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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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Innocent StrikerS
  Duel:01 再会を夢を見た日

 
前書き
 本編から少しそれて、大切なイベントルートへ。 

 
――side響――

 夢を見た。皆が……一部は居ないが、それでも殆どがいる夢を。

 それはとても暖かくて、懐かしいと思えてしまった。そんなに時間が経っていないはずなのに、ついこの前のことの筈なのに、だ。

 空を見上げると、夕暮れ時の赤と、夜の紺色が入り混じった空。ビルの屋上にいるせいなのか、空が近く手を伸ばせば星に手が届くんじゃないかと錯覚するほどで……。

「居た、こんなところに居たんですね。風邪をひいちゃいますよ」

「……平気だ」

 自然な動作で左隣に座るけど、僅かに体を動かして距離を……隙間を空ける。

「……今日はシチューを作ってみましたので、その……おかわりとかして頂けると……その」

 表情こそ見えないが、声のトーンからして何処と無く落ち込んでるのが分かる。なにか声を掛けようにも、口を開けば暗いことしか吐かないこの口。だから、そっと左腕を上げて。頭を撫でてやる。沈みかけてた空気が明るく暖かくなるのを感じながら。

「フフ、もう少しであの人も帰ってきます。では、先に戻ってますね」

 不意に下へ向って飛び降り、去っていくのを見送る。
 一応、ステルス掛けてるんだろうとは言え、さも当然のように空を飛ぶのはどうかと考える。
 ま、他に同じ事出来るやつは居ないわけだから問題ないとは思うけど。

 ふと、手を動かすとコツンと左手に何かがぶつかった。なんだろうと視線をずらす。するとそこにあったのは……。

「大事なもん忘れてんじゃんか……きっと探すだろうし、さっさと帰るか」

 ゆっくりと立ち上がりながら、落ちてるブレイブホルダーと、データカートリッジを手にとって……。そのまま屋上から―――


 ―――――――――


「うわ、落ち……え?」

 ガクンと頭が落ちたタイミングで目が覚めた。俺の膝にはフェイトが眠ったままで、枕元にははなも眠ってる。

 何があったっけ? あー、そうか。リュウキとアーチェが遊びに来て、酒で俺が変わるってバレて……そうこうしてたら、なのはさんとヴィヴィオの定期検診の時間が来たから二人共そっちに行ったんだ。アーチェとリュウキもそろそろって出ていって……。
 そうか、フェイトが起きないからそのままぼーっとしてたら、眠ってしまったんだ。

 が、不思議な夢だなーと思う半面。夢の中で何で俺はビルの上に居たのやら? そもそも、夢の中で夢を見るというこの矛盾よ……。

 いや、それ以前に。

 あのシチュー作ったって言ってた子……あれ、流の様に見えたけどな。つーか、会えないからって何でこう……夢まで見始めてんだ俺は。しかも俺の声も変にハスキーだったしな。
 知らない名前の道具もあったが、あれは一体? 夢にしてはやけにリアルだったが。
 は、寂しい子供かよと自嘲気味に目元を覆ってると、ふと気づく。なんかフェイトってば泣いてない? 突然の事に慌てていると、静かに目を開けて、バッチリ視線がぶつかる。一瞬驚いたような顔をした後、嬉しそうに。

「凄く嬉しい夢を見たんだ」

「そう。ちなみにどんな?」

「私が居て、なのはが、お姉ちゃんが居て……。母さんもリニスも、ヴィヴィオも居て……皆で戦って……あれ?」

 戦うって……えぇ? 思わず首を傾げてしまうが。そんな様子が面白かったのかクスクスと笑われる。だけど、未だに眠そうな顔をしてるから。

「まだ時間あるから今は眠っていいよ」

「……うん、ありがとう」

 すぅっと、そのまま瞳を閉じて、眠りに落ちてゆくのを見届けて。
 元の姿なら抱いて移動とかできたんだろうけど、今の姿だと、それは叶わない。まぁ、元の姿でも怪我と怪我で無理なんだけどね!

 しかし、まぁ。夕方まで時間空いた訳だし……。 

 俺ももう一眠りしようかね。そして、願わくば……もう一度……。


――side奏――

 さて、もうひと頑張りしようと思っておりましたが、なんと私……仮眠取るためにアースラに来てたことを思い出して、1人で笑っていました。
 とりあえずまぁ、アースラに設置されてる仮眠室の一つを借りて中に入った所で……。

「「あ」」

 はやてさんとばったり。あれ? アースラに着いた辺で別れたはずなのに。

「いやなー。奏のそっくりさん登場を見抜けなかったのは皆にも非があるってことでなー。一端仮眠取るなりして休憩をって話になったんよ」

「あ、わかりました。だったら隊長が先に休んで、示してくださいって押し切られたんですね?」

「うぅ、その通りや……」

 トホホと項垂れるはやてさんを見ながら思わず苦笑。まぁ、皆の気持ちも分からなくもない。一番上が率先して休んだら皆も休みやすい訳だしね。

「それにしても楽しみやわー。今回も見れたらええけど……ちょっとした出動もあったし、今回は熟睡やろうなー」

「うん? なんかあったんですか?」

 にこやかに仮眠室のベットを容易しているはやてさんの言葉を聞いて首を傾げる。見れたらいいって多分夢の話だけど、なにかいいことでもあったのかなって。

「んー、まぁ夢のお話なんやけど。最近なー、遠くへ行ったうちの子の夢を見るんや。夢の中での私は本屋の店主。ヴィータは小学生で、シグナムは大学生で、シャマルは医大生。リインはちょっと留学中で……」

