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魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers

作者:kyonsi
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第48話 贈られた内容、そして疑念と再来を誓って。


――side響――

「フェーイトさーん、シャーリーさーん。少しいいですかー?」

「なーにー?」

「どうしたの?」

 昨日の一幕から、なんとか六課の隊舎まで帰り着いて、今朝の事務仕事も一息着いてからの。

 まぁ、今朝は今朝で色々合ったというか。普通にエリオとキャロに新しい仕事のレクチャーしたり色々してたんだけど。不思議と皆が有給の事聞いてこないから、コチラから応えることもしてない。まぁ、何のために取ったのか知ってるからだろうなー。変に気を使われるよかこうしてくれた方が俺は有り難い。

 で。バック片手にデバイスルームにお邪魔して。

「突然で申し訳ないんですけど。これ……やっぱもうダメですよね?」

 スッとシャーリーさんにデバイスを。今まで使ってた方を渡す。なんだろーって、不思議そうな顔をしながら、デバイスと機器とを接続して、一瞬で表情が曇る。

「……な、何があったの?」

「……まぁ、色々と。やっぱもう逝っちゃった?」

「……よりにもよってデバイスのコアの部分が破損してる。直せないことはないけど……時間掛かるよ?」

 言いにくそうに目を伏せる。まぁ、分かってたことだしな。仕方ない。それに、だ。

『データの同期は完了しています。力不足……ですが、精一杯貴方に着いていきます。我が主』

「あぁ、コチラこそお願いするよ。シャーリーさん。それ……一応お願いしても?」

「うん、勿論。今まで一緒だったもんね、気持ちはよく分かるよ」

 任せてって言わんばかりにどんと胸を叩く。そして、むせたので、フェイトさんが背中を擦ってやって……。

 で。

「それも要件の1つ何だけど……マリーさんは今日はいらっしゃらない感じ?」

「うん。本局に行ってるよ。何か用だった?」

「まぁ、用っちゃ用だな。シャーリーさん以外にも意見が欲しくてなー。これからはやてさんの所に行くから付き合ってくれ。この時間帯ならリインさんもまだはやてさんの所に居るだろうし」

「うんいいよー。でもリインさんまで何で?」

「行くまで内緒……ってか、オレ一人じゃ判断に困ってなーそれでだ」

 思わず深いため息が出てしまう。そんな様子を見て不思議そうにしてるシャーリーを連れて、部隊長室へ。
 ……ちらりとフェイトさんに視線を向ければ、どことなく不機嫌なのはなんでだろうと? こういう話をしてるから、あまり入ってこれないからかな?
 さて、今日は初めて会うから、まずはしっかりとブザーを鳴らして。

『どうぞ』

 その声とともに部隊長室の扉が開いて。

「失礼します! 緋凰響空曹並びに、シャリオ・フィニーノ一等陸士。ご相談があって参りました!」

「はい。了解しました。後はいつも通りでええよ。響、シャーリー。フェイトちゃんもさっきぶりやなー」

「「失礼します」」

「うん。忙しくなかった?」

「全然や」

「最近はなんとかゆっくり出来るようになったですー」

 今更……と思われるかもしれないけど、隊長格や上司に会う時。少なくとも朝一番はこうして何時も挨拶してる。部隊の空気が緩いって言っても最初の挨拶くらいはしっかりしないと示しがつかないからねー。

「で、どうしたん響? フェイトちゃんや、シャーリーまで連れて?」

 リイン曹長と湯呑みでお茶を啜ってたらしく、何か縁側に居るような雰囲気だ……リイン曹長は何か顔拭いてて見えないし。

「えーっと、そうですね……少し時間取ってしまうんですが」

「待った、長くなるんならお茶入れるから待って」

「あ、それは私が入れますよー」

 パタパタとシャーリーが部隊長室に備え付けられた給湯室へ向かっている間に。

「見せるのはシャーリーさんが戻ってきてからなんスけど……。ちょっと実家帰ったら厄介……ではないですけど、俺一人では扱いに困るというか、どうしていいかわからないものが出てきまして」

「そうなんですかー?」

「え、そうなの?」

 ようやっと顔を見せてくれたリインさんと、そもそも相談し忘れてたフェイトさんの疑問。だけど……。

「……髪の毛に煎餅が引っ付いてますよー」

「え、あ、はやてちゃーん!」

「はいはい」

 キャーってやりながら顔を手で覆って、はやてさんの元へ。なんというか母と子だよなー……。

「響?」

「何も思ってませんよ。ええ、何も」

 キラッと目が光らせ、はやてさんの笑顔が向けられる。ええ、何も思ってませんよ?

