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戦国異伝供書

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第六十話 死闘その十

「それだけでなくです」
「殿にお考えがありますか」
「そしてそのお考えで、ですか」
「殿は動かれますか」
「その時が来れば」
「そうします」
 こう言ってだった、謙信は陣全体の采配を執りつつそのうえで自らが動き時を見ていた。彼の采配による上杉軍の攻めはあまりにも激しく。
 武田の八千の軍勢により鶴翼の守りは凄まじい勢いで攻められたうえで削られていった。その中で。
 義信は自ら傷付きつつも槍を手にして戦いつつ采配を執っていた、東から西に上杉軍の黒い軍勢は野分の様に攻めて来るが。
 彼は兵達にこう言っていた。
「よいか、必ず援軍は来る」
「だからですな」
「今は辛いですが」
「それは暫しの辛抱」
「我慢する時ですな」
「そうじゃ、だからな」
 それ故にというのだ。
「ここは逃げてはならぬ」
「この場で戦う」
「例え死のうとも」
「そうすべきですな」
「この場に留まるべきですな」
「武田の兵は退く法螺貝が鳴らぬ限り退かぬ」
 決してというのだ。
「そしてそれはじゃ」
「こうした時はですな」
「鳴りませぬな」
「お館様がおられる限り」
「そうされますな」
「そうじゃ、決してじゃ」
 信玄がいる限りはとだ、義信は彼自身の父でもある信玄のことを思いつつ兵達に対して語るのだった。
「今は退く時ではないからな」
「ですな、ではです」
「我等は戦っていきましょう」
「今は上杉軍の攻めは激しいですが」
「それでも」
「出来ればな」
 ここで義信は山本の陣の方を見た、そのうえでこうしたことを言った。
「勘助を助けたいが」
「山本殿ですが」
 旗本の一人が言ってきた。
「こちらが援軍を申し出ても」
「それでもじゃな」
「断られます」
「全員討ち死に覚悟と言ってじゃな」
「はい、そして」
 そのうえでというのだ。
「踏み止まっておられます」
「踏み止まるのはいいが」
「援軍を断られることは」
「よくない、あれではな」 
 山本の軍勢のその必死の戦いぶりを見ての言葉だった、上杉の大群に対して突き進み死に急ぐ様である。
「己の命と引き換えにな」
「我等に助かってもらう」
「自ら矢面に立たれ」
「そうした風ですな」
「そう見えますな」
「全くじゃ、叔父上もな」
 今度は信繁の陣を見て言った。
「あれではな」
「山本殿よ同じですな」
「まさに」
「討ち死に覚悟です」
「そうした戦いぶりですな」
「叔父上も勘助も当家にとって必要な方じゃ」
 まさにというのだ。
「だからな」
「ここで、ですな」
「討ち死にされては困りますな」
「死に急ぐ様な戦ぶりをされては」
「それでは」
「うむ、しかし援軍を申し出ても」
 信繁にも申し出たが断られているのだ。 
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