ある晴れた日に
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593部分:誰も寝てはならぬその十一
誰も寝てはならぬその十一
「おかしいわよ」
「おかしい!?俺がかよ」
「ええ」
そうだと言ってきたのである。
そうしてだった。さらに言うのだった。
「何かあったの?」
「何かって」
「あったのよね」
それは既にわかっているというのだった。
「やっぱり」
「まあな」
そしてその内容については言わないがそのこと自体は認めた彼だった。こくりと頷いてみせる。その仕草こそがその何よりの言葉だった。
「それはな」
「何かあったかは知らないけれど」
流石にそこまでは彼女もわからなかった。
「そして聞きもしないわ」
「そうかよ」
「それでもね」
だが、だった。そのうえで言ってきたのだった。
「迷ってるわよね」
「ああ、そうさ」
具体的に言えばそうだった。その通りである。
「それはな」
「それじゃあだけれど」
それを聞いて言ってきた加住だった。その言葉は。
「迷ってるのならね」
「どうしろっていうんだ?」
「正しいと思う方に行くべきだと思うわ」
彼に顔を向けての言葉だった。
「その場合はね」
「正しい方がかよ」
「若し何が正しいかわからない場合は」
その場合についても述べる加住だった。
「人の為になる方がね」
「正しいのか」
「そう思うわ」
そうだというのであった。
「正しい方をね」
「選ぶべきか」
「どうかしら」
ここまで話して坪本に問う加住だった。
「自分の為じゃなくて人の為にね」
「何かえらく道徳的な言葉だな」
「中学校の時山本先生が言ってたじゃない」
彼等の中学時代の担任である。二年の時のだ。
「そうしろって」
「あの人がか」
彼もその先生のことはよく覚えていた。確かに厳しいがそれと共に面倒見もよく公平でその為生徒達からの評判もかなりよかったのである。
「言っていたっていうのかよ」
「そうよ。どうかしら」
「そうだよな」
加住に言われて頷いた坪本だった。
「それが正しいよな」
「これで迷わなくなったかしら」
「ああ」
その問いにははっきりと頷くことができた。
「悪いな。これでわかったぜ」
「そう。よかったわ」
「なあ」
そして言うのだった。
「ちょっといいか?」
「ちょっとって?」
「御前を家に送るからな」
まずは加住に顔を見せて告げたのだった。
「それからな」
「それから?」
「ちょっと行くところができた」
微笑んで彼女に言うのだった。
「そこに行って来る。ちょっとな」
「ええ。行ってらっしゃい」
加住もその言葉に笑顔で応えた。
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