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蒼と紅の雷霆

作者:setuna
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蒼紅:十三話 囚姫

皇神の衛星拠点である“アメノウキハシ”ではGV達にとって最悪とも言えることが紫電に知られていた。

「紫電様、モルフォの居場所が判明しました」

「本当かい?それは良かった!うーん…そうだねぇ、ここは念のために“彼ら”に迎えにいってもらおうか」

「ハッ!ただちに手配します」

「やれやれ…これでようやくプロジェクトが進むよ。この施設が無駄にならずに済んで良かった」

安堵の息を吐く紫電。

そして自分のやるべきことのために足を進めるのであった。

そしてGV達の隠れ家ではシアンとテーラの楽しそうな会話が玄関まで聞こえており、GVとソウは帰宅の挨拶をする。

「ただいま、シアン、テーラ」

「戻ったぞ」

2人の声に反応して、リビングを出たシアン達が迎えてくれた。

「お帰りなさい、GV、お兄さん」

「ご無事で何よりです。夕食の準備は出来ていますよ」

「ありがとう、何時もごめんねテーラ」

玄関まで漂ってくる匂い…今日はシチューのようだ。

今日は冷えたから温かい物が食べたいと思っていたところだったからありがたい。

そしてミッション中、隠れ家とシアンのことを任せきりな状態であることにGVは申し訳ない気持ちを感じていたが。

「気にしないで下さい。シアンと一緒に色々やれて楽しいですし、今日のシチューは殆どシアンが作ったのですよ?」

「何?シアンが作っただと?おい、本当に大丈夫なのか?まともに食べられる物なんだろうな?」

「むっ、お兄さん。それってどういう意味?」

「この前、塩と砂糖を間違えて甘い野菜炒めを食べさせた馬鹿は誰だ?」

「あう…っ」

ソウが表情を顰めてテーラに尋ねるとシアンがむっとなるが、前科があるためか強く出られなかった。

「はは…でもテーラも一緒に作ったんだからきっと大丈夫だよ。」

「…その言い方だと私だけじゃ、不安だって聞こえるよGV?」

「実際にお前1人では不安だからな」

そう言ってリビングに向かい、シアンが殆ど作ったと言うシチューを頂いた。

具材は少々形が悪かったが、普通に美味しいシチューであった。

「シアンが作ったにしてはまあまあだったな」

「兄さん、お代わりまでしたんだからもっと褒めてあげればいいのに」

“まあまあ”の評価で済ませるソウにGVは苦笑した。

「実際にまあまあ…」

「シアン!!」

2人が部屋に向かおうとした時、テーラの叫びが響いてGVとソウが急いで装備を手に取ってリビングに戻るとシアンがテーラに庇われ、そして2人の前には…。

「貴様はメラク!?貴様は以前俺が倒したはず…」

そう、海底トンネルでソウが倒した皇神の能力者であるメラクがいたのである。

「あー、これ少しまずいかなぁ。しかもやっぱそこツッコむ?めんどいなぁ…まぁ、いっか答えなくても…えーと…君がモルフォちゃん?上からの命令でね…モルフォちゃん、連れて行くよ」

「させると思いますか?メラク!!」

第七波動の…鏡の反射の性質を持つ光弾をメラクに向けて放つテーラ。

「これってパンテーラと同じ能力だよね?まあ、パンテーラ程じゃないけど結構強いね君…流石に3人同時に相手にしたくないから…デイトナ、頼んだよ」

「分かってらぁ!!シアンちゃんは俺が必ず連れ戻す!!太陽の如く燃え盛れ熱波!激情の灼熱、うねる猛火!煉獄の焔に残るは灰燼!!サンシャインノヴァ!!!うぉおおおおっ!!シアンちゃぁあああんっ!!!」

「デイトナまで!?」

「まずい!!」

「…っ!!鏡よ!防いで!!」

亜空孔から飛び出したのはGVが倒した爆炎の能力者であるデイトナ。

シアンが視界に入るのと同時にデイトナに気合いが入ったのか、GVとの戦いで見せた時よりも弾幕の規模が凄まじいSPスキルが3人に襲い掛かる。

テーラが咄嗟に鏡の盾を出現させていくらか防いで反射させるが、あまりの弾幕の規模に盾が破壊されてしまい、回避に徹することになる。

「何時もより暑苦しいなぁ、早く帰って涼しいとこで寝たい…はい確保」

「GV!!お兄さん!!テーラちゃん!!」

「シアン!!」

「させるかぁ!!」

GVが駆け寄るが、デイトナの炎がそれを阻み、シアンを確保したメラクが脱出し、それを見届けたデイトナも目眩ましに炸裂弾を発射して脱出する。

「待て!!」

「シアン…!!」

「追い掛けましょう!!」

3人はシアンを助けるために隠れ家を飛び出してメラクとデイトナを追い掛ける。

「シアンを返せ!!」

「誰が返すか!そもそもシアンちゃんは皇神側だぜ!!てめえらが連れ去ったんだろうが!?シアンちゃんは本来いるべき場所に戻るだけだ。さっさとシアンちゃんを連れていきな!!」