「お茶淹れましたよー。皆さん飲みましょー」

「シャーリーさん、ありがとうございます」

 皆で部隊長室のソファーに座って、お茶配ったりなんやかんやして……さて!

「突然で申し訳ないんですけど。今回実家に帰った結果非常に扱いにくいモノ……モノ? が出てきました」

「すごい言い淀んだなー。どんなん?」

「……これなんですけど」

 ガサゴソとバックから取り出すは、白い箱……もとい棺。それを机に置いて、差し出すように皆さんの前へ。

「開けてええ?」

「どうぞ」

 慎重な手つきで棺を開く、それを横から覗き込むように見ているリインさんとフェイトさんに、シャーリーさん。そして中に入っているモノを見て、皆さんが固まったのが分かった。
 いや、正確にはリインさんは嬉しそうに拍手をしている。後の三人が完全に固まりぎこちない動きのままコチラに顔を向けて。

「……これって?」

「……見たまんまかと」

 ぎこちない動きで、棺へ視線を戻す2人を見ながら。余計な問題持ち込んだかなと今更ながら後悔。だって、この棺に入ってるモノとは。

「……はやて、これって……」

「中身を見ないと分からへん。やけど……間違いなく言える。この子は融合機や」

 棺に目を落とす。巫女服を纏った肩に掛かる程度の黒髪の小さな女の子がお腹の辺りに手をおいて、眠るように収められていた。
 そして、説明を求められる前に、実家にあった手紙の内容を伝える。うちの母曰く、ある程度の開発は進めたものの、起動の仕方がわからないということを。それを聞いたはやてさんは。

「ごめんやけど、ちょっと触るな」

「どうぞ」

 小さい子を抱き上げるようにゆっくりと融合騎を抱いて、静かに語りかけるように目を閉じた。
 フェイトさんも懐からバルディッシュさんを取り出して、違う方面からアプローチを掛けているようだ。
 その間にシャーリーさんとリインさんが何かに気づいたらしく、棺の中をゴソゴソとしていて、リインさんが何かを持ち上げた。

「響……これ」

 そう言ってリインさんから、手渡されたのは一本の簪。白銀の10センチ程度の鉄で出来た軸に、先端には紅色と黒色の2つの鈴が付いていた。
 母さん綺麗なもの持ってたんだーなんてのんきな事を考えてると。

「……アームドデバイスですよ、これ」

「……え?」

 マジカヨなんて考えてると同時に。

「……あかん。やっぱりこの子、まだ人格が……心が入ってへん。ゴメンな響」

「バルディッシュも、動作データしか見られないって」

「……え、あ、いえ、お二人にそんな。とんでもない、です」

 手に簪を持ったまま固まる。と言うか色々ありすぎて思考が纏まらない。とりあえずなんとか踏みとどまって、話を聞く。
 はやてさん曰く、そのまんまの意味であの融合騎は外部フレーム等は既に完成しているが、それを動かす魂がまだ入っていないらしい。もしかしたら起きてないだけかもしれないが、おそらくは入っていないと見たほうが良いらしい。
 実際これは花霞とバルディッシュさんの二機の呼びかけに応じないから何となくわかってた。
 その次はリインさんから。この簪は非人格型のアームドデバイスなのだが、軽く内部の情報を見ただけでも分かる程度に古い……早い話が古代ベルカで作られたものらしい。

