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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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第十一話~訓練~


???

シグナム「ここは?」

 シグナムが辺りを見回すとそこはどこかの王宮のような一室であった。豪奢な装飾がされているが今は部屋が暗くなっておりその豪華さもなりを潜めていた。彼女がそのまま辺りを見回していると三人の青年が目に入る。

シグナム「あれは……ランペルージ?」

 三人のうちの一人は先ほどまで模擬戦をしていたライであったしかし纏う雰囲気はまるで別人であった。残りの二人はライと同年代に見える黒髪の美男子と精悍な顔立ちの青年であった。
 この三人は何かを話しているが距離があるためシグナムにはよく聞こえなかった。近付こうとも思ったが三人の近くに行くことは何か神聖なものを侵す行為に思えできずにいた。
 そのまま三人を見ていると急に風景が変わる。そこは何かのパレードのようであったが雰囲気がおかしかった。参列している聴衆が持つのは侮蔑や嫌悪といった負の感情。それが如実に現れているのである。
 シグナムがそのことに疑問を感じているとパレードの進行方向に黒い仮面を被った一人の人間がいた。周りの人々が驚く中、その仮面の人間は銃弾や警備の人間を掻い潜りパレードの櫓に向かっていく。その男の身のこなしに驚愕しながらシグナムはその光景を見続ける。
遂に櫓に到着した仮面の人間の前にいるのはライ。そして仮面の人間が腰にしていた剣を構えライに向ける。

シグナム「!待てっ!!」

 これから何が起きるか察したシグナムは咄嗟に叫ぶ。しかしそれで止まるはずもなくその剣はライの胸を貫く。そしてライの体が一人の少女の近くに倒れたとき何故かシグナムはその近くに立っていた。

シグナム「ランペルージ!」

 シグナムは叫ぶが周りの人々は彼女に気付いた素振りすら見せない。

シグナム「なんだ……これは!」

 見ていることしかできないことに混乱し苛立つがそこでライの口が動いていることに気付くシグナム。そしてライの言葉が聞こえる。

ライ『ああ……世界の色はこんなにも綺麗だ…』

 その言葉を聴き終えた瞬間、周りの風景は全て黒く染まった。



機動六課特別空間シミュレーター


 シグナムが目を覚ますと目の前には地面に刺さったデバイスを回収しているライがいた。彼女は模擬戦に使われていたフィールド内の木に寄りかかるようにして座っていた。ライを見て一瞬胸が痛むが、何故痛んだのかはわからなかった。先程まで彼の何かを見ていたのは覚えているが、何を見ていたかまでは思い出せないのだ。
 取り敢えず今の自分の状態を確認しようと立ち上がろうとしたが、足が思ったように動かずまた座り込んでしまう。

ライ「大丈夫ですか?」

 シグナムの意識が戻った事に気付いたライが近づいてきて尋ねる。その両手にはそれぞれ彼のデバイスとレヴァンティンが握られていた。

シグナム「情けないがまだ立てん。どのくらい寝ていた?」

ライ「五分も経ってませんよ。」

 ライからレヴァンティンを受け取りながら答えるシグナム。脳裏に先ほどのことの疑問がよぎるが今は自分の聞きたいことを口にした。

シグナム「私は何故負けた?」

ライ「何故って……」

シグナム「質問を変えよう。お前は最後私をどうやって気絶させた。」

 シグナムにとっての疑問はそこであった。最後の攻防で確かにライの持つデバイスを破壊したのだ。しかしその破壊した瞬間に意識を失った。結果はわかるがそれに至る過程が見えないのだ。質問をされたライはその質問に答える。

