魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第75話 あれから3日
――side響――
ゆりかごが爆発……と言うより内部から消滅したと同時に意識を落とした。正確には爆発の光を見た時、俺の中から何かがごっそり抜け落ちた、そんな気がしたんだ。
次に目を覚ました時、知らない天井が見えて。ベッドで横になっていた。そのまま体を起こすと左右のベッドには煌と優夜がそれぞれアホ面晒して眠ってた。枕元には暁鐘と晩鐘が置かれてたけど、はなの姿は見えなかった。
両足が動かないなーと思ってよくよく見れば両足にはギプスが着けられているし。前が開くタイプの病院服の隙間からは、胴体……主に胸のあたりは包帯でぐるぐる巻きだし、なんだかなーと。言うほど傷は深くないと思うんだけどなーと。
不意にガチャンと何かが落ちた音が聞こえて、そちらの方に視線を向けると。
見知った紫の長い髪の女の子が……。
拳を向けて飛んできました。
「危ね!? 何すんだよギンガ!?」
「……ッ! ッ!」
ベットに乗り上げ、マウントポジションからの飛んでくる両腕を捌いて捌いて、何とか手を取って……。
「落ち着けって。どうしたよ?」
「……ぐすっ、うぅ」
子供をあやすように、ボロボロと泣くギンガに声を掛ける。落ち着くまで少々時間があって、何か怒らせるようなことをしたかと考える。
で。最後にギンガに別れた時のことを思い出して……それだと気づいて。
「ずっと……ずっと、私のせいで死なせたんじゃないかって。あの時しがみついてでも一緒に戦えばって……!」
……そうだよな。まだ、何も言えてなかったもんな。
「……ゴメンな。ギンガ」
ギンガの気持ちを聞いて、謝る以外の言葉が出てこなかった。
今日が何日か知らんけど。俺が連れてかれてから数日経過してるはずだし。
「……ぅ゛」
ドスッとギンガの頭が俺の胸に刺さる。両手を離して、抱えるように頭を抱いて。
「……ゴメンな。ずっとそんな気持ちを抱えたままにして」
グスグスと涙を流すギンガを見ながら、今更ながらあの時のミスを思い返す。だけど、あの局面何が悪いって俺が算段が甘かったことなんだよなぁ。
どうせ躱される、防がれるなら、本気で斬り払って距離とって離脱……の予定が、チンクを盾にするなんて想定外にも程がある。
結果、無理に止めて一気にひっくり返って敗北してしまって、連れて行かれたし。
まぁ、そのお陰でゆりかご戦に参加出来たわけでもあるから結果オーライなのかね。
あーでも駄目だ。それは結果論だし宜しくないわ。
しばらくギンガが泣き止むまでその体勢を維持してると。
遠くから看護師さんの怒鳴り声が聞こえた。それは一度ならず二度、三度と続き、徐々に大きくなってきた。看護師さんが怒鳴る声は一同に「廊下は走らないで下さい!」と誰かに向って言ってるようだ。
元気が有り余ってる子なのかな?と考えていると。徐々に走ってる足音が聞こえてきて……。
「寝坊助共よ! 今日も遊びに来たぞー!!」
紺色のジャージを着た、金髪のツンツンヘアーの男が勢い良く入ってきたのが見えて、一瞬目を丸くする。久しぶりに会えたということもあるけど。先ずは一言。
「うるせぇ馬ぁ鹿!」
久方ぶりに会うリュウキを見てホッとしたなぁと。
だけど、ここで一つ問題が……。
「ぁ」
ふと、リュウキの視線が一箇所を向いて固まる。なんだろうとこちらもその視線を追いかけて。
「あ」
固まる。
視線の先にはギンガ。よくよく考えれば、今の体勢って、マウントポジションを取ったギンガが、俺に抱きつくような姿勢。ギンガもリュウキと俺を往復するように見て首を傾げてる。ふと、自分の今の体勢に気づいたのか徐々に顔が赤くなっていき。それをみたリュウキが一言。
「すまん邪魔した。ただカーテン閉めてやってね!」
ひゅばっと、反転してダッシュで部屋を出ていくリュウキを見送る俺ら。
はぁ、と空気を吸い込んで。
「ギンガ、あの馬鹿止めて! 殴っても死なねぇから!」
「行ってくる!」
すぐにギンガを送り出す。流石にあの馬鹿も冗談だとわかってるんだろうけど……それでもこのタイミングで着てくれたのは有り難い。
