戦国異伝供書
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五十五話 足利将軍その五
政虎は将軍である足利義輝のところにも参上しそしてそのうえで義輝に一礼して己の考えを述べた。するとだった。
細面で引き締まり整った顔の者がこう言った、この者こそが足利幕府第十三代将軍足利義輝である。
「そなたに期待させてもらう」
「はい、それでは」
「そなたの言葉は聞いた」
こう言うのだった。
「そこには心がある」
「心がですか」
「確かなそれがな」
まさにというのだ。
「それがある、だからな」
「わたくしを信じて頂けますか」
「余はこれまで色々な者を見てきた」
それ故にとだ、義輝は政虎に話した。
「よき者か悪き者かはだ」
「そのことはですか」
「わかる」
こう言うのだった。
「だからな」
「それで、ですか」
「そなたが信じられる者だとな」
「その様にですか」
「思わせてもらう、だから必ずな」
「東国ひいては天下を」
「頼みたい、先に参上した者にもそうしたことを言ったが」
信長のことも言うのだった。
「それに加えてだ」
「わたくしもですね」
「是非だ」
まさにというのだ。
「信じさせてもらう」
「それでは」
「天下はこの有様だ」
義輝は苦い顔でこうも言った。
「ならばだ」
「はい、それならですね」
「そなたの力を借りたい」
「それでは」
「そしてだ、そなたには誰よりも強く正しいものを感じる」
それ故にというのだ。
「だからこそ格別のものを与えたい」
「といいますと」
「そなたに余の名から一字与えたい」
こうまで言うのだった。
「輝の文字をな」
「いみなからですか」
「そうだ、そなたはそこまでの者と見る」
名を一字を与える、そこまで信じているというのだ。
「それでだ」
「わたくしにですか」
「その文字を与えよう、そなたの名はこれからだ」
「上杉輝虎ですか」
「そうなる、その様に名乗れ」
「では」
「うむ、頼むぞ」
こう言うのだった。
「ここは」
「はい、それでは」
「この天下頼むぞ」
「必ずや」
「そなたは関東管領だ」
義輝はこのことから述べた。
「だからだ」
「まずはですね」
「関東を頼みたい」
そちらをというのだ。
「是非な」
「それでは」
「そして天下もだ」
こちらもというのだ。
「是非だ」
「はい、わかりました」
「頼むぞ、出来ればだが」
「何でしょうか」
「そなたは武田家とことを構えているな」
「はい」
その通りだとだ、輝虎は答えた。
ページ上へ戻る