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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第7章:神界大戦
  第217話「薄氷の希望」

 
前書き
再び優輝達sideに戻ります。
 

 







 一か所に固まった優輝達。
 その戦いは、先程までより苛烈を極めていた。

「フェイトちゃん!」

「なのは……!」

 フェイトが高速で宙を駆け、それを援護するようになのはが魔力弾を放つ。
 さらにフェイトに追従するように跳び、眼前に迫る“天使”に仕掛ける。

「ふっ!」

「ッ……!」

「はぁぁっ!!」

 フェイトの速さから繰り出される連撃を、“天使”は容易く防ぐ。
 なのはの援護射撃も障壁で受け止められ、追撃の刃も同じように防がれた。

「ッ……!」

「まだっ……!」

 だが、そこでは終わらない。
 二人掛かりで攻め続ける。
 近接戦をしながら魔力弾を控え、隙を見て放つ。
 なのはが一度吹き飛ばされるが、即座に砲撃魔法で反撃。
 フェイトはそれを読んでいたかのように迂回し、砲撃魔法を防いだ神の死角から、再度攻撃を仕掛けていく。

「そこぉっ!!」

 防御の際に生じる、僅かな隙。
 それを狙って、なのはとフェイトは砲撃魔法による挟撃を行う。
 そして、それを防いでいる所へ、なのはが突貫した。

「っづ……!?」

「今!」

「うん!」

 僅かに怯む“天使”。
 その隙を、二人は見逃さなかった。
 背後からのフェイトの一閃により、“天使”の首が落ちる。
 それだけで倒せはしないが、大きな隙となった。

「はぁあああっ!!」

 そこへ魔力弾と砲撃魔法を存分に叩き込んでいく。
 “ここで倒す”と意志を込め、攻め立てる。

「っぁ……!?」

「終わりだ」

 魔法の嵐に晒され、“天使”は白目を剥いて宙を舞う。
 そして、トドメに優輝が飛んできて蹴りが叩き込まれた。

「次」

「行くよ!フェイトちゃん!」

「うん……!」

 優輝の言葉に応えるように、なのはとフェイトは次の相手へ向かう。
 優輝もまた、別の神や“天使”の相手をしに行った。
 何人かで徒党を組み、陣形を保つ。
 足止め役のグループが敵にダメージを与えたら、攻撃役がすかさずトドメを刺す。
 そんな連携を徹底し、優輝達は一つの陣営として踏ん張っていた。

「ちっ、やっぱ強いわね……!」

「かなりトリッキーだから、倒しづらい……!」

「次、来るよ!」

 アリシア達霊術組三人は、アミタとキリエの相手をしていた。
 洗脳されてしまった二人は、“天使”からの援護もあり、かなり厄介だ。
 連携を固めた三人でも、それなりに長期戦を強いられている。

「(神とかはともかく、二人には物理法則が通用する。なら……!)」

 目で合図を送り、アリシアはすずかが生成した氷を足場に跳ぶ。
 “天使”達の妨害を掻い潜り、何とかキリエまで肉薄し……

「どっせぇええええい!!」

「えっ……!?」

 ラリアットの要領で胴を抱えて、そのままアミタまで駆けた。
 意表を突かれたアミタは驚き、飛んできたキリエを受け止めてしまう。

「二人共いらっしゃーい、ってね!!」

 体勢を崩した二人に、アリサが追撃する。
 “天使”の妨害は、すずかとアリシアが身を挺して行っていた。
 アリサから強烈な連撃がアミタとキリエに叩き込まれ、地面へと落とされる。

「用意は!?」

「出来てる、よっ!!」

   ―――“秘術・魂魄浄癒”

