| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

人類種の天敵が一年戦争に介入しました

作者: C
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第23話

 
前書き
はい、いつもの次はガンダム詐欺でした

知ってた? あ、そう

知ってたの……

どこかにガンダム落ちてないかな

どこにいったんだろ

 

 
 ジオン公国による第二次降下作戦が全体目標を達成しつつあるころ。ジオンの壺マニアことマ・クベ中将は、執務室で優雅にティータイムを楽しんでいた。
 テロリストの『無差別』破壊活動により北米に駐留していた地球連邦軍は大損害を被った。その混乱や劣勢を立て直す間を与えること無く、大量の補充を受けたガルマ・ザビ大佐率いる北米方面軍が大攻勢に出たことで、遂にニューヤークは陥落。地球連邦軍の残存部隊の主力はフロリダ半島から南米に脱出しようとしたが、折悪しく発生したノーイ―スターで海路を絶たれて孤立した。地球連邦軍の回収部隊は主力部隊と合流を図ったものの、海が大荒れに荒れて接岸出来なかったのである。沖合いから機を窺っていたが状況は回復せず、そうこうしている内にジオン公国の北米方面軍が地上部隊に追い付き、これを包囲。波に揺られる回収部隊は主力部隊が降伏するのをただただ眺めることしかできなかった。
 その後の掃討戦、制圧戦で、各地に散った地球連邦軍の北米駐留部隊は各個撃破され、ごくごく一部の部隊が中米から陸路で南米に脱出するに留まった。結果的に地球連邦軍は旧アメリカ合衆国系の精兵のほとんどを失ってしまったことになる。

「これほど上手くいくとはな。天候不順という天の機、半島という地の利、勝つべくして勝ったということか」

 嫌味なほどに自慢になるので声に出すことはないが、最大の要因は指揮下の三割の戦力を増援として送り込むことでなし得た人の和であろう。即ちマ・クベの決断で第二次降下作戦は成功したのであるから、多少の不都合があっても気にせず紅茶を楽しめるというものだ。
 欧州方面も概ね順調だ。欧州方面軍はマ・クベ自身が統括する予定だったがこれを改め、欧州方面西方軍と欧州方面南方軍に再編成。ユーリ・ケラーネ少将が西軍を統括し、ノイエン・ビッター准将が南軍を統括し、二方向から独自に攻略を進めている。欧州方面軍を完全に部下に任せたため、マ・クベの直接の指揮下いるのは、オデッサ近辺の部隊、アジア・インド方面軍の残余の部隊を残すのみだ。それすら書類上の話で、実際の部隊の多くは定数割れどころか再編成の結果として消滅している。
 ユーリ・ケラーネ少将の西軍、ノイエン・ビッター准将の南軍、ガルマ・ザビ大佐の北軍に戦力が分割されたため、マ・クベはあくまで地球侵攻軍の総司令官としてオデッサ基地で全体の調整をすることが主な仕事となるだろう。とりあえず軍司令官としては階級が低過ぎるため、ガルマ大佐は北米攻略完了に合わせて、つまり近日中に准将になる。その後、欧州攻略完了と共に地球侵攻軍の再編成が追認され、主だった司令官が昇進する予定だ。ユーリ・ケラーネ少将は中将に、ノイエン・ビッター准将は少将に、ガルマ・ザビ准将(予定)は少将になる。当然、マ・クベ中将も昇進して大将になるだろう、と言われている。連邦軍の宇宙における拠点はルナツーとサイド7を残すのみ。地球侵攻作戦が続く現状、マ・クベの支配する領域、人員、戦力は増えることはあっても減ることはない。中将では立ち行かなくなるのは目に見えている。何しろ現時点ですら、ジオン公国軍全将兵の半分近くが地球に、つまりマ・クベの支配下にあるのだ。新しい地位と更なる権限が無ければ地上で戦争指導などとてもやってはいられない。現状ですら色々限界なのだ。昇進の前に欧州方面軍を分割して手放したのも、必要に駆られてやむを得ず、という一面がある。

