異能バトルは日常系のなかで 真伝《the origin》
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第一部
第三章 異能訓練
3-2
前書き
ハーメルンよりUA数の伸びがいい……!
それとなんと全話5p付けてくれた方がいました。お気に入り付けてくれた人も。ありがとう泣、
愛してるよん❤️(二十代、男性)
……はい。それでは続きどうぞー
「はぁ。怖いなあ」
鳩子は落ち着かない様子だった。が、それは無理もない。
時折異能検診と称して異能を使うことはあったものの、それはあくまで異能の変化を見るためであり、相手がいてそれと戦うつもりで使うのは皆ほぼ初めてと言っていい。
ましてや鳩子や千冬ちゃんの異能は殺傷性が非常に高い分、傷つける可能性も跳ね上がる。
「あたしでさえそうだもん。鳩子達はもっとよね」
彩弓さんがいて治せるとはいえ緊張は仕方あるまい。
「気持ちは分かるさ。あとは慣れるしかないな」
そんな事をおれは言いつつ、茶器で優雅に紅茶を飲む相変わらずの千冬ちゃんを一瞥し、訓練の内容についての話し合いに戻る。
文芸部で方針が決まった頃、煙草を吸いに行った一さんとトイレに行った斎藤先輩が戻ってきた。
「それじゃ、お前らの考えを教えて貰おうか」
おれと目配せした後、彩弓さんが説明に入る。
「はい。まずそれぞれの役割ですが異能の関係上、中遠距離は鳩子さんと千冬さん。近距離は安藤くんと灯代さん。私は後方で回復と司令役を担当します。次に訓練内容ですが、鳩子さんと千冬さんのペアで模擬戦闘を。自身と似たタイプの人と戦う事で、自身の弱点や強い立ち回りなどが学べればと思います」
さっきの話し合い(ほとんど彩弓さんとおれの意見)の結果を先輩二人は黙って聞いている。
「おれと灯代は彩弓さんに近接戦を教えて貰いたいと思います。これは異能での攻撃や、自衛の弱さを少しでもカバーするためです。お二人には様子を見てもらって指示やアドバイスを貰えたらと思ったんですが……どうでしょう?」
「うん、いいんじゃないかな、これで」
一十三先輩は納得の笑顔で頷いてくれた。
「ああ、おれも賛成だ。だが、一つだけ訂正する」
寿来は別行動な。
その一言におれは少し困惑した。
「え、じゃあおれは何をすれば……?」
「お前はおれとだ」
一さんの顔がひどく楽しそうに、そして凶悪に歪んだ。
「お前はおれと、模擬戦闘だ」
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「あいつ、大丈夫かなあ?」
あたしはなんとはなしに本音を口にした。
今は彩弓さんとの訓練のため、更衣室で持ってきていた自前のジャージに着替えている。
私達の訓練の場所は道場。
千冬ちゃんが異能で空間を作る時に道場をイメージして作って欲しいと言ったのは彩弓さんだった。
雰囲気のある道場だ。 学校の柔道場が一番イメージに近いか。大きさはそれほど広くなく横幅、奥行きが大体二十メートルくらい。
少し古いが清潔で、これだけの空間を数分で作ってしまう彼女の異能には毎回驚かされる。
しかしなぜ現実的に戦いになりそうな場所ではなく道場なのかは分からない。
準備が整い道場へ向かうと、既に彩弓さんが正座して待っていた。
「お待たせしました」
「構いません」
心なしかいつもより彩弓さんと距離があるように感じる。
「私の判断で訓練場所を道場にしました。実戦を考えれば前回の工場跡や人通りの少ない夜道などが相応しいのでしょうが、私にとって馴染み深いのと、初めての訓練ということで不確定要素の少ないこちらにしました」
思えば彩弓さんとはよく一緒にいるとはいえ一対一で話す機会は少なかった。
だからか今は彩弓さんの感情が掴めない。
「……はい、分かりました」
「また同じく初の訓練ということで武器はお互い使用しないこととします。異能は存分に使って下さい」
もうすぐ始まるだろうという所で私はちらとゲートの方を見た。そこに安藤の姿は見当たらなかった。
「安藤くんのことが気になりますか?」
私は正直に頷いた。
あの兄さんとはいえ異能バトルに関してはこちらよりも遥かに知っているようだ。
助けてくれているのだし酷いことはしないとは思うけれど……。
「桐生さんが指摘したように私達の案では、確かに安藤くんの訓練に関して効果的とは言いきれません。そもそも安藤くんの異能は不明な点が多く、どう活かせばいいか分かりませんし……」
とすればやはり……。
「桐生さんには考えがあるようでしたので任せるのが最善でしょう」
あの笑顔には嫌な想像させられたけど、気にしてもしょうがない。
(後は男なんだから自分で乗り切りなさいよね、安藤!)
