英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~
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第33話
同日、PM13:50――――――
その後、アルスターの民達からの情報収集を終えたアリサ達はカレイジャスに乗り込んだ。
~カレイジャス・ブリッジ~
「アルスターの民達からの情報収集は粗方終えましたし、これからどうしましょうか?」
「ヴァイスハイト皇帝のお陰でクロスベル市でも活動できるようになったのだから、エレボニア帝国に向かう前にクロスベル市でも情報収集した方がいいんじゃないかしら?クロスベル市なら遊撃士協会の支部もあるから、何か新たな情報が手に入るかもしれないわ。」
「それとクロスベル警察にも情報交換等で協力してくれそうな人達に心当たりがあるから、時間があれば彼らを訊ねるのもいいかもしれないよ。」
エマの問いかけに対してサラとオリヴァルト皇子がそれぞれ提案し
「クロスベル警察で協力してくれそうな人達というと…………何度か話に出てきた”特務支援課”とやらですか?」
「ああ。彼らは遊撃士と似た活動をしていたお陰で警察方面以外にも様々な方面に伝手がある上彼らの中には”工匠”もいるとの事だから、ジョルジュ君との合流が厳しい現状だと、技術面では彼らの協力を取り付ける事が必要不可欠だと思うよ。」
「”工匠”とは何なのでしょうか?殿下の口ぶりだと、技術者のような存在に聞こえますが…………」
「えっと………”工匠”っていうのは、異世界に存在する特別な技術者の事よ。”工匠”の技術力はラインフォルトを始めとした大手の企業も真似できない上、性能も”工匠”が作った製品の方が上の優れた技術者達よ。」
「ええっ!?ラインフォルトグループでも真似できない上、性能も上って………!異世界にはそんな凄い技術者達もいるんだ…………」
ユーシスの疑問に答えたオリヴァルト皇子の話を聞いて新たな疑問が出てきたガイウスの疑問に答えたアリサの答えを聞いたエリオットは驚きの声を上げた。
「今の私達には技術方面で強力な味方はいない状態だからその”工匠”とやらの人達はできればカレイジャスに常駐して欲しいけど、クロスベル警察に所属している以上さすがにそれは無理だろうから、せめて私達がその人達に今後装備品を含めた何らかの品を注文できる交渉はしておいた方がいいんじゃないかい?」
「うん。それとIBCで今後の活動資金もある程度引き出しておいた方がいいかもしれないね。」
アンゼリカの提案に頷いたトワは考え込み
「――――――話は決まったようだな。全クルー、配置に――――――」
「ぇ――――――そ、そんな…………っ!?」
そしてアリサ達が目的地をクロスベル市に決めた事を悟ったアルゼイド子爵がブリッジに配置されている士官学生達に指示をしかけたその時、通信士を務めている女生徒――――――リンデが声を上げた。
「リンデちゃん、どうしたの?」
「そ、その…………エレボニア方面の情報を探る為にラジオを聞いていたんですが、今緊急特報が入って、その内容がユーゲント皇帝陛下が銃撃されたとの事です…………!」
「…………………」
「な――――――」
「何ですって!?」
トワの質問に対してリンデは顔色を悪くして答え、リンデが口にした凶報にアリサ達がそれぞれ血相を変えている中オリヴァルト皇子は呆け、ミュラーは絶句し、サラは信じられない表情で声を上げた。
3時間前――――――
エレボニア帝国西部、ラマール州オルディス地方歓楽都市ラクウェル――――――
~ラクウェル・広場~
事件が起こる3時間前、アルスターから最も近い都市であるラクウェルの民達がアルスターの事件を知った事で抱えているであろう不安を緩和する為に、エレボニア帝国政府はユーゲント皇帝とオズボーン宰相をラクウェルに緊急派遣し、二人がラクウェルがアルスターの二の舞にならない事を演説させる判断を行い、ユーゲント皇帝とオズボーン宰相が広場で設立された臨時の演説場で演説している中、その様子を金茶髪の少年――――――ラクウェルの不良グループのリーダー的存在であるアッシュ・カーバイドが民衆の中に紛れ込んで聞いていた。
(ハッ、普段は夜まで寝ている連中まで演説を聞く為に起きて聞いているなんざ、さすがは皇帝サマと宰相サマってか。)
