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異能バトルは日常系のなかで 真伝《the origin》

作者:獣の爪牙
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第一部
裏返る日常
  1-1 裏返る日常

✳︎✳︎✳︎
携帯に一通のメールが届いた。
見てみるとそこには複数人の名前と、その人物の容姿やら個人情報やらが載っていた。
続けて携帯の電話が鳴った。

「次の相手ですか?」
男は古びたアパートのベランダにいた。
外装はすっかり剥げてボロボロで築年数もかなりの物に見え、リフォームよりも取り壊して新しいものを建てた方がよさそうだ。

「男子高校生一人に女子高生三人。小学生がいるんですか?」
「……」
「異能は不明で、今回はおれひとりと。了解しました」

くすんだ金髪に制服。不良の高校生と思しき男は案の定というべきか、タバコとライターを持って支度をする。

「兄ちゃん、またバイト?」
「ああ、行ってくる」

狭い部屋で特売チラシを見比べる中学生の妹に、強面の男は柔らかい微笑を浮かべる。

「帰るの遅くなるから先食って寝てていいぞ」
りょうかーい、と気楽な返事を背中に受けながら学ランに身を包み家を出た。


✳︎✳︎✳︎


いつものように文芸部で活動(決して駄弁っていただけではない)を終えた放課後。
綺麗な夕焼け色の空の下、文芸部は今日も仲良く全員で下校していた。
「しかし安藤くんには驚かされましたね。平均点の低い倫理で満点に近い点数を取るとは」
「あのケアレスミスが無ければ百点だったのにね〜」
「それな〜」
しかし大好きな倫理でいい点取れたのはやっぱり嬉しい。
内心ウキウキでいると灯代がグループの少し後ろでどんよりしているのが目に入った。
さっき数学で平均点以下を取ったことがみんなにバレたのがよほどキテいるらしい。
千冬ちゃんが灯代の話を聞いてあげていた。
「あたし数学いつも点数悪いから今回は頑張ったんだけどね、でも頑張ったからこそこの結果が辛いというか」
「千冬、灯代が部室でひとり勉強してたの知ってる。灯代は偉い。千冬ならすぐ止めちゃう。算数、まじむずい」
灯代にはできれば先輩として千冬ちゃんにアドバイスぐらいして欲しかったけど。
「そういえばじゅーくんは数学何点だったの?」
「今回は調子よくて八十点だったな」
瞬間、後ろの二人が驚愕の表情を浮かべた。
「うそ、うそよ、あのテストで安藤が八十点だなんて」
「千冬が負けた? アンドーに負けた?」
「どんだけバカだと思ってるんだ!」
ありえないとか、認めないとか酷い言われようだった。
あまりにも疑うので証拠のテスト用紙を見せた。
「なんらかの異能で偽装工作を行った。そういうことね?」
「算数のためにそこまで。アンドーすげー」
「どんだけクズだと思ってるんだ!」
そこでようやく彩弓さんと鳩子がフォローしてくれた。
偽装のような使える異能は持ってませんとかじゅーくんはおバカだけど勉強はそこそこだよとか。
あれ、もうそれディスってね?
しかしおかげで二人も納得してくれたようだ。
「未だに信じきれないけど、安藤ごときが厨二の癖に勉強だけはそこそこ出来るのは分かったわ。安藤、あたしに数学を教えて」
「どんなお願いの仕方⁉︎」
「千冬はいい。アンドーに教わって勝つなんてことは千冬のこけんに関わる。一人で勝つ。ペットに負けるのは主人として許されないことだから」
「おれいつペットになった⁉︎」
そんなやりとりを見て彩弓さんと鳩子はくすくすと笑っていた。




✳︎✳︎✳︎


みんなと別れてから少し経った頃。
見慣れた帰り道の途中には人通りが少なく暗いトンネルがある。
歴戦の猛者であるおれでさえ毎回通るたびに寒気を感じる。
早く通り抜けようと急ぎ足で歩いていると、前から来た人と肩がぶつかった。
「おい」
うわあ。
確かにこの通路は狭いとはいえ二人は普通に通れるし、なんならこの人今自分からぶつかってきたように見えた。
あまり関わらない方がいいな。触らぬゴッドに祟りなしだ。

「お前が安藤寿来か」

足が止まり思考が巡る。あれ、こいつと知り合いだっけ?
目の前の男は短い金髪。強面でいかにもヤンキー。顔をよく見てみるも記憶にそれらしき人はいない。
「おれは北高の山崎って言うんだけどよ、ちょっとツラ貸せよ」
北高といえば偏差値が低く治安が悪いことで知られている所だ。
名前にも聞き覚えがないので逃げるが吉とおれは早足でその場を後にしようとした。

「さっきの女は櫛川だったか?」

(こいつ鳩子のことも知ってるのか?)

「あいつも異能を持ってるらしいな」
「⁉︎」

動揺を隠せたかと問われれば自信がない。
この展開を待ち望んでいた自分もいたはずなのに、いざ直面してみるとあるのは疑問と未知への恐怖だった。
(どうすれば……? 誤魔化してみるか? それともみんなを呼んだ方が……、いやおれの危険は少ないがみんなを危険な目に遭わせることに……)

「お前がダメなら次は女の方だな、あまり気は進まねーが。なあどうする……っと」

その言葉を聞いた時自分の中にどす黒い怒りが生まれた感覚がした。
「おー、そう睨むなって」
チンピラはニヤつきながら言った。

「で? どうする?」

決まりだ。

こいつはおれ一人で相手する!

「いいぜ。付き合ってやるよ」
「そういうの嫌いじゃねーよ。付いて来な」
そう言うと二人は暗いトンネルの奥へと入っていった。
 
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