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ある晴れた日に

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62部分:穏やかな夜にはその十一


穏やかな夜にはその十一

「それでいいよな、皆でな」
「そうね。一人で飲むより皆だしね」
「だからだよ。余計にな」
「わかったわ。じゃあこのキャンプが終わったら」
「皆で話して決めようぜ」
 こういうことになった。
「何処で何を飲むかな」
「そうね」
「ああ、それならね」
「いい場所知ってるぜ」
 また明日夢と佐々が出て来た。今度は二人共目ざとい目をしている。
「駅前にね。いいお店があるのよ」
「俺もいい食い物屋知ってるぜ」
 かなりわざとらしく正道と未晴に言ってきた。
「スタープラチナっていうお店だけれど」
「猛虎堂な。どうだ?」
「御前等の店かよ」
「そうよ。悪いかしら」
「学生割引もあるからよ」
 言われても全く悪びれないのは流石と言えた。明日夢にしろ佐々にしろ家の商売のことはよくわかっているようである。それがいいか悪いかは別にして。
「是非共うちでね」
「楽しくやってくれよ」
「で、どっちにしろっていうんだよ」
「両方よ」
「決まってるだろ」
 おまけにこんなことを言う二人であった。
「実はな、猛虎堂はな」
「爆弾酒でもあってそれで客をあっという間にへべれけにでもさせるのかよ」
 正道は意地悪い調子を作って佐々に返した。爆弾酒とは大ジョッキに並々と注いだビールにコップ一杯のウイスキーをコップごと入れるものだ。韓国軍からはじまった飲み方でありこれと飲むとそれこそ瞬く間に酔ってしまう。正道はこの酒のことを知っているのだ。
「それで終わらせるとかいうんじゃねえだろうな」
「ああ、それうちにもあるし」
 また明日夢が言う。
「結構人気商品よ」
「カラオケでもあるのかよ」
 正道はこれには少し驚いた。
「っていうかスタープラチナって酒が多いな」
「カラオケにはお酒よ」
 小さな胸を大きく張って宣言する。
「それがまずいるんじゃない。安くてすぐ酔えるお酒ね」
「如何にも悪そうな酒だな、おい」
 実際爆弾酒にしろお世辞にもいい飲み方ではない。少なくともいい酔い方をするような飲み方ではない。酒を混ぜればそうなってしまう。
「どうなんだよ」
「大丈夫よ、メチレンとかはないから」
「当たり前だろ、それは」
 それは最早論外であった。
「っていうか何で御前がそんなの知ってるんだよ」
「居酒屋の娘よ」
 明日夢の言葉は止まらない。
「だったらそれ位知ってるわよ。そういうあんただって」
「うちの爺ちゃんが一回それ飲んで失明しかけたんだよ」
 正道にも正道の事情があるのだった、
「終戦直後に飲んでな」
「それは普通に駄目でしょ」
「幸い今でもピンピンしてるさ」
 随分としぶとい御老人である。
「九十近くになってもな。毎日焼酎で楽しくやってるさ」
「そうなの」
「そうだよ。とにかく佐々よ」
「ああ」
 正道はまた佐々に顔を向ける。佐々もそれに応える。
「まともな酒出るんだろうな?爆弾酒でも出すのか?」
「猛虎堂にも爆弾酒あるけれどな」
「あるのかよ」
「けれどちょっと聞け」
 こう言って一旦正道を落ち着かせる。見れば正道は話に熱中してギターを奏でるその手を止めてしまっている。気付けばそうなっていた。
 
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