 で、一番不味いというか、おかしくなってるのが。

「響、この子たち連れてっていい!?」

「あー、まー、ちょっと待って」

 融合騎の眠る棺を持って今にも飛び出しそうなシャーリーさんをフェイトさんが抑えつつ、はやてさんの方を見る。すると察してくれたらしく。

「この子の人格の生成は響次第や。勿論私達も出来る限りで協力はするよ」

「助かります。感謝です! ん、少し待って下さい」

 ふと思い立ったことがあって、懐から花霞を取り出して……。

「なぁ花霞。融合騎になれるっつったらなる?」

『……は?』

 思ったことを告げると。その意図を察したのかはやてさん達が笑ってる。ちょっと恥ずかしいなーとか思いつつ話を続ける。

「単にあれだよ。また一から信頼関係を結ぶよりも花霞が入ってる方が安心だからな」

『……主、それには少し……考えても宜しいでしょうか?』

「勿論いいよ。ということでシャーリー。融合騎は少し後回しでアームドデバイスを動かせるようにしてもらってもいい?」

「勿論、色々調べるからね! それじゃあ失礼します!」

「じゃあ私も色々調べてみるね。マリーさんにも私から連絡入れてみるよ」

「ありがとうございます。シャーリー……さんはもう行ったか。すいませんフェイトさんお手数を」

「気にしないで、じゃ」

 棺と簪持って全速力で走ってったシャーリーさんと、ゆっくり出ていくフェイトさん。で、部屋に残された俺はと言うと。

「「「……」」」

 3人でお茶を啜る、で。はやてさんがにや~っとあくどい表情になったのを見てしまい、冷や汗が流れる。絶対碌なことにはならないと分かってるから。

「で、フェイトちゃんとお風呂入ったらしいけど、どうやったん?」

 お茶を吹き出し逃亡しようとしましたが、バインドで縛られました。

――sideなのは――

「「ながれー大丈夫ー?」」

「……ダイジョブ、ダイジョウブ……ダカラ、クスリガキクマデ、チョットマッテ」

 お布団の中で頭を抑えながら横になってる流の周りをヴィヴィオと雫ちゃんが心配そうに見守ってる。震離はお姉ちゃんとお母さんとで、何やら怪しい会合を開いてたけど……。
 まさか昨日の晩。何でか知らないけど、間違えて流も震離もお酒を飲んじゃったみたいで……。忍さんがジュースを持ってきてくれたんだけどなー。何で酔っ払ったのかなー。私は知らないなー。
 なんてことは置いといて、そのせいで現在二日酔いで苦しんでる。さっきお父さんから頭痛薬を貰って飲んだけど、まだ効くまで時間がかかりそう。

 だけど、昨日の晩で気づいた。震離と響の関係を。個人的には震離も響を狙ってると考えてた、けど実際は全然違った。間違いなく愛情はある。響からも、震離からも。
 でもその愛情は、恋人とかじゃなくて、完全に兄妹に向ける愛情だった。実際酔った震離を相手に響に気があるんじゃないかってお姉ちゃんが聞いたら驚く回答をした。

 ―――好きは好きです愛してます。だけど、私のソレは兄として慕ってるだけです。あの人が間違えた道に行こうとしたら止める。だけど、私が居なくてもソレは優夜や煌、時雨に紗雪が止めてくれる。だから、私は間違えてしまった、あの人を更に鋭くさせてしまったから。

 ―――だから、今の響を落とそうと思ったら至難の業ですよ。あの人の抱える全てを受け止めなきゃいけない。あの人が抱える罪も後悔も何もかもを。

 ―――もしもソレが出来る人が居たら、私は安心して任せられる。

 って悲しそうにそう言ってた。同時に。

 ―――まぁ、響狙ってる人多いんですけど、私中立なんでー何処にも与するつもりは無いんでー。だからこれ以上は吐かないですー。

 この発言には驚いた。酔っ払ってたから確証は得られなかったけど。恐らくフェイトちゃんも惹かれてる事に気づいてると思う。
 実際六課に来てから1人。最近だともう1人惹かれてるかもねと言ってたけど……。

 年下2人がダウンした後、すずかちゃんとアリサちゃんから伝えられた。すずかちゃんの……月村家の秘密を2人に伝えたって言われた。そして、なんてこと無く受け入れられて嬉しかったって。
 私やフェイトちゃん、はやてちゃんに話した時も、彼女は凄く震えていた。アリサちゃんは一足先に、違う件で聞いてたらしいけれど、それでも話した時は拒絶されるんじゃないかって、怖かったって言ってた。
 勿論私達も受け入れた。既に魔法ということや、フェイトちゃんはやてちゃんと出会った経緯も説明した後だったけど。

 震離や流の場合突然言われたにも関わらず受け入れたこと。ソレは本当にすごいことなんだけど……。
 前にフェイトちゃんが自分がどういう存在かって、告白した時受け入れてたことを思い出すと、この子たちの懐は本当に深いんだと再認識させられる。

 だからこそ震離の言葉が重く感じるし、違和感を覚える。彼らの重い過去を聞いてどうにも納得行かない。漠然としていて何ともいい難いけど……。今はともかく、解決しないと不味いことになるんじゃないかと……。

 とは言っても、流の事もまだ完全に解決できていない私が思うのも変な話なわけだけど、ね。


 ――side流――

 頭痛に悩まされながら、思考が纏まらず何処かスッキリしない。近くで私を呼ぶ声が遠ざかってくのを感じながら。流石に高町隊長……じゃない、なのはさんのご実家とはいえ、床にお布団を敷いて眠ってるせいなのか、ヴィヴィオと雫ちゃんの足音が遠ざかっていくのが分かった。
 きっと頭痛でダウンしてる私に気を使ったのか、もしくは遊べないとわかったのか、それはそれで悲しいけれど……今は仕方ない。

 不意に頭が持ち上がって、暖かいモノの上に置かれたような気がする。同時に自然と心が暖かくなるのを感じ、頭痛も引いてきたようにも感じる。

 ふと、前にヴィヴィオに言われた事を思い出した。流のお母さんは? という質問を。

 そう言えばその時まで気にしたことなかった。私に親は存在しないって考えてた。実際私の名付け親……。ウィンドベル夫妻は私を捨てた……そう伝えられた。
 ライザさんからも名前を変えることを進めると言われたのに、何故か私はこの名前をアナグラムを用いて使い続けた。

 ―――何でだろう?
 