ただまぁ、ギンガとは多分初対面か、もしくは数回会っただけだけど……多分大丈夫だろ、ギンガも笑ってるように見えたし。
だから遠くで絶叫が聞こえてるのは気の所為だろうって。
――――
「いやー……ゲフッ。参った参った……ッ。アーチェに絞られたくらいボコられたわぁ」
若干血が滴るジャージを纏って、鼻血を出してる馬鹿こと、リュウキがボロボロになって戻ってきた。ただ変だなーと思うのがギンガの姿が見えないこと。
「で、ギンガはどうしたのさ?」
「ギンガ……あぁ、あのリボンの可愛い美人さんか。なんか金髪ロングの美人さんに呼び止められて外行ったよ。それにしても良い拳だった。強くて美人良いね!」
……おっと? リュウキはギンガの名前を知らない、と。でもコイツさっき言ってたんだよな。今日も遊びに来たって。もってことは俺が意識をなくしてから数日経過してるわけで。
「早速で悪いんだけど……俺が倒れて何日たった?」
鼻をこすって血を拭って。
「3日だね。俺は体感で数年だけどな」
その後色々話を聞いた。先ずは一番気になってること、ゆりかごに残った2人がMIAとして認定された。消滅してる関係上死んだと見たほうが良いという意見もあるが、それでも死んだという決定的な証拠が出ない限りはMIAで通すと決定が下されたらしい。
次に今回の主犯であるスカリエッティと、その協力を行った元三佐。どちらも非常に非協力的で、後者に至ってはずっと口を紡いでいるとの事。
さて、今まで六課と敵対してきた黒い侍のアンノウンこと、リュウキなのだが。スカリエッティの元で戦ってた記憶は全く覚えていないらしいのと、アコース査察官が保護観察官となったことである程度の自由が許されたらしい。
これはスカリエッティのアジトでアーチェを庇い護った上に、大量のガジェットの物量に押し負けそうになっていたシスターシャッハを助けたという功績が評価されたみたいだ。
ただ発信機を取り付けられて居ることから、アコース査察官の力を以てしても、完全に容疑が晴れた訳では無いそうで。
今まで自身が覚えていないとは言え、ナンバーズの子達が『正しい教育を選択できなかった』として、管理局が指定した海上隔離施設にて再教育を受けることになる時に共に入所、聖王教会側の人としてアーチェと共に教育に当たるらしい。
コレに関しては特に可笑しいことではない。元々俺達のいた訓練校とは、一応選択肢として騎士にも魔導士にもなれるタイプの学校だった。リュウキは元々騎士を目指し、騎士学校ではない場所から目指してたと言うだけで、間違いではない。
少しそれたが、それ以外だと、スカリエッティに従っていたナンバーズの1番と3番、4番、7番は協力する気はないとのこと。ただし3番と7番はまだ話を聞いてくれそうで、今後も説得は続けるらしい。
で、話を聞いて、終わった頃に……。
「さて響。俺はお前に言わないといけないことがある」
今までのおちゃらけた雰囲気とは一変、真面目な表情でその場を立つ。
そして――――
「リュウキ・ハザマニ等空尉。只今帰還致しました。遅くなってしまって申し訳ございません、艦長代理」
敬礼をするリュウキを見て思わず呆気に取られる。だが、直ぐに表情を戻して。
「ハザマニ尉。帰還を歓迎する―――良かったよ、またこうして会えたのだから。あと、今の俺の階級は空曹だよ?」
お互いににやりと笑って。
「は、じゃあまずは焼きそばパンでも買って来てもらおーか、アーハァン?!」
「よっしゃ行ってくる」
「え?!」
上官殿の命令なのでせっせと用意を始める。焼きそばパンかー、何処にあんだろうなー。
「冗談だって、ごめんて。まじごめんて!」
「はは、相変わらずマジになると慌てるのな」
ケラケラと笑うと、バツが悪そうに頭を掻いてため息一つ。
「……まぁ、俺は今後どうなるかわかんねーけどな。気がついたらアーチェが死にかけてて、知らないデバイス片手に持って。なんか全身痛かったし、それをこらえてアーチェ連れて中入ったら、トンファー持った騎士が苦戦してたから手助けしてって、この数日で色々合ったしなぁ」