ライ「あの時僕が左手の剣を横薙ぎに振り抜いたのは覚えてますか?」

 その質問にシグナムは首肯して答える。

ライ「その剣に隠れるように右手を構えていたんですよ。」

 ライの言葉を聞いてシグナムは声を荒げるようにして聞き返す。

シグナム「ならば、お前は私の意識をデバイスに集中させてその間に攻撃したというのか?!」

ライ「ええ。まぁ流石にバリアジャケットを抜くのは無理と思ったから顎を狙いました。」

 なんでもないように言うが、それがどれだけ難しいかわかっているシグナムは驚きを通り越して呆れていた。

シグナム「それで今は……」

ライ「他のみんながここに向かってきているので、それまでは休憩です。怪我はありませんか?」

シグナム「立てない以外は問題ない。それに私よりお前の方が重症ではないか?」

 ライはシグナムの紫電一閃を正面から受けていたためそのことを指摘された。

ライ「僕は大丈夫……あっ」

シグナム「どうした?」

 ライが答えようとした時に何かに気づいたのか声をあげる。

ライ「少しの間じっとしててください。」

シグナム「?何故―」

 ライに疑問の言葉をかけようとするがその言葉は途中で途切れた。シグナムに近づいたライはシグナムの顔を両側から包むように手を添えてきたからだ。
 顔を朱に染めながらシグナムは慌てて声をあげる。

シグナム「!?!?!一体なにを?!」

ライ「頬に傷がある。…すいません、顔に傷を…」

 自分の顔の近くで申し訳なさそうに謝ってくるライ。そのせいでさらにシグナムの顔とライの顔が近づく。

シグナム「かまわんっ!この程度すぐに治る!!」

 なんとか手から逃れようとするがライがそれをさせてはくれなかった。

ライ「ダメです。傷をつけてしまったのは僕だから手当ては僕がしないと。それに…」

シグナム「…それに?」

ライ「綺麗なんですからなおさらです。」

シグナム「きっ!!!!!……」

 ライの言葉で顔をさらに赤くするシグナム。それを見たライは疑問に思い尋ねる。

ライ「……?顔が赤いけど他にもどこかにケガを?」

シグナム「いいから離れろ!」

ライ「!」

 ライから離れようとシグナムは立とうとする。しかしまだ彼女は足元がふらつきそのままライの方に倒れ込んでしまう。ここで思い出して欲しい。ライはシグナムの一撃を受けていたためダメージ量だけで言うとライの方がよっぽど多い。その結果倒れてくるシグナムを支えきれずライは押し倒されてしまう。

ライ(ああ…リヴァルとスザクで同じようなことがあったな。)

 倒れながらもそんなことを考えているライであった。
 そして倒れた時にお互いに目を閉じてしまっていた。ライはそれでもシグナムを受け止めようとして、不意に口に柔らかいものが当たるのを感じた。目を開けるとそこにあるのは目を見開いているシグナムの顔。

シグナム「…」

ライ「…」

ライ・シグナム「「!!!」」

 自分たちに何が起こったのか理解した二人は模擬戦のダメージを感じさせない動きで離れた。

シグナム「…」

ライ「え~と……手当してもいい?」

 口調がさっきと変わってしまっていたがライは気づかない。

シグナム「……コクリ」

 ライの質問に顔を赤くしながら頷くシグナムであった。
 その後、魔法訓練で怪我をした時に使っていた傷薬を持っていたのでそれを使い手当をした。そして気不味い沈黙が少し続いたが他のメンバーが到着しその沈黙は終了を迎えた。
 合流してから一同はライに先ほどのシグナムと同じ質問をする。シグナムにした説明をもう一度したところ全員が驚いていた。

なのは「実際の魔法戦はどうだった、ライ君?」

 教導官としての立場から自然とそんな質問をするなのは。

ライ「はい。魔法なしの戦闘と比べて規模、威力、その他も色々と根本から違うっていうのが本音です。」

なのは「うん。そうだろうね。」

ライ「ただ…」

なのは「?」

ライ「近接戦は威力が高いだけで、近づいてからの対処は魔法が有っても無くても基本は変わらないと思います。」

なのは「なるほど。今回射撃系の魔法を使わなかったのはそのあたりが理由?」

ライ「はい。不慣れな魔法の射撃戦をするよりも、慣れている近接戦のほうが勝率は上がると考えたので。」

 ライのこの答えに隊長陣は感心していた。魔法を覚えたばかりの大抵の人間は魔法を使うことに気を取られ、戦況把握や広い視野での判断ができなくなるのだ。しかしライは魔法を一つの手段と捉え、自分のできる最適な戦略を組み立てたのだ。
 そのことに関して感心すると同時にフェイト以外の表向きの事情しか知らない人間は一つの疑問が過ぎった。「ライは一体何者なのか」と。

