戦国異伝供書
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第五十九話 死地へその十二
「それもまた違います」
「戦は終わるか」
「星の動きを見ますと」
それはというのだ。
「戦が終わることもです」
「そなたに見せてくれたか」
「はい、当家と長尾家の戦はです」
「この度で終わりか」
「おそらく明日の」
「明日行われる戦でじゃな」
「何故か我等の動きは見えませぬが」
それでもというのだ。
「両家の戦はです」
「これで終わりでか」
「はい、そして」
そのうえでというのだ。
「青い星がです」
「輝きを増したか」
「それもかなり」
「青い星はわしにもわかる」
信玄は星を見ることは出来ない、兵法に通じ学問も好んでいるがそちらのことには疎いのだ。
だが青い星と聞いてだ、こう言うのだった。
「やはりな」
「織田家ですな」
「青は織田家の色じゃ」
「当家が赤、長尾家が黒であると共に」
「それでじゃ」
まさにというのだ。
「青となるとな」
「織田家ですか」
「あの家だとな」
まさにというのだ。
「わしもわかる」
「やはり織田家はです」
「大きくなるか」
「今は尾張一国ですが」
「尾張一国でも相当であるな」
「それだけで六十万石ですが」
さらにというのだ。
「おそらくそこからです」
「さらに大きくなるか」
「これは流石にないと思っていましたが」
それでもというのだ。
「これはです」
「今川殿にもか」
「勝つかも知れませぬ、それも見事に」
「そして見事な勝ちからか」
「大きくなるやも知れませぬ」
「そうなるか」
「それが星にも出ております」
青い星が輝きを増すことでというのだ。
「しかも織田殿の星の周りにもです」
「多くの星が集まっておるか」
「それも見ますと」
「尚更か」
「はい、織田殿は尾張という豊かな国と多くの家臣の方々によって」
「大きくなるか」
「それが出ております、ですが」
それはとだ、山本は信玄に畏まって述べた。
「織田殿のことは後にして」
「今の我等はな」
「明日の為の手は全て打ちました」
「ならばじゃな」
「はい、今宵はこれで」
「寝るか」
「そうしましょうぞ」
こう信玄に言うとだった、信玄も確かな顔で頷いた。そうしてそのうえで今は彼等は寝た。そうして次の日の運命の戦に備えるのだった。
だがこの時信玄も山本も知らなかった、彼等が寝た頃に。
謙信は全軍にこう告げた。
「出陣です」
「はい、そして」
「これよりですな」
「秘かに川を渡りそのうえで」
「翌日は朝早くから戦です」
こう言ってだ、謙信は自ら馬に乗り軍勢の先頭に立って出陣した。既に陣は引き払いもう戻るつもりはなかった。それが謙信の考えでありもう彼は振り返らなかった。
第五十九話 完
2019・7・23
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