「暑苦しいなぁ…分かったよ…はあ…怠…」

デイトナに殿を任せてメラクはシアンを連れてこの場を去った。

「シアン!!」

「何てこと…」

「もうてめえらにシアンちゃんは渡さねぇ…言ったよなぁ…?人の恋路を邪魔する奴ぁ…馬に蹴られてゴー・トゥ・ヘルだぜぇ!!」

「はあ?」

「はい?」

恋路と言われてデイトナのシアンへの想いを知らないソウとテーラからすれば何のことだか分からないようだ。

「奴はシアンに歪んだ執着を抱いているんだ…奴は生かしておけない…ここで倒さなくては!!」

「今回は兄貴の方ともやりあえるようで嬉しいぜ…シアンちゃんを連れ去ったてめえら兄弟は絶対ぇに許さねぇ!!オラオラオラァ!!」

始まりと同時に炸裂弾を発射してくる。

「鏡よ!私達を守って…!!」

テーラが再び鏡の盾を作り出して炸裂弾を防ぐ。

「てめぇらを蹴り殺せば…シアンちゃんは俺の物だ!俺達の大将が言ったのよっ!シアンちゃんのお世話は俺に任せるってなっ!!」

「ふざけるな!彼女は誰の物でもない!彼女の意志は、彼女自身の物だ!」

「貴様がシアンをどう思っているのか知らないが、あいつの意志を無視するな」

「シアンはGV達と歩む未来を望んでいます。それを否定する権利はあなたにはありません」

シアンに対して私欲の炎を燃やすデイトナにGV達は表情を顰めながら攻撃をかわしていく。

「んな説教を聞きたいわけじゃねぇぜっ!俺が聞きてぇのは…てめぇらの悲鳴!!それだけよっ!!そこのチビも俺の邪魔をするってんなら蹴り殺すまでよ!!」

「ふん、三下が…GV!!」

「分かってる!!」

デイトナの踵落としを回避してデイトナにソウのショットが炸裂し、GVの避雷針からの雷撃が流し込まれる。

「鏡よ、空間を繋げて…!!ソウ、鏡に攻撃を!!」

「?分かった!!」

ソウの目の前に1枚の鏡、そしてデイトナの周囲に複数の鏡を展開するとその複数の鏡からソウのショットがデイトナに降り注ぐ。

「鏡同士の空間を繋げられるのか…!!」

蒼き雷霆以上のテーラの能力の汎用性にGVは驚く。

「ぐあっ!?…ぐっ…パンテーラと同じ能力かよ…!!あいつは筋金入りの変人野郎だったが、敵対するとあいつの能力はこんなに厄介なのかよ…!!」

しかもパンテーラと違ってテーラは宝剣を使用していない。

これで宝剣のような増幅器をもっていればパンテーラに匹敵するかもしれないとデイトナはテーラを睨む。

「あなたに勝ち目はありません。大人しくシアンを返しなさい!!」

「今なら比較的、苦しませずに息の根を止めてやるぞ」

「うるせぇ!てめぇら兄弟とチビは…この俺の…怒りの炎で灰になりやがれーっ!!」

デイトナの攻撃は熾烈さを増していくが、GVとソウはカゲロウ込みでそれを回避する。

テーラは鏡の幻覚でデイトナを惑わせ、分身を囮にしてデイトナの飛び蹴りをかわすと反射弾をデイトナに当てていく。

「「「灰に還るのはお前(貴様)(あなたです)だ…デイトナ!!」」」

「畜生…畜生…渡さねぇ…絶対ぇシアンちゃんは渡さねぇ!!シアンちゃんは俺の物だっ!!太陽の如く燃え盛れ熱波!激情の灼熱、うねる猛火!煉獄の焔に残るは灰燼!!サンシャインノヴァ!!!」

