インフィニット・ストラトス〜サイバネット・テンペスト〜
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第一話/邂逅
世界大会から2ヶ月が過ぎたある日。
俺は、SOLテクノロジー社に呼び出しをされていた。
「……何でいっそがしい日にSOLテクノロジーに呼びだてを食らうかなぁ…」
ぼやきながらSOLテクノロジー社の社内地下を歩く。
何もしていない…何もしていないはずなのである。逆に呼び出しを食らう理由はない筈なのだ。
『アレじゃねーか?何時ものデッキ調整とか?』
社内証代わりのデュエルディスクから、相棒が声掛けをしてくる。
『最近何かと付けてデッキ調整出てこなかったから、きっと財前の旦那怒ってるんだろうよ』
「あー…まぁ…」
言葉を濁しつつ苦笑いをして誤魔化しに掛かる、が。
『いやその顔何度目だよ』
ジトーと睨まれては何も言えない。誰に似たんだか。このAIは。
そんなやり取りをしている間に、目的の場所に付き、デュエルディスクを横の端末に翳す。
『ナンバー承認、認証完了しました。おかえりなさいませ、テンペスト』
無機質な言葉とともに、扉が開け放たれ、その中に入っていく。
室内はとても広く、廊下とは打って変わって眩しく、目にとても効く。
「ようやく来たか、テンペスト」
目を薄めにしてその場に立っていると、近付いてくる人影が光を遮る。
「…どーも、社長殿」
「やぁ、再三の招集に応じなかった理由、説明してもらおうかな?」
目の前にいる人物こそ、SOLテクノロジー社代表取締役社長、財前晃。俺の身元引受人で、俺にサイバースカードの秘密を齎した人物で、恩人だ。
「あー…そのー…」
『こいつ、デッキ調整とか言いながら遊び呆けてたぜ、財前の旦那ー』
俺が言葉を選んでいると、相棒が財前にばらしてしまった。
「ほう…先日の世界大会といい…君は何がしたいのかね?」
あ、ヤバイ。流石にお怒りの様だ。
「大体、君が大会等に出るのは控えてほしいとあれほど…それにサイバースを使うなんて…」
「それに関しては…まぁ…ほら、試運転というかね…?」
必死に苦しい言い訳をするも、財前は詰め寄ってくる。
「試運転なら我が社でも充分にできるだろう?不満でもあるのかね?」
「そこまでにしときな、財前」
迫ってきていた財前を、黒いマントを纏った人物が肩を掴んで抑える。
「Aiさん…居たんだ」
「おう、皆大好きアイちゃんだぞー」
手をひらひらしながら笑う人物こそ、俺にデコードトーカーやその他のサイバースカードを渡した張本人であり、遊戯王の原点とも言える師匠の一人。Aiさんである。
「だが闇のイグニス。サイバースの存在はこの世界で使える人間は限られてるんだぞ…!?それに秘匿存在でもある!公の場に現れでもすれば…!」
財前がAiに対して声を荒げる。しかし、飄々とした風で言い返す。
「問題はねーだろ。寧ろ好都合だ」
「好都合?」
そうだと言いながら近くの端末を操作するAi。
正面のメインモニターには、連日の騒動と、2ヶ月前の世界大会の様子が映る。
「このご時世だ。こんな大事を起こす組織はいくらでも居る。だがこうやって公の場に珍しいカードを使う人間が現れれりゃ、県政にもなるだろ。こっちにゃ最強のプレイヤーが居るんだぞってな。こっちにはアイちゃん特製リアルソリッドヴィジョンがあるんだ。いざとなりゃ、モンスター召喚して蹴散らす事も可能だぜ」
「そうは言うがな…サイバースは今となっては貴重な種族だ。新しく現れることも稀だ。……彼の持つ、サイバースカードを除いて、だが」
財前が俺を見ながら言葉を発する。まぁ、俺自体も、トルネードバスター達が何処から来たのかは分からない。いつの間にか持っていた、としか曖昧に言えないのだ。調べる気はないが。
「まぁ、それに関しては絶賛調べ中だ。あんときのリンクヴレインズの騒動の時に産み出されたか、何らかの原因で持っていたカードがサイバース化したか…後者はまぁ、あり得ないと思うがな」
そう言いながら懐からカードの束を取り出す。
「ほれ、カードは返すぜ」
ポイッと投げられるフォームを取るので、慌てて受け止めようとして__