 そこに仕掛けてあった霊術を起動し、先の一撃で気絶した二人の洗脳を解く。
 この一連の流れに繋げるため、少しずつ三人は準備していたのだ。

「流れ弾や援護もあって助かったよ……」

「一か所に集まったおかげね」

「でも……」

 何とか二人の洗脳は解いた。
 だが、次はその二人が復活するまで三人で守るように動かなければならない。
 間髪入れない連戦に、三人は気が滅入りそうになる。

「(逃げる事も進む事も許されない。……突破口を開かない限り)」

「……やるしかないわね」

「……うん」

 三人はそれぞれ武器を構え直し、襲い来る神達に備えた。





   ―――「神達の攻撃は理屈で捉えるな。“そういうモノ”と思え」

 陣形を組んで戦う直前に優輝に言われた事を脳内で反芻しつつ、クロノ達もまた懸命に戦い続けていた。

「はぁっ!」

「そこだ!」

 ユーノが攻撃を防ぎ、攻撃後の隙をクロノが狙い撃つ。
 同じように、リニスやプレシアも魔法を放っていた。

「(……なるほど。理屈込みで考えていたから、今まで全く防げなかった。……でも、それを抜きにして考えて、その上で“防げる”と思えば……!)」

 理力による攻撃は、そのどれもが概念的攻撃に値する。
 故に、ただの理屈で組み立てられた術式の魔法では決して防げない。
 完璧なまでに複雑な術式であれば、その時点で概念を伴い、防ぐ事も可能だが、そんな術式を何度も即座に組み立てられる訳でもない。
 そのため、クロノ達魔導師は一時的に既存の魔法理論を切り捨てた。
 今まで培ってきた経験だけを汲み取り、勘と思考だけで魔法を発動させる。
 最初は理屈を含んでしまっていたが、慣れてきた今、攻撃を防げるようになった。

「っ、ぐぅうううううう………!」

「……そのまま、防いでなさい……!」

「プレシア、いきますよ……!」

   ―――“Thor's Hammer Genocide Shift(トールハンマー・ジェノサイドシフト)

 ユーノが複数の“天使”の攻撃を受け止め、その間にプレシアが魔力を溜める。
 その隣でリニスが魔法陣をいくつか用意し、そこを通すように魔法が放たれた。
 ありとあらゆるものを呑み込む雷の一撃が、一気に“天使”達を呑み込む。

「逃がさん!」

「合わせて!」

「了解だよ!」

 討ち漏らしを光輝や優香、アルフと言った余りのメンバーで攻撃する。
 反撃がない訳ではないが、確実にダメージは与えられていた。





「(反撃が通る程度には善戦出来ているな)」

 神界でなければ、既に殺されている戦況。
 それでも反撃が出来ている事を確認する優輝は、一際強く踏み出す。

「シッ!!」

 “性質”を用いて動きを止めてくるのを無視し、掌底を“天使”に叩き込む。
 吹き飛ぶ所を襟を掴む事で阻止し、浮き上がった体を創造した剣群で刺す。
 刺した剣を魔力で操り、他の“天使”達へと投げつけ、剣を爆発させた。
 それらを一瞬で行い、次の敵へと肉薄する。

「(神界にも慣れてきた。これなら……)」

 劣勢且つ、包囲されて絶体絶命なのは変わらない。
 だが、先程から優輝は反撃で相手を仕留められるようになってきていた。
 感情がない故に、無意識に相手の“性質”を受ける事がなく、そのため意図的に妨害などを無効化出来ているのだ。

「(……そろそろ、来るか)」

 だが、相手もそれは織り込み済みだろうと、優輝は推測した。

「(……“性質”の応用かは知らないが、あの神によって僕らの思考が()()()()()()()。“守られる性質”だから……おそらく、僕らに“守られる”事で“性質”を適用させ、その上で誘導したんだろう)」

