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吸血鬼になったエミヤ

作者:炎の剣製
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038話 学祭準備編 年齢詐称薬

 
前書き
更新します。 

 



ある日の学祭準備中の3-A教室内では世界樹伝説で持ちきりであった。
それでも準備の手を止めない辺りは流石と言う他ない。
そんな話を耳に挟みながらも作業の手を止めないでいるシホはというと、

「(世界樹伝説、ね……まさか学園長が危惧しているのはこの事なのかしら?)」

概ねシホの考えは当たっているのだが、まだ学園長に正式に呼ばれていないので先走ってはいけないと思い、まだ自重していようと思うシホであった。
そんな中で同じく世界樹伝説についてこのかや刹那と会話していたアスナがふと、こちらへと振り向いて、

「そ、そういえば……ねぇシホ」
「うん? どうしたの、アスナ?」
「うん。さっきの話じゃないんだけど……シホってもしかしてネギのお父さんや、もしくは高畑先生の事とかを好きになってたりはしないのかなって……ほら? もと・お仲間だったわけだし……」

そんな見当違いな話をされて一瞬であったがシホの目つきは細められていた。
隣で聞いていたタマモも「ないない」とばかりにかぶりを振っていた。

「親愛とか仲間とかいうそんな感情はあったけど、そういうのはまずないわ。なんせ私はもう―――……」


―――化け物だし、そして元・男だったわけだし。


とはさすがに口には出さなかった。
だが、アスナも聞いた内容とシホの現状を合わせてなにかを察したのか、

「ご、ごめん……なんか気に障る言い方をしちゃったみたい」
「気にしないで。私も気にしていないから」
「そうですよー。それにシホ様にはわたくしの目が黒いうちは誰にも渡しませんよ!」

そんなタマモの言い分でシリアスになりそうな空気も散漫したようである。
そんな感じで場は流れそうになったのだが、

「そういえば、シホさん。かなり今更ですがあの学祭広場での一件の時に『記憶を思い出した』と仰っていましたが、シホさんなりに整理して受け止められたのですか……?」
「あー……刹那はあの呟きも聞こえていたのね」
「はい。なにやらあの固有魔法を使ったのがきっかけだったようですが……その、差し支えなければ教えていただけませんでしょうか?」
「刹那……」
「せっちゃん……」
「刹那さん」

刹那は先ほどまでの浮ついた感じではなく真剣な表情でそう述べているので、シホもどうするかと考えていた。
関係者になら話しても構わないかなとも思うが、話し出したら話し出したで一同がまた体調を崩すかもしれないしねと不安になっていた。
そんな時に助け船がやってきたりするのはシホの周りが恵まれているからであろうか……。

「刹那。シホの言う封印されていた過去の記憶を聞きたいか……?」
「エヴァンジェリンさん……もしかしてエヴァンジェリンさんはもうすでにシホさんの過去の事を……」
「ああ、すべて知っている。でなくば私から望んでシホと仮契約など進んでするものか。私はシホが気に入ったからしたまでの事だ」
「そうなの、シホ……?」

アスナがなぜか不安そうな顔つきでそう聞いてきた。
アスナはシホの過去の事を知って以来、なにかとシホの事をネギ同様に気遣っている。
今もその思いは変わらない。
なのでシホが内緒にしていることはできる事なら傲慢な考えだろうと話してもらいたいというのが本心なのである。

「そうね……それじゃどうしようか、エヴァ。学祭が終わったら関係者のみんなには教えようか」
「まぁ、お前がいいというのなら私も構わないよ」
「そう。それじゃ三人とも。学祭が終わったら私の過去の事を教えてあげるからそれまで我慢していてね」
「わかった……」
「了解やー」
「わかりました」

それでこのお話はお開きになった。







その晩の事であった。
タマモと二人で楽しく料理を作っていたシホのもとに呼び鈴を押す音が聞こえて来たのは。

「誰かしら? はーい」

扉を開けるとそこには悩んでいる顔をしているネギとカモ、刹那の姿があった。そして刹那の腕にはなにやら見知らぬ赤子が抱えられていた。

「ネギ先生にカモミール、それに刹那? どうしたの? それにその子は……」
「その、シホさん相談に乗ってくれませんか?」
「相談……?」

なにかしら深刻そうな顔をしているのですわ何事かという感じで部屋の中に入れるシホ。
ふとシホはアスナの姿がない事に疑問を抱いたとか。

「それで私に相談って? あ、タマモ。料理はまだラップをしておいて」
「わかりましたー」

タマモはニコニコ顔で支度をしていた。

「ちなみに、さっきから気になっているんだけど、その赤ん坊はどちらの子……?」
「お、おう。シホの姉さん。この子はっすね」
「その、お嬢様です……」
「は……?」

刹那の腕の中で「ばぶー」と言っている赤子はこのかだという。
そしてすぐさまにシホの脳裏ではある事が浮かび上がった。
過去、赤き翼時代に何度かお世話になったとある薬。

