魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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第43話 上司と部下より、先輩後輩で
――side響――
「……いや、あのそうすると。兄さんが一人になってしまいますし。今回流さんもクロノさんも居ないですし」
海鳴スパラクーアⅡ、前に出張で来た銭湯。受付を終えて、いざ銭湯に入ろうかと言うときに、また、ここで問題が起きる。それは二つののれんが原因だった。
それはもう前回と全く同じ展開。エリオをキャロとフェイトさんが誘おうとしている所だった。
実言うとクロノさんも来る予定だったんだけど、早めに来た関係でまだ終えてない仕事があったみたいで、それを片付けるとの事。
まぁ、体バッキバキだし、動くのが辛いっていうのもあったんだろう。双子ちゃん追いかけるって最初の方こそ頑張ってたけど、後半倒れたし。
リンディさんも今晩は遠慮しておくとのことで。現在のメンバーは俺と奏で、エリオとキャロ、フェイトさんとアルフさん。エイミィさんと双子ちゃんの計9名。
向こうでフェイトさん一家が揉めてる間に周囲を見渡す。平日だからかやけに人が少ないような、そうでもないような。
「せっかくのお休みなんだし、皆で入ろうよ。ね?」
フェイトさんが腰を落としてエリオと目線を合わせて、寂しそうに言う。それに対してエリオは真っ赤になって。
「いや、しかし、やっぱり皆さんいますし……」
あー、これは悪手だなー。
「ん? 私は気にしないよ? カレルやリエラと一緒に入ってるし」
「私も平気だよー」
エイミィさんと奏が同調して言う。いやー徐々に退路が減ってるわー。
しっかし、前回入ってんだから気にせず行けばいいのに。俺はあんまり興味なかったけど、こういう機会めったに訪れないらしいし。
……仕方ない。
「前回と同じで体洗ったりすんのはこっちで。それが終わったらタオル巻いて行けば?」
「え、いやあの兄さん!?」
顔を蒼白にして、助けて! といった様子のエリオ。やー、これが最大の譲歩っすわー。
「前回と同じだ同じ。男湯よりも女湯の方が施設いっぱいあるんだ。体洗ってから行けばいいよ、偶にはフェイトさんにも世話焼かせてやんな、な?」
そこまで言って一瞬ハッとした顔をする。そして、頭を抱えながらウンウンと悩んで、悩んで……ガクリと肩を落として。
「……フェイトさん。体洗ったらそちらへ行きます」
泣いてんじゃね? って言うくらいの声でいうエリオの言葉に喜ぶフェイトさん。まぁ、頭洗ったりとかそういうのしたかったんだろうけど、流石にそれは辛いだろうし。何より貴女お母さんポジでしょうが、一応は。
「ご心配なく。エリオ君は私が責任を持って連れて行きます!」
ビシっと敬礼しながらフェイトさんに伝えるキャロ。フェイトさんも敬礼仕返す。何も知らなければ微笑ましいなーとか思うんだろうけど、敬礼が様になりまくってるから笑えないんだよなー。
「あーこら。カレル、リエラ。あなた達はこっち」
「2人はアルフと一緒に入るぞー」
「「はーい」」
キャッキャと走り回る双子ちゃんをそれぞれアルフさんとエイミィさんが捕まえる。目を離すとすぐどっか行っちまうもんなー、しかも足速いし。
それじゃあ……。男湯は俺とエリオとキャロ。残りは向こうか。そして、こっちは体洗った後に女湯に行くから、俺が一人になるわけで……。久しぶりにゆったり入るかね。
「それじゃ響。また後で」
「ヘアゴムはある? 大丈夫?」
「あぁ、大丈夫。それじゃあね」