 この推測は当たっていた。
 ソレラは“守られる性質”を適用させる事で、優輝達に影響を与えられるようになり、それを応用して思考を誘導していた。

「(その誘導によって、僕らはまんまと神界の中に誘い込まれた。そして、僕を仕留めるために確実な包囲を作った)」

 主導はイリスだろうと予測を付けつつ、その場合どうなるかを考える。

「(ここまで用意周到なら、この程度の足掻き、想定していないはずがない)」

 眼前の“天使”の頭を肘と膝で挟んで粉砕し、吹き飛ばしながらも思考する。
 この辺りで、何か仕掛けてくる。優輝はそう考えた。

「ッ!!」

 そして、“ソレ”は来た。







「なっ……!?」

 驚きの声を上げたのは、クロノだった。
 偶然とはいえ、優輝はそこまで()退()()()()()からだ。

「……ほう。今の一撃を止めたか」

「……ぐ、っ……!!」

 優輝がその攻撃を受ける時、リヒトはグローブの形態だった。
 剣では、折られた時の対処で隙を晒すと判断していたからだ。
 実際、その攻撃を剣で受けていればあっさりと折られ、直撃していただろう。

「本来の限界を度外視した、反則的な身体強化。ここまでとはな」

「……っづ……!?」

 全力だった。不意打ちに近いとはいえ、優輝は全力で受け止めたつもりだった。
 否、本来であれば導王流で受け流すつもりだったのだ。
 だが、それが出来なかった。

「(たった一撃。なんの変哲もない()()()()()で、ここまで……!?)」

 感情がなくとも、それは驚愕に値した。
 あまりに強大過ぎる一撃を受け流せず、そのまま受け止めた。
 その重さに、優輝は前線にいたにも関わらずに一気に後退させられたのだ。
 ……それでも、受け止められただけ幸運というべき程だった。

「(こいつは、明らかに他の神とは違う……!)」

 対する神は、老成した偉丈夫の大男と言った容姿をしていた。
 一目で“強い”と分かるその男は、金棒のような鈍器を持っていた。
 その武器で優輝を攻撃し、優輝はそれを何とか受け止めていたのだ。

