戦国異伝供書
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第五十九話 死地へその八
「あの方がここで倒れられることはありません」
「左様ですか」
「殿が直接攻められても」
「それでもですか」
「武田殿は討ち取れませんか」
「あの方の天運はまだ尽きてはいません」
やはり確信を以て言うのだった。
「ですから。ですが」
「ここで勝敗を決し」
「そしてですか」
「そのうえで、ですか」
「信濃を正しい姿に戻り」
「あの御仁の過ちもですか」
「正します」
こう言うのだった。
「ですから」
「それで、ですか」
「この度はですか」
「殿がご自身で、ですか」
「攻められますか」
「そして降します」
こう言ってだった、そのうえで。
信玄と雌雄を決すべくだ、謙信は動くことを決めた。その動きは一体どういったものかというとだった。
「夜のうちにです」
「山を下り」
「そしてですか」
「武田殿を攻める」
「そうされますか」
「夜に山を下り川を越え」
そしてというのだ。
「明け方、この寒さなら朝は霧が深いですが」
「その時にですか」
「あえてですか」
「武田殿の本陣を攻める」
「そうしますか」
「この二万の軍勢で」
まさにと言うのだった。
「そうします」
「左様ですか」
「では今夜にですな」
「我等もですな」
「動くのですな」
「夕刻の飯はいつも通り摂ります」
武田がもう食っているのに対してというのだ。
「ただ。今のうちに寝て」
「そしてですか」
「そのうえで、ですか」
「そのうえで」
「それからですか」
「夜に起きて」
そしてというのだ。
「それからです」
「さらにですか」
「我々はですか」
「そのうえで」
「まさにですか」
「攻めていきますか」
「そうしていいきます」
謙信は淀みのない声で答えた。
「それでいいですね」
「わかりました」
「さすればです」
「我等もです」
「これより」
「はい、夕食の用意をし」
そしてというのだ。
「それからはです」
「少し寝て」
「夜にですな」
「動く」
「そうして翌朝に」
「一気に攻めますな」
「そうしましょう」
こう言ってだ、謙信は武田軍の陣地を見ていた。煙は多くあがり兵達がその下で飯を食っていることは明らかだった。
その白い煙達を見つつだった、謙信はこうも言った。
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