フェイトさんと奏を見送って、さぁ行こうと思ってたら、右手をキャロに、左手をエリオに引っ張られて男湯へ。
なんというか、昔の震離とダブって見えたなぁって。
ふと目を閉じる。
懐かしい一幕を思い出す。あれは確か突然人ん家に来て……。
『響んちのお風呂大きいから一緒にはいろ!』
『なんで!?』
『髪洗ってあげるから!』
『聞いて!?』
あの時の震離の髪は今と違って、目元まで隠れる上に、後ろを大きな三つ編みで束ねてて割と好きだったなぁって。
「兄さん?」「お兄ちゃん?」
目を開けると、2人が心配そうにコチラを見上げてる。
「いや、大丈夫。久しぶりのデカイ風呂だからな、ゆっくり出来ると思って、な」
そう言って2人が安心したように笑う。
だけど、最近は妙に昔のことを思い出す。今日ハラオウンの皆さんに言ったから? いや、違う。六課にいる時点で何か懐かしい感じに包まれてたんだ。
――sideフェイト――
「……遅いなぁエリオ」
「……先輩もう少し待ちましょうよ」
何時まで経っても来ないエリオとキャロが少し心配になった頃に、思わず口から漏れてしまった。
お風呂に浸かってる奏からツッコミを受けてちょっぴり恥ずかしい。
ふと奏の髪を見て……いや、割と最初期から思ってることを。
「そう言えば、響以外の皆って髪の色すごいよね?」
「……フハッ」
一瞬間を置いてから吹き出すように笑う奏。あ、あれ? 何か変なこと言ったかな? あ、やっぱり気にしてたのかな?
「いやー、久しぶりにそんな事言われたなぁって。そうですね。皆言わないですし……まず、大体外国の人の血が入ってるっていうのもあるんですよ」
「え。そうなんだ……え、大体?」
「はい大体。ちょっと説明を」
と、ちょっとした説明を聞いた。
曰く、響と時雨を除いた皆はお爺さんやお婆さんの代が外国の人らしい。なので全員クォーターだったり、少し外国の人の血が流れているとの事。特に驚いたのが……。
「え、響ってハーフなの!?」
「えぇ、ビックリですよねー。あんなに和服着たら侍! って感じなのに」
そう言ってクスクスと笑ってる。けど、私としては本当に意外。
「……まぁ、響はとってもお母さん似みたいですよ。琴さん……あぁ響のお母さんも、お父さんに似てる場所少ねーって言ってましたし」
そこまで聞いて、ふと思ったことが口から出てしまった。
「……響のお母さんって、どんな人?」
そう言うと、キョトンとする奏。それをみて、地雷を踏んでしまったと慌ててしまう。なんとか弁解しようとあわあわしていたら。
「不思議な人でした。7年前亡くなるその日までずっと」
「……不思議な人?」
「えぇ。何もしてない私に将来必ず二丁の銃と出会うからって、小太刀二刀を用いたガンカタまがいの動きを指導してくれたりしました。そして何より私達6人で挑んでも全然勝てないほど強かった」
お風呂の中で体育座りをしながら、両手を合わせて、顔の前まで持っていく。まるで其処にいるから手を合わせるように。
「何より私達7人。皆お世話になった人ですし、今思えばもっと色んな事を教えてもらいたかった」
懐かしそうに微笑む。だけど奏の瞳が若干潤んでるようにも見える。
……しまった。これは踏み込んで良い話題ではなかったと後悔。響の言葉から既に居なくなっている事は分かっていたのに。
……やってしまった。
「……ん? あ、先輩?」
「え、あ、どうしたの?」
隣を見ると顔を上げて目を瞑ってる奏の姿が。どうしたんだろう?
「貸し一つです。今エリオとキャロがコチラに入ってきましたが、響が露天風呂に居ますし。男湯に人は居ないみたいです。行ってきたらどうですか?」
……え?