「年齢詐称薬を使ったわね……?」
「そうっす。理解が早くていいっすね。シホの姉さんは」
「カモミールが購入したの? また面倒そうな話題じゃないでしょうね?」

シホがカモ関係ではうんざりすることが多いのを経験で判断したのかうんざりした顔になっていた。

「えっと、このかさんはそのうち時間がたてば治るとは思いますので大丈夫なんですけど……その、シホさんは年齢の操作とかって得意じゃないですかね?」
「年齢の操作ですか、ネギ先生。なにか後ろめたい事でもあるんですか?」
「いえ! ただちょっと明日にアスナさんと僕がタカミチ風に変身してデートをするという話になりまして……」
「またどうしてそんな話になったんですか……?」
「ううっ……カモ君。やっぱりシホさんの目つきが明らかに呆れられてるよぉ……」
「ネギ先生、ファイトです!」
「ばぶー!」

そんな刹那達の応援とともに、カモとネギはシホに詳しく話していった。
聞くにアスナが高畑を学祭中にデートに誘いたいのだがなかなか勇気を出せないでいる。
それなのに今日は高畑と会う機会があったのに逃げ出してしまった。
そのためにまずはデートの経験をさせて慣れさせようという事になった。
しかし、近しい男子がネギしか居らずに、子供とデートしてもいつもと何ら変わらないではないか。
ここで登場したのがカモがマホネットで購入したという年齢詐称薬。
それでどうにか高畑風のおじさんに変身できないかという。
詳しく聞いていったシホとタマモはというと、

「つまりですが、アスナの意気地なしって事でファイナルアンサーって事でよろしいでしょうか? シホ様」
「うーん……聞くだけ聞くと結論だけ述べちゃうとそうなっちゃうわよねー……」

と、シホとタマモはひどいという感じの結論を出していた。

「アスナさんは普段は勇猛果敢な人なのですが、こういうことには慣れていないようでして……アスナさん曰く、『ここで必要な勇気に比べたら化け物相手に暴れる勇気なんてどーってことないよ』らしく……」
「呆れるくらいにこちらの世界に染まってきているわね、アスナも」
「そうですねー。本来はそっちの方が禁忌されるべきはずですのにねぇ」

再度、アスナのヘタレ具合に呆れるシホとタマモ。

「まぁ、そんなわけで、兄貴をうまく変身させられねぇかなってな!」
「なるほど……わかったわ。タマモ、一つ力を貸してあげて」
「え? わたくしでよろしいのですか?」
「私より、【道具作成】のスキルを持つタマモの方が向いているでしょう?」
「そうでしょうが、まぁいいです。でしたら一口シホ様も変身してみますか? わたくしの手にかかれば年齢詐称薬などはもとの物があれば量産は可能ですし」

そんな、何気ないタマモの一言に、他の四人はというと「えっ!?」という顔になっていた。

「アヤメの姉さんも、作れるんっすか!?」
「はいー♪ というわけでとりあえず大人化と子供化の飴玉を一粒ずつ頂きますね」

タマモは青と赤の飴玉を取り出すと、なにやらオーラのようなものを手から発生させる。
これが本来のタマモの……いや、サーヴァント・キャスターとしてのスキルであり、過去に数多もの人を翻弄し騙してきた玉藻の前の本領発揮である。
それからしばらくして、青と赤以外に黄色の飴玉まで量産していっていた。

それを傍目で見ていたネギ達はというと、タマモのそのスキルに驚きの念を感じているばかりであった。

「はい。とりあえずは飲用する際に念じれば可能な限りの姿に変身できるように細工いたしました」
「あ、ありがとうございます……ですが、アヤメさん、あなたはどこでこんなスキルを……?」
「フフフ♪ そこは女の秘密という事で♪」

妖艶に笑みを浮かべるタマモにそれ以上はなぜか聞く気が失せてしまったネギはただただ頷くしかできないでいた。

「まぁ、ネギ先生。一度ここで試してみたらどうですか?」
「あ、はい」

それでネギは赤い飴玉を口に放り込んでみた。
するとすぐに変化が起きてネギは大人の姿には、なったのだが……、

「ど、どうでしょうか……?」
「うん。やっぱりネギ先生の大人というものの想像力が足りていないのか、15、6歳で止まってしまっていますね」

そこにはアスナ達と同年代くらいの少年の姿があった。
それでもこのかには絶賛だったらしく、

「ばぶー!!」
「あぁ、このかもいい加減元に戻りなさいな」

タマモはそう言ってなにやら呪文を唱えると、このかは薬の効果が一瞬で切れたのかもとの姿に戻っていた。

「あ、もとに戻ったなー?」
「お、お嬢様! 早く服を着てください!」

刹那は急いで持ってきていた服を着させている間に、

「しかし、こうしてみると本当にネギ先生はナギの息子なんだなと思いますね」
「そ、そうでしょうか……?」
「はい。悪ガキの成分を抜いたナギって感じがしますね」
「はい。わたくしもシホ様に同意しますねー」

