魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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Duel:18 幸せだけの人生じゃないから
――side奏――
「……主とサト様が居ない……?」
キッカケははなの一言から。
言われてみれば……と言うより、外へ出かける用意をしている時に私達も気づいた。
「あーそういや。流と出る時にそそくさと二人で出て行ってたなー。
まぁ、良いさ。仲良くなってくれるなら……それよりもはな。おいでおいで、髪整えてあげる」
「あ、はい!」
パァッと。弾けるような笑顔で震離の元へ。
対して震離は何かを察してるようだけど、直ぐに気にするのを止めてはなの髪を整えて。
「……いやぁ。私がはなの髪をいじる時が来るとは……人生何が有るか分かんないねぇ」
やだ。凄く重い一言が漏れてる。
でもそうか。今の震離も、私の知ってる震離も……直接はなに会ったこと無いんだ。
この震離はもしかすると、はなと会ってるかもしれないけれど、こんな風にゆっくりとした時間を共有することは無かったんだろう。
「あ、奏。コレが終わったらどうしよっか? 3人で何処かに出かけるも良し。ゆっくりするのも良し。皆集まるのはまた夕方だから、それまで好きなこと出来るよ」
「……そうだねぇって、震離さんや。データがどうとか言ってなかったっけ? あれどうしたの?」
「んぁ? あぁ、もう博士ーズに渡したよ。だから、私は今日は暇……と言うか、せっかく友人がいるならって事でね。
流も今日バイトしたら、同じ理由で休みらしいしねぇ。ちなみに今日はT&Hのフードコーナーでバイトだよん」
すずかが言ってた通りなんだなー。翠屋とT&Hでアルバイトしてるって。ちなみにサトも偶に八神堂で店番することもあるし。震離も研究所で色々手伝ってるらしいし。
いやほんと、色々してて各々普通の生活してるなぁと。
「……そうだ。震離様? この世界ってその……普通の世界な訳じゃないですか?」
「ん? んー、そうだねぇ。次元世界に該当するもの見当たらないし、次元転移はそもそも使えないからねぇ。文字通りの魔法に該当するものも無ければ、超技術に当たる物も、祖先が吸血鬼とかいう事も無いねぇ。
まぁ、体術や武術は普通にあるけれど、血みどろ臭い事はあんまり無いかなぁ」
はなの髪を梳かしながら震離がその質問、というか疑問に応える。
「それならば。あの……フローリアン博士がどれほどの人物かはわかりませんが……ブレイブデュエルのシステムが出来るとは考えられないんですが」
ピタリ、と震離の手が止まる。けど、直ぐに行動を再開して。
「察しが良いね。だけど、残念。私達が来た時点でブレイブデュエルの原型は出来てた。地上戦オンリーの、高速バトルアクション。
嘗て目指した動きで一番近いのはアリサの飛んだり跳ねたりがそうだね」
「へ? じゃあ、なんで空中戦が……空を飛ぶ今の形になったんですか?」
「フフ、初めてこの世界に来て、サトを迎えてからかな。私と流で生きてく為に仕事を探す時にさ。ちょっと博士達が作ってるものを覗いて、それで少しだけ手を貸したの。
ゲームの中で空を飛ぶ感覚と、その演算プログラムを作って譲渡したの。私達を受け入れてくれたお礼と、サトを見つけてくれたお礼として」
そこまで聞いて、待ったの声を出してしまう。
「待って震離。それじゃあ技術の譲渡というか、まだ早い技術なんじゃないの? その……あんまり外部のものを持ち込んじゃ不味いと言うか、それは」
「うん。奏の懸念も最もだ。
だけど、何十年掛けて到達するものだったら私達もあげなかった。だけど、後一年あれば出来る可能性。
そして何より。グランツ博士と、ジェイル博士の二人に空を飛ぶという気持ちよさを教えてしまったからね。
だから作った。でも、それでお礼になるとは思えないから、私は開発のお手伝いをしてるんだ」
……うーん。この二人がどんなタイミングでこの世界に来たのか分からないけど。そんな背景があったんだ。