「す、凄いリアリティのある夢ですね……びっくりです」

 しかし、ここで違和感が一つ。遠くへ行ったうちの子……がリインさんにしてはちょっと違和感。それにしてはあんなに懐かしそうな顔はされないはずだし。もしかして……先代のリインフォースさんの事を指してるのかな?

「さ、時間もないしさっさと寝るでー」

「えぇ、そうしましょう」

「ふふ」

 お? ベットに入ったと思いきや、嬉しそうに笑って……どうしたんでしょう?

「奏。受けてくれて……ほんまにありがとうな」

「こちらこそ……誘ってくれてありがとうございます」

 正直な所、私なんかでいいの?っていうのが強い。だけど、理由はどうあれ誘ってくれた以上報いたいなって考えて……。


――sideギンガ――

「おかえりギン姉ー。響達寝てたー?」

「ううん、響だけは目が覚めてたよ。多分今頃フェイトさんと話してると思う」

 アースラの食堂で皆と待ち合わせて、着いてそうそうにそれを伝えると、皆喜んでた。スバルもティアナも。特にエリオとキャロは兄の様に慕ってる人が目覚めたと聞いて凄く喜んでる。
 
「なら、エリオ、キャロ。響の所に行ってきなさいよ。こっちは私がするから」

「え、でも……」

「そうすると、ティアさんが……」

 二人の言葉からまだまだ仕事は残ってるというのが分かる。だけど……。

「気にしないの。フェイトさんもいるなら、皆で……お母さん交えて、少し話をしたらいいじゃない。えーと、響パパだっけ?」

 からかうようにそう言うと、二人の顔が赤くなった。フェイトさんはそれとなく隠してるみたいだけど……ナンバーズの子達経由で、大体事情知ってるのよね……。知らないのはフェイトさんと、さっき目覚めた響だけだし。

「だから行ってきなさいよ。1人で作業したいときもあるし。私もナンバーズの子達の所に行こうって考えてたし」

「それなら……」

「お言葉に甘えて」

「うん、いってきたらいいよー」

「うん、エリオもキャロもいってらっしゃい。後は年上に任せなさーい!」

 スバルが元気よくそう言うと、二人が駆けていくのを見送る。そして、残った私達はと言うと。

「よーし、ティア早速仕事頑張ろー!」

「アンタは仮眠室。ギンガさんもここの所連勤でしたし、仮眠をどうぞ」

「へ? え、あ、だって今……」

 突然のティアナの言葉に思わずスバル共々焦っちゃう。

「ついさっき皆に一度休憩を取るようにって伝達があったんですよ。そして、はやてさんも休んでるみたいですし、私はまだ余裕がありますし……ライトニング組の仕事の変わりは私で出来るし……ねぇスバル?」

 凄くにこやかなティアナに対して、露骨にスバルが視線をそらす。コレは……私が居ない間に何かあったな。

 だけど、ティアナの提案を断る理由もないし……。うん。

「分かったならお言葉に甘えましょう。スバル行こう」

「うぅ……ごめんねティアー」

「はいはい、さっさと行った。それではギンガさんまた後で」

 項垂れるスバルを連れて、食堂から仮眠室へと移動を初めて。

「ギン姉……その、響と話せたの?」

 ポツリと聞かれて、一瞬足を止めそうになって……。

「……うん。ちゃんと文句も言えた。私のとりあえずの目標は果たせたよ」

「そっか、なら良かった!」

 ニパっと笑うスバルを見て、改めて思う。

 ここ数日響が再びダウンしてから時間を縫って様子を見に行ってたけど……きっと皆を心配させてたんだろう。それに、響にはまだ伝えてないけど、チンクやディエチ、セインも心配していたことを次に響に会った時にしっかり伝えないと。

 それにしても……。

 あーぁ。フェイトさんに響が目覚めてたってことを伝えた時のあの表情を見た時、私の恋は終わったんだなぁって。
 
 だって、あの時年上としてではなく、1人の女性として喜んだフェイトさんがそこに居たんだもん。既に二人の間に絆は紡がれてるんだって、今一度分かって……。
 コレはしばらく引きずりそうだなぁって……はぁ、大変だ。

「さ、仮眠取って少しお休みしましょうか」

「うん! そう言えばアーチェとは会えたの?」

「会った。てっきり怒られるかなーって思ってたけど、そんなことなくお互い無事で良かったってお話したよ」

 へーって笑うスバルを横目に、病院で会った時驚いたっけ。松葉杖ついて動こうとして看護師さんに止められてる所を見ちゃったもんだから凄く驚いた。
 曰く、響達の顔を見るんだって聞かなかったみたいだし。仕方ないから看護師さん達が車椅子出して、私がそこまで連れてったっけ。
 