 あの人達は私を失敗作だと断じた上で廃棄したはず。それなのに、何故私は……。

 その事を一度震離さんに伝えて、困ったようにあの人は笑ってたけど、寂しそうに。

 ―――まだ確証は得られないから答えられない。だけどね、私はウィンドベル夫妻を信じたい。どっちが正しいのか分からない。だけど、流が名前を使う程度には何か思うことがあったんだと思うよ。

 曖昧な回答だった。私は夫妻を知らない。だけど私は、私を拾ってくれたライザさんを知ってる。震離さんはライザさんを知らない。けど、夫妻を知ってる。だからこその回答だ。

 でも、ウィンドベル夫妻は私にとってなんだろう。遺跡で会った私と同じ顔の人の事を考えると、私のこの体を本当に作った? という疑問点が生まれる。
 だけど、もし本当に私の体を作ったというのなら。やはり私の両親に当たるのでしょうか?

 父親と母親が居なければ子は成せない。だけど、人造魔道士計画とが色々なことがあるから一概にそうとも言えない。

 プロジェクトFから誕生したフェイトさんや、エリオという例もある。私も本当はそうじゃないかと思う。

 何時だったか。少し前にお母さんという単語を口にした時。どこか戸惑いを感じたのは。なんというか、あれは……。


 ――sideなのは――
 
「……うぅ」

 あんまりにも辛そうにしてたから、ヴィヴィオと雫ちゃんを、お姉ちゃんの所で遊んでねと伝えてここから離したんだけど。
 そしたら、眠ってるにも関わらず悲しそうな表情をしてた。

 なんとなく頭の方へ回って、流の頭を持ち上げて膝枕をしてあげると安心したように表情が和らいだ。
 今二日酔いになってるのも、忍さんを止められなかった私達も原因だしね……。

 昨日の晩、お父さんや、お姉ちゃん達から言われたのが流の不自然さ。それは私達も感じてると伝えたけど、2人が感じたのは私達の感じてる知識の偏りではなく。流の幼さについてだ。
 2人曰く、どうも流を見ていると小さい子供と感じてしまうと言っていた。年齢と精神があっていないように感じると。
 何よりも時折見せる表情が、怯えた子供のように見えると。

 だけど、最近の流の様子を伝えるとすごく安心していた。六課に来てからまだ4ヶ月程度だけど。それでも、ここ最近は皆のことを名前で呼ぶようになったことも、しっかり感情を出すようになったことも伝えたら、二人共安心してくれた。
 その上で今度はきっと不安になってきているんじゃないかと言われた。それが何かはまだわからないけど……。

 膝の上で眠る流の頭を撫でる。こうしてみると普通に子供だと思う。エリオやキャロより少し背が高いけど、何処か放っとけないと思う。実際流の離脱って大体は庇って負傷だったりするしね。

 そう言えば流って、過去の記憶が無いって言ってたけど、実際の年齢って幾つになるんだろう。現在は14だけど、もしかしたら下になったり上になったりもするかもしれない。
 実はエリオとキャロと同い年だったりしてね。

 そうすると、ホント昨日の晩の事が申し訳ないと思う。だってメイド服来て迎撃して制圧してくれたにも関わらず、戻ってきたら着せ替え人形になって、擽られて強制的に笑顔の写真取られちゃって……なんていうかもう不憫すぎてちょっと……。

「……ん、うん?」

「お?」

 寝ぼけ眼のまま、ゆっくりと覚醒して。目で周囲を確認して、私とバッチリ目が合って。不思議そうにキョトンとしてる。

「おはよう流。良くなった?」

「……え、ぁ……あ」

 瞬間的に顔が赤くなって、バッと横に転がって。

「……申し訳ないです、お母さん(・・・・)

 ……お? これは面白いことになったなぁって。

「うん、私がやりたくてやったことだから気にしないで」

「……ぅぅ、申し訳ないです」

 耳まで真っ赤になって頭を下げ続ける。そんな流の頭を撫でて。

「大丈夫だよ、だから気にしないでいいよー」

 そこまでやってようやく頭を上げてくれた。それでも顔にはごめんなさいって言葉が見える。別にそれくらい気にしなくていいのにねー。

 ふと、窓の外を見れば、気がつけば外は夕暮れだ……時間が経つのは早いなぁって。


 ――side響――

 くっそぉ……はやてさんに縛られて色んな事聞かれて辛かったなぁって。しかも自分の仕事手伝わせるし。途中でやってきた皆からは手伝いなら仕方ないって言われるし、フェイトさんからは頑張って手伝ってあげてねって笑顔で言われるし。