再びGV達に向けて放たれた炎の弾幕、テーラは鏡で空間を繋げてGVとソウと共にデイトナの真上を取る。

「めくるめく!愛の宴!愛の姿は万華鏡!惑い見えるは走馬灯!ここはそう、境界なき鏡界!ファンタズマゴリア!!」

天地が逆転し、デイトナのみ行動が逆になるようにしているために満足に動けない。

「今です!GV、ソウ!」

「了解!もう一度地獄に戻れ!!煌くは雷纏いし聖剣!蒼雷の暴虐よ、敵を貫け!スパークカリバー!!」

「チェックメイトだ!消え失せろっ!!閃くは破滅の雷光!紅雷の刃よ、敵を斬り裂け!ギガヴォルトセイバー!!」

「愛の鉄槌を受けなさい!!」

かつての再現と言うかのように蒼き雷霆の聖剣がデイトナを貫き、そこからソウの紅き雷霆の雷刃波により真っ二つにされ、そしてテーラが駄目押しとばかりに光弾を放ってデイトナを射抜いた。

「シ、シアンちゃあああんっ!!!」

流石にタフなデイトナもこれには耐えきれずに体が膨張・爆発し、残った宝剣も転移されることもなく粉々に砕け散った。

『やれやれ…3人がかりとは言えデイトナがこうも簡単にやられるなんてね…』

GVとソウの通信機から聞き覚えのない声が響く。

「この声は…!!」

「誰だ?」

テーラが知っているようだが、取り敢えずソウが通信に応える。

『ふぅ、良かった…周波数はこれで合っているみたいだね。初めまして、雷霆兄弟の片割れのソウ君。僕は紫電。君と君の弟君が倒してくれた能力者達直属の上司さ。一応君達は、これまでうちのモルフォ(アイドル)の面倒を見てくれていたみたいだし…挨拶と、お礼くらいはさせてもらおうと思ってね…小切手でいいかい?』

「何だと…ふざけているのか貴様は?」

『別にふざけてはいないさ、彼女は皇神の看板とも言える存在で、これからのプロジェクトに必要な姫巫女だ。それを殺さずに大事にしていてくれただけでも感謝しているよ…君達にはかなりの損害を与えられたけど、追い詰められた皇神を救えば僕にとっては地位を得るための絶好のチャンスでもある。それを与えてくれた君達には感謝しているよ』

「俺達は貴様の出世のために戦ったんじゃないんだがな…それにプロジェクトだと?」

『世界中の能力者を“電子の謡精”…彼女の歌で管理する…それが、僕が進めている“歌姫(ディーヴァ)プロジェクト”さ』

「彼女の歌で能力者を洗脳する気か…!」

かつて皇神は、シアン…モルフォの歌を能力者の居場所を割り出すソナーのように使っていた。

電子の謡精の歌は、能力者限定で他者の精神に同調(シンクロ)し、高める精神感応能力…。

その力を増幅し広範囲に拡散することで歌に共鳴した第七波動を検出するエコーソナー…。

その技術を応用すれば、確かに全ての能力者の精神を支配…洗脳することも可能かもしれない。

「ふざけるな!シアンに…また歌いたくもない歌を歌わせるつもりなのか!?」

GVは激昂する。

皇神の身勝手で自由を奪われ、歌いたくもない歌を強制的に歌わされることにGVは怒りを抑えきれなかった。

『宗教に教育、マスメディア…洗脳なんて今日び、大して珍しいことじゃない。この国を守るためには必要なことなんだよ。テロリストの君達には分からないだろうね…それじゃあね、ガンヴォルト、ソウ、それから可愛らしいお嬢さん。モルフォ(彼女)のライブ配信、精々楽しみにしておいてよ』

「待てっ!!」

「…通信が切れたか…一旦、アシモフ達と連絡を取るぞGV」

「分かってるよ…」

「シアン…無事でいて下さい…」

早速フェザーにこの事を連絡し、その対策を練る事となった。

『紫電って野郎…俺達を舐めてやがるぜ…!』

全ての事情を知ったジーノが悔しそうに呟く。

『落ち着け、ジーノ。たった今、諜報班から報告が入った。どうやらシアンは皇神の衛星拠点“アメノウキハシ”に連れ去られたようだ。衛星軌道から全世界にモルフォの歌を拡散する…恐らくそれが連中の狙いだろう。我々としても、この馬鹿げた計画、何としてでも阻止せねばならん。』

「僕が行くよ、アシモフ。彼女は僕が助ける…!」

「俺も行くぞ、決着をつけてやる」

『アメノウキハシに行くには皇神の軌道エレベーターを使うしかないわ。まずは、軌道エレベーターのコントロールを奪わなければならない…』

『そっちは俺達に任せな…なあ、リーダー?』

『ああ、GV、ソウ。お前達には陽動と正面突破を任せる。大変だとは思うが、お前達ならばやれるはずだ』

「ありがとう…みんな」

『頼んだぞ…チームシープス、ミッションスタート!』

シアンを救うためにチームシープスは再結成され、共に軌道エレベーターのあるオノゴロフロートに向かうのであった。 
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