「ぐ……ぉおっ!!」

 滑らすように、受け止めた体勢から攻撃に転じる。
 手刀に魔力と霊力を纏わせ、リーチを伸ばして一閃する。

「ふん」

「ッ―――!」

 だが、それはあっさりと跳んで躱される。
 それどころか、そのまま身を捻って攻撃に転じてきた。
 蹴りが放たれ、優輝は辛うじて転移魔法を間に合わせる。

「っ、は、ぁっ!」

 そこから、連続して転移を繰り返し、その神へと攻撃を繰り出す。
 一回の転移では動きを見切られると判断した上での攻撃だが……

「甘いわ」

「ッ……!?」

 それすら見切られた。
 転移すら間に合わず、カウンターのように一撃を食らってしまう。
 反射的に体が回避しようとしたためか、直撃は避けられた。

「っご……!?」

 ……尤も、それだけで陣形から孤立する程に吹き飛ばされたが。

「っづ……!」

 即座に体勢を立て直し、敵である神を睨む。
 ……そして、膝を付いた。

「……!?」

 “ありえない”と、優輝は思った。
 まさか、たった二撃交えただけで膝を付く程になるとは思わなかったのだ。

「(……強い……!)」

 確信した。
 相手の神は、通常戦闘力において神界でも上位の存在だと。
 限界を遥かに超えた身体能力を以ってしても軽く上回られた事から断定した。

「ほう……まだ立つか。差を知覚すれば、貴様程の強さの者は須らく倒れたがな」

「シンプルに強い……となれば、“性質”も……!」

「分析する余裕がまだあるか。……そうとも、儂の名は真強(しんごう)。“強い性質”を持つ。貴様に“性質”明かすのも、また“性質”故」

「………!」

 その言葉に優輝は歯噛みする。
 “性質”はその神が“そう在るべき”として備わるモノだ。
 故に、“強い”とただ存在する真強は、文字通りただただ“強い”。

「(……なるほど。通りで直接的な戦闘では歯が立たない訳だ)」

 冷静に分析する。
 間違いなく、今の優輝では通常戦闘において真強に敵わない。
 今まで出会って来たどの敵よりも、“戦闘”において強かった。

「……感情が消えたと聞いていたが、どうやらそうでもないようだな」

「……なんだって?」

 真強の呟きに、優輝は思わず聞き返した。

「悠長な事をしていれば、足元を掬われるだろうな」

「何を言って―――」

「今の貴様には関係のない事だ」

 刹那、鈍器が振るわれる。
 優輝は紙一重でそれを躱すも、風圧で軽く吹き飛ばされた。
 即座に転移して間合いを離し、体勢を整える。

「「ッ……!!」」

「甘いぞ」

 直後、とこよとサーラが背後から攻撃を仕掛ける。
 真強のサイドからは、ユーリと紫陽が挟撃を狙っていた。
 だが、二人の攻撃を受け止められ、投げ飛ばされてしまう。
 紫陽とユーリはその二人をそれぞれ受け止めさせられ、攻撃を中断した。

「ッ……気配を消してこれ……!?」

「遅いわぁっ!」

「くっ……!」

 そのままとこよへ肉薄した真強はその剛腕をとこよに叩きつけようとする。
 咄嗟に紫陽が障壁を張り、同時に霊術を当てて阻止しようとするが……

「ふん!」

「ッ!?」

 そのまま剛腕を振るわれた。
 放った霊術がまるで効かない事に紫陽ととこよは動揺してしまう。

「……ほう」

 だが、辛うじてとこよの防御が間に合い、拳が逸れて直撃は避けられた。

「阻止出来ないと見てずらしたか」

 それだけじゃない。真強が視線を横に向けると、その先になのはと鈴がいた。
 なのはが砲撃を、鈴が矢を全力で放ち、辛うじて腕の軌道をずらしたのだ。
 そして、とこよの刀で逸れるように直撃が避けられた。

「はぁああっ!!」

「………」

   ―――“Neun Säbelhieb(ノイン・ゼーデルヒープ)

 サーラが肉薄し、九連撃を背後から放つ。
 しかし、真強はそれを無防備に受け止めた。
 体の表面に張られた障壁が、全て防御してしまっていたのだ。

「『サーラ!』」

「ッ!」

 僅かに動揺したサーラは、脳内に響いたユーリの念話で我を取り戻す。
 咄嗟に飛び退き、砲撃魔法を真強に直撃させる。

「唸れ、魄翼……!」

「射貫け……“朱雀落”!!」

「ッ……“凶風(まがつかぜ)”!!」

 ユーリの魄翼が真強を両サイドから抑え込み、すかさずとこよと紫陽が至近距離から矢と瘴気を用いた風の刃を直撃させる。
 どれも障壁に阻まれたが、それでも真強はその場に立ち止まった。

「“決して砕かれぬ闇(アンブレイカブル・ダーク)”……!!」

 そして、事前に集束させていたユーリの魔法が放たれた。
 全てを呑み込む闇の砲撃は、真っ直ぐに真強へと向かっていく。
 事前に防御の用意をしていなければ、優輝達の誰も咄嗟には防げない攻撃だ。
 故に、目の前の神にも効くだろうと、ユーリは思っていた。

「決して砕かれぬ闇、か」

 ―――だが。

「イリス様と比べるのも烏滸がましい」

 真強は、それを鈍器の一振りで打ち払った。

「なっ……!?」

 全力の一撃が容易く防がれ、ユーリ含め何人かが驚愕の声を上げた。

「ぉおっ!!」

「ッ……!」

 直後、転移で肉薄した優輝の一撃が、真強に炸裂する。
 しかし、やはり防がれてしまう。

「(通じない、訳じゃない!!)」

 だが、真強は防御を取っていた。
 そして、防いだ体勢から体を動かす事にも成功していた。
 その事から、決して攻撃が通じない訳ではないと優輝は確信する。

「は、ぁっ!!」

 転移による死角への回り込みは使用せず、正面から優輝は追撃する。
 下手に攻撃しても防がれてカウンターを受けるのが目に見えていたからだ。

「ふん!!」

 攻撃が防がれ、鈍器が振るわれる。
 それを紙一重で身を捻る事で躱し、追撃を放つ。
 だが、それを無効化するように剛腕が繰り出され、優輝は後方へ吹き飛んだ。

   ―――ブシッ……!