 その時にはリュウキさんはまだ居なかったし……まぁ、あんな凄いと言うかなんというか。変わった人だとは思わなかったけど。

 さぁ……て。

「寝て起きたらまた話してあげるから、仮眠とりましょ?」

「はぁい。今日もあの夢見れたら良いなぁ」

「うん。また子供の頃の夢、見れたら良いね」

 最近の楽しみを思い出しながら、布団を被って……あぁ、起きたらまた頑張ろう……。

 ――――

――side?――

「……おや?」

 隣から、嫌な疑問系の声が聞こえて思わず振り返る。とりあえず手を止めてそちらに視線を向けて。

「……え、いや。いやいや! まだ私は何もしてないさ! まださ!」

「まだ何も言ってませんよプロフェッサー? で、何があったんですか?」

 ジト目で眼の前の変態博士を睨みつける。その視線に気づいたのか目を逸しつつも……。

「いや何……変な反応があるなーって、それだけさ。ちょっと……いや、少し……いや、結構」

「大事ではないですか。数値、見せて下さい」

「え゛? いや、平気さ平気だとも!」

「……貴方の天敵の妹さんに伝えますよ? きっと私が泣き真似含めたら……」

「こちらで御座います」

 慌てた素振りから即座にデータを開示してくれた。さすが妹さんには弱いと分かってたけどコレは流石に卑怯かな、なんて考えながら、データを見ると……。

「あれ、コレって……」

「やはり気づくか……その通り、似てるんだよ。君たちがそれぞれやって来た時と」

 データを直ぐに地図と照らし合わせて、その座標を割り出して……って、うわぁ。三ヶ所の別れてることに気づく。

 そして、一番は……。

「プロフェッサー。私はジェネレーターの方へ向かいます。一端外へ避難を。そして、私が合図するまで中には立ち入らないように」

「うむ、お願いしよう。なにか手伝えることはないかい?」

「研究所の方に連絡だけを。二人にはこちらから依頼を出しますが……博士にちゃんと伝えてくださいよ? でないと、また疑われますよ?」

「ハハハ、勿論さ。今回は関係ないからね!」

 高笑いをしながら携帯端末を片手に部屋から飛び出るプロフェッサーを見送って。即座にジェネレーターの方へと向かう。
 するとそこには、黒と金色の光が迸っていた。

 そして直ぐに。

「緊急連絡。今から3分以内にプロフェッサーの研究所地下ジェネレーターと、書店のジェネレーター、そして研究所のジェネレーターに転移(・・)反応があり。対応を依頼したいです」

『了解、書店の近くにいたからそちらは自分が当たる。研究所は?』

『はいはい、私が行くよー。ってかこっちでも反応キャッチしてたから依頼出すところだった。そっちは平気なんだね?』

「えぇ、既に対応用意をしております。平気……だと思いますが、御二方、くれぐれも注意を」

『『了解』』

 直ぐに通信を切って、これから来るであろう者に備える。あの人と私達で一例目、この前の未来からの来訪者で二例目。そして―――

「今回で三例目。そしてそれは……私達と酷似した反応ならば……願わくば悪意を持ってない人ならいいんだけ、ど。

 ―――さ、やろうか。アンサラー。フラガラッハ!」

『『Jawohl.』』

 背後に大小四門の砲身を展開、同時に両腕の側には二本の双剣を展開。計6つの武装を展開して構える。誰が来ても、何が来ても対応できるように、最新の注意を払って。

 光が収束していくのを見ながら今一度構える。

 そして―――

 何故か爆発、煙が部屋をジェネレーター室を埋め尽くした。



――side?――

『すまないが、お願いするよ! 御礼は今度しよう!!』

「あ、ならば。今度アンリミテッドで遊んでみたいです。耐久テストにもなりますしちょうどいいのでは?」

『なるほど……それはいいね。やってみようか』

『お二人とも! もう収束始まってるのに悠長ですよー!』

「あぁ、ごめん。じゃあちゃんと避難しててくださいねー」

 そう告げて通信を切って、目の前の光の渦を見つめる。色は明るい青と藍色が入り交じって……なんというかコレ、エアーマンかな? 倒せないよー、あの竜巻ーとか言ってたらいいかな?
 昔良く皆が口ずさんでたなぁ、懐かしいや。