 とはいえそれらはまだ少し先の話。北米方面軍に大盤振る舞いした結果として手元のあれやこれやが必要最低限度を割り込んでしまったマ・クベとしては、現状では本国に補給の催促をしたり、現地人と友好関係を築くために外交するくらいしかやることがない。出来ることがない、と言っても良い。マ・クベはオデッサ基地の司令も兼ねるが、実際に運営するのは部下達であり、マ・クベの関与することなどほぼ存在しない。本国への催促も既に終えていて、残るは周囲との外交交渉のみだ。
 侵略者であるマ・クベ達の見込みでは現地人との折衝に苦労する筈だったのだが、予期せぬ追い風によってこちらもトントン拍子に進んでいた。

 とあるテロ組織が次々に連邦勢力圏で焼き討ちを行うため、ジオンに庇護を求める都市や地域が続出したのだ。テロ組織の声明は常に反地球連邦を謳いジオン公国のジの字もないが、反地球連邦である以上、ジオン公国側の立場を表明すれば、地球連邦側として虐殺対象になることは避けられる、筈である。
 もちろん、公然と地球連邦からの離脱、ジオン公国への協力を表明すれば、今次大戦を地球連邦が制した場合、報復あるいは懲罰でひどいことになる。そのため、はじめは無防備都市宣言を表明することでお茶を濁そうとしていたが、そのような不心得者は核の炎とコジマの輝きの中に消えていった。
 無防備都市宣言とは、ここには戦力が無いから協定を守って人道的に対応してね、という意味であり、ジオン公国軍が相手ならともかく、反地球連邦政府を掲げるテロリスト相手には無意味だったのだ。テロリストにとっては地球連邦政府による統治を認めるか認めないかが攻撃対象になるかどうかの判定基準であって、戦力の有無は二の次というか、全く気にしていないのである。
 そのため無防備都市宣言だけでは虐殺を止められず、地球連邦軍にはこれを防ぐ力もなく、結局はジオン公国軍に占領されることを望む都市が増えている、というのが現状だ。
 地球連邦政府としては連邦からの離反は業腹だが、北米陥落の衝撃があまりにも強すぎた。首都を擁していた旧アメリカ合衆国ですら地球連邦政府は護りきることができなかったのだから、旧東欧諸国に向かって、必ず護るから地球連邦に残ってくれと言ったところで説得力は皆無。むしろ、地球連邦に残るから護ってくれと言われたところで護ることができないという抗いがたい現実があるのだ。それを思えば、無防備都市宣言そのものは妥協点としては悪くない。
 地球連邦軍は構成国の軍隊を統合しているため、構成国独自の軍事力は極めて乏しい。二線級部隊のはずの州軍が他国の一線級すら上回り、地球連邦軍の他に潤沢な戦力を有していた旧アメリカ合衆国は例外とするべきであって、その旧アメリカ合衆国ですら自国を護りきることが出来なかったのだから、東欧の小国家群なら何をか況んや、である。いきなり離反せずに、無防備都市宣言しても良いですか? とお伺いを立ててくるだけありがたいくらいだ。
 だいたい、地球連邦政府はジオン公国を独立国として認めて来なかった。そのため今次大戦を国家間の『戦争』と位置付けておらず、開戦時には法的に戦時中ではないため兵の除隊が相次ぎ戦力はスカスカ。南極条約で正式に戦時体制に移行したが、コロニー落としの影響で戦争どころではない地域が多く、再編成は遅々として進んでいない。これで構成国に向かって理想のために戦って死ねと言えるのは、人類史上初の統一政体という理念に取り憑かれているレビル中将か、面の皮が戦艦の装甲並みに厚いゴップ大将か、自国フランスが占領されるかどうかの瀬戸際にいるコリニー大将、コリニー大将のことが他人事ではないイギリス出身のワイアット中将など、超の付くタカ派か自らの権力基盤が危うくなっている人間だけである。権力の中枢にいない東欧諸国からすれば、どうぞ御勝手に、という話だ。
 南極条約における外交的敗北、北米陥落という軍事的敗北が、地球連邦政府の根幹すら蝕みはじめている。そしてその双方にマ・クベは関わっている。南極条約締結の際には使節団の代表として参加し、先の北米攻略はまさにマ・クベの増援で勝てたのだ。更にはどこぞのキチガイのおかげで、敵対するはずの各自治体の首長、駐留部隊の司令官らが求めずとも寄ってくる。ジオン公国は南極条約の批准はしたが、ハーグ陸戦条約にもジュネーブ条約にも批准していない。無防備都市宣言を受け入れるも拒絶するも現地の最高司令官、すなわち地球侵攻軍総司令官マ・クベ中将の胸先三寸。