「え!?」
「……どうせ、踏み込んじゃいけない話題だー。なんて考えてるんでしょう? なら直接本人に謝って話聴くのが一番ですよ。大丈夫ですよ。2人にはバレないように足止めますし。だから貸し一つです。どうです?」
いや、でも……うーん。
――side響――
エリオとキャロに、露天風呂がすごいと言われて、露天風呂なうです。
いやまぁ、気持ちいいし、男湯人いねーしでここに入ったわけだけど……やー、やっぱ露天ってすごいね。いいね。
ここに来る理由となったキャロの殺し文句に驚いたなぁって。露天風呂行こうって言われたけど、女湯と繋がってる以上、何かあったらって事を説明したんだけど、話を聞いてもらえず。着いてこない場合。全力でここで泣き叫びますって言われた時には、実は嫌われてるんじゃね? とさえ思った。
なるようになると考えて、二人に連れられて露天風呂に入って正直驚いた。
男湯のどれよりも豪華じゃねーかって。
まぁ、それからは3人で風呂入りながら、2人の話を聴く。と言っても、大体はフェイトさん関係……もっと言えば、他愛もない昨日はこんなことが、その前はあんなことがってよくある家族が話すような事。いつかの一件以来本当に距離が近づいたみたいで、見てて微笑ましい。
そして、ある程度時間が経って2人に促す。そろそろフェイトさんが待ってるだろうから向こう行ってやりなと。ここまで来てようやくエリオも腹が決まったみたいで、キャロと一緒に女湯へ向かっていった。
で、今誰か来たら気配で分かるしとか思いながら一人でぼけーっと風呂に浸かっております。マナー違反だけど腰にタオル巻いてな! だって、露天だし万が一があったら嫌だからね!
ふと、女湯の方から誰かの気配を感じて直ぐに撤退の用意をする……けど。
「……あれ?」
思わず声に出てしまった。だけど、この気配は……。まぁいいか。
少ししてから、女湯の方の戸が開く音が聞こえる。ペタペタと近づく足音が聞こえ、そして止まる。
「……隣いいかな?」
「えぇ、いいですよ。どうぞフェイトさん」
振り向かず、声だけで返事をする。今振り返れば見上げる形になってしまうし。それはお互いに気まずくなる。
顔は見えない。だけど、フェイトさんが座るのに合わせて水面に波ができる。
少しだけお互いに無言になる。フェイトさんが何の意図でわざわざここに来たのかは分からない。だけど、ここにまで来たということは何かある訳で……。最近は心あたりがないんだけどなー。
「……その、ね。響。奏から……その」
ポツリ、ポツリと話し始める。だけど、若干声が震えてるように聞こえるけど……。
「響の……お母さんの事を聞いてしまったの……だから、その、ごめんなさい」
……ん?
「何がでしょう? 知らないから聞いた。それに良いも悪いも何もないでしょうよ」
思わず吹き出しそうになる。もしかしてこの事を気にしてたのかな?なら、別に気にしなくていいのに。
「で、でも。大切な思い出を……私は」
「それこそ気にしなくて良いです。そうですね……なら、母の話でも聞きます?」
「え、でも……」
「別に良いですよ。さて、どこから話しましょうかね」
お湯を掬って顔を洗う。ちょっと恥ずかしくなりそうだから今のうちにお湯でのぼせたみたいにしておこうと思って。
「……いや、大丈夫だよ奏から聞いた。響は別れた時……どうだったのかなって」
……あらま、ちょっと予想と違う話が飛んできたな。うーん、まぁ良いか。素直に話そう。
「……うちの母って戸籍も何もないんですよねー。俺にはあるのに」
「えっ?」
ぱちゃんと隣からお湯が跳ねる音が聞こえた。
「不思議でしょう? そして、もう一つ。常々ずっと言われてました。俺が10の誕生日を向かえる日に私は事切れる……つまり死んじゃうって」