「シスターシャッハかー。そうか、アーチェが戻してくれたんだな。良かったじゃん」
「よかねーよ。そのアーチェは足脱臼の中々の重症だぜ? 俺もレリック? だかなんだか良くわからん破片が残ってるだので未だに入院だしな。暇だぜ全く」
「……ん?」
コイツさらっと追加の情報言いやがった。
「あ、そうだ。あと一つ。ヴァレン・アルシュタインと、キュオン・ドナーシャッテン。そして、その時の聖王ヴィヴィアン陛下の歴史検証やり直すってよ」
「……そっか」
ふと、流と震離の顔が思い浮かぶ。何であいつらがその2人と行動を共にしてた理由がわからないし。
まぁ、帰ってきたらおかえりって言って。先ずは飯でも皆で食べて、労わないとなぁ。
「なぁなぁ? お前ら機動六課? とか言うところに配属されたんだろ? どんな所なんだ?」
目ン玉キラッキラさせてリュウキが言う。と言っても、普通……ってわけじゃないけど、いざ説明するのも面倒だな。本来の目的を話す訳にはいかないし……あ、そう言えばコイツ……。
「トライアングルエースが居るよ。俺と奏の小隊の隊長がフェ……ハラオウン執務官で、震離と流……あぁ、震離とコンビの子の名前な。そこの隊長が高町教導官。部隊長には八神はやてさんが居るよ」
一瞬静寂というか、リュウキがフリーズして。カタカタと震え始めたと想いきや。
「いーぃなぁあああ!! 管理局でも指折りの美人オブ美人じゃん! 昔その人らのサイン会行きたかったんだよなー」
「え、そんなのあったの?」
軽くアイドルじゃない? と思いました。まぁ、よく考えなくてもあの御三方は美人だもんなー。
「あ、そうだ。ロッサさんからチョコ貰ってたんだ。食べようぜ」
どこからか紙袋を取り出したと思いきや、中から木箱を一つ取り出して。
「え、まじかよ。しかも……何だそれ?」
リュウキから手渡された小さな木箱。表面に竹鶴ピュアモルト生チョコレートと記載されてるけど……生チョコは判る。だが、ピュアモルトって何さ?
「「なぁ」」
声が被って互いに吹き出して。
「リュウキや、ピュアモルトって何?」
「知らん。この漢字ってなんて書いてんの?」
「たけづるだと思うが……うわコレちっちゃ」
木箱を開けると、16粒の生チョコがある。だけどチョコのいい香りと、なんか良くわからん匂いが漂う。
「俺少なめでいいや。アーチェの所で少し貰うし」
「貰えるの確定なのかよ?! まぁいいや、じゃあありがたく……あ、旨」
「生チョコなんて初めて食べるけど、良いなコレ」
改めて木箱の蓋を見る。竹鶴ってのはブランド名かな? で、ピュアモルトが製品名で……ふーん。旨いわー、甘いものそこそこだけど、コレは美味しいなって。
3個目に手を伸ばした時に。
「なぁ響?」
「ん?」
ふと同じようにチョコを食べてるリュウキが、耳をすませるように、耳に手を当てながら。
「なんか乾いた音するんだけどなにそれ?」
「ん? 俺には聞こえない……けど……え、それ?」
ゴクンと3つ目を食べて、ようやくそれは聞こえた。ピシピシと乾いた音の発生源が俺の中からだと。
「すまんリュウキ。ちょっとあっち向いててもらっていい? あと紙袋貸して?」
「え、あ、うん。はいこれ」
乾いた音を聞きながら、ゆりかごであの変態博士が言ってた言葉を思い出しながら、紙袋を貰ってよくよく説明を見て、ガクリと項垂れる。このチョコ酒入りじゃないですか、と。
パキン、と一際高い音がなったと同時に部屋の中に光が奔る。
つまりですね……。
「おー、何だよ急……に……ぇ?」
「落ち着けよリュウキ。まず俺は響だって事を頭に入れてだな……」
「え、あ、なっ……!?」
狼狽えながら、顔がどんどん真っ赤に
「俺だ俺、響だ。だからちょっと――――」
「っ?!」
はらりと服がずれ落ち、体を締めていた包帯も下へ落ちる。早い話が上半身丸見えになる訳なんだけど。
俺はいいんだ別に、男だし見られた所でそれがどうしたって話になるわけで。
……ただ問題が一つ。やっちまったなぁって
ひゅばっと音が聞こえたと思ったら、はだけた入院着が上げられ胸元が隠れて、そして。
