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蒼と紅の雷霆

作者:setuna
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無印編:トークルームⅡ

《鼻歌》


「~♪」

兄さんとテーラが買い出しに出掛けて僕とシアンしか家にいない時、僕がリビングを通りかかるとシアンの鼻歌が聴こえてきた。

「歌、やっぱり好きなんだね」

「G…GV!?…聴いてたの?」

シアンが顔を真っ赤にしてしゅんと縮こまる。

しまった…今のはデリカシーに欠けていたかな…。

「ごめん、茶化すつもりはなかったんだけど…」

「うぅ…」

駄目か…何か他の話題を…。

「…そういえば、シアンは他に何か趣味ってある?」

「……アクセサリーを作るのは…好き…かな?ビーズとか…シルバーとか…」

「へぇ、今度見せてもらってもいいかな?」

兄さんはああ見えて料理して食べることが趣味だし、テーラも愛の探究と言う趣味がある。

こうして冷静に考えると僕だけ趣味がないのかもしれない。

「…うん…」

しかしアクセサリーか、こういうのはテーラが詳しそうだから後でテーラに聞いてみようかな…。


《SNSとテロリスト兄弟》


僕達がリビングで寛いでいると、シアンがスマートフォンに向かい指を走らせていた。

どうやらSNSで誰かとやりとりをしているようだ。

「SNS、やってたの?」

「うん、クラスの子に誘われて…」

シアンが中学に通い始めて数ヶ月…学年が違うので、僕は普段の彼女を良く知らない。

因みに兄さんは学校には行ってない。

無能力者が集まる場所である学校は兄さんからすれば近寄りたくもないのだろう。

「あ…」

「どうかした?」

慌ててスマートフォンを隠す彼女だったがその瞬間、ちらりと画面が見えてしまった。

モルフォを壊(ころ)したテロリストを許せない。

彼女の友達は、大体そんな風なことを言っていた。

どうやら、彼女の友達はモルフォのファンだったようだ。

「許せないとは良く言えますね…どうせモルフォの正体を知ればその無能力者は掌を返すに決まっています。シアンが気にすることはありません。無能力者の言葉などに耳を傾ける必要はないのですから」

テーラが冷たい表情で画面を見つめながら言う。

そのモルフォの正体を知っているような言い方に引っ掛かりを覚える。

彼女の過去を詮索するつもりはないけれど、無能力者からの迫害を受けてきたことだけは理解出来る。

「とにかく気にするな。何も知らん馬鹿の話など気にしても時間の無駄だ…お前は自分の意思でここに来たんだ…そんな下らないことで悩む暇があるなら最低限の家事のスキルを養え。ただでさえお前は標準以下なんだからな」