熱心に二人の演説を聞いている周りのラクウェルの民達の様子を見て嘲笑したアッシュはその場から離れた後懐から銃を取り出した。
(ミゲルのオッサンから預かった探知機に掛からない旧共和国から横流しされてきた樹脂製の火薬式拳銃…………そしてこのタイミングで皇帝と宰相によるラクウェルへの緊急訪問…………お膳立てされたみたいで気に喰わねぇが…………)
銃を取り出したアッシュは銃を手に入れた経緯や現状を考えて不愉快そうな表情をしたが
「ま、贅沢は言ってられねぇか。」
すぐに気を取り直して銃を懐に仕舞ってその場から離れた。
30分後――――――
~ホテル・VIPルーム~
30分後演説を終えたユーゲント皇帝はVIPルームでオズボーン宰相から今後の説明を受けていた。
「――――――この段取りで明日に声明を出そうと思っております。」
「簡単に運ぶとも思えぬが…………そなたの事だ。手立ては講じているのだろう。」
説明を聞き終えたユーゲント皇帝は重々しい様子を纏って呟いた後すぐに気を取り直してオズボーン宰相を見つめ
「畏れながら。」
「ぐっ…………!?」
見つめられたオズボーン宰相が恭しく礼をしたその時VIPルームの扉を守っていた軍人達の呻き声が聞こえた後、扉が開かれ、ホテルに働いている従業員から奪った服装を纏って髪形を変えたアッシュが左目を片手で抑えて部屋に入ってきた。
「…………失礼するぜ…………」
「そなたは…………」
「内戦中愚連隊めいたチームを率い、ラクウェルを襲った野盗団を撃退したアッシュ・カーバイドか。ハーメルの”3人目の遺児”が何用だ?」
アッシュの乱入にユーゲント皇帝が戸惑っている中、オズボーン宰相は落ち着いた様子でアッシュに問いかけた。
「ハーメル…………そう因果が巡ったか。」
アッシュが”ハーメル”の遺児である事を知って血相を変えたユーゲント皇帝は重々しい様子を纏って呟いた。
「眼がさ、左目が疼くんだよ…………ガキの頃からずっとだ…………あの光景が焼き付いて離れねぇ…………オフクロを看取った時もそうだ…………ずっと…………声も聞こえてよ…………”一番悪いヤツを殺せ、コロセって”………」
アッシュはかつての出来事を思い返しながら呟き
「…………村を襲った猟兵どもは皆殺し、首謀者もアンタが全員処刑した…………ハーメルの名も地図から消えた…………許したのは皇帝のアンタだ…………黙認したリベールの女王やメンフィルの皇帝ってのも同罪かもしれねぇ…………オレを置き去りにしてまんまと逃げた”あの二人も”…………」
やがて全身に赤黒い瘴気を纏わせ、懐から銃を取り出した。
「…………なあ…………教えてくれよ…………この疼きを消すのに…………オレは”誰”を殺りゃあいいんだ…………?」
そしてアッシュは赤黒く光る左目を抑えながら銃をユーゲント皇帝達に向けた!
「これが呪いか…………」
「ええ…………此度の”贄”でしょう。」
一方落ち着いた様子で呟いたユーゲント皇帝の言葉に頷いたオズボーン宰相が前に出た。
「――――――当然、私が妥当だろう。ただし心臓は止めておくがいい。無為に終わるだろうからな。ここだ、ここを狙うがいい。上手く行けば”万が一”はあるだろう。」
「…………ぅぁ…………」
不敵な笑みを浮かべて自身の手で自身の額を指差しているオズボーン宰相に対してアッシュは今にも撃ちそうな状況だった。
「無駄だ、アッシュとやら。その者は既に人外――――――おそらく果てることはない。」
「陛下…………」
「…………また若者に無為をさせる必要はあるまい。」
「!」
立ち上がったユーゲント皇帝の言葉にオズボーン宰相が血相を変えたその時、ユーゲント皇帝がアッシュと対峙した。
「――――――アッシュよ。ハーメルの責は全て余にある。長年の苦しみから解き放たれるがよい。」
ユーゲント皇帝は全てを受け入れたかのように静かな笑みを浮かべて片手をアッシュに差し伸べた。
「ふざけんな…………なんでそんな…………うおおおおおおおっ…………!!」
そしてアッシュの左目が一際強く疼いたその時、アッシュはユーゲント皇帝目掛けて銃撃した!
「陛下、宰相閣下!?今の銃声は一体!?――――――え。」
「こいつは…………」
銃声を耳にしたクレア少佐とレクター少佐がその場にかけつけたその時、アッシュはオズボーン宰相によって地に押さえつけられ、そしてユーゲント皇帝は心臓が撃たれた状態で倒れていた!