「女の子なんだから人前でそんな格好しちゃいけません!! 見ちゃってごめんねぇえええ!!」
真っ赤な顔を覆いながら弾けるように部屋を飛び出ていきました。
えぇ……彼、年相応に女性が好きなのに、そう言う免疫皆無なんです……ただ、子供相手でもああなるんだというのは初めて知ったわけだけど。
正直な所、知らないとは言えしゃーないと諦め半分。そして、今のやり取りで一つ気になったことが出来て、確認する為にもう一度上をはだけて……。
嬉しい誤算を発見することが出来たなぁと。
――sideフェイト――
「え、響目覚めてたの?」
「えぇ、出る前にもう一度顔を見ていこうと覗いた時に」
病院の駐車場でギンガとそんな会話をしている。今の私のスタイルは執務官服に、少し大きめの鞄を肩に掛けて持ち運んでいる。
そっか、やっと……って言ったらいけないね。目が覚めたんだ、良かった。
「フェイトさん、私はタクシーでも拾って戻りますので見に行ったらどうですか? はなも会いたいでしょうし」
「……でも」
「こちらは平気ですよ。私とティアナ、スバル達とで報告書は何とかなりますしね。フェイトさんもずっと働き詰めなんですから、この辺りで一度息抜きしないと。
……元々皆さんから質問攻めに合って大変な目にあってたのに」
「あ、あはは……はぁ」
ギンガの言う事を理解しているからこそ、自然と乾いた笑いとため息が漏れちゃう。響が倒れた後、なのはやはやて、ヴィヴィオに質問攻めにあって、そこから色々バレちゃって……もう。
「そしたら……お言葉に甘えようかな」
「えぇ、そうして下さい。それではお先に失礼しますね」
ピシッと互いに敬礼を交わして、ギンガを見送る。
よし、それじゃあ行ってみようかな。いなかった3日間の事もあるし、色々伝えなきゃいけないこともあるけど……暗い話は一度伏せよう。今は明るいこととかそう言うお話をしていこうかな。
そんな事を考えながら、もう一度病院の中へ入ると。
「んんなああああああ!」
「ハザマさん、走らないで下さいってば!!」
……うん? なんだか騒がしい人というか、確か今走っていった人って、アコース査察官が保護観察してて、響達の同期に当たるリュウキ・ハザマ君だったかな? なんか顔真っ赤にして走って、ナースさんから追われてたけど。
だけど、もうしっかり動けるようになったんだ。凄いなぁって。
不意に鞄がゴソゴソと動いたのが分かって、カバーを僅かに開けて余裕を作ってあげると。
「……ぅん。あ、あれ? ごめんなさいフェイト様! 仮眠のつもりが、こんなになってしまって……!」
隙間から、はなが飛んで出て来る。その格好は巫女服のような防護服とは違い、茶色の陸士隊の制服を纏ってる。この話もしっかりと伝えないとね。
「ううん、大丈夫だよ。それよりも響が目覚めたって知らせを受けたから今向かってる所だよ」
「本当ですか?! やったー!」
くるくると私の前で回るはなを見ながら、私も自然と笑顔になる。そんなはなを肩に座らせて響の元へ向かう。
ふと、響が倒れた時の事を思い出す。あの時、響が倒れたのは、それまでの戦闘のダメージと、緊張が解けたからというのがお医者様の見解。だけど、倒れたのはおそらく……流と震離が、ゆりかごが消滅したのを確認した直後だから、きっと関係があると思う。
そして、優夜と煌も、今は意識を失っているけれど……元々怪我を押して出撃。同時にそれぞれ深いダメージを負っていたにも関わらず、限界まで戦っていたせいでもある。
特に優夜に関しては後ろから撃たれて一度は堕とされたにも関わらず、限界の一撃を叩き込んだというのだから無理をし過ぎにも程がある。煌も限界に近いにも関わらずキャロとエリオの所でガジェットと戦闘をしていたらしいし。終わった瞬間眠いからってその場で寝ちゃって今に至る。
「主……大丈夫でしょうか?」
不意にはなが心配そうに呟く。この子の言う大丈夫というのは、おそらく震離と流の事を指してる。
あの日、FWの皆や、シグナム、ロングアーチ、2人の経緯を伝えた。エリオとキャロはその事に泣いてしまった。