それにしてもフローリアン博士も、ドクタースカリエッティもやっぱり凄い人なんだね。こんなゲームの原型を既にある程度完成させていて、後一年もすれば空を飛ぶ演算も完成させていたなんてねぇ。
「まぁ、魔法っていうカテゴリも私達がそれぞれ教えたんだけどね。最初はインダストリー……銃や剣を組み合わせての勝負だったのが、空を飛ぶと、魔法、この2つを組み合わせて、ミッド、ベルカが出来たし。
と言っても、スカさんはスカさんで独自のカテゴリ、ラボラトリーを組んでたけど、本質はインダストリーに近い物があるからねぇ」
なるほどそれでか。温泉に泊まりながらの勝負の時。七と何度か当たったけど、確かにアミタやキリエに近いものを感じた訳だ。
「そうすると、王様達はどうなのさ? 普通にベルカ、ミッドに分類されるんじゃないの?」
「あの3人、いや4人はベルカ、ミッドのプロトタイプを引いたんだよ。運があったにしては出来すぎだけどね」
……納得できるような出来ないような。
「……よし。はなの髪もしっかりケア出来たし。さぁさぁ、改めて何しましょっか?」
「ありがとうございます震離様!」
ここまで、か。まぁ、
「良いけどね。何しよっか?」
こんな日も偶には良いんじゃないかって。
――side響――
「……美味かったぁ。久しぶりにガッツリしたもん食べたわぁ」
「……女子扱いされてると、中々食べる機会無いからね」
二人して、つけ麺屋を後にする。
いやぁ、濃厚つけ麺と、大きなチャーシューがとろとろで美味しかった。店員から何だこの女子と女児って顔されたけど、気にせず普通に食べたが……いやぁよかった。
「良く来るの?」
「一度来て美味しかったからまた来ようと思ってた。偶に一人になりたくてブラブラすることも割とあったし」
「そっか」
短く切って、適当に二人で歩く。少し時間ずらしての昼食だけど、中々いい具合にお腹に溜まってる。
しかしまぁ、何だ。こちらの望む適切なタイミングで会話出来るというのは。
「「なんか良いな」」
二人して笑いまして、さて。
「……もしさ。元の世界に帰れなくて、こっちの世界に来たらさ。そん時は居ろよ。歓迎するよ」
無駄だって分かってるけど、それでも言っておきたかった。
同じ道を歩いて、何の悪戯か分からないけど、道が大きく変わった。
「……逆の立場なら、どうするかって考えたら分かるだろ。そういうことさ」
「……頭の隅っこにでも置いといてって話だよ」
分かってた答えだ。だけど、ちょっと寂しいなーって。
「……適当に流の所にでも行くかー」
「そうするけー」
……完全な冷やかしっぽいけど、実際に働いてる所見てみたかったし、ちょうどよかったなぁと。
ただ、移動してる時の弊害が……。
「こ、こんにちは~! ちょっといい?」
何度めかわからないけれど、またチャラチャラした男が正面に立って声を掛けてくる。しかも質が悪いのが。
「妹ちゃんも一緒でいいからさ、茶店でも、カラオケでも。よければ」
女児まで一緒に声を掛けられてるという。
何が悲しくて俺は男にナンパされにゃならんのさ。
サトも前髪で目を隠していたのを止めたせいなのか、今日は多いってボヤいてたしな。
とりあえず、無視して両脇から通り抜けるけど。
「やーやーやー、待って待って。普段は絶対こんな事しないんですけど、今、少しでも会話しないと一生後悔すると思って。ちょっとだけでも!」
更に無視して通り抜けて。
「……面倒くさいな」
「……そうだな」
ちょっと声を掛けられただけでこのザマですよ。だけど、チャラ男も諦めが悪いらしく再度前に立って。
「1時間でいいよ。1時間経ったら駅まで送ってく。こーやって道端で話してんのも、何だしさ、ね?」
「「うるせぇ!!」」
結局移動し終えるまでかなり時間を要しました。
――side流――
何時も通り、と言うわけではありませんが。T&Hのフードコーナーで何時も通り接客と料理の提供をしているんですが。
「……わぁー」
「本当に流ってここで働いてたんだね」
