人徳?いいえモフ徳です。
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五十四匹目
期末試験も終わり、夏休みになった。
「くゅ~」
「ふにゃぁ…ごろごろ…あるじしゃまぁ…」
「くゅ~ん」
学校に行くようになってからあまり外に出ていなかったので、森へ狩りに行くことになった。
………………………くーちゃんの音頭で。
流石に子供だけではダメ…というか王族が護衛もつけずに出るのはアウトなので、お目付け役って事でボーデンとリィンが同行する。
あとなぜかルイスも。
という訳で、僕はルイスの膝の上に座っている。
尻尾でルイスの顎を撫でながら。
いやぁ………責める側って楽しいよね!
普段僕はモフられる側だから。
それも悪くはないけどたまには責めたい。
まぁ、コの字型に鳴ってる馬車の席の対面に居るくーちゃん達がちょっと不機嫌だけど。
なおボーデンはそんなくーちゃん達を見て面白そうにしている。
ルイスを擽っている内に森の入口に着いた。
まぁ、飛べばすぐに着く距離ではあるしな。
「さーて、思いっきりやるわよー!」
真っ先に馬車から駆け出そうとしたのはくーちゃんだ。
「まぁ、待て姫様」
そこをシャクティが抑える。
「こう言うときは私達臣下から先に降りるのが慣わしだと知っているだろう?」
「むぅ…」
くーちゃんは不満げだけどこれは重要な事だ。
という訳でルイスの膝から降りて、馬車から降りるタイミングで獣化を解く。
今日の服装は戦闘を考慮して魔導師のローブ風の物を皆に配っている。
勿論クォドムだ。
しかもセンマリカさんの所の職人さんと共同開発。
僕のやつは裏にポーション系を刺してきている。
辺りを見渡し耳を澄ませる。
両手に魔力を込めて柏手を打つ。
キィーン…と魔力が辺りに広がる。
うん。特に脅威は無いね。
でも一応何時でも魔法が使えるようにしておく。
僕の後にメリーちゃんとシャクティが続く。
その後はボーデンとルイスが出て来て最後にくーちゃんだ。
「バカねぇ。そんなに警戒しなくてもいいわよ。
私に大した価値なんて無いわけだし」
「そうは言うけどね、くーちゃんが拐われたら僕はいったい何を仕出かすかわからないよ?
それはシャクティやメリーちゃんも同じ事。
それに皇太子殿下が黙ってない」
「面倒ねぇ…」
やれやれ、といったジェスチャーを見せるくーちゃん。
「ま、いいわ。さっさと森に入りましょ」
「じゃ、アタシらはここで待ってるから子供は楽しんできな」
とボーデンが無責任な事を言う。
「おいボーデン」
「大丈夫大丈夫。お前がついてるだろ」
たしかにエリクシールは受け取ったけど…。
「それにアタシらが着いていくと邪魔だからな」
「それはどういう…?」
「アタシはあんま機動力ないし、リィンは見てわかるように大柄だし、ルイスはたぶんお前達の足を引っ張る」
あー……なるほどね。
「つー訳で、たまには四人で思い切り魔法ぶっぱなして来い」
「ん。わかった」
既に森へ入って行っているくーちゃん達を追う。
暫く進むと、やけに大きな蝶を見つけた。
「何かしら、あれ?」
相対距離は十メートルあるかないかで大きさは1メートルほど。
形は蝶そのもだ。
アストラル・ポーチの図鑑を捲るまでもなく、その名前は知っている。
「ビッグ・バタフライ。安直なネーミングだけどれっきとしたモンスターだよ」
モンスターは簡単に言えば魔力が集まって自然発生するか魔力で既存の生物が変異したナニカだ。
要するに、よく分からないモノだ。
そしてビッグ・バタフライは主に後者だ。
蝶や蛾が魔力で変異したモノとされている。
「ふむ。つまり狩って討伐部位を持っていけば小遣い稼ぎになるという事か?」
「まぁそんな所」
「では私の出番だな!」
とシャクティが前に出て刀に手をかける。
「そう。姫様とかぬいちゃんがやると消し飛ぶ」
「威力調整くらいできるわよ」