「……」
「初めはそんなアホな事をって思ってました。だけど、どんどん近づくに連れて母は弱り、10の誕生日の前日にはもう自力で立ち上がることすら出来ませんでしたね」
――――
……今も思う医者を呼べば、病院に行けばって思ってた、けど……。母さんはそれを良しとしなかった。それどころか意味が無いからと拒否してた。
優夜の両親が良く看てくれたけど、全然良くならなくって。きっと裏に通じてる優夜のお父さんと何か取引でもしてたんだろうなって。
そして、俺の誕生日の当日。母さんに言われて一緒の布団で眠った……いや、横になった。震離や奏、皆は前日にお別れを済ませて、最後の誕生日の時はずっと俺と母さんの二人っきりだった。
今でも思い出す。下手くそながら母さんの料理の真似してうどん作って見たりして、なんとか食べてもらって。思い残すことがないように、ずっと話をしてた。
だけど。やっぱりと言うべきか。
無理だった。布団で眠る母さんの手はどんどん冷えて、目の輝きはどんどんくすんでいって。俺はただ逝かないで、置いて逝かないでって、泣くことしか出来なかった。
母さんの隣で横になってたけど、ふと抱き寄せられた。小さい頃に抱きしめられた時みたいに、みっともなく母さんの胸の中で泣いた。
堰を切ったように、母さんも涙を流してた。ごめんね、と。もっと色んな事を教えてあげたかったと、もっと近くで見守ってあげたかったと。
ずっとそうやって泣いて泣いて、泣き疲れて。一緒に寝て、起きたらまだ辛うじて息をしていました。
そして、言われました。
「もう一度会える。必ずその時アナタの全てを使って私を超えて見せて。私のもとに来てくれて、ありがとう。ずっと愛してる」
それが最後の言葉でした。夢を見たのかどうかわかりません。前者の言葉は今もわからないままです。何故そのタイミングでそういったのか。
だけど、今も忘れません。最後の顔は安らかに笑っていました。
苦しんで、悲しんで、痛みで歪んだ顔じゃなくて良かったと心から思いました。
――――
「とまぁ、いろいろあってこんな感じで母さんとお別れをしました……って、え!?」
語ることに夢中になって、我に返ってみれば。フェイトさん号泣。
そして、タイミングが悪いことに。
「ふぇいとー、さきにあがるぞー……え?」
「え?」
アルフさん登場。フェイトさん号泣、そしてアルフさんはフェイトさんの使い魔。という事はですよ。
「何フェイト泣かしてんだ!!!」
子供の姿から、一気に成人女性並に成長して、全力疾走からのドロップキックの体制。
これは痛いだろうなぁと考えてたら、胸のあたりにケリが当たったのを最後に、意識が無くなりました。
――――
パチャパチャと水が跳ねる音と、胸元から下が妙に暖かい。そして、妙に懐かしい感覚を思い出す。
確か……ガキの頃に震離が風呂に入る度にやってくれたっけなぁ。ヘッドスパだっけか。
風呂場にマット敷いて、横にさせられて、胸元にお湯出しっぱなしのシャワーもたされて。それで膝枕してもらいながら……。
……うん?
「あ、響起きた?」
目を開けると、濡れたタオルの生地が見えた。何だこれと思いながら目を閉じて少し状況を整理。
確か、フェイトさんに母さんの事を話して、そしたらフェイトさん号泣させて……あぁ。そうか、アルフさんからキツいの貰って、水面に叩きつけられて気を失ったんだっけ?
はて、ここがお風呂。露天風呂と言うのは分かった。だけど、なんでタオルの生地が見えた? 普通露天風呂の天井だか何だかが見えるはずだが……。
もう一度目を開けるとやっぱり濡れたタオルの生地が……。いや待って、気を失ったのも分かった。だけどなんで俺の頭は少し浮いて枕をしているんだろう?