それ以降は、連絡も何も無かった。はやてに送られたメッセージは、震離のアドレスを使った第三者の可能性が高いと判断されたしね……。
思い返せば、ゆりかごで2人が現れてから嵐のように流れていったなぁと。後は今、上の方では震離の件で問題になってるけどコレはまだ伏せよう。この件に関しては、フレイさんと奏が動いているしね。
「なんとも言えない。だけど今はちゃんと目覚めた事を喜ぼう、ね?」
「……はい」
そんなお話をしていると、気が付けばもう病室の前まで来た。さ、扉を開けて―――
「「「あ」」」
ドアノブを持って、扉を押す前に勝手に開かれた。そして、その先にはブカブカの入院服を纏った、黒髪を束ねた10歳位の女の子。
一瞬私とはな、そしてその子と目がバッチリ合う。徐々に女の子が冷や汗を流して、パタンと扉を締めて……。
うん。
「ねぇ響? ちょっと開けて、ねぇ?」
「主ー? 何でそっちになってるんですかー? 主ー?」
「待って待って、何でこのタイミングで……ちょっと待って、ホント待って!」
扉の前に居るであろう響に聞こえるようにノックをしながら、しばらくそれが続いた。
――――――
「……なるほど。姿が変わった事情は分かった。その上で飲み物が欲しくて丁度出ようとした訳ね。事情は分かった。だけど女の子がそんな格好で外に出てはいけません」
「……はい。おっしゃる通りで」
ベットの上で正座する響に注意をする。唯でさえ、この前の戦闘の負傷者が入っているのに、女の子の状態で表に出るのは宜しくない。第一あんまり見られてほしくもないし。
前に変わった時と比べて結構成長しているのは驚いたんだけど……。
「そっちの姿だと足大丈夫そうなんだね」
「みたいだな。胸斬られた筈なのに、この姿だと傷一つ付いてないし、両足も普通に動くし」
「でも、無事に目覚めて良かったです。ずっとお待ちしておりました」
響の膝の上で、はながホッとしているのを二人で眺める。
本当ならば、はなも響の側に置く筈だったんだけど、今六課の皆の忙しさを知ってる事もあって……一時的に私と行動を共にしている。こう見えてもデバイス間のネットワークのお陰で凄く助かってるし、バルディッシュも色々教えてるみたいだから成長してるっていうのがよく分かるしね。
「……うん、心配掛けてゴメンな。フェイトさんもごめんなさい」
……む。ペコリと頭を下げる。そして頭が上がった所で。
「……いひゃい」
響の両頬に手を伸ばして抓る。と言っても優しくだけど……それにしても凄く柔らかいなぁって。ヴィヴィオのほっぺと同じ位……ではないけど、劣ってもいないし。
気が付けば抓るのをやめて、もにもにと響の頬揉んだりして堪能してて。
「……もういい?」
「……はっ!」
呆れたような響の視線を受けて慌てて戻して。
「……まぁ、今のは俺のミスだし。まだまだ咄嗟にさん付けになってしまうなって」
アハハと苦笑。一応、響の格好を考慮して、カーテンを締めてるけれど、傍から見れば凄い状況だよね。男性の3人部屋の真ん中のベッドに女の子。間違いなく駄目な案件だと思う。
「さて、じゃあフェイト。一つ相談があるんだけど……ちょっといい?」
「……へ?」
ニヤリと笑う響を見て、嫌な予感しかしなかった。
――sideはやて――
はやてです。管理局……というより、地上部隊は慢性的な人手不足。そんな中で集めた機動六課……なんですが、ゆりかご事件の中心となって働いたこの部隊。
仕事の量が偉いことになっておるんよね。かれこれ今日で3日目やけど、ほぼほぼ3徹目でもある訳で。すっごく眠いんやけど、資料作成やら現場の指揮の流れやら、やることが山……どころか積もり積もって月に届くんやないかって思うほどあるんよね。
ロングアーチの子達も何とかついてきてもらってるけど、殆ど休めてないみたいやし……。いや、まだ休めてる方なんよね。
今ロングアーチで凄く頑張ってるのが。
「はーい……時間だよーローテへんこー」
「「「「「はーい」」」」」
「「じゃあ休憩行ってくるー」」
目の前で8人の紗雪が居るということ。初日こそ驚いたけど、3日目にもなるともう慣れた。