 しかし、流石に冗談言ってる場合じゃあ無くなってきたから。

「やろうか?」

『えぇ、しかしお嬢? いきなり敵対してると思われては不味いのでは?』

 懐からロザリオを取り出しながら、それを持って剣に変えながら話す。

「まぁそうだね。だけど、アポ無し訪問は失礼だし、何より場合によっては……ね?」

『……まぁこの世界にとって我らは異物。それくらいのほうが良いでしょうかね。来ますよ』

 剣を構え、渦を見つめる。何時でも来てもいいように。

 そして、光が……渦が一際膨れたと思えば―――

『対閃光防御』

 短い音声を聞きながら、まばゆい閃光に一瞬目を逸してしまう。次いで、閃光と共に渦が消えたと思えば……何故か白煙が上がってて、何が来たのか見えない。

「何が来たか……分かる?」

『……済まないなお嬢。一つ問題が起きた。眼の前に二人転移してきた、あちらも戸惑ってるようだが、あれは人か? ゆりかご(・・・・)に居た王と似た者であるが……』

「……は……ぇ?」

 その言葉を受けて、体が震える。剣が……エクス(・・・)が言うことに嘘とは思わないが、それでもだ。

 だって、それが本当だとしたら……。

「「あ!?」」

 煙が少しずつ晴れて行き、私の方からも、あちらからも姿が確認出来るようになって……。

「……嘘……ってことは。あと二箇所はもしかして……。あ、やっば! ごめんね。二人共!! 突然で悪いんだけど、多分何処こことかいろいろあると思うんだけど、ちょっと……ちょっとだけ待ってて、ね?!
 
 博士ー?! ごめんなさい。この二人敵でも何でも無いので、その……お茶でも、そして、名前聞いても、そうだと判断してくれると感謝です!! 今度お詫びしますんでお茶ぁあああ!!」

 通信端末使って、博士に依頼を出して、即座に研究所の表へ飛び出て……。

「緊急連絡! 嬉しい訪問だけど、不味い訪問でもあることが判明!! とりあえず近い順から行くから待っててね!!」

 認識阻害を付与して空を征く。やべぇやべぇ、こっちにあの二人でよかったけど、残りの二箇所……下手したら大変なことになる……やべぇ急がないと!!


――side?――

『しかし……そんなに危険なのか? うちは偶々メンテというか、この時間帯は人が少ないからお休みしていたんだが……』

「……まぁ、この前みたいにおとなしい子らって可能性もないし。あまり言っても信用されないだろうけど、ね」

『そんな事は無いさ。主が留守の間に大変なことにならなくて済みそうだからな。助かってるさ』

「……そっか。そろそろ来るだろうから、また後で」

 通信を切って、深くため息。別に面倒というわけではない。もしかすると、と希望を抱くから。だけど……自分の場合来た所で、という問題が発生する。
 まぁ、どちらにせよだ。敵なら縛ればいいし。無害なら喜べばいい。幸い二人が帰るための手段をいろいろ用意してるわけだしな。

 気がつくと、白の渦が収束、そして弾けた。

 一瞬眩しくて、目を逸らす。光の中に二人の反応が現れたのが分かった。何時でも武装を抜ける様に構えながら気配を伺う。
 
 感じられる気配は、困惑しているというのが分かる。

 だが、それ以上に自分の身に違和感が一つ。魔力が……リンカーコアが脈打つ様な、そんな感覚。

「ケホッ、ケホッ……なんやコレ? 何がどうしてこうなったん? ドッキリ?」

「まさか。ケホッ、さっきの今でそれはないでしょう……というか、皆忙しいのにそれはない」

「やんなー」

 少し大人びたよく聞く声と共に、懐かしい声を聞いて、涙が溢れそうになる。もう二度と会えないと分かってるのに、それでも……つい、この名前を呼んでしまった。

「かな……で?」

「え?」

 煙が晴れると、そこに居たのは二人の人物。この世界にないはずの部隊の、陸士隊の上着を手に持ったはやてさんと、同じ様に上着を持った奏の姿がそこにあった。
 
「え、あの……いや違うな。質問に答えてください。ここは何処で、あなたは誰で……そして、なぜ私の名前を知っているのか。答えて頂けますか?」

 早抜きの様に両手に銃を、デバイスを展開してその銃口をこちらに向けてくる。奏の後ろにいるはやてさんも杖を展開しているが、おそらく六課の誰かと連絡を取ろうとしているのだろう。
 声が震えそうになるのを堪えて、とりあえずは敵意が無いということをしなければ。

「済まない。俺に……当方に敵意は無い。願わくば銃をこちらに向けないでくれると助かるかな……って、え?」

 奏に会えたという事に感激していて気づかなかったが……ちょっと待て、何でこの奏は……ショートカットに? なぜ? どうして?