「これが笑わずにいられるものか、フッフッフ、フハハ、ハーッハッハッゲフッ、ゴホッ、ゴホッ」

 独り言からの悪役三段笑いと慣れない大笑にむせかえる主を見るウラガン中尉は、心の中で嘆いた。

「……お痛わしい」
「グッフ、ゴホッ、なっ、何か、言ったか、ウラガン」
「いえ、何も」

 どうやら副官は心の声が漏れてしまったようだった。ニューヤーク攻略が成ったと聞いて喜び、ガルマ大佐の乗機が撃破されたと聞いて青ざめ、下手人は所属不明のモビルスーツと聞いて泡を吹いて昏倒したマ・クベ中将だ。それから数週間が経ち、ようやく精神が平衡を取り戻したところに北米制圧完了の報であるから、ウラガンとしてもその心中は察して余りある。
 だが、しかし。
 いささか浮かれすぎではないだろうか、とウラガンは考える。確かに北米制圧完了の報は喜ぶべきこと。しかし、影に日向に尽力してきたマ・クベを見てきたウラガンにとっては、それは当然の勝利である。もともと血色の良くない顔を土気色にし、痩せた身体を更に窶れさせ、寝食を惜しんで戦力をかき集め、血を吐くようにしてそれを手放した。そんなマ・クベの姿を、ウラガンは隣で見てきたのだ。マ・クベ中将以外の誰にこの偉業を成し得よう、と思うものの、常のマ・クベであれば

「当然の勝利だ」

 の一言で終わらせていた筈だ。あるいは何も言わないか。とにかく、主が軍事について一喜一憂しているという事実が、ウラガンにとっては信じがたい光景だ。
 一言で言うと、マ・クベ中将は余裕を失っている。少なくともウラガンの目にはそのように映る。今も一見優雅に紅茶を楽しんでいるようだが、紅茶を淹れたカップがアンティークではなく軍の備品という選択が焦りの現れだ。壺や皿は落とせば割れる。軍のカップは落としたくらいでは割れないし、紅茶は溢しても拭けば済む。落として割ることを恐れて趣味の骨董に手を出すことができていない。それほど驚くべき事態の勃発を意識している。
 ウラガンの既知の範囲で言えば、すっかり閑古鳥が鳴くようになったオデッサ基地以外には問題らしい問題はない。ならば何か自分の知らない要素が絡んでいるのでは、と考えてみれば、それはおそらく最近話題のテロリスト達だろう。これについてはマ・クベ中将自身がほとんど一人で対応しているため、副官のウラガンですら把握していないことが多いのだ。しかも優先順位が相当高いらしく、何をおいてもまずテロリスト、といった塩梅だ。おかげでウラガンの組み上げたスケジュールなどは有名無実、改められることの多いこと多いこと。
 正直、あまり、面白くは、ない。
 あるいは、急遽設立された独立重駆逐戦闘団という秘密部隊か。これを隠れ蓑にして、ずいぶんと物資や人材を動かしているようだ。
 ……そういえば、独立重駆逐戦闘団に配属された士官がいたな、とウラガンが思い出した時、司令官室に通信が入った。カップを置こうとしたマ・クベを制し、自分の執務机のスイッチを押す。

「ウラガンだ。何か」
「独立重駆逐戦闘団のレンチェフ大尉から通信です。お繋ぎしますか?」
「頼む」

 一瞬だけ画面が乱れると、通信画面に男の顔が映る。角張った顎、睨み付けるような眼差し。レンチェフだ。

「レンチェフであります。先に通達を受けました戦闘団への人員の追加派遣について、司令官閣下にお伺いたいことがあるのですが、お繋ぎしていただけるでしょうか」

――なんとも間の悪い男だ。

 ウラガンは内心で吐き捨てた。ウラガン自身の思いだけで言えば、マ・クベに通信を渡したくはない。現在のマ・クベの抱える仕事量は、一頃の殺人的な質と量に比べれば無いも同然だ。そしてこの状態は本国からの補充が届くまで持続する。司令官の健康にも留意する副官としては、この期に、補給が到着するまでの数日間は養生――休養ではない。養生である――していただきたい、と考えている。なのに問題児が通信を入れてきたのだ。しかも人事という地雷案件。