なんでこんな状況かと言うと、紗雪が8人に影分身をして、ローテーションを組んで仕事に取り掛かっているということ。ただしそのローテーションが、1人は仮眠で、1人が仕事Aを。1人が休憩を、2人で仕事Bを片付けて、1人が食事休憩、1人が仕事Cを、最後の1人……もとい本体が、他のロングアーチスタッフの援護に回ってる。
傍から見れば異様な光景で、休憩多くないかとも最初の内は思った。だけど、8人の感覚は独立こそしているけれど、その疲労度は共有しているらしく、お腹が空いて放置していたら皆倒れるし、睡眠不足ならば皆の行動がぎこちなくなるという欠点があるとのこと。
ただ、一つ約束してるのが、落ち着くまではこの体制を維持するけれど、落ち着いたら少しでいいからお休みが欲しいと懇願された。本人曰く、各分身の経験値がフィードバックされるから、一気に疲労するし、戻ったら倒れるかもしれないとの事。
勿論それは許可を出したんやけど……いやぁ、ほんま助かるわぁって。今六課の中ではロングアーチの柱になってた優夜と煌がまだ目覚めてないし、時雨はシグナムに付いて色々業務の補佐をしてもらっとる。騎士ゼストの件や色んな事があるからね……そして、その3人が居ない穴を紗雪が単騎……というか8人で対応してもらってるわけで。
……後はここには居ない流と震離の件で、奏に動いてもらっとる。
と言うより、実を言うと、現在奏と、ロングアーチ所属の紗雪達4人って機動六課所属や無いんよね。今の所属はフレイ中将の部隊預かりとなってて、そこから出向と言う形になっとる。
コレに関してはフレイさんに抗議しようかと考えた、無理やりでは無いけど、勝手に連れて行ったわけやし。せやけど、その件に関しても正式に謝罪を頂いたのと、そうしないとこの五人は無断出撃を、魔法の無断使用を行ってた訳で……それを防ぐためでもあったと聞かされたし。
何より奏達が自分でそう言っておった。外された日には既に計画を立てて、病院を抜け出す用意を初めとったらしいし……。
せやから、現在機動六課に正式に所属してるのは、今入院してる響と、行方不明の震離の二名だけや。流も一応前の地上部隊に所属と言う形になっとる。あの子の古巣の特殊鎮圧部隊は滅んだというのが伝えられた。
コレに関しては三提督と一部の上層部しか知らへんこと。私の場合は例外的に教えられた、唯一の生き残りを預かる身として。
何で三提督が? と考えたけれど、事情を聞いて驚いた。ライザ・ジェイブは三提督と同時期に活動していた、影のエースだったと。そして、管理局が誤った道へ行かないためのカウンターとしてその部隊が設立された……が、まさかそのトップが裏切りスカリエッティに着くとは考えられなかったと。
更にわかった情報が、嘗てのライザ・ジェイブがスカリエッティの遺伝子を見つけ、それを復元させたということ。コレでフェイトちゃんからの情報で、スカリエッティがライザ・ジェイブの事を母君と呼んだ訳を。
……はぁー。駄目やーもうしんどいわー。水面下で色々動きすぎててしんどいわー。
早く響が目を覚ましてくれたらなー。色々いじれるんやけどなー。セインから見せられた映像で響とフェイトちゃんがちゅーしたのを見た時には、思わずよっしゃあってガッツポーズ取ったし。
このゴタゴタが終わったらなのはちゃんらにもそれを伝えよう……フヘヘ。
そう考えたらもう少し頑張れそうや……さ、もうひと踏ん張り行こうかー。
――――
『はやてちゃーん、フェイトさんから連絡でーす』
ぐーっと背伸びをした所で、ふにゃふにゃのリインからの突然の通信連絡に思わずコケそうになる。
あかんわー。六課の隊舎が復活するまでアースラを拠点にしてるせいで、えらく連絡が取れるようになったのは良いのか悪いのか、分からへんなー。
「了解、回してもらえるかー?」
『はいですー』
かなり眠そうなリインから通信を引き継ぐ。紗雪も大変やけど、ロングアーチの、グリフィス君やシャーリー、そしてリインも大変なんよね。堪忍なー、本当は休ませなあかんのに、本当に対応に追われてるんよね……。
よし、ちょっと気合を入れて、と。
「はい、はやてです」