「? 突然こんな施設の一室に入れられては、敵対の意思はないと言われても信じられると?」

「え……あぁ、確かに。だが……すまないが、俺にそれを証明できる手段もないし、とある事情ではやてさんを、今外に出す訳にはいかない」

 何とか落ち着きを取り戻すが……しかし困った。証明する手段が無いし、今言ってることは無茶なことだというのも分かってるが……どうするか。

「……フフ、変わった人ですね。気に触ったらごめんなさいね。せっかく白銀のポニーテールで、綺麗な人なのに、俺って。何処と無く私の仲間に似てて」

 フフと笑う奏の笑みを見て、思わず眉間にシワがよるのが分かる。

「いやあの悪気があるわけじゃないの。ただ、なんというか全然違うのに凄く似てて驚いたなって」

「……はぁ。まぁいいけど」

『緊急連絡! 嬉しい訪問だけど、不味い訪問でもあることが判明!! とりあえず近い順から行くから待っててね!!』

 俺のデバイスから聞き慣れた声が響いた瞬間、奏とはやてさんの目が丸くなった。だが、しまったとか考えてる場合じゃないが……この反応は。

「応えなさい。今聞こえた声は、私の親友の声に酷似してたけど?」

 再度銃口を向けられる。しかも何処と無く焦りを含んでるのが分かるから、余計にしんどい。

「あぁ、確かに知ってる声だとも。お察しの通り……この声は―――」

『書店フロアから業務連絡。そちらに今1人通したぞ』

「!!」

 ……最悪。タイミング悪すぎ。書店側からの連絡を……その声を聞いた瞬間はやてさんの目が見開いた。

 こちらはあっちを知ってるけど、あっちは俺を知らないから……戦闘となれば、おそらく手加減抜きで来るよなぁ。だが、地響きに似た音とともに、何かが高速で降下する音が聞こえてくる。
 その音の正体を知らない二人は警戒を解かないが、俺はその音がなにか知ってるからこそホッと胸を撫で下ろす。今度はタイミングバッチリだから。

 そして、同じフロアに着いたと同時に……。

「呼ばれて飛び出て私が見参! こっちには誰が来た……の……って」

 振り返ると、見知った金髪がそこにいた。だけど、ここに来た奏とはやてさんの顔を見て、困惑したような表情になって。

「ッ……奏だあああ!!」 

「え、あ……ああ、震離ぃい!!」

 今の今まで俺に銃口向けていたのをやめて、銃を武装を解除して駆け出す。このフロアに着いたばかりの震離もまた、奏に向って駆け出して。強く抱き合った。
 震離から聞いた話を思い出す。最後に別れた時、あんまり説明する間もなく別れて、ただ無事に帰ってくると言うことだけを伝えてから、世界を離れたらしい。
 だからなのか、二人はお互いを確かめるように抱き合って……そして。

「よかっだぁあああ。奏だぁああ、ようやっと会えたぁあああ。何で髪短くなっでんのぉおお」

「わた、私……元三佐に負けて、海に落ちた時に氷割れてそのまま髪ごと氷が砕けて、それで……ってか、震離何で、もう会えないって言ってから行ったの……凄く悲しくて、辛くて……私、私……!」

「言ってないよぉおお、だって、皆にちゃんといってくるからって別れて、その後キュオンさんとヴァレンさんと別れてから、飛んだもぉおおん」

 ……めっちゃ涙を流して抱き合ってます。はやてさんもなにか思う所があるのか、若干涙を浮かべてその様子を見守ってる。

 しかし、妙だな。僅かに話が噛み合ってないようにも思えるが……気のせいか?

『こちらプロフェッサー側。予想外の来訪者に驚いていますがそちらはどうでしょうか?』

 震離のデバイスからの音声に、またしても奏とはやてさんの動きが固まるが……震離は変わらずおいおいと泣いてて。代わりに……。

「あぁ、こちら書店側。こっちに震離も来てるし……あぁ、こっちは奏とはやてさんが。震離の方はわからんが、そっちは?」

『……なんと、え、あ……の、その。大丈夫、ですか……?』

 この大丈夫の意味がわかるからこそ、ため息が漏れる。

「あぁ平気だよ。まだ……。で、そっちは誰が来たの?」

『……えーと、その……先ずはフェイトさんが。そして、融合騎の子……いえ、はなと、その主の―――』

 その後の名前の予想が着いて……動悸が起こり、呼吸も浅くなるのが分かる。

『―――響さんが来ました』

 あぁ……くっそ、何で俺に厳しくしていくんだろうなって、もし神がいるなら殺したくなるほどに。

 だけど、意識が遠のいていって……。

「あ、やば……―!!」

 遠くで震離が俺の名前を呼ぶ。再開した時に呼んだ名前で。

 震離曰く、俺と震離と流が初めて出会った時に名乗ったという名前で呼ばれても……今一反応できないんだよなぁと、のんきなことを考えながら、意識を手放した。

 


――side響――

「コレはどういう……?」

『わ、分からないです。明らかに病院では無いです。でもなぜこんな場所に私達がいるのか……』

「でも、既に囲まれてるのは分かるよ」

 煙が上がる中で、フェイトと背中合わせで警戒に当たる。
 病院のベッドの上に居たはずなのに、気が付けば煙の中。体は女子のままだが、咄嗟にはなとユニゾンして警戒している。

 しかし……。

「変な感じ……」

『そうですか?』

 違和感しかねぇ。なんというか、男の時と違ってユニゾンしたら……サイズが合ってなさすぎて、ちょっと動きにくい。
 この辺りは要調整かな?