 あれ多分善意で言ってるから質が悪い。

 で、今俺が居るのは屋上から訓練スペースを遠目で見える位置。何でここに居るかというと。

「……よくやってるなぁ」

 訓練スペースの近くの林の中で、エリオが長い木の棒を持って煌と打ち合ってるのが見える。

 ここからだとよく見えないけど、立ち回りで分かる。まだエリオでは一撃を与えるのは難しいんだろうなって。
 夕日で若干暗くて、見えづらいだろうにそれでも何度も向かっていってる。恐らく煌が何かを教えてるんだろう。時折楽しそうに口元が笑ってる。エリオも煌も。

 俺が槍か棒術を教えることができればよかったが、流石にそれは出来なかった。あいつらの動きを知ってるとは言え、それを教えられるかと言われれば流石に不可能だったし。
 でも、教えられるってことは良いよなぁって見ていて思う。ちょっと羨ましいし。

「お? 響かー? どうしたよー?」

「お、ヴァイスさん。お疲れ様でーす」

 後ろから声が聞こえて、振り向くとヴァイスさんがそこに居た。偶然かなって考えたけど……。

「ほい、奢りだ飲め飲め」

「いただきます」

 缶コーヒーを貰って2人揃ってゴクリと一口。うん、美味しい。

 で、遠目からエリオと煌の特訓を眺めて……。エリオが膝を着いて、一段落ついたのが見えた。

「……で、何用ですかヴァイスさん? 偶然ってわけじゃないでしょうに」

「なんだ、バレてたのか」

 顔は見えない。だけど声が笑ってる。まぁ隠す気もないだろうしねー。

「いや、なに。暇だからじゃ駄目か?」

「……いいえ? 気楽に話せる目上は本当にありがたいので」

 文字通りの意味で、本当に助かる目上が此処には多い。普通なら真面目に上官には敬わないと行けない、それは普段の態度からってなるのに此処は本当に緩いもんなぁ。

「お前ら。六課終わったらどうするんだ?」

「まーだ何も。ただ、震離は流と一緒にどっか行くんだろうな-って」

「……そうなのか? なんでまた?」

「や、まだわからないんですけどね。この前の1件以来やけに距離が近づいて居るので、もしかすると」 

 それを最後に沈黙が続く。別に気まずいってわけじゃないけど、何処か心苦しい。どうするかなーって考えてると。

「……可愛いもんな流」

「それ。震離の前で言ったらどうなるかわかりませんよ?」

「バッカ、流っていう嫁をゲットして羨ましんだよ! じゃあな休憩終わるから行ってくるわ!」

 バンバンと背中を強く叩かれる。思わず涙目になるけれど。

「えぇ、また」

 振り返った時には既に背中を見せて階段へと向かって行ってた。やっぱあの距離感すげぇって考えてると、ひらりとヴァイスさんのポケットから写真が一枚落ちたのが見えて。コチラまで飛んできた。裏面だから誰かは分からないけど……。

「ヴァイスさん、写真落ちましたよー」

「お……っと、ってゲッ!?」

 ゲッて……何でそんなヤバイって顔されてんだか。

 なんて思いながら写真を裏返して見ると。そこに写ってたのは……この前の流(性転換)の写真だった。しかもなんか涙目でスカートを必死に抑えてる写真。
 何処で撮ったんだこんなもん?

 思わず目が点になって、ヴァイスさんを見る。ただし家畜を見るように冷たい目をしてる自覚もある。

「し、仕方ねぇじゃねぇか! 知らないだろうけど整備部とか、ロングアーチの一部で流の写真流通してるんだぞ!」

「知りたくなかったわ! 何で!? この部隊、美人隊長で構成されてる所じゃないですか一応!」

「正統派に恥ずかしがってる方が需要あんだよ! 実際可愛いだろうが!」

「男じゃないですか! ……いや、このときは女子だけど!」

「それが良いんじゃねーか! その写真だって高かったんだぞ!」

「誰だよ売ってるやつ!」

 ギャーギャー言い合ってる内にとっぷりと日が暮れて、屋上で誰か騒いでると誰かに言われたのかやってきたシグナムさんに2人揃ってレヴァンティンで倒されました……。
 
 なんでや、俺悪く無いやん……。
 



――side震離――


 高町家で晩御飯を頂いて、美由紀さんや桃子さんに例のブツを横流しも既に終わった。
 例のブツってあれデスよ。流の写真ですよ。うん、良い記念写真が……トレタネーって事で。