何も言えないシアンに兄さんなりにフォローを入れてくれた…少しキツいけど。

「兄さんの言い方はともかく…シアンが気にすることじゃないよ…」

「うん…」

シアンの表情は暗い。

けれど僕は、それ以上何も言うことが出来なかった。


《モルフォの歌と雷霆兄弟への感謝》


モルフォはこれまでに様々な曲をリリースしている…。

かつての彼女の歌は、他の第七波動能力者を炙り出すための罠として使われていたが…。

その効果があるのは皇神が然るべき手段を用いて行う生放送だけだ。

既に録音されたものを聴くだけであれば、特に害はないそうだ。 

「モルフォの歌って…全部シアンが作ったの?」

「最初のうちはそうだったけど…途中からは皇神の人が作った歌…」

「なるほどな、シアンが作るよりも自分達で作った方が時間がかからないからな。」

シアンは歌が好きだから作曲の際に妥協はしないだろうけど、時間をかけたくない皇神の人間からすれば自分達で作った方が手っ取り早いのだろう。

『そして、今こっそりGVとソウのために作っている歌が、久しぶりの作曲ってわけね』

何時の間にか、モルフォが僕と兄さんの間に立っていた。

シアンが真っ赤になって慌てる。

「モ、モルフォ!な…何でバラすの!?」

『アタシはシアンの心…あなたの本心だもの。自分の頑張りをGVとソウに知ってもらいたかったのよね…本当は』

「そ…そんなことないよっ!!」

「…大変だね」

「まあ、お前の歌だが期待しないで待っているとしよう。そろそろ食事にするぞ」

兄さんがキッチンに向かい、調理を始めた。

兄さんには歌よりも食べ物の方が喜ぶんじゃないかなと思った僕は悪くないと思いたい。


《ソウとテーラ》


俺達は買い出しの途中で路地裏に行き、休憩を取っていた。

普通なら公園だろうが、俺達は無能力者との接触は嫌うために路地裏で休憩を取ることが多い。

「テーラ…聞きたいことがある」

「何でしょう?」

俺を見上げるテーラに俺は珍しく戸惑いを感じながら尋ねる。

「お前はどこの組織の人間だ?」

俺の問いにテーラは目を見開いた。

「何のことでしょうか?」

「惚けるな…お前の動きは明らかに一般人がするような身のこなしじゃない。俺とGVの特訓を見る時も明らかに俺達の動きについてきていた。」

GVは基本的に家の中でしかテーラと会わないから気付きにくいのかもしれないが、俺はテーラと共に行動することが多いために気付けた。

「ふふ、ソウは良く見ているのですね。それで私をどうしますか?」

「取り敢えずお前の目的を話せ。簡単なことでも、それで決める」

「目的…そうですね…取り敢えず現時点の目的は、あなた方と同じ皇神の打倒…でしょうか?」

「そうか、俺達と敵対する意思は?」

「状況にもよりますが、現時点ではないと断言出来ます」

「そうか…ならいい」

取り敢えずの確認を終えた俺はテーラを連れて家路につく。

「良いのですか?私を連れて行っても?」

「別に?お前が俺達と敵対する意思がないのなら戦っても時間と体力の無駄だ。それにもし戦うことになっても倒せばいいだけの話だからな」

「そうですか、少し…ホッとしました…あなた方との暮らしは…とても楽しいと思ってましたから」

そう言うテーラの表情はどこか安堵しているように見え、少なくとも彼女から今の関係を崩したいとは思っていないのだろう。

なら今はこれでいいと、俺は柄にもなくそう思った。


《シアンの学校》


リビングを覗くと、シアンが通学カバンにソーイングセットを詰め込んでいた。

「それ、明日の用意?」

「あ、GV…明日、被服の授業なの」

アシモフ達の協力もあって、僕もシアンも昼間は中学校へ通っている。

勿論、戸籍は偽造したものを使用しているのだが、どうやら皇神の中でもモルフォの正体を知る者はごく僅かなようだ。

仲間達によれば、正体が明るみになる心配はまずない…とのことだった。

「学校は…楽しい?」

「うん。この間、音楽の先生が歌が上手いって褒めてくれたの」

「「それはそうだろう(でしょう)」」

照れ臭そうに答えるシアンに声を揃えて言う兄さんとテーラ。

兄さんから聞いた話では彼女はフェザーとは違う皇神に敵対する組織の人間らしく、皇神へのスパイをしているらしい。

シアンのこともスパイ活動中に知っていたらしく、能力のことも知っていたらしい。

それにしてもテーラがスパイとは…道理で年の割に冷静なわけだ。

かつてアイドルとして歌っていたのは彼女本人ではなくモルフォだが、その力の源である彼女の潜在的な音楽センスは高いのだろう。

「…先生も、まさかシアンが元トップアイドルだとは思っていないだろうね…」

「ア…アイドルだったのはあくまでモルフォだから…」

「モルフォの力はあなたの力でもあるのですから誇ってもいいと思いますけど」

苦笑しながら言うテーラの言葉に、僕も少しだけ頷いた。 
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