T&Hの店長の愛娘……というよりも。
「……なんというか、二代目店長みたいになってますね」
伊達メガネと、お店のエプロン。響さんのようなポニーテールのフェイト隊長が其処に来ております。
「……暇なんですか?」
「暇ってわけじゃ……うん、暇。響も居ないし、はなも居ないし。お姉ちゃんや小さい私は学校だし、見かねた母さんがちょっとお店に来ないって誘ってくれたんだけど……凄く楽しくて、ちょっと揺らいでる」
ズーンと、調理場の隅っこで膝を抱えて座ってるのは凄くシュールです。
そんなフェイトさんを置いといて、カレーの鍋をかき混ぜていると。
「ねぇ流?」
「なんですかー?」
「……またこの世界に来れると思う?」
遂にこの質問がやってきました。
何時か来ると思ってたこの質問。
誰か必ず言うだろう、そう考えて一応の用意もしていましたが……複雑な気分ですね。
鍋の火を切って、他のアルバイトの方に少し休憩に入りますねと声を掛けてから。
「……フェイトさん。少し付き合っていただけますか。ちょっとお話をしましょう」
「……うん」
手を洗ってから、バックヤードに繋がる扉を潜って屋上へ向かう。普段は開放されていないけれど、ちょっと手を加えれば直ぐに開けることが可能だ。
屋上に出れば、まだまだ残暑が残っているせいなのかまだ日差しは暑い。だけど、影に入れば涼しい風が入ってくる。
直ぐに人払いの結界を張ってから、フェイトさんを見据えて。
「それは何故、と聞いても?」
少しだけ寂しそうな表情をしながら、小さく笑って。
「……この世界が暖かくて、こんな私でさえも受け入れてくれる母さんたちが凄く優しくて、心地よくて、ね」
ポツリ、ポツリと呟く言葉に相槌しか打てません、ですがコレは……。
「お姉ちゃんも、居たらきっとこうだったんだろうなぁって。お母さんも、こんなに暖かいんだって、小さな私も真っ直ぐ今を見つめているのが眩しかった。
だから」
静かに涙を流しながらこの人は言う。
「もし、また来れるというのなら、私の中の本物への思いを色あせないようにしたいなぁって」
……この方の中で決着は着いていたんだろう。それは何時着けたのかは分からない。
だからこの確認の意味は一つだ。
「……結論だけを言えば、可能です。
ですが、この世界は不思議なもので本当に事故か何かでしか来れない都合上、ちゃんと開通させる必要があります。それは枠超えではなく、枠抜きに近い荒業です。
しかしそれは」
「……今まで悟られなかったこの世界を危険に晒すんだよね。やっぱりそうだよね」
その通りです。と伝えて、二人して佇む。
やはりこの方は……いえ、この方達は強い。というよりも、私が知っている人たちは本当に強い人たちばかりで何時も驚かされる。
「あと、何日いられるかな?」
「……ベストなのが後3日。引き伸ばしたいというなら6日までなら伸ばせますが……」
「そっか。でも、私だけの判断じゃいけないもんね。要相談だけど」
すんすんと鼻を鳴らしながら、目元を拭うフェイトさんを横目に、空を見上げれば大きな青空が広がっている。
「フフ、こうして流と話すのはちょっと珍しい気がする」
「あぁ、そちらの私もあんまりフェイトさんとは話さなかったんですね」
お互いに苦笑を浮かべる。
そちらの私がどうだったのかはわかりませんが、そもそも分隊が違うことと六課時代の私は今で言うコミュ障でしたからね。
しかし、本当に似た道を辿っているんでしょうが、中々難しい所です。下手なこと言うと混乱させそうですしね。
「あ、そうだ。一つ聞きたいんだけど。響……あ、ちっちゃくなった方なんだけど。今ははなとユニゾンで一応戦ったり出来るけど、そうしなくても済む方法ってあるかな?」
「そうですね……一番いいのがはなだと思うんですが、フェイトさんでも出来る方法で。外部から魔力を流してあげると、今の響さんでも魔力を認知。そして、使えるようになります。
分かりやすく言えば、ディバイドエナジーを使うといいですね。ただ流しすぎるとリンカーコアが驚いてしまうので注意してくださいね」
「……へぇ」
おや!?
