曇天に哭く修羅
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
序章
九死一生
前書き
_〆(。。)
『そろそろ終わっておる頃じゃろうからな』という祖父《黒鋼弥以覇/くろがねやいば》の言葉を聞いた《黒鋼焔/くろがねほむら》は黒鋼流体術に伝わる身体強化の術を以て人外じみた挙動で屋敷を飛び出す。
人波を縫うように抜け、ビルの谷を抜け、何時もと変わらぬ街並みを後にする。
焔が目的地である【魔獣領域】の入り口に到着すると既に空が黒くなりかけていたが、彼女はそれを気にすることも無く突っ込んだ。
息を切らし、脇目も振らず、魔獣と言われる異形が横行闊歩する危険地帯を走る。
そして突如、焔の視界に荒野が映り、それが一面に広がっているエリアに出た。
魔獣領域の深部だ。
そこに有った光景は───
「グゥッ!? 手前ェ、アタシの戦いを邪魔するんじゃねぇヨ!!」
《エンド・プロヴィデンス》が《白鋼水命/しろがねすいめい》を押している。
そして《永遠レイア》はというと。
「お、焔か。安心して。二人とも無事だよ。かなり際どかったけどね」
彼の足下にはボロボロで赤黒くなった道着の母《黒鋼燐/くろがねりん》と父の《黒鋼錬/くろがねれん》がすやすやと眠っていた。
それを見た焔はほっとして気が抜けたのか膝から崩れ落ちてしまう。
「さて、心配事も無くなったし僕も行くか」
レイアはエンドと協力して水命にまともな反撃をさせず一方的に叩きのめしてしまう。
それが何を意味するのかを理解しながら。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
レイアが錬を、エンドが燐を、焔が水命を担いで黒鋼の屋敷まで戻ってきた。
そして目が覚めた焔の両親と屋敷で待っていた弥以覇に焔を加えた四人が事情を聞く。
「ほう。するとつまり、錬と燐が殺されるところだったのを助けたわけか」
「そうなりますね」
水命と錬、燐の実力は天地ほどの差が有った。二人掛かりでも話にならない程に。
レイアとエンドから黒鋼流体術以外の戦闘技術を一年以上学んでいた焔であろうとも現段階では敵わなかったであろう。
焔はレイアとエンドに感謝した。もし両親が死んでいたら自分は闘技者としての孤独が埋まっても人としての孤独に苦しんだだろうから。
「人としては礼を言わなければならないね。助けてくれてありがとう」
錬が頭を下げる。
「だけどそれを別にして、貴方達二人が黒鋼の決まりを破ってしまったことについても言っておかなければならないのよ」
燐は悲しそうな顔をした。
「一対一の命を懸けた立ち会いに介入した両名は本日を以て黒鋼の修業を打ち切る」
弥以覇がレイアとエンドに告げる。
しかしこのようなことになるであろうことを判っていた二人は普段と変わらない。
「打ち切るとは言ったものの、既に二人は『真眼』を極め『真打』を会得しとるからのう。はっきり言って教えることは何も無いんじゃ。黒鋼流拳士としての段位は儂と同じよ」
(水命が真眼領域の最終地点まで到達しているのは気付いていたのじゃが、この二人も辿り着くとはの。燐と錬はおろか、黒鋼と白鋼の歴史でも殆ど修得できなかった両一族の拳士としての極みに)
「真眼と真打を極めたからと言って自惚れてはいかんぞ二人とも。黒鋼流体術のみで戦うという条件ならば60年前の全盛期でなくとも今の儂で十分二人に勝てるからのう。まあ『今はまだ』じゃがな」
弥以覇はかつての自分を追い越していくかもしれない天才を見て同じ時代を生き切磋琢磨し競い合った宿敵達のことを思い出していた。
後書き
_〆(。。)
ページ上へ戻る