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戦国異伝供書

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第五十八話 出家その十一

「裏切り、騙し討ち、皆殺し、暗殺にと」
「まさに奸悪の権化でありますな」
「麿が思うにでおじゃる」
 こう前置きして言うのだった。
「美濃の斎藤殿や大和の松永殿、備前の宇喜多殿も酷いでおじゃるが」
「毛利殿については」
「負けていないでおじゃるな」
 こう言うのだった。
「その奸悪は」
「拙僧もそう思いまする」 
 雪斎も同じ考えだった。
「あの御仁は」
「奸悪が過ぎるでおじゃるな」
「幾ら戦国の世といっても」
「無道でおじゃる」
「家の中では随分とよい様ですが」
「政もでおじゃるな」
「民にはよい御仁とのことですが」
 このことは事実でもというのだ。
「それでもです」
「外にはあれでおじゃるからな」
「どうにもです」
 義元に確かな顔で答えた。
「よい感情は抱けませぬな」
「全くでおじゃるな」
「無論先程挙げたお三方もどうかでしたが」
 斎藤道三達もというのだ。
「斎藤殿はもうこの世におられずとも」
「松永殿や宇喜多殿はでおじゃるな」
「奸悪の御仁です」
 彼等もまたそうだというのだ。
「ですから」
「油断出来ぬでおじゃるな」
「この御仁達は決してです」
「麿が将軍になればでおじゃるな」
「用いられぬ様」
 決してと言うのだった。
「毛利殿もそうですが特に松永殿は」
「あの御仁でおじゃるか」
「蠍と言われていますが」
「本朝に蠍はいないでおじゃるが」
「随分と性質の悪い虫でして」
「毒針を持っているでおじゃるな」
「油断しますとその毒針で」
 尾にあるそれでというのだ。
「刺されますので」
「だからでおじゃるな」
「決して用いられぬ様にお願いします」
「承知したでおじゃる」
「何でも毛利殿は天下を狙ってはおられぬとか」
「それは救いでおじゃるな」
「まだ、それでもあの奸悪はどうにもですが」
 雪斎をして義元に用いぬ様言う根拠だがというのだ、その数々の謀や暗殺や皆殺しといった行いがだ。
「あの御仁以上にです」
「松永殿はおじゃるな」
「はい」
 まさにという返事だった。
「剣呑であるので」
「用いてはならないでおじゃるな」
「確かに優れた御仁ですが」
「そもそも出自がわからぬでおじゃるな」
「そうです、何処の生まれかさえです」
「わからないでおじゃるな」
「当初は三好家に雇われた者でしたが」
 それに過ぎなかったがというのだ。
「それがです」
「急に頭角を表して」
「今に至りまする」
「信貴山城の主であり」
「大和の北で大きな力を持つ」
 百万石とされるこの国でというのだ。 
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