「ふぇ、フェイトさん……? あの、ホント優しくしてくださいね。あの人、コアの魔力容量の上限は多いですが、あまり魔力が満ち足りてるという状態に慣れてない人ですので、多分変な不具合が……」
「……フヘヘ」
あ、駄目だ聞いてない。そして、さっきまでの人と同一人物だとは思えないなぁ。
「あ」
ふと、お店の近くに覚えの在る気配を感じて。
「さ、フェイトさん。私は仕事に戻ります。そして、正面玄関には」
「響が来ているんでしょう? 気づいてるよ。あとサトも居るね」
「おや。気づいていましたか。なんでここに来たかは置いといて対応お願いしても?」
「勿論。それじゃあ行ってくるね」
「はい、いってらっしゃい」
軽く駆け足で屋上の出入り口へと向かうフェイトさんを見送りながら、ちょっとほっこり。
そう言えば、私が出るに合わせて何処かに出かけてましたけど何処に行ってたんでしょうね?
――sideはやて――
この世界が平行世界で、異なる時間、歴史を辿ってるという聞いてたけど。改めて強く実感した。なんでかというと……。
「未来のはやてさんはしっかり美人に育って流石だわ」
「……あ、あはは、そらどうも~……」
オーリス三佐、もといオーリスさんが八神堂を訪れたんは心臓に悪いなぁって。
「オーリスせんせも来るなら来るて、ゆうてくれたらこちらから会いに行ったのにー」
「ごめんなさいねはやてさん。この後空港へ行ってまた海外へ。そんな前に娘の顔を見に来たっていうのが今回の目的だからね」
妹……もとい、小さい私とオーリスさんが仲良く話してるんは違和感しか無いわ。
元の世界やと、機動六課を目の敵にしとったしなぁ。なんかもう……うん。
しかし、何の因果でこの人は、スカリエッティの家に嫁いだんやろ? 確かゆりかご戦の調書によると、レジアス中将とスカリエッティは互いに利用するつもりで手を組んでて、人造魔導師や戦闘機人の研究なども進めていたはずやから……。
いやでも、それはこちらの世界の話で、この世界には関係ない話やし。
あかん、気になるわぁ。だけど、それ以上にこの世界の私と
「なぁなぁ妹? どうやって知り合ったん? 私の方の歴史やと悲しいことに会ったことないんよ」
「あーそっかぁー、そうなるんやねー」
「……えっ」
私の質問に対して納得する妹に対して、絶望するように色が抜けていくオーリスさん。
え? 何やこの反応?
「せやんなぁ、私が行ってた大学の先生なんよー。私は弁当作っても何時も1人でご飯食べてて、寂しそうやからって声かけて。そっからの付き合いやんねー」
……うん、副音声で何や聞こえてきたわ。ちっこい私が1人で食べてた訳や無くて、オーリスさんが1人で食べてたのを、ちっこい私が声かけてそっからの付き合い。
だけど、管理局もない世界やしその出会い方が一番自然なんやろねー。
「……そ、そうそう。その頃の私ったら中々ご飯を作るのが苦手っていうこともあって、はやてさんから教わったのよねぇ」
「せやんなぁ。お蔭で色々お世話になったし、今もこうして交流があるんは嬉しいしなぁ」
ふむふむ、出会いが違えば交流も異なるんやねぇ。
……私も、オーリス三佐と出会い方が違ったら色々変わってたんかなぁ。
正直な話。知らない人って訳は無かった。地上部隊で転々としていたし、あのレジアス中将の娘で副官でもあったわけやし。必然と知る機会も多かった。
魔力がない人やったけど、副官としての実力は凄まじく、私が聞いた話やとかつて事務官をしていたときには1人で機能していたとかいう噂も在るほどや。
ほんま、もっと早くに出会ってたらなぁ。
「けど良かった。偶々戻ってきただけだけど、こんな良い物が見れるなんて夢にも思わなかったから」
優しい口調のオーリスさん。そのまま自然な仕草でこちらに手を伸ばして。
「こんなおばちゃんと握手なんて嫌かもしれないけれど、いいかしら?」
「へ……あ、いえいえとんでもないです」
慌ててその手を取って握手を交わして。
「それじゃあ二人のはやてさん。またね、私はもう行くわ」
「はい、オーリスせんせもお気をつけて」
そのままお店を後にしようとするオーリスさんを見送りながら、ふと。
「オーリスさん。少しやけれどお話できて良かったです!」