「昔の私のバリアジャケットのデータ渡そうか?」 

『あ、頂けるなら。いろいろ選択肢がありますしね』

「え、遠慮しときますぅ……」

 良くわからん煙で、既に囲まれてるっつってんのに、この緊張感の無さよ……。

『煙が晴れます』

 はなの一言と共に、直ぐに構える。囲んでるのは4つ、フェイトの正面に3つ。本当は俺の正面だったんだけど、慣れてないなら私がやるって変わりました。
 だって、この姿で初戦闘で初ユニゾンとか不安しか無いって言われたし。
 
 そして、煙が晴れると、周囲を大小二つづつの、計4つの砲身が取り囲んでいる。しかもそれぞれしっかりこちらに照準を合わせてる辺り、抜目がない。

「え……な、え?!」

 俺の後方から狼狽えるようなそんな声が聞こえる。そちらに視線を向けたいが、下手に動けば撃たれかねない。何時でも抜刀出来るように構えてるが、この姿で何処まで戦えるかわからない以上、防ぐことを一番にするかね。

「時空管理局執務官、フェイト・T・ハラオウンです。武器を下ろしてほしいのと、この状況の説明をお願いしたいのですが?」

 一切ぶれること無くフェイトが告げる。だが、その間もあちら側はこの状況を飲み込めて無いようで。

「え、あ、モードリリース」

 あちら側がそう告げると共に、砲身が消えて、気配が一つになったのが分かる。俺も刀から手を離して、背後を見るために振り向くと……。

 茶色いショートカットに、後ろ髪を一束に纏めた、長身の……どっちだあれ? 女性とも男性とも取れる人物がそこに居た。背丈的にはフェイトより、少し低いくらいかな? 左目が蒼く、右目は角度的に髪で隠れて見えない。

 だけど、その容姿を見てると何処か懐かしくて……。根拠も何も無いのに、どういうわけか敵ではない、と考えてしまう。
 フェイトも同じ気持ちらしく、あくまで敵対ではなくて、説明を求めてる辺り不思議な感覚なんだろうなって。

「要求に応じてくれてありがとう。それで、この場所は―――」

「いえ、その説明よりも……一つ確認したいことがあります。良いですか、フェイトさん、響さん(・・・)。そして、はな(・・)?」

 反射的に刀に手を掛ける。さっき名乗ったフェイトはともかく、俺はまだ何も言っていない上に、俺の中にいるはなの名前まで言い当てやがった。

 フェイトもそれを察して、バルディッシュを持つ手に力が入ってるのが分かる。

 だが、不意に部屋の中を灰色の閃光が走ったかと思えば……。

「お久しぶりです。になるんでしょうかね?」

 光が収まったと共に、長身の人物は消えた。代わりにそこに居たのは、見知った茶髪のショートカットに、赤と蒼のオッドアイの……。

「機動六課所属……いえ、最後の時は異動命令が出てましたからコレは誤りですね。とにかく、時空管理局所属の風鈴流空曹です」

 白衣を纏った流がそこに居た。そう認識したと同時に息を飲んだ。俺が最後に流と会話したのはヘリの中の……通信だったし。会話をしたとは言い難かったし。

「ほ、んとに……流?」

「はい。ただ、どうして響さんがその姿を維持しているのか気になるんですが……それはどういう?」

 嬉しそうに笑ってる。だけど、その目からは涙が溢れてて……なんか最後に合った時と違って感情が凄く豊かだななんて考えるけど、それよりも。流の元へ駆け寄って、そして。

「無事で良かった!!」

「お二人も!!」

 ――――――

 泣いてる流が落ち着くまで待ってた。その間にユニゾンも解いて、デバイスの展開を解除してと。いやしかし、この姿でよかったような、そうでもないような……背丈同じくらいだからちょうどいいけど絵的にはどうなんだろう?
 フェイトは微笑ましいって様子で笑ってるし。はなもその隣で笑ってたし……ってか、なんかアウトフレーム最大にしてるのは初めて見るから驚いたけど。

「さて、落ち着いた所で話を聞きたいんだけど?」

「えぇ、そのつもりなんですが……少々お待ちを。
 こちらプロフェッサー側。予想外の来訪者に驚いていますがそちらはどうでしょうか?」

 軽く鼻をすすりながら、右腕に着いた銀色のリングに話しかける。見たまんま通信なんだろうけど……震離もいるんだろうか?

『あぁ、こちら書店側。こっちに震離も来てるし……あぁ、こっちは奏とはやてさんが。震離の方はわからんが、そっちは?』

「……なんと、え、あ……の、その。大丈夫(・・・)、ですか……?」
 
 おや? なんか知らない声と言うか、なんだろう、変に親近感が……ってか、奏とはやてさんも来てるんか。まじかよ。流も予想外と言った様子で目を見開いてるし。

『あぁ平気だよ。まだ……。で、そっちは誰が来たの?』

 通信の主の声と共に流の視線が俺に向けて、気まずそうに視線を泳がしてから。 

「……えーと、その……先ずはフェイトさんが。そして、融合騎の子……いえ、はなと、その主の……響さんが来ました」

 それの僅か後に、通信の向こう側で誰かが倒れたような音が聞こえ、そこで途絶。それを聞いた流はしまったと言った様子で、しぶそうな顔をしてて……。

『通信変わったよ。私の方はスバルとギンガが。今は博士が見てる……はず、なんだけど』

「えぇ、気を失った。ですね? とにかく一端集まりたいですが……。研究所に行けば良いでしょうか?」

『うん、一応時間的に学校(・・)が終わった頃だから……注意しながらこっちに来てね。あとの手筈は私がどうにかするから……やっべ、頭痛くなってきた』

「あー……まぁ。えぇ、こちら以上に大変でしょうがお気をつけて、では後ほど」

 そのまま通信を切って、深くため息を吐いて……。

「さ、説明するにも場所が悪すぎるので。移動しましょう……あ、もう一つ、その前に……。プロフェッサー? そのままでいいんで、一端。一端隣のお家でお茶でも、いろいろ不味いものがあるんで、触っちゃダメですよー?」