そんな感じで結局は15、6歳くらいで挑むことになったのであった。
ちなみにカモがタマモにある事を聞いていた。

「アヤメの姉さんの力で量産できるとあっちゃめっけもんっすね! 今後も御贔屓にさせてもらってもいいっすか?」
「払うものがあるのでしたらね。原価よりお安くしておきますよ」
「あざっす!……ところで、気になったんすが、その黄色い飴玉はなんの効果があるんすか?」
「ああ、これですか。そうですねー。シホ様、試しに一口試してみてくださいな♪」
「私が? いいけど……」

そう言ってシホは黄色い飴玉を口に含むと変化が起こった。
シホの姿が一瞬で男性になったのだ。
しかもその姿は学生時代の衛宮士郎と言っても過言ではない感じで。

「これは……もしかして性転換薬?」
「はい♪ ついでに赤い飴玉も服用してみてくださいな」
「ええ」

追加で赤い飴玉を食べると、今度は大人化して青年期の士郎な感じになった。ただ肌が白くて髪色も赤のままであるが。
それでも、一時的にでもシホになる前の衛宮士郎の姿に戻れるというのはいいものだとタマモは感じていた。

「ほわー!? このかっこいいお兄さん、シホなんか!」
「シホさん……なぜかとてもかっこいいです」
「僕よりかっこよくありませんか?」
「確かになー。アヤメの姉さん、やるっすね!」
「シホ様、男性になっても素敵です!」

と、五人からそんな感想を頂いて、シホはというと、

「んっん……久しぶりの感覚ね、いや感覚だな」
「久しぶり……? それってどういうことですか? シホさん」
「そうだね……タマモ、もう試験は終わったでしょ? 戻して」
「はい♪」

またタマモが呪文を唱えると効果が切れたのかもとのシホの姿に戻っていた。

「……うん。やっぱりもうこっちの方が完全にしっくりくるのね。微妙な気分だけど、魂がもうシホという殻を受け入れているという証ね」
「そのようですね、シホ様」

シホとタマモがそんな会話をしているが、ネギ達はいまいち理解できなかったのか、

「その……シホさん? どういう事ですか? できれば説明してほしいんですけど……」
「そうね、刹那。今日に学祭後に関係者には私の過去を教えるっていう話はしたわね?」
「はい。もしかして先ほどの姿は……」
「ええ、そう。フライングでネギ先生達には教えるけどあれは私が“この世界”に来る前の性転換する前の本当の姿だったのよ」
「「「「ええっ!?」」」」

そんな衝撃的な告白をされて一同は大声を上げてしまっていた。
しかし、さしずめこの部屋には防音処理がされているために外に響くことはないので安心である。

「そ、その……! シホさんってもとは男性だったんですか!?」
「ええ。訳あって今の姿になったんですが……その件もこの世界に来た時に記憶を失ってしまっていて忘れていたんですよね」
「嘘やん……シホの姿から男性の気配なんて微塵も感じへんのに……」

このかはあまりの事実に開いた口が塞がっていなかった。
シホは苦笑をしつつ、

「まぁ、もう今の私が魂に定着してしまっているのが原因でしょうね」
「そ、それと元の世界と仰いましたが、シホさんは異世界の人なんですか……?」
「ええ。これ以上は今は混乱しそうだからまとめて学祭後に話すわ。刹那達も考える時間が必要でしょう?」
「は、はい……ですが一つだけ。シホさんはなぜ、この世界に……?」

ネギの質問に一瞬シホは寂しそうな顔をしながらも、

「……元の世界に私の居場所はどこにもなくなってしまったから、かしらね……」

どこか憂いのある表情でそう語るシホの顔には哀愁が漂っていた。
それでネギ達はそれ以上は今は聞けそうにないと思った……思ってしまった。
あまりにもシホの表情が悲しそうであったからだ。

「まぁ、とにかく今は私の事は頭の片隅に置いておいてネギ先生は明日のアスナとのデートを楽しんできてください」
「は、はい……」











ネギ達は部屋に帰る際に、

「居場所がなくなってしまったとは……どういうことでしょうか?」

思わずネギは疑問を口に出していた。
それに刹那は、

「シホさんが嘘を言っていることはないでしょう。あの表情は本物でした」
「シホ……とても悲しそうやったなー」
「シホの姉貴の身に一体なにがあったんすかね……?」

ただただ疑問だけが残される形になった。
学園祭が終わるまでは聞けないという事もあり、少なからずネギ達は悶々とする事になるのであった。
ちなみにアスナとのデートは高畑としずなが一緒にいる光景以外は滞りなくできたと感じられたとの事。


 
 

 
後書き
ネギ達にほんの一部分だけシホの過去を知ってもらいました。

そして性別詐称薬を開発してしまいました。 
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