頭を下げてお礼を伝える。すると驚いたように目を丸めて、ゆっくりと優しく微笑んで。
「えぇ、私もよ。またねはやてさん」
後ろ手に手を振って八神堂を出ていくのを見送りながら。
「……一生徒、飛び級とはいえ気にかけてくれたんは、オーリスせんせとレジアス学園長だけやったんよね。同期生は話はしてくれるんやけど、それでもどっか距離あったし。
せやけど、あの2人と、同じ系統の学校からやってきたゲンヤせんせも含めて3人だけやね、私を普通の子と同じ様に接してくれてたのは」
「……そっかぁ。さぁ妹や。今日は腕によりをかけてわた……しやなくて、ウチが昼食作ろうかな!」
「ほんまー? どんなん作るか見ててええ?」
「勿論や。さぁ、行こうかー」
色々と面白い出会いがあるんやなぁって改めて知って、ちょっぴりもったいないなぁって。
レジアス中将とも、この世界の私は上手く付き合ってるみたいやし、実は付き合いのなかった人ともつながりが在るんだろうと考えると、本当に平和なんやなぁって。
――sideフェイト――
「……そう。そしたら俺からは言うことはないです」
響達を迎えて、流からの話を聞いた上でのお話をした所、特に何かを言われること無く終わりました。
響からも思う所は有るんだろうけど、それでも言わないのは、ちゃんと分かってくれてると信じてる。
でも、ちょっと気になったのは。
「また俺って言ってるよ。気を付けなきゃ?」
たくさん汗をかいてたから着替えてるのを見ながら、響に注意を。
幸い、今お店の更衣室には私と響、サトしか居ないから良いけど、コレが外だったら……怪しまれないけど、なんだろうって気になると思うんだ。
「……流石にこの場にこのメンツしか居ないって分かってたから言ったんですけど?」
「それでもだよ。普段から気を付けておかないと……」
「……その普段は今だけじゃないですか」
苦笑交じりのため息をつくと、そのまま着替えを続ける。
すると奥の方で着替えてたサトがこちらにやってきて。
「それじゃ先に出ますね」
「あいよ。ブレイブデュエルのスペースに行けばいい?」
「あぁ、そろそろ低学年の子達が来る頃合いだからね。じゃお先」
……ちょっぴり羨ましい、というか良いなぁと思う。
響とサト、その関係性はよく分かるけれど、あの距離感はちょっと憧れる。
一瞬こちらに視線を向けて、ぎこちなく笑ってくれた。
目元は優しく、自然に出来ていたけれど……口元はまだまだ上手く笑えないらしい。
それでもこうして私にも笑いかけてくれたのはちょっぴり嬉しい。
でも。
「やっぱりサトも、スカートに抵抗有るのかな?」
「……まぁ、気持ちは良く分かりますけどねぇ」
黒いスラックスに、黒いシャツに青いエプロン。そして白髪をポニーにして背中まで伸ばしてるのはちょっと格好いい。
……ふと思い立つ。サトを可愛くしようと思えば、長い髪を生かしてハーフアップ。白髪だから映える黒いリボンをワンポイントにして、服装はノースリーブのブラウスと、膝上程度のスカート。ロングブーツなんてしたら可愛いんじゃ……あ。
チラリと、目の前で着替えようとしてる響に目をつける。そのまま着替えて意識がこちらを向いてない内に。母さんが言っていた、母さん秘蔵のコスプレ衣装の場所を確認して、それに近い服装と靴が有るから手にとって。元いた席に戻ったと同時に。
「そう言えばフェイトさ……ん?」
バッチリと目が合う。静かに後ずさりした分、私が距離を詰めまして……。
「待って待って待っておかしいおかしいおかしい俺もサトと同じ服装のはずなんだけどなんでそんなモン持ってるんですかおかしくないすか」
「よくワンブレスでいいきれたね。さ、着ようか?」
ずいずいと近づいて、更衣室の壁に追い込む。
逃げ場が無くなった所で、響の手を取り。
「……ちょっと着替えよっか?」
「……ヒッ」
ゾクゾクと背徳感が背筋を駆け上がる。
小さい貴女でこんな顔ならば、元の貴方はどんな顔をするんだろうって。
あぁ、その顔はたまんない。
――side流――
ブレイブデュエルの特設フロアを経由して事務室へ向かう最中に、珍しい人がいるのが見えまして。
「ここにいるということは、これからイベントでもされるんですか?」
「……さぁ? ま、やること無いし昼から入る予定のバイトの人が急病らしいし。代わりに出てって頼まれたんだよ」
