異能バトルは日常系のなかで 真伝《the origin》
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第一部
第四章 異能バトル
4-1 招待
訓練を始めてから数日が経った。
幸いなことに学校は夏休み前の短縮日課なので午前中で終わる。
午前授業、午後は下校時間まで訓練といった感じ。
あまり根を詰めすぎても周囲に心配されるし、体力的にもよくないでしょと一十三さんが言っていたのでこのスケジュールとなった。
ただ安藤……いやあのバカは、学校にも来ず兄さんの所で訓練しているらしい。
「今日も返信は、来てませんか」
しかも連絡を返さない。
一十三さんもよく分からないらしく、兄さんが言うには元気にやってるらしい。
「じゅーくん、どうしたんだろー」
「私も昨日もう一回一くんに聞いたんだけどさ。あいつは忙しいからなの一点張り」
いや、連絡くらい返しなさいよと。
あたしは別に心配してないからいいけど。
……。
……いや違うから、まじで心配してないから。
……ほら、連絡つかないと他の皆が心配するじゃない?
鳩子はなんかぼーっとしてること増えたし、彩弓さんは頻繁にスマホを見るようになったし。
千冬ちゃんは……いつも通りか。
まあ、あんまり心配しないのもそれはそれで薄情な気がする。
どれくらい心配すればいいか加減が難しい。
いやそんな打算に満ちた心配は心配じゃないか。
でもちょっと心配してやったらあいつすぐ調子乗るし。うーん。
そんなことをぐるぐる考えていたらいい感じに休憩時間も終わった。
「そろそろ再開しようか」
「はい!」
一十三さんが再開を告げる。
気持ちを切り替えて各々訓練を始めようとした時だった。
部室の扉を誰かがノックした。
「千冬さん、解除を」
彩弓さんが迅速に指示を飛ばす。
滅多に来ない顧問の里見先生?
考える前に証拠隠滅が終わり鳩子が鍵を開ける。
しかしそこにはだれもいなかった。
「たしかに聞こえたんだけどねー」
鳩子が廊下を見回るも人影は見当たらなかった。
「あたしも」
「おかしいですね、私も確かに聞こえましたが」
全員が首肯する。
「いえいえ、なにもおかしくはありませんよ」
気付いた時には精霊が部室のテーブルに立っていた。
「突然失礼しました。わたくしはフォクシー。先日あなた方と戦った山崎さんのいる泉北高校の担当精霊です」
後ろに逆立った黒髪に丸眼鏡、オレンジのスーツ。そして精霊特有の小ささと尖った耳。
「こちらは泉光高校の文芸部室、そしてプレイヤーの皆さんですね?」
「……はい、そうです」
彩弓さんが代表して応対する。
千冬ちゃんのほうをチラと見て
「いや、改めて見ると若いというよりも幼い。それに、男の子がひとり見当たりませんが、もしかして、逃げちゃいました?」
「「「「……」」」」
ニヤニヤとこちらの反応を楽しむように喋るフォクシー。
なんか鼻に付くな。
そこでフォクシーの目が一十三さんに留まった。
「ん? こちらの女性はもしや……」
「黒き十二枚の翼の齋藤一十三よ」
フォクシーの目が一瞬細まる。
「これはこれは、お初にお目にかかります。有名人の方がなぜここに?」
「この子達とは元々知り合いでね、ちょっと手助けしてあげてたんだ」
「……」
フォクシーの顔が明らかに曇る。
「それはつまり、あなた方もこの戦いに参戦するということで?」
「いや、私達は参戦しないわ。その子達がたとえ負けようともね。そういうものでしょ?」
それは遠回しに私達にも伝えてるように思えた。
フォクシーは思案顔だったが
「まさしく。この戦いはサバイバルですからね」
と納得したようだった。
「どうやってここを?」
彩弓さんが改めて問い質した。
「なに、そう難しくはありません。顔と所属さえ分かれば調べるのは容易い。あとは担当精霊の方とお話をしようと思ったのですが」
フォクシーは周囲を見回し、ある一点を見つめた。
「そちらの方は確か黒き十二枚の翼の……」
「ちっ、めんどくせー」
と聞き覚えのある声がし、リーティアが姿を見せた。
「やはりリーティアさんでしたか。お初にお目にかかり……」
「あー、そういう挨拶とかはいい、いい」
フォクシーの言葉を遮りリーティアは話を進める。
「知ってると思うけど、あたしは黒き十二枚の翼の担当だから。たまたまいただけ。そっちはそっちで勝手にやって」
「そうでしたか」
改めて向き直るフォクシー。
「担当精霊が不在であれば直接申しましょうか」
今日はあなたたちを招待しに参りました。
「泉北高と泉光高の決着をつけましょう」
フォクシーは顔をニヤリとさせた。
「ついに来ましたか」
仕掛けてくるタイミングとしては概ね一十三さんの予想通り。いやむしろ遅いくらいだ。
もちろん不安や恐怖はある。
でもここを超えねば穏やかな日々は取り戻せない。
それがたとえ一時的なものだとしても。
以前ならみんな狼狽えていたと思う。
けど今は違う。みんなそれぞれ覚悟を決め、この日のために訓練してきた。
みんなの顔には明日へ向かう意志が感じられた。
「予想よりも強かだったようだ」
動じない文芸部を見て感心するフォクシー。
「ひとりひとりを闇討ちしてもよかったのですが、それは手間がかかる上に今回は北高校の表のメンツが関わっている。前回の敗走を数人に見られてしまいましてね」
精霊は丸眼鏡をきれいにしながら話す。
「わたくし共は早期解決を望んでいます。よって今回は総力戦。そして……」
言葉を切り、みんなの注目を集める。
「日程は明日の午後七時。場所は北高校で。いかがでしょう?」
「少し話し合いをさせてもらいます」
彩弓さんが時間を取ってくれた。
「ずいぶん急だよね」
「うん、それに絶対なんか罠があると思う」
たとえ罠がないとしても学校というステージを把握しているというのは心理的にも情報的にも大きなアドバンテージだ。
わざわざ敵に有利な状況を作ることもない。
「……私はこの条件を呑んでいいと思います」
「え?」
彩弓さんが反対意見を唱える。
「確かになにか罠があるのは確実でしょう。しかし、こちらに用意出来る場所がありません」
彩弓さんの意見に耳を傾ける。
「激しい戦いが予想されます。私達の学校をステージにした時、荒らされた学校がどの位治るのか分かりません。壊されたら元も子もないです」
もし勝てたとしても学校が壊されてたらたしかに意味がない。
「千冬さんの異空間ですがこれは警戒して入ってもらえないでしょう。あとは先日の廃工場ですがこれも相手のテリトリーと言っていい。それ以外の場所では周りに危害が及びます。ですので、多少不利でも相手の学校が最善です」
「千冬も、彩弓にさんせー。思いっきりやれる」
あたしも鳩子もこの意見に頷いた。
彩弓さんに頼りっきりなのは申し訳ないけど。
一応確認のため一十三さんの意見を仰ぐ。
「建物の修繕や人払いとかは委員会と精霊が処理してくれるけど、わたしでもそうするかな。それに、訓練してきた君たちなら多少罠があっても問題ないよ」
信頼できる先輩のお墨付きに
「では先程の条件を飲みます」
彩弓さんが決闘を受けた。
「これはこれは、なんともわたくし共も甘く見られたものだ」
フォクシーは笑みをこぼした。
「条件を飲まなければ別の手を使おうと思っていたのですが、必要なかったようだ。では、明日北高校でお待ちしています」
礼を済ませ、フォクシーはかき消えた。
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