奇妙な果実
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第一章
奇妙な果実
ビリー=ホリディが歌っていた歌だとは知っている。そしてその歌の内容も。私は今その曲を聴いている。
その歌を聴きつつ私は一緒に喫茶店でコーヒーを飲んでいる友達に話した。
「何か暗くなるな」
「この曲を聴くとか」
「曲が曲だからな」
それでとだ、コーヒーの中のクリープの甘さを感じつつ話した。
「そうなるよ」
「黒人が白人のリンチで殺された曲だからな」
「昔のな」
「当時はそんなこともあったんだな」
「クランとかがやってな」
クー=クラックス=クランだ、白人至上主義もっと言えば極端なアメリカ原理主義と言っていい連中だ。アメリカは白人でプロテスタントでアングロサクソンであるべきだという本当に何時の時代だという考えの連中だ。
「そうした話があったんだよな」
「当時の我が国じゃな」
このアメリカでとだ、友達もコーヒーを飲みながら私に話した。
「よくあったってな」
「嫌な話だな」
「ああ、けれどな」
「今は、か」
「公民権運動からな」
キング牧師が活躍したその運動からだ。
「我が国は確かに変わったさ」
「それは事実だな」
「ああ、それで俺達アフリカ系もな」
「社会進出を果たしてな」
「社会的地位も手に入れた」
「まだ差別はあるけれどな」
このことは事実だ、かく言う私自身感じたことがないと言えば嘘になる。
「それでもな」
「流石にそんなことになったらな」
「警察が動くさ」
「弁護士もな」
「それで若し容疑者が黒でな」
どう見てもそれでだ。
「無罪とかになったらな」
「その時はな」
「大騒ぎだよ」
「裁判やりなおしだな」
「陪審員がどう言っても」
我が国の裁判制度は陪審員制度が導入されている、十二人の陪審員が有罪か無罪かを判断するのだ。
これでどう見ても有罪な人間が無罪になったりその逆もある、問題があると言えばあるし民主的と言えばそうなる制度だと思う。
「その時はな」
「やりなおしだな」
「それで有罪になるさ」
「そうなる様に変わったな」
二人でこうした話をした。そして私はこうも言った。
「アメリカもそうした意味で変わったな」
「アフリカ系の大統領も出たしな」
「公民権の時は夢みたいな話だったな」
「この歌の時なんかはな」
もうそれこそとだ、友人は笑って話した。
「それこそ小説でも漫画でもな」
「誰も考えなかったな」
「八十年代でもな」
その時でもというのだ。
「遥か未来の話だったしな」
「それがな」
「その未来が現実になったんだ」
「それだけでも違うな」
「収容所に入れられてた日系人の子孫が海軍の司令官だ」
しかも日本軍と戦った太平洋方面のだ。
「時代も世界も変わってな」
「我が国もな」
「変わったんだよ」
「じゃあホリティも」
私は彼女の話もした。
「今だとあんな人生にはならなかったか」
「映画に出てたかもな」
「ミュージカル系のか」
「ああ、キレのいいダンスはどうか知らないけれどな」
そちらの才能はあったかはともかくとしてとだ、友達は私に話した。
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