従業員用通路を二人で歩きながら、他愛もない話をする。
久しぶりにつけ麺を食べた事だったり、しつこいナンパに絡まれて面倒を起こすのも嫌だからと全力で離脱したことや。
フェイトさんから、例の話を聞いて、その答えを聞いたこととか。
「……寂しい、と思ったり?」
「……無いっていいたいけど、そうだなぁ。正直寂しい部分は有るよね。
だけど、いいタイミングだったかも知れないけどね」
ぎこちなく、それでも優しい目をして笑うのを見て、私も笑みが溢れる。
「というか、流はどうしてここに? 何時もなら厨房にいるだろう?」
「あぁ、食材の補充量の報告をしに。サトさんと響さんがこちらに来るのは分かっていましたが、こんな所であうとは考えてませんでしたしね」
「なるほどそれで。こちらはブレイブデュエルのフロアで見回りとか掃除かな。T&Hの活躍のお蔭で同じ小学校の子達、こっちのスバルやティアナ、中島姉妹の活躍も凄いから、似た歳の子達が来る時間帯だからって」
「なるほど、初心者育成の……また、いろんなファンが付きそうですね」
「……勘弁してくれ」
ばつが悪そうにしながらも、その様子は何処か嬉しそうというか、なんというべきか。
元々人好きな方ですしね、何かを教えるのは嬉しい事なんでしょう。
そう言えば、テストしてる時は単純作業の連続で飽きていて、王様達が入ってきてからは教えるという事を何よりも楽しんでたようにも見えましたしね。
「……流もさ、手が空いたら手伝ってくれよ。響やフェイトさんは今取り込み中みたいだし」
「へ、それは構いませんが……あの人達はもー……」
思わず項垂れそうになるのをぐっとこらえてため息で済ませる。
後で人払いの結界でも張るべきか……いや、それはきっと本人がしてるでしょうし、問題は無いかなと。
気がつけば特設フロアまで辿り着いて。
「さて、それじゃあまた」
「えぇ、私も終わったらこちらに遊びに。そう言えば誰かから連絡きました? 何処に集まるとかって話は?」
「……いや、まだ貰ってないな。何もなければ研究所なんだろうけど」
「でしょうね。ごめんなさい脚を止めてしまって。それでは」
あぁ、と短く告げてサトさんはフロアへ赴く。それを見送ってから私も事務室を目指して再度足を進める。
今日はまだまだ時間がありますし、色々楽しみですね、とか考えながら……。
しかし、震離さん達はどうするんでしょうね? こちらでは面白いことになりつつありますが、連絡入れるにしても……せっかく奏さんも居ますし何かするでしょうきっと。
……問題はナカジマ姉妹のお二人ですかね。
スバルさんとは元の世界で何度か話をしていましたが、そのお姉さんであるギンガさんとはあまり話をしていないのもあって……どんな方なのか今一分かっていないんですよね。
こちらの世界のギンガとはそれなりに仲がいいと自負していますが、こちらの性格はあまり参考になりませんしね。
それこそはやてさんとはやて位の差は有るでしょうし、何より環境の違いも大きいでしょうし……。
手はある。
私では説得……と言うより、話は難しいでしょうし、震離さんならスバルさんと上手く話が出来るでしょうが、ギンガさんとの仲は良かったかな……?
震離さんではなくて、あの人ならばギンガさんから話を聞くことができると思います。
問題はどうやってそこまで持っていくかという問題がありますしね。
一番手っ取り早い方法はありますし、おそらく話も出来るでしょうけど。正直負担掛けすぎてて申し訳ないですしね……。
後はもう1人いますが、そちらも色々転々とさせていますし、どうなのかなと。
本当にもう……。もう少し交流を持つべきでした。まさかこのタイミングで、その時のツケを払う日が来るとは思いませんでしたが。
今日の晩はどう転ぶかわかりませんが、それぞれ散らす方向で良いかも知れませんね。私も震離さんも用意を始めないといけないですし。
さぁ、残りのお仕事早く終わらせてサトさん達のお手伝いへ参りましょうか。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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