夢から醒めた夢
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Ⅰ
前書き
※性的な描写がございます。苦手な方はブラバを推奨致します。
「Pサマっ……やめて、やめてよッ」
身体に自由はない。遠のく思考、ぼやける視界。噎せ返るほどに濃い性の臭い。膣の奥に押し込められるソレの感触と、伴う痛み。
そして、責め苦のような快楽。
何度も、何度も。追い詰めるように。理性もまともな思考回路も、全て圧倒的な快楽に飲み込まれ、淘汰されて消える。──否、それは最早、快楽とすら呼べない何かだ。ただただ彼女の許容量をとっくに超えた刺激が、身体の芯から爪先までをも支配し続けている。
「やめて、やめてよ……Pサマ……お願いだよ……」
彼女の目にはとっくに光など無かった。ただこの洪水のような快楽が去るのを待つことしか出来ない。涙と涎と精液に塗れた彼女は既に、ボロ雑巾のような様相を呈していた。精神はとうに限界を迎え、瓦解し始めていることは素人目にも分かる。
それでも無言で彼女を犯し続ける男は、その勢いを緩めることは無かった。
「どうして、どうしてこんなことするの、Pサマ」
うわ言のように、彼女が問う。
それは『Pサマ』に問うたというよりは、虚空に向かって呪詛を吐いたような調子だった。
Pサマと呼ばれた男は答えた。
「そんなの、君が、人生ワンチャンなんて巫山戯た姿勢で、レッスンもサボって、事務連絡に既読もつけないような、アイドルどころか人間として無能な屑だからに決まってるじゃないか」
◆
「────ッ! はぁっ、はぁっ…………」
夢見りあむは、息を乱して夢から覚めた。
全身厭な汗でぐっしょりと濡れ、喉はカラカラに乾き、全力疾走の直後のように動悸が激しい。身体に水分が圧倒的に足りていないのが感覚としてはっきり分かった。脱水症状でも起こしたかのように、猛烈な吐き気に襲われる。
不快感しかない目覚めだ。りあむは上体を起こし、汗でべたついたピンク色の髪を掻き上げると、身体の中全部の空気を押し出すように溜息をついた。
「夢、か……」
夢、というか、これがただの夢ではないことは、彼女も重々承知だった。ただ認めたくないだけ──あれが現実の出来事であったと、思い出したくないだけだ。
「……水、飲も」
込上げる胃酸を押し戻そうと、立ち上がって台所に向かう。散らかり放題の部屋で、透明なガラスのコップに注がれた水道水が、この世で唯一純粋で綺麗なものに見えた。
あの日、あんなことがあった後──夢見は、アイドルを辞めた。
否、正確に言うならば辞めた訳ではない。脱走したのだ。プロデューサーの去った部屋で、今まで起こっていたこともこれからのことも何もかも考えられず、死んだ頭を引っ提げてシャワーを浴び、死んだ感情を抱えて最低限の荷物を纏め、事務所から与えられていた寮の部屋から何も言わずに逃げ出した。プロデューサーが怖かったとか、噂が広まるのが怖かったとか、そんなことは一切思わなかった。ただ精魂尽きた頭にひとつ沸いた義務感にも似たものに突き動かされて、気付いた時にはそうしていたのだ。
奇抜な柄のオーバーサイズのTシャツに短パンとスニーカー、惜しげもなく生脚を晒しながら、キャリーケースと身ひとつだけで夜明けの街を闊歩する巨乳のピンク頭。お世辞にも目立たない格好とは言えなかった。
夢見りあむ、たった一夜で身も心も硝子より脆くされたギリ十代。
この日彼女は、アイドルの表舞台から姿を消した。
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