は山本を見てこうも言った。
「無念でないこともな」
「おありですか」
「お主達が生きておる」
「それがしとですか」
「二郎がな」
 信繁もというのだ。
「このことはじゃ」
「無念でなく」
「よきことじゃ、ではな」
「そのことをですか」
「よしとしておこう」
 今度は笑って言うのだった。
「是非な、そしてな」
「そのうえで」
「そうじゃ、そしてじゃ」
 信玄はさらに語った。 
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