ある晴れた日に
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679部分:日の光は薄らぎその九
日の光は薄らぎその九
「それは」
「人間誰でも得手不得手があるけれどね」
「桐生はそれなのね」
「どうしてもね」
首を傾げながら言う彼であった。
「歌は得意じゃないんだ。聴くのは好きだけれどね」
「歌えばいいじゃない」
茜がマイクを持ちながら言ってきた。間も無く歌うのである。
「それだったら」
「音痴でも?」
「何でも数こなせばよくなるわよ」
だからだというのだ。
「最初守備が悪くても練習すればじゃない」
「いや、それはよ」
「例外もあるぞ」
男組が彼女の今の言葉に突っ込みを入れた。
「古木はよ」
「幾ら守備練習しても全然だろ?」
「ああいうのもいるぜ」
「あれはもう論外よ」
茜は彼についてはばっさりと言い捨てた。
「もうね。ネタだから」
「ネタかよ」
「あいつはネタかよ」
「物凄いのは守備だけじゃないじゃない」
この場合物凄いという意味合いが違っていた。どう違うかというとである。
「左ピッチャーには弱いし」
「確かに」
「それもかなり」
「おまけにチャンスにも弱いし」
古木の特徴である。肝心のバッティングについても深刻な問題を抱えてしまっているのである。それが古木克明という男なのである。
「どうにもならないじゃない」
「最初これは凄いスラッガーだと思ったんだけれどな」
「敵ながらな」
「悪いのは守備だけでな」
本当にそう思われていた時期があったのだ。
「あれだろ?いい置き土産って言われてたんだろ?」
「それがあれだよな」
「あんな有様で」
「フロントが監督をしょっちゅう替えるのも悪いんじゃないの?」
千佳はかなり冷静に述べた。
「それが結果としてね」
「育成に問題が生じて」
「それでああなると」
「成程」
監督を頻繁に交代させるとそうなってしまうことがままにしてある。あまりものを考えないフロントが陥り易い弊害である。そうなってしまってはチームはよくはならない。
「ホームラン二十五本でな」
「打点は三十七か」
「ある意味凄いよな」
「打率二割ちょっとだったしな」
確かに驚異的な数字ではある。
「けれどそこから真面目に育てていればな」
「ああはならなかったのにな」
「田中一徳だってな」
この選手のことも話に出て来た。
「ちゃんと育てられたのにな」
「あのチームだから弱いんだな」
「育成が無茶苦茶だからか」
「で、肝心の少年はここにはいないと」
奈々瀬もマイクを持ちながらスタンバイしている。その中での言葉である。
「まあ今の話聞いていたら」
「絶対に切れるな」
「間違いなくね」
「絶対に」
皆確信できることであった。
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