「……何やってるんだ」
床に滑り倒れる。どうやらちょっとしたイタズラみたいらしい。
「やっぱコイツいじり甲斐があるぜ」
「……俺のカードを荒くしようとしないでください…」
ホコリを叩きながら、カードを受け取る。
「んでどうよ?コード・トーカー達は」
カードを受け取ると、Aiさんが聞いてくる。
「……まぁ、そーっすね…やっぱり、プレイメイカーさんみたく使えないです」
お返ししますと言いながら、俺のカードを抜いたデッキを差し出す。
だが、Aiさんは受け取らず押し返す。
「まぁ、誰だって使える使えないはよくあることさ。まぁ、そのカード達は持っててくれ」
少し腑に落ちないが、カードをケースにしまい、俺のカードをデュエルディスクにセットすると、リアルソリッドヴィジョンでトルネードバスターが真横に立つ。
『……』
時たま意志を持つかのように、デュエルディスクにセットするだけで現れるが、言葉を発することなく俺の側に立つだけだ。
「相変わらずだなぁ…こいつも後々調べねーといけねぇな…」
頭を欠きながらぼやくように言うAiさん。トルネードバスターの存在はとても珍しいんだそう。カードの精霊とよく言われるらしきものだとか言われるが、Aiさんが言うには、コイツ等を含む俺の持つサイバースカードは全てサイバース世界に存在していないモンスター達なんだとか。
「まぁ、悪いやつでは無いと思いますよ?」
微笑みながらトルネードバスターを見ると、鎧の奥の瞳が赤く光る。肯定の意を示してるのだろうか。
「まぁ、それならいいんだけどな。あ、それより呼び出した理由はもう一つあんだ」
思い出したかのように、モニターを切り替えていくAiさん。それと同時に奥の広場から、大型の機械が釣らされてこちらに来る。
「ああ…そうだったな。本来の話はコレだ」
財前も、思い出したかのように頷く。なんで重要な事を忘れるんだこの二人。
『……』
トルネードバスターが、右手の剣を構えながら後ろに控える。
「どーよ、これがうちが作り出した新作のISよ!」
ドヤ顔をしながら説明をするAiさん。設計図を見る限り、トルネードバスターを模したような形をしている。
「……ISって…女性にしか使えないんすよね?何で俺を呼んだんすか?」
設計図と、色のないトルネードバスターもどきのISを見て、二人に聞く。
「……起動しなかったのだよ。このISはね」
「…起動しない?コアは装備されてるんですよね?」
「当たり前だろお前。っていうか、この天才アイちゃんが手を加えてるんだぞ、動かない訳がねーんだ」
「だが…それでも適正のある乗り手でも起動しなかったのだ」
曇った顔で二人が言う。だいたい話は読めてきた。
「…で、ダメ元で俺で起動させてみようと?」
「まぁ、そういう事だ。社内会議でも、君に一任すると満場一致でね。一応ではあるが試してもらえるか?」
「…まぁ…ダメ元なら…」
ISとは、女性にしか起動できないパワードスーツだ。男性の俺に起動できるはずもない。まぁ…少しだけ気にはなるが。
「ほれほれ、触ってみ?」
Aiさんに手を引っ張られ、ISに手を触れる。
しかし、これと言って変化は何もない。
「…何も…起きないっすね…」
「やっぱり何かがおかしいんじゃないか?」
「それはねーって。完璧に調整できてるんだぜ?」
二人が言い争いを始めようとした途端、後ろに控えていたトルネードバスターがISに触れる。
途端、光が部屋を包み、俺の頭に何かが流れ込んでくる。
「うお…っ!?」
「なんだ…!?」
二人が驚く中、光が収まると俺の視点が高くなっていた。
『な…何が…』
俺が声を発すると、少し高めの機械音が響く。……嫌な予感がする。
『……起動しちゃってます?』
「……ああ、しちゃってるな、バッチリ」
声を失った財前の代わりに、Aiさんが肯定する。その側にトルネードバスターが立っていた。
『……なんなんだこれ…』
ISを纏った状態で頭を抑える。その右腕には、光るデッキたちが収まっていた。
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