「ぬぅ……!?」

 その時、真強の拳から血が溢れた。
 
「っづ……どうだ。少しは効いただろう?」

 吹き飛んだ優輝は、“天使”を下敷きにしながらも既に体勢を立て直していた。
 手には、刀身の砕けた剣が握られていた。
 その剣は“デュランダル”。逸話により“折れない”と言う概念を持つ剣だ。
 神界において逸話による概念効果は強い。
 それを利用して、優輝は捨て身のカウンターで剣を拳に突き出したのだ。
 結果、逸話の概念効果を以ってしても剣は砕けたが、攻撃は通じた。

「そのような手を使ってくるとは……だが……」

「ッ……!」

「それだけでは倒せんぞ?」

 瞬時に優輝へ肉薄。その動きはとこよ達にも見切れなかった。
 剛腕による手刀が優輝へと繰り出される。
 
「ぉおっ!!」

「っ……!」

「(二度は通じないか……!)」

 ほぼ勘で体を動かし、手刀を放つ腕へ手を引っ掛ける。
 物理法則を敢えて容認し、手刀の動きに優輝の体が引っ張られた。
 回転とまではいかないが、その引っ張られた動きを利用し、優輝は蹴りを放つ。
 だが、今度はそのカウンターすら防がれてしまった。

「チッ!」

 優輝はそのまま足を掴まれる。
 真強の強さからして、振り解くのは不可能を判断する。
 おまけに、二回の捨て身のカウンターにより、両腕も使えない程壊れている。
 そのため、即座に剣を創造して射出。足を切断する。
 そして、転移魔法でとこよ達の場所まで避難する。

「ッ……!!」

 間髪入れず、優輝は“意志”を強める。
 その瞬間、片足以外使い物にならなくなった四肢が元に戻る。
 
「ッッ!!」

 そこへ、真強が再び肉薄する。
 振るわれる鈍器から避けるように動きつつ、全力でそれを受け流した。

「っづぁ……!」

 反撃する余裕はない。
 しかし、それでも何とか攻撃を受け流す事には成功した。

「ほう……!」

「ッッ……!!」

 鈍器か剛腕が振るわれ、優輝がそれを受け流す。
 拮抗なんてしていない。完全に優輝の防戦一方だ。
 それも、僅かにでもタイミングがずれれば押し負ける程ギリギリだった。

「(反撃を考えるな!今は受け流す事に集中だ!!)」

 感情がないはずの優輝の表情が歪む。
 受け流しているとはいえ、優輝にダメージがない訳ではない。
 一撃ごとに優輝はダメージを蓄積させていく。

「儂の攻撃をこうも受け流すとはな。……神界以外でそれが出来る存在を見るとはな……!面白いぞ……!」

「ッ、楽しみやがって……!!」

 全神経を防御に割いているため、優輝は創造魔法を使う暇がない。
 身体強化、導王流、その二つ以外に思考を回せないのだ。
 そのために、こうして真正面から受け流すしかなかった。

「む……!」

 その時、真強の背後から矢や砲撃、霊術などが飛んでくる。
 さすがに無防備で受ける訳にはいかないのか、真強はそちらへ目を向けた。

「ッ!」

 あろうことか、眼力だけで真強は攻撃を弾き飛ばした。
 攻撃を放った紫陽達は、その現象を理解出来なかった。
 だが、実際眼力だけで攻撃を打ち消したのだ。

「ッッ!!」

「ふっ……!!」

 攻撃はそこでは終わらなかった。
 砲撃などに隠れるように、とこよとサーラが肉薄。
 渾身の力を以って二人は刃を振るった。

「くっ……!」

 しかし、その二撃はたった片腕で防がれる。

「まだっ!!」

 それでも、攻撃が通らない訳じゃないと、とこよは確信する。
 即座に武器を斧に持ち替え、横に薙ぐ。
 同時にサーラも追撃を放つ。

「(僅かに“斬れた”。なら、通じる!)」

 追撃をやめない理由は二つある。
 一つは、今のようにとこよとサーラでも攻撃が通じる可能性がある事。
 もう一つは……

「ぉおっ!!」

「ぬぅっ……!」

 真強の気を逸らさせる程、優輝が隙を突くチャンスが生まれるからだ。
 二人の攻撃に片腕を割いたからか、優輝がすかさず攻撃に転じた。
 剛腕を掠らせつつも、カウンターで魔力の刃を纏った回し蹴りを放った。