 で、これから月村家メイドさん。ファリンさんが運転する車で月村邸へ向かうところなんだけど。

「また来てね~」

「絶対来る~」

 って、ちびっ子……もとい、ヴィヴィちゃんと、雫ちゃんのお別れをなのはさんが見守る中で、ちゃんとしてる。雫ちゃんはどうかわからないけど。ヴィヴィちゃんにとっては初めての友達だもんね……よく分かるよ。

 で、私達はというと。

「流君、またおいで。色々ごちそうするよ」

「次来たらお菓子の作り方を教えるわ」

「あ、ありがとう……御座います。その、その時は……是非」

「「勿論」」

 高町家の夫婦に気に入られたのか凄く色々お話してる。二日酔いでダウンしてなかったらきっともっとお話してたんだろうけど今回は仕方ない。まさかのアクシデントが発生したのもあった。でもあれがなかったら大変な事になってただろうし……結果オーライなのかな。

「震離もいつでもおいで。私はここに居るからさ」

「うん、また来ます」

 軽く拳を合わせる。今回はエイミィさんに会えなかったけど。次は絶対に会いに来よう。

 今この場には恭也さんと忍さんは居ない。警護として海鳴を調べてまわってるらしい。今回の事件の後始末や、捕まった奴らの仲間が報復に来ないとは限らないということも合って、まだ暫くは海鳴に居るらしい。
 だから、少し前に挨拶は済ませているんだけど。恭也さんが、えらく響を気に入ったらしく、また彼にも来るようにって伝えて欲しいって言伝まで頼まれたし。
 忍さんとも仲良くなれたのは正直大きかった。実際色々知ってる方だし。何より私は忍さんを知ってたし。機械に強い人。色んな所使われる機械工学の基礎を作った人だし、私も名前だけは知ってたから……。
 まぁ、あんなに気さくな人だとは思わなかったけど……。

「じゃあ、皆、そろそろ行こうか?」

「「はい」」「雫ちゃんまたねー」

 半泣きのヴィヴィオを抱きつつ、なのはさんがファリンさんの車へ乗り込む。私達も皆さんに頭を下げてから車へ乗って。窓を開けて、もう一度。

「また来ますねー」

 車が出ると同時に手を振る。ヴィヴィちゃんは、見えなくなるその時まで手を振り続けてた。

 ―――

 昨日の晩の予定なら月村邸に設置された転移ポートから帰る予定だったんだけど……。昨日の襲撃で、銃声が聞こえたとかなんとかで警察が近くに来ているらしく。下手に接触するのもどうかということで来た時と同じポートで帰ることに。
 アリサさんも暫くはすずかさんと一緒に居るつもりらしい。下手に一人になって人質とかになることを警戒してだ。
 一応電話越しで2人にも帰ることを伝えた。そしたら改めて御礼を言いそうになるのを止めて。どうしたもんかなーって考えてたんだけど、それを隣で聞いてた流が1つ要求したのが。

 ―――次来たら色々案内して貰って良いですか?

 そう伝えた。そしたら、二人共笑ってくれて、そして笑顔で了承してくれた。それくらいなら安い事だと。流も若干苦手意識はあるらしいけど、それでも割と好意的に捉えてた。実際笑顔で必ずまた来ますって言ってたしね。

 で、そんなこんなで今回の休日。響たちとは打って変わってアクシデントに見舞われたけど。なのはさんの本来の目的は達したわけだし、結果的には良かったかなって。私も流も新しい交友関係が広がったわけだし。私なんてメイド服貰ったわけだし……フヘヘ。

「震離、顔だらしないことになってるよー」

「……失礼しました」

 なのはさんも苦笑い。多分貰ったモノの内容は知らないとは思うけど……うん。

 だけど、心に誓った。またお休みが貰ったら流と……ううん、幼馴染全員で来たいなって。


――side響――
 
 
「……俺だけ別件? 何でまた?」

「うん詳細は明日ね。依頼主がちょっと変わっててね」

 チームライトニングで晩御飯を食べてる時にフェイトさんからそう伝えられて、思わず手が止まる。と言うか明日ライトニング一同で調査任務って聞いてたんだけどなー。

「まぁいいや。ちなみに奏達は明日何処で調査なんですか?」

「私達は中止。フェイトさん主体で調べるはずが違う予定入ったし。だから明日は通常業務かなー。私はキャロとフルバック用の特訓かな」

「がんばります」

 むんと小さくガッツポーズをするキャロと、今度こそ技を憶えますって燃えるエリオ。ふと困ったように苦笑いのフェイトさんが。
 
「本当はギンガと響に違う所をお願いする予定だったんだけどね。この前の件を集中して調べてもらう為に」
 
「……あーあの時の。そうですね、気になる点はまだありましたし」 
 
 実際の所ヴィヴィオが人造魔導素体っていうのは分かった。けど、何処で作られたかまでは分かってないし……。ふと視線を横にずらすとエリオが思い詰めたような顔をしてる。確か以前フェイトさんの告白の時に言ってたことを思い出した。フェイトさんも、キャロも心配そうに見てる。
 