「ちいっ…………!」
「すぐに応急処置を!」
「救護班、急げ…………!」
「出血が多い!絶対に揺らすな!」
状況を見たレクター少佐は舌打ちをし、クレア少佐はユーゲント皇帝に駆け寄って応急処置を始め、二人に続くように現れた軍人達は慌ただしく動き始めた。
そして2時間後、エレボニア全土にユーゲント皇帝の銃撃事件と、その犯人がメンフィル・クロスベル連合に内通しているアッシュであると伝えられた――――――
同日、PM8:20――――――
ユーゲント皇帝銃撃事件を知ったオリヴァルト皇子達はヘイムダルに急行したが、ヘイムダルに近づくとオズボーン宰相の命令によってヘイムダル近郊を緊急警備している正規軍の空挺部隊に阻まれ、例え相手がオリヴァルト皇子率いるカレイジャスであろうと外出禁止令かつ外からも誰も入られないようになっている現在のヘイムダルに入る事は許可できないと言われ、仕方なくヘイムダルに入る事を諦めたオリヴァルト皇子達は可能な限りユーゲント皇帝銃撃事件についての詳細を調査し、今後自分達はどう動くかについての話し合いを始める為に各方面に連絡等をしているオリヴァルト皇子、ミュラー、サラ、アルゼイド子爵を待っているとオリヴァルト皇子達が部屋に入ってきた。
~カレイジャス・ブリーフィングルーム~
「――――――待たせたわね。」
「あ…………っ!」
「教官、殿下達も。」
「あれから何か進展はあったのですか!?」
部屋に入る際にサラがアリサ達に声をかけ、声をかけられたアリサ達はすぐに振り向き、オリヴァルト皇子達の登場にトワは声を上げ、アンゼリカは真剣な表情で呟き、ラウラは真剣な表情で訊ねた。
「銃撃犯のアッシュ・カーバイドは昏睡状態のまま鉄道憲兵隊の一時預かりとなったそうだ。ちなみにメンフィル・クロスベル連合の内通者という”真っ赤な嘘”だが――――――」
「先程クロスベル市のオルキスタワーにいるヴァイスハイト陛下に連絡を取った所、両帝国共にそのような人物は両帝国に所属していない上、そもそもクロスベル、メンフィル両帝国共に現時点でユーゲント皇帝陛下の暗殺指示を出していない所か、其方たちも知っての通り、メンフィル・クロスベル連合はミルディーヌ公女による交渉でユーゲント皇帝陛下を含めたアルノール皇家の方々を害する事は一切考えていなく、今回の件もアルスターの件同様エレボニア帝国政府による”言いがかり”であるという解答だった。」
「当然、通信でエレボニア帝国政府に撤回を要求したけど、受け入れるつもりは一切なさそうだね。」
「…………っ…………」
「そこまで徹底しているって事は下手したらユーゲント皇帝の件も、アルスターの件同様、エレボニアの民達の怒りや憎悪をメンフィル・クロスベル連合に向ける為の策略なんじゃないかしら?」
「セリーヌ!」
ミュラーとアルゼイド子爵、オリヴァルト皇子が話し終えると唯一アッシュと顔見知りであるサラは唇を噛み締め、セリーヌは目を細めて推測し、それを聞いたエマは真剣な表情で声を上げた。
「問題はこれからどうするからだな…………」
「うん…………事件が起こったラクウェルもそうだけど、ヘイムダルも入れないから、八方塞がりだよね…………」
「皇帝陛下の一大事だというのに、皇帝陛下のご子息のお一人であるオリヴァルト殿下のヘイムダル入りすらも認めないとはどこまで皇族を蔑ろにすれば気がすむのだ、オズボーン宰相は…………っ!」
「皇帝陛下の件を知ったプリシラ皇妃陛下も今、どうなされているか心配だな…………それとさすがに療養中の身である皇太子殿下には伏せられているとは思うが問題はアルフィン殿下だな…………」
「ん。多分だけどリィン達にも伝わっているだろうから、当然アルフィン皇女にも銃撃事件が伝わっているだろうね…………」
考え込みながら呟いたガイウスの言葉にエリオットは不安そうな表情で頷き、ユーシスは怒りの表情でオズボーン宰相を思い浮かべ、ラウラとフィーは重々しい様子を纏って呟いた。
「アルフィンに関しては幸いにもアルフィンの傍にはエリス君、ミルディーヌ君、クルト、そしてリィン君がいる。リィン君達には申し訳ないが、アルフィンへのフォローは今はリィン君達に任せるしかないだろうね。」
「そうですね…………リィンやエリスさん達ならアルフィン殿下のフォローをしてくれるでしょうね。」
オリヴァルト皇子の推測にアリサは複雑そうな表情で頷き
「そういえばサラ教官は銃撃事件の犯人とされる人物と知り合いとの事ですが、彼は一体何者なのですか?」