「ちぃっ……!」

 だが、結局その蹴りは真強の脚によって阻まれた。

「かぁっ!!」

 そして、鬱陶しいとばかりに真強が気合を放つ。
 衝撃波が発せられ、優輝達三人が吹き飛ぶ。

「はぁああっ!!」

「ぬるい!」

 間髪入れないように、なのはが魔力弾と砲撃を放ちつつ突貫する。
 だが、あまりにもあっさりとその刃が弾かれた。
 魔力弾と砲撃も片腕であしらわれている。

「ッ……!」

「む……!」

 二段構えに、なのはに隠れていたフェイトが速度特化で刃を振るう。
 限界を超えたその速度は、神界においてはとこよ以上となっている。
 その速さで奇襲を仕掛ける。

「くっ……!」

「ふん。っ!」

 だが、それすら真強は見切った。
 脚で攻撃を受け止め、直後に踏み込む事で衝撃波を発生させる。
 その寸前、四方から霊術や矢、剣が飛んでくる。
 それらに意識が向いたためか、衝撃波の威力が弱まった。

「ほう……!」

 離脱しようとするなのはとフェイトに追い打ちを掛けようとする。

「させ!」

「ない!」

「ぬっ……!?」

 だが、それをさせまいとすかさずとこよとサーラが斬りかかった。

「(今……!)」

 そして、優輝が好機と見て仕掛ける。

「一歩無間、二歩震脚、三歩穿通!!」

   ―――導王流弐ノ型奥義“終極”

 間合いが詰められ、真強へとその一撃が放たれた。

「フェイトちゃん!」

「うん……!」

 さらに、とこよとサーラ、優輝へと意識が向いているのを利用し、なのはとフェイトが真強の脚を斬りつける。
 ダメージは然程なかったとはいえ、僅かにでもバランスが崩れた。
 これにより、回避される可能性を潰す。

「ぬ、ぉおっ!!」

「ッ……!!」

 しかし、それでもなお、届かない。

「嘘……!?」

 一撃に賭けた。だが、それは真正面から叩き潰された。
 真強の本気の一撃は、僅かとはいえバランスが崩れた状態で放たれてなお、優輝の一撃を遥かに凌駕していた。

「終わり―――」

 一撃に賭けたのならば、この一撃は躱せないだろう。
 そう確信し、“終わりだ”と真強は優輝に拳を叩きつけようとする。
 だが、その言葉は途中で途切れる事となった。

「ぉおおおおおおおおっ!!!」

   ―――導王流壱ノ型奥義“刹那”

 奥義の二段構え。それが放たれたからだ。
 躱しきれずに片腕を消し飛ばされながらも、カウンターを放った。
 その一撃の威力すら利用し、優輝の回し蹴りが真強の横面に炸裂する。
 魔力だけでなく霊力も纏ったその脚の一撃は、真強をよろめかせた。

「ぬぐっ、ぉお……!?」

「ゥ、ぅう……!!」

 声にならない唸り声が優輝から漏れる。
 優輝はこれを狙っていたのだ。
 一瞬の好機を狙って賭けの一撃を放てば、それを叩き潰す攻撃が飛んでくる。
 それを、さらに奥義でカウンターしようと、優輝は試みたのだ。