 うーん。何とかして空気を変えないと……なんか、何か無いかなーと考えてると。

「あ、響ー」

 遠くから呼ぶ声が聞こえて、その方向へ振り向くと。すっごい笑顔で、スキップでもするかのように軽やかに走ってくるシャーリーさんの姿が。
 
「お疲れ様ですシャーリーさん。どうしたんですか?」

「うん、おつかれ~。あ、フェイトさんもお疲れ様です」

 もって言ったってことは完全に用件あるのは俺か……、そう言えばさっき紗雪達が言ってたな。今日シャーリーがあんまり居なかったって……まさか。

「デバイスの解析楽しいよー!」

「いや、通常業務しようよ」

 サムズアップでいうシャーリーに思わず突っ込む。今日一日それに費やしてたんだろうなー。まぁ、悪い話じゃないし、俺の知らないところだしまぁ良いか。
 何より気まずいのが、エリオやキャロ、奏も何の話だろうって顔してるし。デバイス見つけたって話まだ言ってないし。

「花霞に今わかってる分のデータ送ったから見ておいてねー。それじゃあねー」

 しかも言うだけ言って帰りやがった。

 で、皆からの視線がくっそ刺さる……。いや、刺さるって訳じゃない。何の話って純粋な疑問だろうし。なんていうか……自慢してるみたいで嫌なんだよなぁ。

「……言わないと……ダメ?」

「うん、教えて」

「うっす」

 奏さん、真顔で頷くのおやめ下さい……怖いっす。

 とりあえず事情説明。と言っても有給使って実家帰って少し調べたらデバイスが出てきたっていう話。勿論、融合騎とアームドデバイスだって言うことも説明した。融合騎には人格がまだ入っておらず、無いなら花霞を移すかもしれないってことも説明した。ただ、デバイスとしての機能の詳細は俺も知らないってことを伝えたら……。

「まぁ、形見なら変なものってこともないだろうし。良いじゃない」

「……えー、まぁ……なんというか。そんなもんが置いといて今まで気づかなかった俺って」

 思わず目元を覆う。実際ミッドチルダに行くまで2年有ったのにねー。まぁ、あまり部屋を荒らしたくなかったっていうのが有ったしなぁ。

「響はそれが使えるようになったら変更するの?」

「……ぁー」

 フェイトさんの質問に少し考え込む。正直な所。要らないってことはない。かと言って必要……必須ってわけでもない。確かにもう一本刀が欲しいなーっていうのはあるし。融合騎も興味が無いって言えば嘘になる。

 だけど。

「いえ、今はまだ。使えるようになっても暫くは触らないかなと。融合騎も心が入ってない以上。未だに眠り続けてますし……それに」

 懐から花霞を取り出す。銀色の小さな鈴を待機形態にしているのを眺めて。

「まだ俺はこの子の100%を引き出せてない。そうだろ花霞?」

『……えぇ。まだ貴方の全力を引き出せていません。それが出来た時私は人格を移しましょう』

「あぁ、よろしく頼む」

 それに大体母さん用のデバイスなんだろうし、俺じゃ扱いきれんだろうよ。

「お兄ちゃんのお母さんって、強かったの?」

「あ、それ僕も気になる」

 純粋無垢な瞳でコチラをみるエリオとキャロを見て。思わず奏と顔を見合わせる。お互いに何処と無く顔が青くなってるのは多分気のせいじゃない……。

「……強かった。まだ今ほど技も完成してなかったとは言え。6人で相手してもらって勝てなかった」

「……うん。一撃与えることすらできなかったねぇ。早いし痛いし」

 2人揃って深くため息をつく。2人も聞いちゃいけないこと聞いたかなって感じで、気まずそうな顔をしてる。ただ、1人違ったのは。

「……え、6人ってことは誰か居なかったの?」

 と、その言葉に反応したフェイトさんだけは不思議そうに首を傾げてる。

 あぁ、そう言えば言ってなかったっけか。

「そっか、言ってませんでしたねー。俺と優夜、煌の3人は俺がシグナムさんと戦った次の日くらいに魔法の存在を知って」

「私と紗雪、時雨もその辺りに。で、お互いに魔法使ってたら近くで使ってる人がいるって分かって調べたら6人もいたって話ですねー。
 響のお母さんは私達が来たときには知ってたみたいですけど」

