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網切り

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第二幕

 商品の一つの受注が遅れると連絡が来た、それで雄太郎は美琴に言った。
「何か切られていたとか」
「蚊帳が?」
「その分作るとのことで」
「だからなのね」
「一つ遅れるとか」
「蚊帳が切られたの」
「そうらしいです、ですが」
 ここでだ、雄太郎は首を傾げさせつつ言った。
「蚊帳を切るとかタチが悪いですね」
「そうよね、誰がやったのかしら」
「ちょっと職人さんに事情聞きます?」
「その人に直接?」
「そうします?今日の仕事帰りにでも」
「私達今日は二人共五時で終わりだし」
 一日八時間労働でそうした勤務時間なのだ。
「それじゃあね」
「五時で終わったら」
「職人さんのお家に行って」
「聞きましょう」
「職人さんのお家福島区でしたね」
「そうよ、あそこよ」
 そちらに住んでいるとだ、美琴は彼に話した。
「あそこにお家兼仕事場があるわ」
「じゃあ行きますか」
「あちらに連絡してからね」
「それじゃあ」
 二人で話してだ、そしてだった。
 二人は仕事が終わると実際にだった、梅田から福島の方に向かった。そうして職人の自宅兼職場に行くとだった。
 職人の権田雄三にこう言われた。
「網切りが出たんだよ」
「網切り?」
「妖怪だよ」
 権田は七十過ぎの老人だった、如何にも職人という感じの皺だらけの顔に厳めしい表情の痩せた老人である。
 その彼がだ、こう二人に答えた。
「それが出たんだよ」
「妖怪ですか」
「うちの大学から出たのかしら」
 雄太郎も美琴も妖怪と聞いてもまさかとならなかった、二人が通っている八条大学は学園全体にそうした話が非常に多いからだ。二人共それらしきものを見たことがあるので権田に言われても否定しなかったのだ。
「まさか」
「それはないと思いますけれど」
「蚊帳を切る妖怪でな」
 それでとだ、権田は二人に話した。
「蚊帳を吊ってるとな」
「その蚊帳をですか」
「切るんだよ」
「それでその網切りにですか」
「便所に行った隙にな」
「切られたんですね」
「一つな、だからその一つの分はな」
 権田は雄太郎に憮然とした声で話した。
「待ってくれよ」
「そうですか」
「ああ、少しな」
「わかりました」
「あの、どうせなら」
 ここで美琴が権田に言った。
「その網切りを捕まえて」
「そうしてか」
「それで何処かに放り捨てて」
 そうしてというのだ。
「難儀をなくしたら」
「そうしようと思うだろ」
「そうしたらですか」
「網切りってのは出て来ないんだよ」
「妖怪らしいですね」
「妖怪ってのは出ないと思ったら出てな」
 権田はさらに話した。
「出ると思ったらな」
「出ないんですね」
「ああ、だから俺がそう思ってあんた達が思ったらな」
「もう出ないですか」
「それで忘れた時にな」
 まさにその時にというのだ。 
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