「ぉ、ぁあああああっ!!」

 試みは成功した。だが、そこで終わらせてはいけない。
 強烈な一撃が決まったのだ。そのまま押し切る必要がある。
 故に、優輝はさらに攻撃を繰り出す。

「(反撃する暇を与えるな!立ち直る暇も与えるな!息さえさせるな!)」

 打つ、打つ、打つ。
 極限を超えて強化された拳が、何度も真強を打ちのめす。
 武器を創り攻撃するよりも、攻撃を連打する。
 右に、左に、全力で打ち抜き、膝で顎をかち上げる。
 即座にダブルスレッジハンマーを振り降し、視界を揺さぶる。

「はぁあああああああああああ!!!」

 無論、優輝だけでなくとこよやサーラ、紫陽、ユーリ、なのは、フェイトも邪魔にならないように何度も攻撃を放っている。
 一瞬の好機を逃さずに、今ここで真強を倒さんと、力を振るう。

「これで!」

   ―――“Neun Säbelhieb(ノイン・ゼーデルヒープ)

 掌底を放ちつつ、優輝が一歩踏み込む。
 少しばかり間合いが離れ、そこへサーラが九連撃を叩き込む。
 縫い付けられるように、真強は声も出せずによろめく。

「終わり!」

   ―――“森羅断空斬”

 震脚で足元を揺らし、すかさずとこよが真強を斬りつける。
 あらゆるものを一刀にて斬るために生まれたその一撃が、ついに真強に膝を付かせ、その場に留めた。

「だぁああああああっ!!!」

   ―――導王流弐ノ型奥義“終極”

 そして最後に。
 優輝の一撃が真強の胸を捉える。
 先程までの攻撃全てに“倒す意志”が込められ、とこよとサーラはさらに一際強い“意志”の下、攻撃を繰り出していた。
 トドメに、優輝の一撃だ。
 最後の一撃を以て、真強の胸に大きな穴が穿たれた。

「っ、ごふ……!見、事……!!」

 “負ける訳にはいかない”。その意志が真強を打ち負かした。
 血を吐き、倒れ伏した真強はもう動かない。

「勝っ、た……?」

 フェイトが呆然と呟く。
 単純に強かった故に、短期決戦だった。
 それでも勝った際の達成感は強く、緊張の糸が切れそうだった。













「ッ……!!」

 ……そして、まさしくその瞬間を狙っていたのだろう。

「まさか彼を倒すとは……やはり、侮れませんね……」

 声を上げる間もなく、何人かが“闇”に呑み込まれ、イリスが現れた。

「邪神、イリス……!」

「喜びと達成感による安心。途轍もなく狙い目でしたよ」















   ―――茶番は終わりです。真に絶望する時ですよ

























 
 

 
後書き
Thor's Hammer Genocide Shift(トールハンマー・ジェノサイドシフト)…プレシアの最高威力の魔法をリニスがサポートした魔法。威力の底上げだけでなく、広範囲にもなっている。

真強…文字通りただただ強い。シンプルに強い神。戦闘能力で言えばドラゴンボールのようなインフレ勢とも真正面から殴り合える程。

“強い性質”…シンプルに強い性質。一目で“強い”と確信できる気配、容姿などを持ち、シンプルに“強い”と思える強さを持つ。

凶風…かくりよの門のスキルより。読み方は多分違う。瘴気を用いた風の刃を広範囲に放つ。込めた霊力によって風の刃の数や威力が増減する。


霊術を叫ぶ時は“戦技”や“真髄”を外す事にしました。一応、技としては同じです。技名を叫ぶのは言霊などの関係で必要ですが、技の分類を叫ぶ必要はありませんしね。
ちなみに、真強戦は若干銀魂の鳳仙をイメージしています。容姿もそれに近いです。

理力についてですが、リリなのの魔法が“計算式を組み立てて魔法という答えを出す”と例えると、理力は“どんな答えにも当て嵌る言語”みたいなものです。最初から答えを持っているどころではなく、本当に“そういうモノ”として存在するだけです。
他にも、炎で例えると“燃料を素に燃やして発生させる”のが普通ですが、理力の場合は“炎だから炎”と理屈抜きにそこに存在するようになります。そのため、概念的効果(炎なら“燃やす”)が伴い、理屈で整えられた魔法などはあっさりと貫通してしまいます。 
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