 と、何処かに叫ぶように言ったあと、インターホンの様な音が響いて。

「……まぁ、不味いものも何も、移動したら何も残らないんで大丈夫ですけどねー……さ、行きましょうか?」

 と、言われるがまま、部屋から移動を開始して……上のフロアに続く階段を登る。なんというか研究所の癖に、なんかお家っぽいのは何でだろ?

「あ、外に出たら飛んで移動するので、認識阻害を」

「うん、分かった。響はユニゾンしてからだね」

「……ぅぇ、マジか」

 思わずうわって顔をすると、クスクスと流が笑う。
 なんというか、本当に感情豊かになったなって……。そのまま連れて行かれてドアの前に行くと。自動ドアのごとく開いて……ガタンと途中で止まった。

 そこから見える外は……なんというか、何処かの住宅街の様な道が見えるし、ミンミンとセミも鳴いてる。

「あ、そうだ。出たと同時に直ぐにある程度上昇してくださいね? 後ろは見ちゃダメです、絶対ダメですからね?」

「「……分かった」」

 やけに強く言う流に圧倒されて、フェイトと揃って首を縦に振る。まぁ言われた以上見ないけど……また見れるだろうか?

 そのまま外に出たと同時に、三人揃って急上昇して……え?

「なんというか、町並みは凄く日本チックなのに、今出てきた施設、すっごく浮いてんな」

 周りは普通に住宅街というか、家があるのに、出てきた場所だけ近未来的なというか、浮いてると言うかそぐわないと言うか……しかも空き地に建ってるように見えるし。
 でも、そんな事よりも……フェイトが不思議そうな顔で町並みを見たり、海を見たりといろいろ見てるのが気になった。

「どったの?」

「え、う、ううん。なんでもないよ?」

 と、慌てて否定するけど、明らかになにかあるじゃないですかヤダー。

「さ、行きましょう」

 そのまま流の案内に従って移動を始めました。

 ――――――

 しかし、なんかデカイ研究所みたいな場所に来て、裏口っぽい場所から入ったけど。何だこの施設。
 まさか流が騙した? とは考えたくないけど、なんかなぁ……。
 しかもフェイトはフェイトで、なんかぶつぶつと。

「見覚えがあるけど、知ってる場所と違う……だけど」

 1人長考してますし。地上に降りてからははなとユニゾン解除して、歩きにくそうにしてるはなの手を取って歩く。
 しかし、人と会わないなぁ、何でだ? こんだけデカイ施設なら人くらい居そうなもんだけど……。

 なんて考えてると。

「さ、着きましたよ」

 と、大きな部屋……というより、シミュレーター室みたいな場所に通されて、そこには……。

「あ、フェイトさん……と、え、何で!?」

 奏と目が合った瞬間、一瞬で首を傾げて、直ぐに魔力で分かったのか驚愕してるし、その近くにはスバルやギンガ。そして、すっごく難しそうな顔をしたはやてさんが居て……。

「あ、はやて! ちょっと良い?」

「フェイトちゃん……私も聞きたい事あるんやけど」

 と、会うや否や、直ぐに情報交換し始めたし……しかも流もなんか気がついたら居ないし。
 とりあえず、そこでわからない様子のギンガとスバルに説明するために、はなと奏を味方に着けて。
 
 ―――

「へぇ、響女の子になれるようになったんだ? かわいい!」

「あ、ば、ギンガ馬鹿。やめ、やめろぉおお?!」

 両脇に手を突っ込まれて高い高いされました……。

 あと、そこで大口開けてる爆笑してるスバルは絶対しばくと決めました。


――side流――

「ごめんなさい博士、ここが一番都合がよくて……その!」

「ははは、大丈夫。震離君から事情は聞いてるし、僕たちは構わないよ。君たちという存在を知らなければ大いに取り乱してた筈だけどね」

 文字通り朗らかに笑う博士にひたすら頭が上がりません。震離さんからの連絡でここを避難場所にしましたが……おそらく移動している間にフェイトさんは違和感を感じてしまっただろう。コレばかりはどうしようも出来なかったし、かと言って指定し過ぎは不味いし……。