「マ・クベ司令、独立重駆逐戦闘団のレンチェフ大尉から通信が入っています」

 だが、残念なことにウラガンは司令官ではなく副官だった。副官は司令官への取り次ぎ役だが、取り次ぎ役であるが故に、取り次ぐだけということがままある。多忙な司令官のスケジュールと話の軽重を合わせて勘案し、取り次ぐ順番を決めるのが仕事であり、もちろん副官の一存で却下できるものもあるが、残念なことに独立重駆逐戦闘団についてはそうではない。司令官ではなく副官でしかないウラガンに、マ・クベに繋がないという選択肢を選ぶことは出来なかったのだ。

 ウラガンの仏頂面から放射される、さっさと切り上げて休んでください、という意思を努めて無視しマ・クベはレンチェフとやりとりをする。

 その結果。

「ウラガン、幕僚を招集する。議題はオデッサ基地への新型モビルスーツの製造ラインの設置とそれに応じた施設の拡張だ。技術者については今日の深夜に到着する予定なので、明日以降で調整してくれ」
「わかりました」

 頷くなりウラガンは高速で端末を操作し始めた。このウラガンという男、愛想の欠片もなく、頭が鈍いのではないかと思わせる外見に反して、非常に仕事が出来る。マ・クベ中将ほどに高級将校ともなれば副官が複数、秘書や事務官が鈴なりになるのが通例だが、マ・クベはマ・クベで身の回りは一流品で固めたい男であり、それは側近の人事にも及ぶ。その無意味に厳しい人物鑑定眼が選び抜いた人材がウラガン中尉なのだ。その事務処理能力は伊達に一人で副官を努めてはいない。判断にクリエイティブな要素が全くないのが難と言えば難だが、当たり前で無難な意見しか口にしないということは、ある意味で一つの目安ともなる。口も忠誠も固く、傍に置く副官としてこれ以上の人間はいない。
 なおマ・クベ中将の信頼を独占しているウラガン中尉も、マ・クベの昇進と共にウラガン大尉になる予定だ。同時に主席副官となり、部下として次席副官や待望の事務官が配置される。マ・クベが身辺に一流品しか置きたくないので、ウラガンの下に置くしかないのだ。中尉では階級の上で難があったが、昇進することでそれも解消される。今いる下士官クラスのスタッフと新参の士官、下士官のバランスや権限の問題もあるだろうが、そこは実際の人品を見極めてからの話で、今気にしても仕方ない。確実なのは、マ・クベの殺人的業務量に付き合わされるのが自分だけではなくなるためウラガンの負担が軽くなるということだ。素晴らしい未来といえる。
 地球侵攻軍総司令部の予定表と主要幕僚の予定表を確認しながらウラガンは口を開いた。

「司令、新型モビルスーツというと、ジオニックではなく……」
「ツィマッドのものだな。独立重駆逐戦闘団で試験運用していたものだ」
 
 平然と答えるマ・クベだが、これは事前に用意されたカバーストーリーだ。実際は今次大戦の開戦前からリリアナとツィマッドの間で開発が進んでいたもので、マ・クベでさえ存在を知ったのはごく最近だ。リリアナとツィマッドの独自開発などとは口に出せないため誤魔化している。

「模擬戦でザクⅡを圧倒したらしい。レンチェフの操る試作機が先日派遣した選抜組のザクと3対1で、勝負にもならなかったそうだ」

 そう告げられたウラガンは、驚きのあまりキーを一つ叩き損ねた。新型の試作機とはいえ、ザク三機を同時に相手取って圧倒するなど、俄には信じがたい。たとえ乗り手のレンチェフ大尉がエース級のパイロットだとしても、だ。打ち間違いをいつもの仏頂面で修正する。

「こちらのパイロットの腕に問題があったわけではないのですね?」

 ウラガンが口にするそれは誰もが思い付く可能性だが、その可能性はマ・クベの返答に粉砕された。

「三人は、確か、ニムバス・シュターゼン、シン・マツナガ……ヴェルナー・ホルバイン、だったか」

 人事は地雷。ただし核地雷だったようだ。 
 

 
後書き
ガンダムは家出中ですけど、ドムは見つかったようです。

前から見つかってましたけど。

拙作では型式番号が違うと思いますけど、そういう作品ということで。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