ある晴れた日に
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708部分:冬の嵐は過ぎ去りその八
冬の嵐は過ぎ去りその八
「君達何をしてるんだい?」
「何を!?」
「一体何を言うのよ」
「ここは僕の家の前だよ」
このことを言ってきたのである。
「それでこんなことして。訴えようと思ったら訴えられるんだけれど」
「くっ、こいつ」
「何処までも」
皆その彼の言葉と余裕すらある笑顔を見て歯噛みするのだった。
「性根が腐ってやがる」
「とことんまで」
「話は終わりかな」
まだ言う吉見だった。
「じゃあその娘を返してもらおうかな」
「音橋」
「わかってるわよね」
皆今度は正道に対して告げた。
「何があっても」
「未晴は」
「わかってる」
言うまでもないといった返答だった。
「俺はこいつを守る」
はっきり言い切ったのだった。
「何があってもだ」
「ああ、そうだ」
「そうしろ」
まさにそうしろと告げる皆だった。それこそだった。
「それならな」
「いいわ」
「貴様が何を言おうが何をしようが」
正道は言うのだった。
「俺はこいつを守る。絶対にだ」
「わからない人だね」
吉見はその彼の言葉と決意を見ても平然としたものだった。
「僕は彼女の親戚なんだよ。その親戚の娘を取ってだよ」
「だから証拠はあるのかよ」
「何処にあるのよ」
「証拠か」
そしてだった。ここで正道は言うのだった。
「証拠はある」
「ほらね、君がそのことを認めてくれるなんてね」
吉見はさらに笑ってきた。平然としてそのうえでそこに黒いものを含ませている、そうした笑みでの言葉であった。
「嬉しいよ」
「貴様の親戚ではない証拠はある」
彼が言うのはこのことだった。
「それはある」
「またそんなことを言って」
「服は確かにだ」
見ればそれは着替えさせられている。病院の服ではなく洋服だ。それはもう着替えさせそのうえでマンションの中の目を誤魔化すつもりだったようだ。
しかしである。ここで彼は別のポイントを言うのだった。それは。
「この車椅子だ」
「車椅子だって?」
「これは病院の車椅子だ」
それだというのだ。
「それ以外の何でもない」
「あれ、車椅子って何処でも同じじゃない」
「違う」
正道は言い返した。
「それは断じてだ」
「違うって証拠は?」
「ここだ」
見ればだった。車椅子の病院のところを書いてある背もたれのビニールは引き剥がされて別のものが貼られている。しかしだ。
彼は別のものを見せてきたのだ。それは彼が今握っている車椅子のハンドルをだ。それを外して裏のところを見せてきたのだ。
「これを見ろ」
「これって?」
「ここに書いてある」
見ればだった。そこにしっかりと病院の名前が書かれていた。そして車椅子の番号も書かれているのだった。
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