 俺の後を次ぐように奏が話す。エリオとキャロはそう言う出会い方だったんだーってちょっと以外そうな顔。だけど、それでもフェイトさんの表情は晴れずに。

「じゃあ、震離はいつ知ったの?」

「……一番最後ですよ。俺たちが剣や体術を習ってるのはあいつも知ってましたけど。魔法に関しては黙ってましたし……ただ、やらかしてしまってバレたんですよ」

 ちらっと隣を見ると、苦笑いを浮かべて、恥ずかしそうに頬を掻く奏の姿が。少しの間を置いた後、観念したようにため息を吐いて。

「私達が11になるくらいに。ちょうど収束魔法の魔法構築や制御の練習をしてた……いや、その式を見られちゃったんですよ。震離に。
 普通ならバレるはずがないんですが、侮りすぎたんですよね……。言われましたもん。この構築は何を撃つための式なのって?」

 瞬間的に、フェイトさんの顔が引きつった。話を聞いて、エリオ達は首を傾げてるけど……コレって凄いことだからな。

「補足として説明な。ミッド式もベルカ式も。根本で言えば魔法だ。だけどね、それは自然摂理や物理法則をプログラムにして、それを任意に書き換え、書き加えたり消去したりすることで作用を変える技法なんだよ。
 震離にバレたのはプログラムの部分を見られて、そこからあいつ自分の頭のなかでシミュレーションして、納得行かなかったらしいからなー。この術式は何を絞って、何を撃つ物なのって。デバイスを用いることを当時10歳そこらの子供が解いたんだよ」

 そこまで説明して、ようやっと理解してくれたみたいで。無言で首を横にふってる。早い話があいつって、最悪デバイスが無くても砲撃撃てるし、なんならデバイス並の演算してみせることも出来るって豪語してたからな。本当かどうか知らないけど。

「それで魔法の存在がバレて、一通り見せたらあの子泣いちゃって……」

 あははと苦笑いをしてる奏に対して、3人は驚いてる。多分隠し事してたとかそういうことを想像してるんだろうけど。

「こんなに綺麗な式。見たことない。コレが魔法なんだ……凄い! って。元々魔力はそれなりにあったとは言え、そこから一年足らずで私達に追いついたんだよねー。流石現在進行系の天才よ」
 
 奏の言う通りあの当時のあいつは凄かったし。ただ剣術の基礎を叩き込むためにあいつのお父さんが一生懸命だったなー。せめてコレくらい出来ないなら行かせることは出来ないって。
 魔法はガンガン吸収して覚えていったのに対して、剣術はほんとギリギリまで掛かってたし。お陰で基礎ができて今も震離の役に経ってるわけだから。感謝の言葉しか無いけどね。

「……なんというか、凄すぎてよくわかんない」

 ぽかんとするキャロの頭を撫でてやる。だけど、コレはコレで一理あると思うんだけどな。知らないからなんでも覚えようとするのと、知ってるから要らないって選り好んで覚えづらくなったのとでは違うだろうし。

「まぁ、人それぞれと言うかなんというか……お?」

 何気なく視線を外したら、見覚えのある青い髪の2人と。ツインテールを見つけた。そのまま真っ直ぐコチラに来て。

「只今戻りましたー」

「あぁ、おかえりなさい。楽しめた?」

「うん!」

 嬉しそうに話すスバルを見て、後ろに居るギンガやティアの顔を見ると。楽しめたみたいで顔がスッキリしてる。ふと、ギンガがコチラに寄ってきて。

「響、お姉さんって居ない……よね?」

 一瞬言われたことが分からず考えて……。

「……いや? 妹分なら居るけど、姉の様な人はいないな。どうした?」

「……そう。ならいいわ。ありがと」

 軽く手を上げてハイタッチ。そうかそうか、何だ? まぁ良いか。
 そのままティアの方を見て。

「スターズは明日どうすんの? 事務処理?」

「その予定よ。その次はどうするか決まってないけどね」

「それもそうか……。まぁ臭い所を叩いて潰せが地上の意向なんだろうけど、公開意見陳述会の近くだと調査が多くて嫌になるなー」

 深い溜め息が出る。皆も同じようで何処か疲れた様子だ。

 まぁ、何にせよだ。何事もなければいいなぁって。

 
 

 
後書き
 長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。 
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