そして、よーくタオルの生地を見たら僅かに肌がスケてる。という事は。これは……まさか。
「……フェイトさん?」
名前を言いながら冷や汗が出る。違いますようにと願っても、この局面で変わる人なんて居るわけもないのに
「あ、気がついた。良かった?」
安心したような声が、正面から聞こえる。という事は、目の前のタオルの生地……それが包んでるものは。
あ、やべ。
それに気付いて、瞬間的に体温が上がったのがわかった。
――sideフェイト――
膝の上でモゾモゾと響の頭が動く。アルフが響を落としてから、まだ5分も経っていないけれど、大事無くてよかったとまずはホッと一息。
なんというか、最初の頃響に攻撃してた身としては、あの程度ならば問題ないと分かってたけれど……事情を話した後、アルフも凄く申し訳なさそうにしてた。早とちりしてしまったって。
そろそろあがると言うのはアルフの意思では無く、カレルとリエラが限界になりそうだからという理由で、着替えさせる手伝いをするためにあがるみたい。
だから、アルフにはそっちを優先させてもらって、私は気を失った響を膝枕してたんだけど。ふっ飛ばさせれた時に腰のタオルは取れなかった。それは良かったんだけど、頭に巻いてたタオルは取れて、長い黒髪が乱れてしまった。
膝枕している間に、それを取って横に流して、肩から前へ髪をおいたんだけど……。
すっごくサラサラで驚いた。私も髪の毛が長いから結構ケアしてたりするんだけど。響の髪はそれ以上にツヤツヤでサラサラだ。触ってるだけで心地いい。そして、ちょっと羨ましい……。
今の響の体制は、お風呂に浸かりながら、頭だけをお風呂から出して、お風呂の縁に座る私の膝の上に頭を置いてる。
流石に意識をなくした響を一人にするのは危ないし、万が一誰か来てしまっても2人ならなんとか誤魔化せると思ったからだ。
すると再びモゾモゾと動く響の頭。
「あ、響起きた?」
再び動きが止まった。うーん。やっぱりまだ意識は復活しない……か。うーん。正面から膝枕をしているせいで……なんというか、響の顔を確認出来ないのがちょっと辛いかなって。
「……フェイトさん?」
「あ、気がついた。良かった?」
響の声が聞けて、本当に安心した。良かった変な所打ったりしてないか調べないと。そう思って顔を横から覗こうとしたら。
ガバッと響の上体が起き上がり、座ったままの姿勢でそのまま前進。どうしたんだろう急に?
「あの、響。そのさっきはごめんね?」
少し離れた所で響の動きが止まる。だけのその姿勢は前かがみのままだ。やっぱり何処か打ったのかな?
「イエ、大丈夫デス」
何か何処と無く片言に聞こえるし、背中越しで話すし……大丈夫かな。そう思って私もお風呂に入って、響の元へ近づくと。
「あ、ホント平気なんで、そのフェイトさん。チョット待って貰って良いですか」
左手だけ向けて、こっちに来ないでって言ってるように見えるけど。そんなわけには行かない。
「ダメ、何処か打ってたらどうするの?」
気にせずザプザプと近づく。だけど、近づいてきてるのがわかったのか響がそこから移動を開始。相変わらず前かがみのままだし。
「いや、あのホント平気というか大丈夫なんで、ホント待って下さい」
……うーん? ならなんでこんなに離れるんだろう? そう考えながらこれ以上は、と考えて止まり、湯船に座る。
暫く無言が続いて……。
「……よし、煩悩退散。さて」
小さく何かつぶやいやと思ったら、クルッとコチラを向いて。ペコリと頭を下げて。
「ごめんなさい。湿っぽい話をしてしまって、余計な誤解を産んでしまって」
「え、いや、それは」
頭を上げて恥ずかしそうに苦笑い。
「……ううん、こっちもごめんね。私も昔の事を思い出しちゃって」
「いえ、ただ……久しぶりに話して良かったとなぁと。久しぶりに母を思い出しました。いい土産話になりそうです。今良い所で働いてるって」
ニコッと笑う。だけど、その笑い方は……。
「フフ、響も普段からそれくらい笑えばいいのに」
「いえいえ、今日はオフだからですよ」
17歳の年相応の笑顔だった。何時もは笑っても何処か遠慮してるみたいな笑顔だけど、今のは凄く良かった。
「なら、隊長命令です。オフのときくらいもう少し気楽に、ね?」
そう言うと目を丸くした。そして、少し遅れてにっと笑って。