『あ、はやて。ごめんね。ちょっと言ってほしいんだけど、響にまだ復帰は認められないって』
開口一番少し怒った表情のフェイトちゃんの顔に驚くけれど、それ以上に……。
「あ、響目覚めたんか。良かったわー」
コレでフェイトちゃんと同時に弄れるわぁ……あかん、よだれ出てきそうやわ。
『えー、このナリでも書類作成とか、資料整理、報告書作成その他もろもろ出来るってば』
「……ん?」
フェイトちゃんの後ろで聞きなれない……わけやないけど、それでも聞こえる女の子の声。
『だからだよ。足だって結構ギリギリなんだよ? 今無理したら……』
『その確認も兼ねてだ。どっちにしろ俺かフェイトがスカリエッティに確認とりゃいいだけの話。何言っても反応しなくとも、今の姿で行けば何かしら情報くらい引き出せるだろって話。
それに3日も寝てて仕事が溜まってないわけ無いだろう? それに捕まってた期間も考えりゃ結構不味いだろうし……、事件の中心になった六課が暇なわけ無いじゃんか』
矢継ぎ早に聞こえるフェイトちゃんと女の子の言い合い。あかん、私も眠いんかな。さっぱり話が飲めん。
『つーか、この姿でここに入院も不味いだろう? なら、とっとと外に行くかどうかしないと不味いし』
『だからって、復帰するにはまだまだ早いって言ってるの。今は動けても戻ったら直ぐに動けなくなるかもしれないし』
『定期的に補給したらいけないかな?』
『その格好で買えないでしょう?』
……あかん。多分響? の声なんやろうけど……どう聞いても女の子や。や、そうか。女の子になれるってわけやないけど、そうなり得る可能性を響は得たんやった。
本当かどうかは知らへんけど。実際まだ見たこと無いし。
もしかすると、怪我を無視する方法って。
「あー、フェイトちゃーん。響に伝えてやー、逆ユニゾンは負担掛かるから、それするくらいならまだ入院やでー」
おそらく響は文字通り女の子……もっと言えば、花霞とのユニゾンで、肉体を花霞にしてるんやろなー。それならこの声もまだ理解できるし。
『え、ううん。逆ユニゾンではないよ? あ、でもユニゾンするってのはその通りかな』
「……はい?」
ますます分からへん。何が起きてるんや?
『見たほうが判るでしょうよ。条件は伏せるけど』
『あ、ちょ、響。待って待って』
ゴソゴソと視点が変わって、フェイトちゃんから……。
『今こんな感じです』
「……え?」
黒髪の女の子。白い卵型の頬。黒眼の大きな瞳に、細い眉毛。そして、ぶかぶかになった入院服を着た。
それこそ響に娘が居たらこんな感じなんやろうなぁって感じの。
「……ええなぁ!!」
『なんでやねん』
なるほど、あんまり認めたくないけど、スカリエッティとは変なところで趣味が合いそうやなーって。
――――――
「……はぁ。なるほど。その姿だと怪我を無視……というか、本体? と独立してるから問題ないし、見た目の問題は花霞とユニゾンして、変身魔法でコントロールしたら問題なし、と」
『えぇ、だって間違いなく事件の中心に居た六課が今平和なわけ無いじゃないですか。それなら手伝って落ち着いた時にまた入院なり、リハビリをすれば良いと考えたわけなんですが……』
画面の向こうの響の視線がチラリと隣を見る。眉を八の字にしたフェイトちゃんが小さく唸っとる。
あー、今いじったら間違いなく後々怒られるから、一旦やめとこ。
けどなぁ……。
「フェイトちゃんの気持ちも判る。けど、響の進言も助かる。今は正直猫の手も借りたいくらいやし……」
わー、画面の向こうで対称的な反応しとるー。響は小さくガッツポーズ。フェイトちゃんは深い溜め息。だけど、さっきの響の言葉から察するに……。
「……響。フェイトちゃんと一緒にスカリエッティに面会してもらえるか?」
『……はい?!』『え?』
今度は響が青くなったわ。あかんわー、面白いわー……ってちゃうよ。
「で、面会して情報……つまり今の響の状態がどうなってるか聞き出して来てくれたらええよ。そこから新しい情報が得られるかもしれへんし。何よりなんか確認するんやろ? 主にその姿関係で」
『……ま、まぁ。はい』
なんやろ? 響は捕まってた時の記憶を持ってるんかな?
