戦国異伝供書
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第五十六話 高僧の言葉その九
「むしろ凌駕するな」
「尾張は六十万石、伊勢と志摩は八十万石」
「それではな」
「今川殿の駿河と遠江、三河の百万石を上回ります」
「そうなるな」
「はい、ですから」
それでというのだ。
「今川殿も進めませぬ」
「そして両家がいがみ合う間にな」
「我等は美濃に進みましょう」
「それではな」
「はい、その様に」
「是非共」
こう言ってだ、そしてだった。
晴信は善徳寺に行くことをよしとした、そうしてそのうえでこれからのことも考えていた。その中で。
幸村にだ、晴信はこう告げた。
「お主と十勇士も善徳寺にじゃ」
「お供せよとですな」
「うむ、頼めるか」
「喜んで」
幸村は晴信に満面の笑みで答えた。
「そうさせて頂きます」
「そう言ってくれるか」
「それがしお館様の為なら」
是非にと言うのだった。
「例え火の中水の中」
「供をしてくれるか」
「お館様が言われるなら地獄の果てでも」
「ははは、死んでもか」
「お供させて頂きます」
これが幸村の言葉だった。
「是非共」
「そして地獄ではか」
晴信は幸村の熱い言葉に笑ってこうも言った。
「銭を使うな」
「当家の家紋六文銭ですな」
「地獄の沙汰も銭次第じゃな」
「はい、ですがこれは」
「お主の祖父や父か」
「あの方々がになりますな、それがしは地獄に落ちても」
例えそうなってもというのだ。
「それが罪ならばです」
「潔くか」
「はい、受けて」
そしてというのだ。
「償います」
「潔いのう」
「そう言って頂けますか」
「お主らしい、お主の様に清々しい者はな」
その心がというのだ。
「他におらん」
「地獄に落ちてもそうだとは」
「そうじゃ、だから十勇士達もついてきておるな」
「それがしには過ぎた者達です」
まさにとだ、幸村は晴信に十勇士達のことも話した。
「家臣であるだけでなく」
「友であり義兄弟達であるな」
「そうです、生きるも死ぬも共にと誓い合った」
「そうした者達じゃな」
「それがしの様な者には」
「そう言うか、しかしな」
「それでもですか」
「お主がそう言うのはな」
まさにというのだ。
「それこそがじゃ」
「それがしにですか」
「あの者達がついてくるのじゃ」
「そうなのですか」
「それでじゃ」
「あの者達にもですか」
「供をしてもらう」
こう言うのだった。
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