「僕だって投げナイフ使えば消し飛ばす事なんかないよ」
ん? というか…
「メリーちゃんは?」
「え?………………………面倒くさい」
うん、メリーちゃんらしい。
「では斬るぞ」
シャクティが居合いの構えを取る。
「風刃抜刀!」
一瞬で振り抜かれた無色透明の刃。
そしてその刃と同じく無色透明の、空間の揺らぎのような三日月状の斬撃。
その真空の刃はビッグ・バタフライに吸い込まれるように向かっていく。
そして一瞬の後、ビッグ・バタフライは振り抜かれた刀の軌道に沿い、斜めに切り裂かれた。
そしてパサリと地に落ちた。
「さて、回収しようではないか」
「ああ、待ってシャクティ」
アイテムボックスからトングを出す。
「ビッグ・バタフライは元になった蝶や蛾によっては鱗粉に毒がある。
触るならこれを使うんだ」
「おお、感謝するぞ狐君」
シャクティは空間にサッと手を振ってアイテムボックスの入口をつくると、トングでビッグ・バタフライの死骸を入れた。
「さっさと奥に行きましょう。私が吹き飛ばしても大丈夫なくらい大きいのが居るところまでね」
と言いながら何やら魔法を待機させている。
「ん。わかった。でも姫様が全力出したら森がふっとぶ」
「さすがの私もそれは無理よ。シラヌイならともかく」
「僕をなんだと思ってるんだ」
アイテムボックスから手裏剣の束を出してズボンのベルトに引っ掻けておく。
血の気の多い二人がどんどん先へ進んでいく。
僕とメリーちゃんはそれを追う形だ。
「やー、元気だねぇ」
「ジジ臭い」
「失礼な。僕は前世を含めてもまだ23だ」
「にじゅうさん……」
何故かメリーちゃんが頬を膨らませた。
「どうかした?」
「………………」
メリーちゃんがじっと僕を見る。
「…………………………見えない」
「そりゃぁ肉体はまだ六歳児だからね」
「なかみも」
「おい…」
そんな話をしていると、前方で大きな音がした。
ドォン! という落雷の音。
「くーちゃん…?」
前の方を見ると、くーちゃんが手を前に向けていた。
その延長線上には緑や青の小さな人型モンスター。
「お、ゴブリンだ。珍しいな」
ゴブリン。
主に霊長類が変異したモンスターだ。
…………エロ同人みたいなノリは無い。
無いったら無い。
彼らとて同族とまぐわいたいのである。
姫騎士とオークのくっ殺なんてない。
………………………少なくとも現実には。
「ひぃ…ふぅ…みぃ………五匹…いや八匹か」
立っているのが五匹。今の雷撃で倒れたらしいのが三匹だ。
「ん…」
メリーちゃんがたった一音と共に振り上げた手を振り下ろす。
キラリと、煌めきがゴブリン達を包んだ。
上空に作られた氷柱がゴブリン達を貫き、絶命させた。
「メリー! 私の獲物よ!」
「ふっ…早い者勝ち」
「むぅ…」
物騒な話だ…。
普通この年頃の貴族子女が取り合う物って言ったら服やアクセサリーなのでは?
少なくとも狩のスコアでは無いだろう…。
「ところでだが、狐君はまだスコア0ではないか?」
「え? 僕?」
メリーちゃんとくーちゃんの視線もこっちへ向けられた。
「僕は別にいいよ」
「ダメよ。貴方も働きなさい」
…………えー?
さっきまでスコア争いしてたじゃーん。
まぁ、いいんだけどね。
「わかったよ。じゃぁ次に出てきた獲物は僕の者って事で」
では獲物を探すとしようかな。
体の隅々まで魔力を巡らせる。
身体強化術だ。
そして、特に耳に重点的に魔力を籠める。
聴覚が、知覚が拡大する。
鳥の囀ずりや木々のざわめき。
さらには三人の心音までも知覚に入れる。
拡大した知覚の中で、足音が聞こえた。
四足歩行の獣だ。
一匹だからたぶん狼ではないだろう。
猪とかかな?
もう少し情報が欲しいな……。
息を吸い、胸部と喉に魔力を集中。
「━━━━━━━━━━━━━…………」
周囲に反響する音から、大まかな情報を得る。
「…………………ん?」
なんか、やけに遠くないか?