「わかりました。年上なんで敬語はやめないですけど。今日明日くらいは……そうですね。あ、先輩とでも呼びましょうか?」
先輩呼びに呆気にとられて、思わず笑ってしまった。
「……え? あ、やべ」
「フフフ、ううん大丈夫。奏と同じだと思ってね」
「あ、被ったんですね、なるほど……クックック」
お風呂で二人して大笑い。なんというか大分距離が縮まったと確信出来た。
――side響――
あれからフェイト……先輩と話をした。今までのことだったり、他愛もないことを話したり、なんというか上司と部下じゃない会話をした感じ。いやー、今まであった人と全然違うから、話ししてて助かった。
まぁ、それ以上に……膝枕……タオル……肌……アカン。流石に俺も男でしてねー。流石にこみ上げるもんは抑えきれなくて、ねー。生理現象は止められなかったんですよねー……。バレてなければいいんだけどなぁ。
……大丈夫だと思いたい、フェイトさんも普通にしてたし、うん。平気だよ。うん。
よし、着替えも終わったし、ドライヤーも当て終わった……が、エリオとキャロが戻ってこない。仕方ないし、先に出て待つか。
そう考えて外へ出て、周辺をグルリと見回して……あ、いた。目当ての人を見つけてそこまで移動して。
「お疲れ様です」
「あ、お疲れ様。いい湯だった?」
「えぇ、いい湯でした」
双子ちゃんを膝枕したエイミィさんに挨拶。ふと、視線を横にずらすと、小さいアルフさんが俯いてるように見えたけど……。
「その、さっきはごめん。早とちりした」
さっき……。あぁ。
「大丈夫ですよー。フェイトさんに子供の頃の話したら、泣いてしまって。コチラこそ誤解を招いてすいません」
とは言っても、まだ落ち込んでるように見えるし。何かエイミィさんは顔輝いてますし。双子ちゃん膝枕してなかったらこっちに来そうな勢いだし……。あ、そうだ。
「そしたらアルフさん。これから皆の分。なにか飲み物買おうと思うのでお手伝いしてもらって宜しいですか?」
「……うん」
「あ、私はお茶でー、カレルとリエラはオレンジジュースが合ったらそれをお願いしようかな」
「「はーい」」
ぱっと立ち上がって売店を探して、アルフさんと一緒に入る。耳と尻尾隠して、小さいけど……この人もすごいんだろうなー。さっきのドロップキックすげぇ綺麗に飛んできたもんなぁー。
とりあえずスポーツ飲料と、エイミィさんから頼まれたお茶とジュース。俺もお茶を買って、と。
「あたしが持つからいい」
「あー……了解です」
店員さんが微笑ましい物を見たって感じに笑ってるけど。この方多分俺より強いですよ……、フェイトさんの使い魔さんですし。
「……なぁ、響はフェイトの事どう考えてんだ?」
……突然の振りに一瞬固まる。けど、直ぐに戻って。
「……心優しい良い隊長ですよ。尊敬できるあんなに大変な役職を持っているのに、あそこまで動けるのは」
隣を歩くアルフさんは何も言わない。それどころかこっちを見てもくれない。返答間違えたかなと思ってたら。
「だろう! フェイトはすごいんだ。ずっと」
キラッキラと輝きながら言うアルフさんに少し圧倒される。そして、色々話を聞いた。フェイトさんの昔の事とか。主になのはさんとぶつかって、ぶつかって、SLBを食らった時には死んだんじゃないかっていう話を聞いた。
エイミィさんの所に着いてからも色々話を聞いた。変な所じゃ、小学校の制服貰った時は凄くテレてたとか。
更にエイミィさんも乗ってきたらしく、バリバリと色んな情報が流れてきた。中学生の頃にはラヴレターで靴箱がすごいことになったとか、ファンクラブが出来てたとか。
本当に色んな事を。
そして、気がついたらフェイトさんや奏もお風呂から上がってきて、エイミィさんとアルフさんの話を真後ろで聞いてて、珍しく起こった姿も見れた。
先に聞いてたとはいえ、奏もフェイトさんのことを先輩呼びしてたのは笑ってしまった。
エリオもキャロも上がって、皆で帰っても。皆して笑った。最初に来た時のすごい気まずい感覚なんて何処かへ行って。皆さんで沢山思い出話だったり、六課であった可笑しい事や、子供の頃の話を沢山。本当に沢山話した。
後書き
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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