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ドラゴンクエストⅤ〜イレギュラーな冒険譚〜

作者:むぎちゃ
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第六十五話 新たな旅路

 
前書き
長らく放置してすみません。 

 
 アベルの体調はどんどんとよくなり、1週間後には剣を触れるまでに良くなった。医者が言うには、アベルの体は元々長い間石になっていたから8年前と全く変わらなくて、今まで動けなかったのはむしろ8年という歳月で心が擦り減っていたからだそうだ。
 ビアンカも早くしないとアベルより酷い事になってしまうかもしれない。一刻も早くビアンカの居場所を特定する必要があり、その為の会議がアベルも交えて開かれた。
 「アベルは石にされている間にビアンカがどうなったか記憶に無いの?」
 「……実は石にされて直後の記憶は断片的かつ曖昧にしか無いんだ、すまない……。ただ教団の売り物として扱われたのは僕一人だけだった気がする」
「なるほど、わかったわ。ありがとう」
 確かに今までのルドマンさん達による調査では、今まで光の教団が売ってきた物の内容を把握できたもののその中に『女性の石像』なんてものは無かった。
「そしてビアンカが光の教団の本拠地にいるのなら、場所はあそこしかない。セントベレス山。あそこは光の教団が多くの奴隷を攫ってきて無理やり大神殿を建設させてる」
 そう語るアベルの顔は険しく、硬い声には光の教団への憎しみと嫌悪が込められていた。
「セントベレス山に光の教団の本拠地がある。これは確かね。けどセントベレス山は人では登る事のできない程高い山。どうすれば……」
「アベル王、空を飛べる魔物に連れて行ってもらうという方法はいかかですかな?」
 そう提案したのはかつて国王代理だったオジロンさんだった。今では大臣になり、国王代理だった時以上に働いている。
「いや、無理だ。一人程度ならともかく何人もは連れて行けないし、武装をしていればそれだけ負担がかかる。空を飛んでいくにしたって標高が高すぎる」
「そうか……。そうなるとどうするべきか……」
 中々有意義な提案が思いつかず、しばらくの間無意味な沈黙が続いたが、それを打ち破ったのはサンチョさんだった。
「そうだエルヘブンですよ、アベル王。マーサ様の故郷の!」
「エルヘブン?」
「ええ。マーサ様は不思議な力を持っており、エルヘブンの里はその秘法を代々伝えてきたと聞きます。もしかしたらセントベレス山へ行く方法も何かわかるかもしれませんし、マーサ様の息子のアベル王にならきっと力を貸してくれるはずです」
「なるほど……。確かにそうだな。準備が出来次第エルヘブンへと向かう。エルヘブンの位置は?」
「ここでございます」
 サンチョさんが壁に貼り出された世界地図の一点を指した。その場所は私達がストロスの杖を取りに行った最果ての祠がある大陸だった。
「グランバニアから外界に出て、西の大陸にある海の神殿を経由する事でエルヘブンに行く事が出来ます」
「わかった。ありがとう、サンチョ」
「アベル王のお役に立てて光栄でございます」
「そうなると早速エルヘブンへと向かう人選をしなければなりませんな。探索する人数が多すぎてもかえって不都合になりますし」
 口髭に手をやりながら、オジロンさんがそう呟いた。
「僕は当然行くとして、ミレイは共に来てくれるかい?」
「ええ、もちろん。レックスとタバサも連れて行くわ」
 実戦を経験する機会は多ければ多いほどいい。いくら練習したところで本番での経験値がなければ成長は難しいという事を私はよく知っている。だからこの2人を連れて行くのは確定事項だった。
「後はもう少し武器での攻撃担当が欲しいから、ピエールとジョーも連れて行く」
「これで6人。うむ、これぐらいでちょうど良いでしょう」
「準備はどのくらいで出来そうか?」
「明日までには準備が出来そうです」
「では、明日エルヘブンへと出発する。以上で会議を終了する」
 会議が終了し、私はアベルと共に会議室を出た。
「僕はみんなに明日の事を伝えに行くが、ミレイはどうする?」
「私も一緒に行くわ。みんな今頃訓練場にいるはずよ」
 訓練場までの道のりを歩いていると、アベルとこうして2人で並んで歩くのは何気に初めてだなとふと思った。今まではアベルの横にはヘンリーだったりビアンカが立っていた。
「ビアンカ、大丈夫かな?」
「あの醜悪なゲマの事だ。きっと命だけは無事だろう……。それ以外は平然と踏みにじっている事やあいつの悪意が信頼の根拠と考えると、とても忌々しいが」