私はようやく自分のことに意識を切り替えて前を見た。
それを見て、彩弓さんは納得したように頷くと、構えた。
なんの構えかは分からない。
ただ構えただけなのに何か完成した型のような気がしてわずかに気後れした。
「では」
そして人が全速力で突っ込んできた。
「⁉︎」
「訓練を始めます」
気迫を感じた瞬間に自分が今までどう動くか何も考えていなかったことに気付く。
(異能を使って……どうすれば……⁉︎)
そうこうしてる内に彩弓さんは手の届く距離まで近づくと、更に加速した。
「ぶっ⁉︎ うっ‼︎」
右手で鼻に掌底を受け、手で見えない一瞬、逆の手で腹に拳が入った。
ただの掌底、ただのパンチ。
それが呼吸を脅かすほどに痛い。
苦痛に呻いたほんの数秒の間に流れるようにねじ伏せられ固められていた。
「ここまでですね」
そう言うと彩弓さんはあっさり腕の拘束を解いた。
「異能を発動したものの、どうしてよいか分からず動けない。初めはみな同じと言いたい所ですが、実戦ならば格好の的でしょう」
そう言いつつ彼女は手を差し伸べた。
私は未だに続く苦痛に呻きながらその手を取った。
「本来ならば順を追って教える所ですが一度実戦を経験して欲しいためあえていきなり始めました。……どうです? 初めての戦闘は?」
「……ホントに痛くて涙が出ます。もう嫌いになりました」
「そうでしょう」
でも、と彼女は言葉を続けた。
「だからこそ、彼は凄いと思いませんか?」
そこであのバカの顔が浮かんだ。
「あれだけの傷を受けてなお、仲間を想う。誰にでも出来ることではありません」
「……そうですね」
(おれはみんなを守るために戦う!)
安藤がみんなの前で叫んだ言葉が頭に浮かぶ。
あのバカが大事に思ってくれたように、私だってみんなが大事だから。
「私も負けていられない。お願いします!」
彩弓さんが今日初めて私に微笑んだ。
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訓練場所はいつも異能検診の時に千冬ちゃんが用意してくれていた荒野。
天気は晴れていて暑い日差しの中、強く吹き抜ける風が気持ちいい。
「念の為に命に関わるような攻撃は禁止ね、それ以外はなんでもあり」
一十三さんは私と千冬ちゃんのペアの監督役を引き受けてくれている。
とそこで千冬ちゃんが一十三さんにリッスンを預けていた。
傷つくのを嫌がったのだろう。
普段は見られない彼女の真剣さが感じられた。
先程の不安はどこへやら、今はいい感じに肩の力が抜けていた。
「前にも検診の時に何回か戦ったことあるけど、千冬ちゃん、全然本気じゃなかったでしょ?」
「……本気出すと、鳩子、けがする」
やっぱり手を抜いてたか。
「やっぱり怖いもんね。異能で傷つくのも、傷つけるのも」
「……」
「今まではそれでもよかった。でも、これからは違う。傷つけるのを怖がってたらなにも守れなくなっちゃう」
「……」
「仲間を守って、敵もなるべく傷つけないで勝つ。そのために私達は特訓するんだ。千冬ちゃんはどう?」
「……千冬も同じ」
千冬ちゃんは文芸部のかわいい後輩だ。
ならば先輩として道を示してやろうじゃないか。
「じゃあ、本気で来てね」
「……わかった」
両者、向かい合って
「では、始め!」
一十三さんの開戦の号令が掛かった。
まずは得意の遠距離攻撃。
捕まえたいから属性は……土だ!
この荒野は当たり前だけど地面が土のため精製する分の時間を掛けずに操れる。
人ひとりはゆうに飲み込める量の土砂の波が千冬ちゃんへ向かう。
この規模の土を人に向けたのは初めてだったから固唾を飲んで見つめた。
まあ、千冬ちゃんならすぐ反撃してくるかなぁ。
なんて思いながら見ていたら、ふつーにそのまま
直撃した。
「ええーーっ!」
千冬ちゃんの異能は万物創造。
創姫《ワルキューレ・ロマンス》。
まあ万物創造って言ってるのはじゅーくんだけで実際はなんでもではなく、主に人工物(電気を利用した物を除く)とワープゲートと空間関係を作れる。まあそれだけでも充分凄すぎるくらいだけど。
いつもの千冬ちゃんならシェルターを作るなりして対応してくるはず。
千冬ちゃんの姿は土砂の中へ消えていった。
あの量の土砂を受けたらすごい痛そう。
私が心配のあまり駆け寄ろうとした時、
ドォーンと千冬ちゃんのいた所が爆発した。
「ええーーっ!」
もちろん私はなにもしていない。
砂煙が大量に舞い突風で一時的に爆発地点が見えなくなるなか、私はただあたふたしていた。
そんな絶好の隙を敵が見逃すはずもなく。
どこからかカチャリと音が聞こえた。
目を凝らして煙の奥をよく見ると、
千冬ちゃんの服が軍服になってる……?
頭の中が疑問符で埋まる直前、千冬ちゃんが持っている物に気づく。
あれは……ロケットランチャー?
嫌な予感がして、さすがの私も理解した。
千冬ちゃんの構えと先程の音が示すことはつまり……。
「うそだよね?」
千冬ちゃんはそれに対しこう答えた。
「ふぁいあー」
わたしの悲鳴と爆発音が荒野に響き渡った。
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