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艦これ 恋愛短編

作者:MONO(暫定)
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文月編

「作戦終了~、艦隊が帰投!」

「……おう、おかえり、文月」

 

 書類から顔を上げた提督の顔には、クマが浮かんでいる。ここのところ欧州への派遣艦隊やそれに伴う遠征艦隊の強化で、提督の仕事が激増。寝る間を惜しんだデスクワークに追い込まれているのだ。

 

「司令官、大丈夫?」

「あ、ああ。まあ大丈夫だろう。……いや、不味いかも……」

 

 提督が目頭を押さえる。

 

「文月、悪いが、コーヒーを入れてくれないか」

「は~い」

 

 緊張感のない、ほわ~んとした笑顔で文月が答える。いそいそと併設された給湯室へ入って、そこに用意している自分のエプロンを付け始める。さながら新婚直後の新妻である。

 

「全く……欧州派遣なんて毎年のようにやってるじゃないか……」

 

 そう愚痴をこぼしながら、立ち上がって伸びをする提督。執務机を離れ、執務室の中央に置かれた応接用のソファーに腰を落ち着けた。

 給湯室ではやかんの沸騰する音に交じって、文月の鼻歌が聞こえる。

 

「あ~、俺の癒しは文月だけってか……」

 

 提督の指に光る指輪。給湯室の文月の指にも、同じものが輝いている。そう、なにを隠そうこの提督の、「ケッコンカッコカリ」の相手は、給湯室の文月である。

 

「いや~、周囲にロリコンと罵られながらも強行したかいがあったというか……」

 

 まあ、事情を知らないものが見ればまごうことなきロリコンなのだが、艦娘はその存在の関係上、年齢の概念がない。法律に引っかからないのはいいことに、「愛さえあれば、そんなものは関係ない!」と駆逐艦との「ケッコンカッコカリ」を行う提督の話は後を絶たないが、彼もその一員である。

 

「司令官~。コーヒー、入ったよ~」

 

 ソーサーに乗ったコーヒーカップを、ちょっとたどたどしい手つきで持ってくる文月。

 

「ありがとう、文月~」

 

 先ほどのやつれた表情はどことやら、満面の笑みで、コーヒーを受け取る提督。そしてそれに無垢の笑顔を返す文月。仲睦まじい……親子のような絵面だが、実際は「フウフカッコカリ」である点が重要である。

 コーヒーを渡して、文月は提督の隣に座る。

 

「ど~お? おいしい?」

「うんうん、おいしいよ」

「そ~お? よかった~」

 

 あまあまである。コーヒーは無糖のブラックだが、あまあまである。

 

「司令官、お仕事大変?」

「あ、ああ。いろいろと重なっててな。ゆっくりと体を休める時間もないって感じだ」

「そ~お。そしたら……」

 

 無邪気な笑みで、文月が自分の太ももをポンポン、と叩いた。

 

「いま、ちょっと休んだ方がいいよ~」

 

 天使だ。天使がそこにいる。心なしか後光も見える。この世には文月教なるものもあるらしいが、この笑顔なら、手を合わせてもいい。

 

「いや、さすがにそれは……ちょっと恥ずかしいというか……」

 

 提督のささやかな抵抗も、むなしく、文月は優しく提督の頭を持つと、自分の膝の上に置いた。

 

「大丈夫だよ~。ここには私たちしかいないし~」

 

 膝の上まで降りてきた提督の頭を、よしよし、と文月の手が撫でる。

 

「司令官は、よく頑張ってるよ~。それは文月が一番よく知ってるんだから」

「文月……」

 

 ああ、なんてよくできた娘、いや、妻なんだ。

 

「文月」

「なあに? 司令官」

「ちょっと眠たいんだが、このまま寝てもいいか?」

「だめだよ。ちゃんとお布団に行かないと。風邪ひいちゃうよ」

「ちょっとだけだからさ」

「う~ん。まあ、ちょっとだけなら……」

「……も~。仕方ないな~。ちょっとだけだよ?」

  
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