 吐き捨てるようなアベルの言葉には、それだけで殺せてしまいそうな程のドス黒い感情が込められていた。
「そうね。あの下種ならきっとそうするものね」
 気がつけば私もそんな事を口走っていた。私にもあいつに対する嫌悪や憎悪がそれなりに蓄積されていたらしい。
「だからこそ、僕たちは一刻も早くビアンカを助け出さなければならない。……これ以上あいつらに僕の人生を踏みにじらせるものか」
「そうね。絶対助けましょう。……着いたわ」
 訓練場に入るとレックスとタバサが魔物達と戦闘訓練をしていた。私達に気づいたのか訓練をやめて駆け寄ってきた。
「先生、お父さん!僕ついさっき新しい呪文覚えたよ!」
「私も新しい呪文を覚えました。後で見てもらえませんか?」
 嬉しそうに語る2人の様子にさっきまで胸に硬く張り詰めていたものが緩んだ気がした。
「わかったわ、後で見てあげる」
「僕も後で見てあげるよ」
「やった!」
「それで、先生とお父さんはどうしてここに?」
「明日の事について話す事があってね」
 その後私達はビアンカが光の教団の本拠地セントベレス山にいる事、セントベレス山は普通の方法じゃ到底登れない事、その方法を探るべくアベルのお母さんであるマーサさんの故郷であるエルヘブンに明日出発する事、エルヘブンに行くメンバーを伝えた。
「おばあちゃんの故郷か、どんなところなんだろう」
「お兄ちゃん、遊びに行くんじゃないんだから」
「いいのよ別に。ある程度心に余裕があった方が旅も辛くなくなるわ」
「旅に同行させてもらえるとはありがたき幸せ。この剣で持って王の道を切り開きます」
「よろしく頼むよ、ピエール」
「グランバニアの守りは僕たちに任せてよ。プルプル」
「ありがとう、スラリン。頼んだ」
 そんな感じで順調に話が進み、訓練場を出ようとした時に、マーリンに声をかけられた。
「アベル殿、ミレイ殿。しばしお時間をいただいてよろしいですかな?」
「どうしたんだい?」
「何かあったの?」
 マーリンがどことなく浮かない顔をしている事に引っかかりを感じる。
「実は他の魔物達とも話し合って決めたのじゃが……わしらを旅から外してもらえないじゃろうか」
「どういう事?わしらってマーリン以外にも誰が旅から外れるの?」
「俺とピエール、ゲレゲレ以外の全員だ」
 そう淡々と答えたのはジョーだった。
「何でだ……。みんな一緒に僕と戦ってくれただろ……!」
「もう力に限界を感じたのじゃよ。本当だったらわしらは最後まで共に戦いたかった。しかし魔物としての限界がそれを許さなかったのじゃ」
「魔物としての限界……?」
「ええ。魔物も人間と同様経験を積む事で力を得ます。しかし、魔物は上位種や下位種が存在する都合上力の上限が人間よりも早く来やすいのです」
 だから浮かない顔をしていたのだろうか。マーリンの言う事は一理あるかもしれない。それでも……。
「それでも、みんながいてくれたから僕たちはここまでこれた!」
「だからこそ、ここから先はわしらではたどり着けない道になるのです。今まで以上に過酷になり命を落としかねません。そうしますとあなたの心に癒せぬ苦痛を刻んでしまいます。……わしらはこれ以上あなたに憎悪を抱いて欲しくないのです」
 そう語るマーリンの顔はとても優しく穏やかだった。マーリンだけじゃない。魔物達みんなだ。その時私は誤解していた事に気付いた。マーリンが浮かない顔をしていたのは力不足だからじゃなかったんだ。
「グランバニアは僕たちが守るよ。プルプル。最後まで旅が出来ないのは残念だけれど、でも帰る場所は守り続けるよ」
 アベルもそれに気付いたようだ。凛とした瞳で魔物達を見据えた。
「グランバニアを頼む。そして……今までありがとう」
 そしてみんなに近づくと、強く抱きしめた。


 翌日、私達は船に乗り込みエルヘブンへと向かった。船の甲板には見知った姿は少なくなったが彼らの意志は確かにここにある。目の前には新たなる旅路が広がっていた。


 
 

 
  
 

 
後書き
今回はエルヘブンへの出発とドラクエ5での仲間モンスターのリストラ回でした。

ただ主人公がリストラ宣言しちゃうとアレなので魔物達からの自己申告です。この先の戦いにはついてはいけない代わりに何とか今ついていける範囲で戦うといった感じです。

後つぶやきにもあげましたが今回をもちましてしばらくの間この小説の更新を停止します。中学生時代から書き上げて(しかも幼少期カットしているのに)高校卒業してもまだ完結してないってすごいスロースペースですがご容赦ください。

 
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