「…………――――――アッシュ・カーバイド。年はアンタ達より3,4年年下のラクウェルの不良達のリーダー的存在の”悪童”よ。遊撃士時代のあたしも連中が起こしたトラブルに何度か関わったのだけど…………確かにアッシュは”悪童”だけど、殺人を犯すような事件は彼を含めた不良集団は起こさなかったわ。――――――それどころか、遊撃士協会の情報によると内戦の最中アッシュは不良集団を纏めてラクウェルを襲った野盗団を撃退してラクウェルを守ったそうよ。」
「ええっ!?内戦の最中に町を襲った野盗団を!?」
「…………話に聞く限り、とても皇帝陛下を銃撃するような人物には思えないな。」
「そうだね…………そもそも、動機もそうだが、背景があまりにも不透明過ぎる。それらの件を考えると何者かに操られた可能性もありえるだろうね。」
アンゼリカの質問に対して複雑そうな表情で答えたサラの答えを聞いたエリオットは驚き、重々しい様子を纏って呟いたミュラーの意見に頷いたオリヴァルト皇子は真剣な表情で考え込んでいた。
「”何者かに操られた”というと、やはり考えられるのは”暗示”の類か。」
「そうね…………そして、そんな真似ができそうな連中はヴァイスハイト皇帝から聞いたアルスターの件で既に判明しているわ。」
「”黒の工房”か…………」
「うん…………クロウ君の人格が変えられたらしい”ジークフリード”という人物の事を考えると、今回の件も”黒の工房”が関わっている可能性が十分に考えられるね…………」
「結社の可能性もありえるかもしれませんが、”怪盗紳士”の話ですと暗示に関しての術も長けている姉さんは既に結社から脱退しているとの事ですし…………」
アルゼイド子爵の推測に頷いたセリーヌは目を細め、セリーヌの言葉に続くようにユーシスは真剣な表情で呟き、ユーシスの言葉にトワは悲しそうな表情で頷き、エマは不安そうな表情で考え込んでいた。
「――――――1年Ⅴ組所属、ロジーヌです。会議中の所申し訳ございません。オリヴァルト殿下やⅦ組の皆さんにお伝えしたい事がありますので、入室してもかまわないでしょうか?」
「へ…………ロ、ロジーヌ…………?」
「ああ、入ってきて構わないよ。」
するとその時扉の外から女子の声が聞こえ、声を聞いたアリサが戸惑っている中、オリヴァルト皇子が入室の許可を口にした。
「――――――失礼します。」
そして部屋に入ってきた女子――――――ロジーヌは学生服ではなく、シスター服を身に纏っていた。
「あ、あれ…………?ロジーヌ、何でわざわざ学生服からシスター服に着替えたの?」
「それは”現時点を持って私は本来所属している組織の一員として活動するようにと上から指示されている”からです。」
「ふえ…………?ロジーヌちゃんが”本来所属している組織の一員として活動する事を指示されている”からってどういう意味…………?」
「!!ロジーヌ、まさかとは思うけどあんたは――――――」
「こんなタイミングで七耀教会のシスター姿で現れたという事はアンタも”星杯騎士団”の関係者なのかしら?」
シスター姿の自分に戸惑っているエリオットの疑問に答えたロジーヌの答えにトワが不思議そうな表情をしている中、ロジーヌの正体を察したサラは血相を変えて真剣な表情でロジーヌを見つめ、セリーヌは目を細めてロジーヌに問いかけた。
「はい。――――――改めて名乗ります。七耀教会”星杯騎士団”守護騎士第二位にして騎士団副長、”匣使い”の従騎士の一人を務めているロジーヌと申します。…………今まで、正体を皆さんに隠していて申し訳ございませんでした。」
「ええっ!?ロ、ロジーヌさんが”星杯騎士”だなんて…………!?」
「し、しかも”副長”って事はその”星杯騎士団”のナンバー2って事だろう!?ロジーヌが補佐しているその”副長”とやらは一体誰なんだ!?」
「まさかトールズに”星杯騎士団”の関係者が入学していたとはね…………しかも、あたし達を知っているらしい”第二位”の守護騎士の”従騎士”という事は…………もしかして、あんたにとっての直属の上司であるその”匣使い”とやらの伝言を預かっているのかしら?」
ロジーヌの正体を知った仲間達がそれぞれ血相を変えている中エマとマキアスは驚きの声を上げ、サラは真剣な表情でロジーヌに訊ね
「はい。副長はユーゲント皇帝陛下の銃撃事件の件を含めて皆さんと直に会って話したい事や紹介したい方がいらっしゃるとの事で、レグラムの聖堂まで来て欲しいとの事です――――――」
訊ねられたロジーヌは頷いて説明をした。
その後、ロジーヌの”上司”と会って話す事を決めたアリサ達はカレイジャスをレグラムへと向かわせた――――――
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