戦国異伝供書
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第五十三話 三度南へその十二
「お二方はな」
「そうですか」
「そして言っておくが」
ここでだ、雪斎は元康にあらためて話した。
「当家ではな」
「武田家、長尾家の軍勢には」
「勝てぬ」
こう言うのだった。
「残念であるが」
「そこまで強いですか」
「兵も強く将帥が揃っていてな」
「しかも総大将がですか」
「あの方々ではな」
それではというのだ。
「到底な」
「勝てませぬか」
「あのお二人に勝てぬまでも戦えるとすれば」
それはというと。
「北条殿か」
「実際に長尾殿に敗れませんでしたな」
「うむ、そして遠いが安芸のな」
「毛利殿ですか」
「その策謀はあまりにも非道であるが」
それでもというのだ。
「戦も強い御仁じゃ」
「だからですか」
「お二方に勝てずとも」
「負けぬ戦がですか」
「出来る、そしてもう一人おられる」
「そうした戦が出来る方が」
「うむ、それはお主もよく知っている御仁じゃ」
元康にこう前置きして話した。
「それはわかるであろう」
「吉法師殿ですか」
「あの御仁もな」
「勝てぬまでも」
「負けぬ戦が出来る」
晴信、政虎相手にというのだ。
「それが出来る御仁じゃ、そして兵が圧倒的に多いとな」
「勝つこともですか」
「出来よう」
「左様ですか」
「だから思う、是非な」
「当家としては」
「尾張を手に入れてな」
そのうえでというのだ。
「織田殿もな」
「家臣にですか」
「すべきじゃ」
こう言うのだった。
「是非な」
「そうなれば」
「当家は武田殿、長尾殿とことを構えても」
そうした事態になってもというのだ。
「戦える」
「だからですか」
「あの御仁をと思っておるが」
「ですが吉法師殿は」
元康は雪斎に彼が知る信長を話した。
「誰かの家臣になるとは」
「思えぬか」
「はい、お館様でもです」
「家臣には出来ぬか」
「そうかと。そしてそれがしでは」
「織田殿にはか」
「絶対に勝てませぬ、戦えば」
その時はというのだ。
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