「そう言えば……震離さんは? ユーリも何処に?」

「あぁ、ユーリ君なら、娘達を止めに行ったよ。コレも震離君のお願いだけどね。で、震離君なら……」

 博士が視線をずらして、その視線を追い掛けて……うわぁ。ぐでんぐでんに、軟体動物のように、椅子にもたれ掛かってらっしゃる……。

「あ、はは……どうしよう流ー? あの奏達、どうも私達が知ってる方ではないみたいなんだけどー?」

「……はぃ?!」

 その言葉の意味を理解して、思わず変な声が。

「え、それは……どういう?」

「一番に奏と私の話が合わないのと、その容姿の違い。そして何よりも。あの(・・)奏は、振られてしまってる」

「……そんな。あ、だから響さん、フェイトさんを呼び捨てにしてたんですね」

「え、マジで?!」

 シャキンと一気に立ち上がって驚いてる。しかも目が凄くキラキラしてるなぁと。やはり女性はこういうお話が好きなんですね。一部例外も居ますけれど……。

「やはり、あの子もそうなんだね。はやて君は、GMモードに比べるとちょっとだけスタイルが細いね」

「ほぼ誤差だと思いますけどね。多分GMモードは家族を見ながらの姿でしょうしね」

 博士の言葉に、苦笑を交えてお返事を返して……。

「あ、そうだ。倒れたみたいですけど大丈夫でしたか?」

「微妙な所。大丈夫だとは思うし、そのままあっちに預けてきたし……はやてさんに見せないように必死こいて隠したけど。どうしようか?」

「……えぇ、どうしましょう」

 はぁ、と二人して深いため息が漏れる。

「……とりあえず行こっか?」

「……そうしましょう」

 足取りが重くなるのを感じながら、皆さんがいる場所へと移動を始める。

 しかし……本当にどうしましょう? 響さんと奏さん、そしてはなはともかくとしても、はやてさんやフェイトさん達は不味いんですけどね。

 いや、説明しても問題はない……? いや、だけど……ヴィヴィオの件のお陰でこちらはきっと受け入れられるだろう、だが、反対にこっちに来たフェイトさん達はどうだ?
 説明しても納得を得られるかどうか……いやでも、何時帰せるかわからない以上、ここに缶詰なんて出来ないし……。

「顔こわーいよ」

 後ろから震離さんが抱きついて、顔を頭に乗せて来るのを感じながら。

「怖くもなりますよ。だってどうなるかわからないんですよー?」

 震離さんの両手を取りながら、ぷらぷらと体を揺らして。

「……なんかもうー、あれかなーって。いっその事口裏合わせさせて、合わせようかなって。
 感の良い人たちには事情を話して……だから、博士とプロフェッサーには全部話して。もう直接会わせようかなって。だって、宿の問題もあるしねー?」

「た、確かに。失念してました」

 そうだ、7人という大所帯、一箇所に纏めるのは出来ないし、私達のお部屋も、よくて二人くらいしか泊めれないし……。

「……事情を知ってるから合わせるのが怖いなぁっていうのは分かる。だけど、裏を返せばここは……皆幸せに楽しく暮らしてる世界でもあるから。だから怖いのは一つだよ。この世界に残りたいって言わないかどうかって事。
 でも、丁度良かったんだよ。違う世界からの来訪者。それは私達のよく知ってる人たちだけど、わずかに異なる、皆を返す事は、私達も次へ行くべき時が来たって。そのための研究も調査も大詰めを迎えそうだからね」

「……えぇ」

 彼女の右腕に頬を寄せながら、心を落ち着かせる。気が付けば皆さんがいる部屋の前に来てた。もう一度深呼吸をしてから。

「よっしゃ行こっか?」

「えぇ行きましょう」

 扉を開けて、中へと入った。


――side?――

 目が覚めると、そこは知らない……場所って訳ではないな。掛けられたタオルケットを畳みつつ、とりあえず店舗の方へ移動して。

「やぁ目が覚めたのか?」

「済まない、世話を掛けた」

 今日の店番に見つかり、素直に御礼を返す。まぁここにいるって分かってたからここを目指したわけだし……。

「で、何があったんだい? 震離も大急ぎで入ってきたから驚いたよ」

「そんくらい大変なこと……なんか見た?」

「いいや。震離からお願いされたからね。見ては居ないよ。あんなに必死な顔で言われたから驚いたっていうのはあるけどね」

「さいですか。()……いや、自分からもお願いするよ。また後で来るよ」

「あぁ、それじゃあまた。そろそろ主も散歩から帰ってくる頃だしね」

 後ろ手に手を振りながらお店を出て。研究所の方へ歩き始める。
 飛んでもいいけど、今はそんな気分じゃないし、それ以上に心がざわついてて、落ち着かせたかったし……。

 ふと、道を行く白い制服の子達を見つけて、懐にしまった懐中時計を確認して納得。

 そろそろ皆が来る頃だ、と。だからさっき散歩も終わる頃だって言ってたわけか。

 しかし……今日はシステムメンテの日でもあったから他のお客さん達も居なかった訳だし。だけど、そうすると……あの子達、研究所に集結するんじゃないか?
 皆でデッキ(・・・)がどうのこうのって言ってたし。

 ま、良いか。そのへんも流と震離ならなんとかするだろうし。

 ……しかし、響が来た。ねぇ……。

 コレはある意味でチャンスか。もし話をして、もし……俺が予想したのと同じならば。

 俺の……望みを叶えられるかな? 

「ふ、はは。馬鹿だなぁ俺は」

 馬鹿な事を考えてしまったことに自嘲気味に笑って……涙が溢れた。
 
 

 
後書き
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