スバル「じゃあ、今回使った魔法はもう使いこなせるんですか?」

シグナム「いや、それは無いだろう。」

 スバルの質問に答えたのはライではなくシグナムであった。シグナムの否定の言葉に疑問の表情を浮かべる新人の四人。対して隊長陣は気付いているのか特に表情を変えなかった。

シグナム「今回ランペルージが使ったのは身体強化と加速魔法のみ。実質発動させたのは加速魔法のみ。身体強化は魔力を身体に流すだけでもある程度できるからな。それだけしか使わなかったのは他の魔法を使えるほどの余力がなかったからだ。そうだな?」

 同意を求められ自嘲的な笑みを浮かべながらも頷くライ。

ライ「そうです。デバイスの設定の影響を考えても、あの加速魔法は精度も効果も平均以下。それに身体強化の方はシグナムさんの一撃をくらった時にとけていました。」

シグナム「それにカートリッジもデバイスの形態変更にしか使用していない。さらに……」



 先ほどの模擬戦についての内容の考察や反省を続けていき一段落したところで個々の訓練に移った。シグナムは満足したのかそのまま隊舎の方に帰っていった。帰る直前にライの顔を見てほんのり赤くなっていたがそれに気付いた人はいなかった。
 ライはリインフォースに引き続き魔法の授業を受けていた。内容は魔力のコントロールを身につけるために自分の魔力を体全体に走らせ循環させるというもの。これを行い魔法の発動と維持にかける魔力の効率化を促そうとしていた。
 予備のデバイスを渡され、訓練が進む中それはライの目に偶然止まる。フェイトがエリオとキャロに何かの説明をしている後ろにある球体の仮想敵。いくつか浮いているそれは範囲内の対象に対して射撃をしてくるというもの。その内の一つが動いていたのだ。
 それが気になりライが振り向いた瞬間その仮想敵の照準がフェイトの背中を捉えた。フェイト達は説明に集中していてそれに気付けていない。

ライ「くっ!」

 ライは反射的に駆け出す。体に魔力を流していたため、これまでものよりも精度の高い身体強化がかかる。

 銃口が光を灯す。

 角度的にエリオとキャロには当たらないと判断しフェイトの方に向かう。

 銃口の先にエネルギーが貯まっていく。

 ライがこちらに向かってきているのに気付いた三人がこちらを向く。

 そしてエネルギーの弾丸が放たれる。

ライ(間に合え!)

 弾丸がフェイトに着弾する直前、ライはフェイトを抱きかかえるようにしてその場を離れ弾丸は地面に着弾する。そして間髪いれずに魔力弾のスフィアを形成し放ち仮想敵を破壊した。
 破壊できたことに安堵し貯めていた息を吐き出すライ。そしてライの腕から声が聞こえた。

フェイト「ラララララ、ライ?!今は訓練で、あの…その……」

 ライがそちらを見ると赤い顔をして慌てているフェイトの姿があった。フェイトは何が起こったか分かっておらず、なんとか理解しているのが今ライに自分は抱きかかえられていること。しかもそれが所謂女性の憧れ「お姫様抱っこ」ということであった。

ライ「怪我はない?」

 フェイトの様子を気にせずに尋ねるライ。

フェイト「そ、その…取り敢えずおろして。」

 懇願するように頼むその声は段々と小さくなっていきそれと反比例して顔はどんどん真っ赤になっていく。なぜ赤くなっているかわからないライは首を傾げる。

エリオ「フェイトさん!」

キャロ「大丈夫ですか?」

 何が起こったか把握したエリオとキャロのふたりはライとフェイトの方に近寄ってきて声をかける。しかし何が起こったか分かっていないフェイトは混乱するばかり。しかも二人に今の自分の姿を見られていることを自覚しさらに顔を赤くする。
そしてそのことを心配したライがフェイトを医務室に運びこんでしまった。お姫様だっこのままで。
 入室したときシャマルがすごくいい笑顔だったりしたのは余談である。
 そしてこの日の訓練は終了した。


 
 

 
後書き

はい。今回からライがフラグを建築し始めます。自分の文才では好きになる動機が不十分と感じるかもしれませんが頑張っていきます。暖かく見守って頂けたらなと思いますm(_ _)m

はやてとフェイトもライの過去を夢で見たのにいつも通りなのは、シグナムと同じで内容を忘れているからです。
夢って見たことは覚えているけど内容は覚えてませんよね?
それとも自分だけでしょうか?


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