「……嫌なら別にええけど、どうする?」
私としては、正直な所どちらでもええんやけどね。コレだってフェイトちゃんが戻ってきた時にちょっとお願いしようかと考えてたことやし。留置所の人たち曰く自分達では取り調べに成らないって言っとったし……。
それに。
「病院には私が連絡入れとくから、ちょっとの間くらい二人っきりになりーや」
わざとらしくニヤニヤとしてみせる。けど、本音はこっちや。フェイトちゃんの微妙やけど、それでも明確な態度の代わり方。特に響に思いを寄せてた2人はそれを察したみたいやしね。
せっかく目が覚めて、なんでか分からへんけど、姿が変わったと言えど……それでも好きな人同士で一緒に居たいのはあるやろうし。
「……ちゃんと落ち着いたら色々聞かせてもらうんや、先払いのちょっとしたお休みみたいなものやし。そこから響達の家も近いんやろ? スカリエッティの面会は夜にねじ込んどくから、少し休んどきや」
『で、でも……』
よっしゃフェイトちゃんが揺らいだ。もう一声や。ちょっと操作して、フェイトちゃんだけに聞こえるようにして、と。
「……今なら独り占めできるんやで? 美味しいと思わへん?」
『!』
カッと見開いたのを確認してから……机に両肘ついて、両手を口の前で組む。
……勝ったな。
思わずにやりと笑みを浮かべてまう。
あーでもあれやな。誰かもう一人いたらなー。私がなー、あぁって返せたんやけどなー。
あ、そや。
「響ー、フェイトちゃんが持ってる大きめの鞄あるやろ? それ、私からのプレゼントや」
『……なぜ?』
カクンと首を傾げとるなぁ。まぁ、突然言われても分からへんよね。
「響も花霞……はなと行動を共にすること多いやろうし。何より生まれたばかりの子、その子のための移動用休憩スペースやね。私のお下がりで申し訳ないんやけど」
『……うお、すげ。良かったなはな。ちょっとした部屋じゃん』
『はい! はやて様とリイン先輩からの贈り物なんです!』
画面の向こうではしゃぐように宙を舞ってるのを見て、私も嬉しくなる。私からしたら二人目の融合騎を連れた主やし、リインからすれば自分以外の融合騎の友人……というか、先輩後輩の立場が出来上がった。コレは見てて微笑ましい。
花霞の開発って結構手間取ったもんなぁ。戦闘と言う点ではリインより上やけど、そのかわり日常動作、その機能が無かったからリインのデータを流用して、ようやっと起動出来るという時に花霞の機能と人格を移したら……今度はアウトフレームを調整できないし、何より魔力があるのに飛べないという問題も発生したしなぁ。
しかもそれまでの花霞の人格にリインの性格を足して2で割った様な子になってもうたし……。それが悪いということは無い。
ただ、それは花霞の主である、響が一番違和感を感じるんじゃないかと心配してたけど……。
あの様子やと問題なさそうやね。そもそもフェイトちゃんからのユニゾンした時の様子や、実際に触れ合ってる様子から問題ないとは思っとたけど改めて見て一安心。
「ま、そういうことや。アホなスケジュールで三日目やし……そんな休みしかあげられへんけど……ホンマにちょっと休んで、な?」
『……わかった。じゃあお言葉に甘えて、何かあったら連絡をちょうだいね?』
「はいはい、そんじゃまた」
フェイトちゃんと、響からの通信を切って、背伸びを一つ。
さ、一旦のピークも直に終わるし、少しずつ手の空いた子から休ませないとあかんなぁ。なのはちゃんやヴィータも早く復帰しないとって、元気一杯やしなぁ。
「……はぁ」
2人居なくなった。響になんて言おうか悩んでるんよね。
たった二人でアルカンシェル並の威力を出せてしまったという事。コレが何を意味するのかという事を。そして、あの子が送ってきた座標にスカリエッティのアジトが合ったことも問題視されとること。
あかんなぁ……奏と震離の新規デバイスも後は人格を入れるだけやのに……ほぼ開発が中止になったしなぁ。というのも奏の手元にはデバイスがあるし、紗雪達の手元にもそれぞれあるしなぁ。
って、あかんあかん。物思いに耽てる場合やないわ。さ、もうひと踏ん張り頑張りましょうかなー。
……というより、流っていう前例のお陰で受け入れてる私って何やろね?
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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