それでこの足音…。
音のした方に目を向ける。
多分結構なデカさのやつ。
「なんかでっかいの来そうなんだけど、退く?」
「あら、貴方の獲物よ? 貴方が決めなさいシラヌイ」
「うーん………多分大丈夫だと思うんだよね。大きい猪とかだと思うんだけど…」
地面に両手をつけて、周囲の地面に魔力を籠める。
獣数秒後、木々の間からぬっと現れたのは大きな蜥蜴だった。
軽自動車くらいの高さで、尻尾も含めると数メートルありそうな体長。
「ドラゴン…なの?」
「ドラゴン・レプリカだね。要するに大きいだけの蜥蜴のモンスター」
見た目は恐ろしいが、魔法攻撃をしてくるわけでもブレスを吐くわけでもない。
だけどこの大きさだ。
ドラゴン・レプリカが僕達にギョロりと目を向ける。
「あ、こっち来る」
まぁ、ドラゴン・レプリカの居るのは風下だし視認するまでも無かったんだろうけど。
「キシャアアァァァァァァッ!」
「きもちわるい……」
ぼそりとメリーちゃんが呟く。
「大地よ、我が敵を阻め! ピルム・ムーリアリス」
地面から斜めに突き出した槍がドラゴン・レプリカを貫く。
ドスドスと四つ足と尻尾を動かして逃げようとするドラゴン・レプリカ。
もがくドラゴン・レプリカに駆け出す。
途中、地面からはえる槍を一本抜き。
「とりゃっ!」
獣人種族の身軽さをいかし、飛び上がる。
ドラゴン・レプリカの真上で、風魔法で軌道を変えて落下。
「せあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
僕の体重を乗せた一撃がドラゴン・レプリカの頭を貫いた。
ガクリと崩れ落ちるドラゴン・レプリカ。
「スコア1」
このままギルドに持っていけばいい値段になるだろう。
直ぐにドラゴン・レプリカの骸をアイテムボックスに入れる。
「これで皆スコアが最低でも1ね」
「そうだね。じゃんじゃん狩ろうか」
僕達は森の奥へ奥へと進んで行った。
もう日が沈みかけだという時間にリベレーソに戻ってきた。
「じゃぁ、ギルドで換金しましょ」
「そうだね」
四人でぞろぞろとギルドに入る。
僕達を見る人は怪訝な目をする者と目を見開く者に別れていた。
「おねーさん」
カウンターで受付嬢に声をかける。
「お久しぶりですシラヌイ様。最近見かけませんでしたが…」
「うん。学校に入ったからね」
「なるほど。御学友との親睦会は狩猟ですか」
「ちょっと物騒だけどね」
「本日はどのようなご用件で?」
「うん。狩ってきたモンスターの買い取りをお願いしたい」
「かしこまりました。では」
とお姉さんがトレイを出そうとする。
「あ、今日はスライムじゃないんです。広い場所はありますか?」
僕がギルドで換金していたのは主にスライムだ。
ティアの為のスライムコアを集めていたからで、そのせいでスライム・スレイヤーなんて二つ名までついていた程だ。
「では裏の修練場にお越し下さい」
三人を連れて、ギルドの裏手の広場へ。
「じゃ、出しまーす」
僕はドラゴン・レプリカを、くーちゃん達もそれぞれ狩った大物を出す。
例えばオークだったり、ジャイアントウルフだったり、イビルサーペントだったり。
それぞれ数匹の大物を狩ったのだ。
普通なら持ち帰れないような量だが、全員広いアイテムボックスを持っている。
僕らの中では一番魔力の低いシャクティですら倉庫くらいの広さはあるのだから。
その後換金した結果、一番稼いだのはくーちゃんだった。
やっぱりオークの群れを狩ったのが大きかったようだ。
豚がモンスター化し、さらに時間を得て二足歩行するようになったとされるオークはそれなりに手強い相手とされる。
魔法がなければ。
くーちゃんは遠距離から大火力で一方的にオークを狩った。
さらに言えばオークの肉は精力がつくので高く売れるし睾丸とかもろ精力剤とか媚薬の材料(僕もボーデンからの宿題で扱った)だ。
しかも牙は子沢山と安産祈願の御守りだ。
僕が狩ったドラゴン・レプリカもまぁまぁ高く売れたけどオークの群れには及ばなかった。
馬車の中で。
「ふふん。このお金で猫カフェに入り浸ってやるわ!」
「サービスしとくよ」
猫カフェ。近日開店だ。
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